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1 好きな人の、好きな人
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しおりを挟む「……え?」
目が点。
あたしがウエンディ? なんで……?
「あ。いいんじゃない、和泉さんっ! 誠のピーターパンに合ってるよ。知能のレベル的にも」
なによ。リンちゃん、アホっ子同士っていいたいわけ?
「たしかに。身長からいっても、誠と合うのって、和泉くらいだよな」
って、大岩。
まぁね。誠は、背の順で男子の一番前。あたしも女子の一番前。このクラスで、誠より小さいのって、あたしだけなんだ。
もやしみたいにひょろっひょろで、幼児体型から抜け出せてないあたし。
肩のところまでのびた、ちょっと長めのストレートヘアの頭のてっぺんから、ひとふさ、くるんと「アホ毛」がとびだしちゃってる。
「アホっ子」のあたしは、チビッ子ピーターパンに合うのかも。
「あ、はいはいっ! 和泉さんがウエンディやってくれるなら、わたし、脚本書いてあげるっ!」
リンちゃん、ノリノリ。
「和泉がいいなら、もう決めようぜ」
「……でもよ~」
なんだろ。男子たちの視線が、無言です~っとあつまっていく。
教室の真ん中の列の、一番後ろ。
ヨウちゃんの席。
ヨウちゃんはさっきとかわらず、ほおづえをついて。眠そうに、しらっとしているだけなんだけど。
女子たちまで息をひそめて、ヨウちゃんのようすをうかがってる。
ほぇ? なにごと?
「ねえ、みんなどうしちゃったの? いいよ。あたし、ウエンディやっても」
あたしの声で、教室に張りつめてた糸が、ぷつんと切れた。
「なんだよ。本人がやるって言っちゃったよ」
「じゃあ、もう気にすることねぇな」
「はい。ウエンディは和泉さんに決定です」
「やった~! 和泉ぃ。よろしくな~」
「うん。誠。あたし、がんばるねっ!」
「じゃあ、脚本はわたしが書く。永井さん、脚本のところに、わたしの名前入れといて」
「はい。脚本は倉橋さんに決定しました」
「わたし、ティンカーベルやりたい!」
「ティンカーベルは青森さんに決定です」
「有香~。うち、ワニ役やってやるよ」
「ワニは河瀬さんに決定です」
次々に、役が決まっていく。
「で、フック船長は?」
ってところで、とまっちゃった。
「やっぱ、イメージ的に葉児じゃん?」
「中条君のフック船長も見たい~っ!! 」
みんな騒ぐけど。ヨウちゃん、めんどくさいことは、やらないんじゃない?
「いいよ。フックやってやる」
……へ?
ふり返ったら、ヨウちゃん、イスにふんぞり返って、腕を組んでた。
あれ? なんか目つき怖い。
琥珀色の目の奥で、メラメラ炎が燃えている。
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