ナイショの妖精さん

くまの広珠

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「……え?」


 目が点。


 あたしがウエンディ? なんで……?


「あ。いいんじゃない、和泉さんっ! 誠のピーターパンに合ってるよ。知能のレベル的にも」


 なによ。リンちゃん、アホっ子同士っていいたいわけ?


「たしかに。身長からいっても、誠と合うのって、和泉くらいだよな」


 って、大岩。

 まぁね。誠は、背の順で男子の一番前。あたしも女子の一番前。このクラスで、誠より小さいのって、あたしだけなんだ。

 もやしみたいにひょろっひょろで、幼児体型から抜け出せてないあたし。

 肩のところまでのびた、ちょっと長めのストレートヘアの頭のてっぺんから、ひとふさ、くるんと「アホ毛」がとびだしちゃってる。

「アホっ子」のあたしは、チビッ子ピーターパンに合うのかも。


「あ、はいはいっ! 和泉さんがウエンディやってくれるなら、わたし、脚本書いてあげるっ!」


 リンちゃん、ノリノリ。


「和泉がいいなら、もう決めようぜ」


「……でもよ~」


 なんだろ。男子たちの視線が、無言です~っとあつまっていく。

 教室の真ん中の列の、一番後ろ。

 ヨウちゃんの席。

 ヨウちゃんはさっきとかわらず、ほおづえをついて。眠そうに、しらっとしているだけなんだけど。

 女子たちまで息をひそめて、ヨウちゃんのようすをうかがってる。


 ほぇ? なにごと?


「ねえ、みんなどうしちゃったの? いいよ。あたし、ウエンディやっても」


 あたしの声で、教室に張りつめてた糸が、ぷつんと切れた。


「なんだよ。本人がやるって言っちゃったよ」

「じゃあ、もう気にすることねぇな」

「はい。ウエンディは和泉さんに決定です」

「やった~! 和泉ぃ。よろしくな~」

「うん。誠。あたし、がんばるねっ!」

「じゃあ、脚本はわたしが書く。永井ながいさん、脚本のところに、わたしの名前入れといて」

「はい。脚本は倉橋くらはしさんに決定しました」

「わたし、ティンカーベルやりたい!」

「ティンカーベルは青森あおもりさんに決定です」

「有香~。うち、ワニ役やってやるよ」

「ワニは河瀬かわせさんに決定です」


 次々に、役が決まっていく。



「で、フック船長は?」


 ってところで、とまっちゃった。


「やっぱ、イメージ的に葉児じゃん?」

「中条君のフック船長も見たい~っ!! 」


 みんな騒ぐけど。ヨウちゃん、めんどくさいことは、やらないんじゃない?


「いいよ。フックやってやる」


 ……へ?


 ふり返ったら、ヨウちゃん、イスにふんぞり返って、腕を組んでた。


 あれ? なんか目つき怖い。


 琥珀色の目の奥で、メラメラ炎が燃えている。


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