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22 花の監獄
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あれからミハイルが部屋から出る時は眠ってしまっているらしく、私は部屋から出られていない。それ以外の時はずっとミハイルがくっついている。目が覚めるたびに増えていく花とプレゼントにどれだけの間、部屋に籠っているのかが感じ取れる。
見渡すと広々としたホテルの部屋には花とプレゼントで溢れ返っていた。
私は諦めてプレゼントの中からミハイルに手渡される服を着て、どこにも行かずにベットで後ろから抱き寄せられている。
外に出してもらえない罪滅ぼしのためのように、ベットの周りには花が足の踏み場もないくらい囲うように置かれていて、まるで甘い花の香りがする檻に入れられている気分だ。
2人で何もせずただ寝転び、ミハイルは後ろから私の髪を梳くっては落としている。髪を掬うその指は飽きることなく慈しむように動く。
何もすることが無いので、腕枕されているミハイルの手を眺めていた。
「ミハイル、指輪してたっけ?」
小指の指輪に触れると、そっと手を剥がされた。
「本当は外したいんだけどね・・・」
「アクセサリーしてるところ見たことないかも」
「必要性を感じなくて」
「魔力強いもんね」
魔力持ちはアクセサリーを付けることが多く、付与効果のある物を基本的には付ける。付与効果のあるアクセサリーにはわずかに魔力が見え感じるが、この指輪からにはその魔力を感じなかった。
「僕のこと、よく見ていたんだね」
あまりにもすることがないので、ミハイルについて話すことにした。
「ミハイルって私と結婚すること悩んでたんだよね。恋に落ちる魔法にかかって良かったの?」
「ひどいね・・・僕が閉じこめているから怒ってるの?」
後ろから悲しそうな声が聞こえた。
「ごめん・・・元のミハイルには好かれていないと思ってたから、戻ったらびっくりするんじゃないかと思って」
後ろから腰に手がまわると強く引き寄せられ、ピタリと隙間なく抱きしめられる。
「元の僕のことを考えないで・・・今の記憶は僕だけのものなんだ。この時だけは僕のことだけを考えて・・・」
「ミハイル・・・」
「僕の気持ちを信じて欲しい・・・お願いだからもう少しこのままでいさせて・・・」
抱きしめられる鎖が強く絡み、そのままただ時間が過ぎるのを待つしかなかった。
部屋は暗くなっていて、どれくらい時間が経ったのかがわかる。後ろで私を離さないミハイルのことを考えていた。
ここ数日、部屋から出られない間にミハイルはどんどん表情を出さなくなったので、思いきって聞いてみることにした。
「ミハイルって無表情で私を見る時があるでしょ?その、何を考えてるのか、よく・・・分からなくって」
「表情を出すと、君に逃げられちゃうって親友に言われてね。ずっと仮面をつけておく訳にもいかないから、出さないようにしてるだけだよ」
後ろから抱きしめていた手が解かれると肩を掴まれ、ひっくり返された。腕の中に囲われミハイルが上にのしかかる。
その重みは私を逃がしてくれない。
路地裏の時に見たギラギラとした鋭い目付きに支配されそうになり、思わず顔を逸らす。
「ほら、逃げないで」
絶対に離そうとしない彼に、無防備にさらけ出している首に歯を立て噛みつかれる。
「あっ、いた・・・」
噛み付いた所に舌が這い、優しく撫でるように何度も舐められる。
「んっ」
「今日で最後だから・・・」
「重すぎるよ」
「離さない」
「はあ・・・好きにしていいよ」
私は諦めるように抵抗をやめた。
「ごめん・・・マール、ごめんね。君にそんな顔をさせて」
私の顔に暖かい雫が落ちてくる。目の前で涙を流すミハイル瞳は宝石が流れているように美しい。
「ミハイル・・・泣いてるの」
「君に好かれたいのに嫌われることばかりしてるね」
目の前のミハイルは私の知っているミハイルと不器用なところが同じで、でもそれが今は嫌ではなかった。
ミハイルのプレゼントの中に水着があったことを思い出し、今日でこの旅行も最終日なので彼の願いを叶えてあげようと思った。
悲しむその涙を拭えるのなら・・・
「ねえ、ミハイル。プール一緒に入らない?」
私は彼をなだめるように、髪を撫でる。
「え・・・」
「水着まで買ってくるってことは、入りたかったんでしょう?」
動かなくなったミハイルをそっと押しのけて、私は花の監獄から脱出する。
こんなに簡単に出られたなんて、少し拍子抜けしてしまうが水着が入った袋を手に取り洗面所へ入った。
見渡すと広々としたホテルの部屋には花とプレゼントで溢れ返っていた。
私は諦めてプレゼントの中からミハイルに手渡される服を着て、どこにも行かずにベットで後ろから抱き寄せられている。
外に出してもらえない罪滅ぼしのためのように、ベットの周りには花が足の踏み場もないくらい囲うように置かれていて、まるで甘い花の香りがする檻に入れられている気分だ。
2人で何もせずただ寝転び、ミハイルは後ろから私の髪を梳くっては落としている。髪を掬うその指は飽きることなく慈しむように動く。
何もすることが無いので、腕枕されているミハイルの手を眺めていた。
「ミハイル、指輪してたっけ?」
小指の指輪に触れると、そっと手を剥がされた。
「本当は外したいんだけどね・・・」
「アクセサリーしてるところ見たことないかも」
「必要性を感じなくて」
「魔力強いもんね」
魔力持ちはアクセサリーを付けることが多く、付与効果のある物を基本的には付ける。付与効果のあるアクセサリーにはわずかに魔力が見え感じるが、この指輪からにはその魔力を感じなかった。
「僕のこと、よく見ていたんだね」
あまりにもすることがないので、ミハイルについて話すことにした。
「ミハイルって私と結婚すること悩んでたんだよね。恋に落ちる魔法にかかって良かったの?」
「ひどいね・・・僕が閉じこめているから怒ってるの?」
後ろから悲しそうな声が聞こえた。
「ごめん・・・元のミハイルには好かれていないと思ってたから、戻ったらびっくりするんじゃないかと思って」
後ろから腰に手がまわると強く引き寄せられ、ピタリと隙間なく抱きしめられる。
「元の僕のことを考えないで・・・今の記憶は僕だけのものなんだ。この時だけは僕のことだけを考えて・・・」
「ミハイル・・・」
「僕の気持ちを信じて欲しい・・・お願いだからもう少しこのままでいさせて・・・」
抱きしめられる鎖が強く絡み、そのままただ時間が過ぎるのを待つしかなかった。
部屋は暗くなっていて、どれくらい時間が経ったのかがわかる。後ろで私を離さないミハイルのことを考えていた。
ここ数日、部屋から出られない間にミハイルはどんどん表情を出さなくなったので、思いきって聞いてみることにした。
「ミハイルって無表情で私を見る時があるでしょ?その、何を考えてるのか、よく・・・分からなくって」
「表情を出すと、君に逃げられちゃうって親友に言われてね。ずっと仮面をつけておく訳にもいかないから、出さないようにしてるだけだよ」
後ろから抱きしめていた手が解かれると肩を掴まれ、ひっくり返された。腕の中に囲われミハイルが上にのしかかる。
その重みは私を逃がしてくれない。
路地裏の時に見たギラギラとした鋭い目付きに支配されそうになり、思わず顔を逸らす。
「ほら、逃げないで」
絶対に離そうとしない彼に、無防備にさらけ出している首に歯を立て噛みつかれる。
「あっ、いた・・・」
噛み付いた所に舌が這い、優しく撫でるように何度も舐められる。
「んっ」
「今日で最後だから・・・」
「重すぎるよ」
「離さない」
「はあ・・・好きにしていいよ」
私は諦めるように抵抗をやめた。
「ごめん・・・マール、ごめんね。君にそんな顔をさせて」
私の顔に暖かい雫が落ちてくる。目の前で涙を流すミハイル瞳は宝石が流れているように美しい。
「ミハイル・・・泣いてるの」
「君に好かれたいのに嫌われることばかりしてるね」
目の前のミハイルは私の知っているミハイルと不器用なところが同じで、でもそれが今は嫌ではなかった。
ミハイルのプレゼントの中に水着があったことを思い出し、今日でこの旅行も最終日なので彼の願いを叶えてあげようと思った。
悲しむその涙を拭えるのなら・・・
「ねえ、ミハイル。プール一緒に入らない?」
私は彼をなだめるように、髪を撫でる。
「え・・・」
「水着まで買ってくるってことは、入りたかったんでしょう?」
動かなくなったミハイルをそっと押しのけて、私は花の監獄から脱出する。
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