ナイショの妖精さん

くまの広珠

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 有香ちゃんは、黒いスーツに、黒い膝丈のタイトスカートをはいてる。髪も後ろでひとつにまとめて、まるで社会人。


 え……? なにこれ……?


「今ね、ちょっと話し込んでてね。どうする、有香ちゃん? 綾ちゃんにも話、きいてもらう?」


 お母さんはにっこり笑顔で、ヨウちゃんのとなりの席にもどっていく。


「い、いえっ! あ、あたし帰りますっ! 大事なお話中にお邪魔しちゃって、ごめんなさいっ!」


 あたしがぺっこり頭をさげたら。


「あ、綾ちゃんっ!? 」


 おでこを青白くして、有香ちゃんが立ちあがった。


「葉児君から話きいてない? わたしね、今度ここのうちで……」


 葉児君っ!?


 有香ちゃんが、ヨウちゃんのこと、「葉児君」って言ったっ!


「アホか、綾」


 とつぜん、頭をチョップされた。

 見たら、ヨウちゃん、あたしの目の前に立ちあがってる。


「おまえはオレと、浅山に行くんだろ?」


 いつもとおんなじ、しらっと冷めた目。

 なのにあたしの目頭は、どんどん熱くなって、涙がこみあげてくる。


「ご、ごめんなさいっ! しつれいしました!」


 あたしは、ヨウちゃんの家からとびだした。


 なんでっ!?

 なんで、有香ちゃんがヨウちゃんちにいるのっ!?


 頭ん中、ぐるぐる。


 それに、それに、有香ちゃん、ヨウちゃんのこと「葉児君」って呼んだっ!

 いつもは有香ちゃん、「中条」って、ヨウちゃんのこと、にらみつけるのにっ!


 どっちが地面で、どっちが空かわかんない。


 なにアレっ!?  お見合いっ!?

 ま、ま、ま、まさか! ふ、ふ、ふ、ふたりとも、こ、こ、こ、婚約っ!?



「アホだろ、おまえっ! 勝手に帰んなっ!! 」


 後ろから、右手をつかまれた。


「ぎゃっ!? 」


 坂のとちゅうでふり向いたら、ヨウちゃんがこめかみに汗をうかべて、右手に虹色の小ビンをにぎりしめてた。


「だ、だって! あたしがいちゃ、めいわくでしょっ?」

「めいわくだったら、自分から家に呼んだりしねぇだろ。おまえ、なに、テンパってんだよ。浅山はこっちだ。行くぞっ!」

「……で、でも……」


 ぐいぐいあたしの手をにぎって、ヨウちゃんはきびすを返す。


 う~……。

 やっぱり、ズルイ~……。


 いつもとかわらない黒いウインドブレーカー。

 いつもとかわらない大きな手のひら。

 あったかくって、ここちよくって、さっきの有香ちゃんのことが、頭の中で消去されてっちゃう。



「……綾。きのうは……楽しかったか……?」


「……え?」


 見あげたら、ヨウちゃんは歩きながら、自分の足元を見つめてた。


「誠と……デートしたんだろ……?」


 ヨウちゃんの眉間に、ぎゅっとシワが寄る。



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