魔力を持つ人間は30歳までに結婚しないといけないらしい

ここりす

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61 外されたピアス

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隣でピトリと座り、色々話しかけてくるミハイルに曖昧な返事をしながら、いつもより豪華な食事を口に運ぶ。自分の気持ちを伝えたからなのか、私を見つめる目は蕩けるように甘い。

「ほら、マールこれ好きだっただろう」

声もいつもより優しく甘い。まるでミハイルと同じだ。

「美味しくなかったか・・・?」

ついミハイルに返すように笑顔で返事していた。

「美味しいよ」

「ふっ、可愛いな。君の笑顔が好きだ」

「いきなり・・・やめてよ」

「もう自分の気持ちを隠すことをやめたんだ。すまない」

「そんな・・・」

「マール、明日僕とデートしてくれないか?」

思いがけない言葉にフォークに乗っていた野菜を落すと、隣で笑うミハイルはニコニコと野菜を私の口へ運ぶ。

「魔法にかかった僕との日常は、今の僕と同じように過ごしているが、デートはしていない」

「ん、そうだね・・・」

「もっとマールに近づきたい」

隣で寄りかかるほど近づくミハイルに、自然と頷いていた。

「ふっ、もっと食べろ」

ミハイルの体温を感じながら、食事をする。その距離に心臓がドキドキしながらも、どこか落ち着いている自分がいた。

「そろそろ君の支度も手伝いたい。食べ終えたら練習させてくれないか」

「え、そこまでしてもらわなくても・・・」

「魔法にかかった僕には許したんだろう」

「・・・うん」

「元に戻ってから、僕自身に腹が立つことばかりだ」

「わかったよ。お願いするね」

ミハイルは満足そうに頷くと、聞き覚えのある言葉に胸を痛めた。



夕食を食べ終えると、ミハイルも後ろについてきて一緒に部屋へ入る。

私の部屋を見渡す彼に、少し恥ずかしい気持ちになった。

「女性の部屋に入るのは初めてだ」

「その・・・ピアスが見える髪型にしてくれていたから、後ろで見ててくれる?」

鏡台の前に座ると、ミハイルは私を間に挟むように座った。

「ちょっと、近すぎない?」

「よく見える」

ちゃんと見えているのか分からなかったが、いつも通りハーフアップにする。

ミハイルが見えていたのか鏡越しに確認していると、露になった耳のピアスを指で摘まれた。

チャリっ・・・

「魔法にかかった僕も、独占欲がかなり強かったんだな」

私のピアスをそっと外すと、自分のピアスも外し床へ投げ落す。

コツ、コツンーーーー

力強く後ろから抱き寄せられると、真横にあるミハイルの鋭い視線と鏡越しに目が合う。
先ほどの蕩ける甘い瞳とは違い、黒い感情がむき出しになっていた。

「これからは僕がプレゼントした物だけをつけていてくれ。もちろん、僕の分もマールに選んで欲しい。アクセサリーをプレゼントできるのは夫婦だけだろう?」

見覚えのある彼の黒い表情に動けないでいると、ピアスを外した耳たぶに唇が触れた。熱い息がかかり、体がビクリと反応してしまう。

「んっ・・・」

「マールにこの穴が開けられていることも、気に入らない。僕の回復魔法で塞ぎたい」

「だっ・・・め」


「この穴を開けた僕を愛しているから?」


答えられなくて俯くと、顎を掴まれ再び鏡越しに目が合う。その表情はとても恐ろしく感じた。


「君の3か月の記憶を消すから、このまま本物の僕に愛されてくれ」


ミハイルは本気だ。


魔力で光る指が私に近づく。


「待ってっ!・・・お願い・・・」


首を必死に振り涙を堪えながら、強く抱きしめられている腕に触れる。


「ミハイルっ、おねがい・・・」


ポタポタと流す涙を、鏡越しにだた無表情で眺めている。

深くため息をつくと、指から光がそっと消えた。


「ふっ、気が狂いそうだ」


ミハイルの言葉に震えていると体の向きを変えられ、正面から涙を拭われる。


「魔法にかかった僕のことになると、いつも君は泣きそうな顔をする。もう僕はこれ以上、そんなマールを見ていられないんだ」

「私にとって、あの3か月はかけがえのないものなの。魔法が解けていなくなってしまった今、もう私の記憶の中にしかいないの・・・幸せだった思い出を消さないで。お願い」

「じゃあ君は、僕が魔法にかかったように愛せば、また愛してくれるのか?」

「それは・・・」

「魔法にかかった僕も、元の僕も同じミハイルなんだ。信じて欲しい」

「ミハイルを・・・貴方を傷付けてごめんなさい」

「すまない。初めからマールに恋に落ちていたのに、正直になれなかった僕のせいだ」

「ミハイル、その・・・私もちゃんと貴方と向き合う。今は忘れることはできるか分からない・・・きっと貴方を傷付け続けると思う・・・ごめんなさい」

「ああ、恋に落ちるとこんなにも辛いのだな」

ミハイルに抱きしめられると、そっと震える腕を彼の背中にまわした。

「それと同時に、とても幸せだ」





あれからベットに座り、私を間に挟むようにミハイルから抱きしめられている。

なかなか動き出さないミハイルに戸惑い、後ろから感じる熱い体温に恥ずかしくなってきた。

「あの、ミハイル」

「マール、離さない」

動こうとすると、より力強く引き寄せられるので、諦めて彼に体を預けた。
ミハイルは嬉しそうに首に甘く擦り寄ってくる。

「こうしてると、マールの匂いで頭がおかしくなりそうだ」

首にミハイルの鼻息がかかりむず痒い。強く匂いを吸われると、体がビクリと反応してしまう。

私の顔に熱い視線を感じ、チラリと彼を見ると楽しそうに笑う。

私の結んでいた髪をするりと解いた。

「練習させてくれ」

色気を纏う声に頷き、されるがまま髪をポニーテールに結ばれる。彼は初めてなはずなのに、いつもと変わらない手つきに驚いた。

「こっちを向いて、顔を見せてくれないか?」

驚きながらも、ゆっくりと顔をミハイルに向ける。

「ああ、可愛い」

蕩けるような紫の瞳に微笑みかけられ、また直ぐに正面に顔を戻した。

照れるように俯いていると、うなじにミハイルの顔が触れる。

「ここは・・・マールの匂いが濃いな。はぁ、」

楽しそうにポニーテールの髪を触りながら、私の香りを堪能しているミハイルに胸がいっぱいになり、咄嗟に言葉を発していた。

「私のこと好きじゃなかったんでしょ。どうして急に・・・」

「ああ、魔法にかかった僕を好きな君が好きじゃないと言ってしまった。マールのことはずっと好きだ」

またその言葉に黙り込む。

「嫉妬でつい、言ってしまった。マールを傷付けたな。すまない」

ミハイルの申し訳無さそうな声に罪悪感が湧いていると、自然と私達は見つめ合っていた。

「僕のことは大嫌い?」

「もう・・・大嫌いじゃないよ。ごめんなさい、今まで私を支えてくれたのに」

「ああ、いいんだ。そのまま僕を好きになって欲しい」

嬉しそうにまた私を抱きしめるので、沸き起こる感情にどうしていいか分からず、床に落ちていたピアスを眺めていた。

「ミハイル・・・その、」

「ああ、ピアスか。あれは王家に献上する試作品だったんだ。魔法が解けた時にピアス穴を塞ごうかと思ったが、もしかしたら君が悲しむかもしれないと思って、とりあえず着けていた」

「そう、なんだ・・・」

ミハイルの優しさに安堵しながら、複雑な気持ちになった。

「こうしてマールと触れ合っていると、とても心が落ち着く」

「ふふっ、くすぐったいよ」

ポニーテールにしてより露になった首の匂いを嗅がれ、息がこそばゆくて笑ってしまう。

「可愛すぎる。このまま閉じ込めておこう」

「こ、困るよ」

「大丈夫だ。幸せにする」

「ええ・・・」

「はあ、癒されるな。ずっとこのままでいたい」

本当に閉じ込められそうな力強さに困惑しつつ、首周りや髪の香りを好きなだけ嗅がれていた。
首周りに唇が触れる感触に照れながら、声が漏れそうになるのを我慢する。

やっと満足したのか、一緒にベットから立ち上がった。

(はあ、もう・・・いっぱいいっぱいで倒れそう)

胸がドキドキしながらミハイルを眺めていると、投げ捨てられたピアスを拾いあげている。

手の中のピアスをグッと握りしめている顔は無表情だ。

パッと開かれると、ピアスが消えていた。

(えっ、どうやって・・・)

その姿を呆然と見ていると、私の元に戻ってきたミハイルに顎を掴まれる。

心臓が破裂しそうになりながら目を見開いていると、甘く微笑まれ、ゆっくりと頬に唇が触れた。


「明日のデート、楽しみにしている」


それを伝えるとミハイルはそっと部屋を出て行った。

私は思わず唇の感触が残った頬に触れ、鏡台に映る自分の姿が目に入る。

綺麗にポニーテールに結ばれた姿の顔は赤くなり、その表情は苦しそうには見えなかった。
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