魔力を持つ人間は30歳までに結婚しないといけないらしい

ここりす

文字の大きさ
61 / 83

61 外されたピアス

しおりを挟む
隣でピトリと座り、色々話しかけてくるミハイルに曖昧な返事をしながら、いつもより豪華な食事を口に運ぶ。自分の気持ちを伝えたからなのか、私を見つめる目は蕩けるように甘い。

「ほら、マールこれ好きだっただろう」

声もいつもより優しく甘い。まるでミハイルと同じだ。

「美味しくなかったか・・・?」

ついミハイルに返すように笑顔で返事していた。

「美味しいよ」

「ふっ、可愛いな。君の笑顔が好きだ」

「いきなり・・・やめてよ」

「もう自分の気持ちを隠すことをやめたんだ。すまない」

「そんな・・・」

「マール、明日僕とデートしてくれないか?」

思いがけない言葉にフォークに乗っていた野菜を落すと、隣で笑うミハイルはニコニコと野菜を私の口へ運ぶ。

「魔法にかかった僕との日常は、今の僕と同じように過ごしているが、デートはしていない」

「ん、そうだね・・・」

「もっとマールに近づきたい」

隣で寄りかかるほど近づくミハイルに、自然と頷いていた。

「ふっ、もっと食べろ」

ミハイルの体温を感じながら、食事をする。その距離に心臓がドキドキしながらも、どこか落ち着いている自分がいた。

「そろそろ君の支度も手伝いたい。食べ終えたら練習させてくれないか」

「え、そこまでしてもらわなくても・・・」

「魔法にかかった僕には許したんだろう」

「・・・うん」

「元に戻ってから、僕自身に腹が立つことばかりだ」

「わかったよ。お願いするね」

ミハイルは満足そうに頷くと、聞き覚えのある言葉に胸を痛めた。



夕食を食べ終えると、ミハイルも後ろについてきて一緒に部屋へ入る。

私の部屋を見渡す彼に、少し恥ずかしい気持ちになった。

「女性の部屋に入るのは初めてだ」

「その・・・ピアスが見える髪型にしてくれていたから、後ろで見ててくれる?」

鏡台の前に座ると、ミハイルは私を間に挟むように座った。

「ちょっと、近すぎない?」

「よく見える」

ちゃんと見えているのか分からなかったが、いつも通りハーフアップにする。

ミハイルが見えていたのか鏡越しに確認していると、露になった耳のピアスを指で摘まれた。

チャリっ・・・

「魔法にかかった僕も、独占欲がかなり強かったんだな」

私のピアスをそっと外すと、自分のピアスも外し床へ投げ落す。

コツ、コツンーーーー

力強く後ろから抱き寄せられると、真横にあるミハイルの鋭い視線と鏡越しに目が合う。
先ほどの蕩ける甘い瞳とは違い、黒い感情がむき出しになっていた。

「これからは僕がプレゼントした物だけをつけていてくれ。もちろん、僕の分もマールに選んで欲しい。アクセサリーをプレゼントできるのは夫婦だけだろう?」

見覚えのある彼の黒い表情に動けないでいると、ピアスを外した耳たぶに唇が触れた。熱い息がかかり、体がビクリと反応してしまう。

「んっ・・・」

「マールにこの穴が開けられていることも、気に入らない。僕の回復魔法で塞ぎたい」

「だっ・・・め」


「この穴を開けた僕を愛しているから?」


答えられなくて俯くと、顎を掴まれ再び鏡越しに目が合う。その表情はとても恐ろしく感じた。


「君の3か月の記憶を消すから、このまま本物の僕に愛されてくれ」


ミハイルは本気だ。


魔力で光る指が私に近づく。


「待ってっ!・・・お願い・・・」


首を必死に振り涙を堪えながら、強く抱きしめられている腕に触れる。


「ミハイルっ、おねがい・・・」


ポタポタと流す涙を、鏡越しにだた無表情で眺めている。

深くため息をつくと、指から光がそっと消えた。


「ふっ、気が狂いそうだ」


ミハイルの言葉に震えていると体の向きを変えられ、正面から涙を拭われる。


「魔法にかかった僕のことになると、いつも君は泣きそうな顔をする。もう僕はこれ以上、そんなマールを見ていられないんだ」

「私にとって、あの3か月はかけがえのないものなの。魔法が解けていなくなってしまった今、もう私の記憶の中にしかいないの・・・幸せだった思い出を消さないで。お願い」

「じゃあ君は、僕が魔法にかかったように愛せば、また愛してくれるのか?」

「それは・・・」

「魔法にかかった僕も、元の僕も同じミハイルなんだ。信じて欲しい」

「ミハイルを・・・貴方を傷付けてごめんなさい」

「すまない。初めからマールに恋に落ちていたのに、正直になれなかった僕のせいだ」

「ミハイル、その・・・私もちゃんと貴方と向き合う。今は忘れることはできるか分からない・・・きっと貴方を傷付け続けると思う・・・ごめんなさい」

「ああ、恋に落ちるとこんなにも辛いのだな」

ミハイルに抱きしめられると、そっと震える腕を彼の背中にまわした。

「それと同時に、とても幸せだ」





あれからベットに座り、私を間に挟むようにミハイルから抱きしめられている。

なかなか動き出さないミハイルに戸惑い、後ろから感じる熱い体温に恥ずかしくなってきた。

「あの、ミハイル」

「マール、離さない」

動こうとすると、より力強く引き寄せられるので、諦めて彼に体を預けた。
ミハイルは嬉しそうに首に甘く擦り寄ってくる。

「こうしてると、マールの匂いで頭がおかしくなりそうだ」

首にミハイルの鼻息がかかりむず痒い。強く匂いを吸われると、体がビクリと反応してしまう。

私の顔に熱い視線を感じ、チラリと彼を見ると楽しそうに笑う。

私の結んでいた髪をするりと解いた。

「練習させてくれ」

色気を纏う声に頷き、されるがまま髪をポニーテールに結ばれる。彼は初めてなはずなのに、いつもと変わらない手つきに驚いた。

「こっちを向いて、顔を見せてくれないか?」

驚きながらも、ゆっくりと顔をミハイルに向ける。

「ああ、可愛い」

蕩けるような紫の瞳に微笑みかけられ、また直ぐに正面に顔を戻した。

照れるように俯いていると、うなじにミハイルの顔が触れる。

「ここは・・・マールの匂いが濃いな。はぁ、」

楽しそうにポニーテールの髪を触りながら、私の香りを堪能しているミハイルに胸がいっぱいになり、咄嗟に言葉を発していた。

「私のこと好きじゃなかったんでしょ。どうして急に・・・」

「ああ、魔法にかかった僕を好きな君が好きじゃないと言ってしまった。マールのことはずっと好きだ」

またその言葉に黙り込む。

「嫉妬でつい、言ってしまった。マールを傷付けたな。すまない」

ミハイルの申し訳無さそうな声に罪悪感が湧いていると、自然と私達は見つめ合っていた。

「僕のことは大嫌い?」

「もう・・・大嫌いじゃないよ。ごめんなさい、今まで私を支えてくれたのに」

「ああ、いいんだ。そのまま僕を好きになって欲しい」

嬉しそうにまた私を抱きしめるので、沸き起こる感情にどうしていいか分からず、床に落ちていたピアスを眺めていた。

「ミハイル・・・その、」

「ああ、ピアスか。あれは王家に献上する試作品だったんだ。魔法が解けた時にピアス穴を塞ごうかと思ったが、もしかしたら君が悲しむかもしれないと思って、とりあえず着けていた」

「そう、なんだ・・・」

ミハイルの優しさに安堵しながら、複雑な気持ちになった。

「こうしてマールと触れ合っていると、とても心が落ち着く」

「ふふっ、くすぐったいよ」

ポニーテールにしてより露になった首の匂いを嗅がれ、息がこそばゆくて笑ってしまう。

「可愛すぎる。このまま閉じ込めておこう」

「こ、困るよ」

「大丈夫だ。幸せにする」

「ええ・・・」

「はあ、癒されるな。ずっとこのままでいたい」

本当に閉じ込められそうな力強さに困惑しつつ、首周りや髪の香りを好きなだけ嗅がれていた。
首周りに唇が触れる感触に照れながら、声が漏れそうになるのを我慢する。

やっと満足したのか、一緒にベットから立ち上がった。

(はあ、もう・・・いっぱいいっぱいで倒れそう)

胸がドキドキしながらミハイルを眺めていると、投げ捨てられたピアスを拾いあげている。

手の中のピアスをグッと握りしめている顔は無表情だ。

パッと開かれると、ピアスが消えていた。

(えっ、どうやって・・・)

その姿を呆然と見ていると、私の元に戻ってきたミハイルに顎を掴まれる。

心臓が破裂しそうになりながら目を見開いていると、甘く微笑まれ、ゆっくりと頬に唇が触れた。


「明日のデート、楽しみにしている」


それを伝えるとミハイルはそっと部屋を出て行った。

私は思わず唇の感触が残った頬に触れ、鏡台に映る自分の姿が目に入る。

綺麗にポニーテールに結ばれた姿の顔は赤くなり、その表情は苦しそうには見えなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

完【恋愛】婚約破棄をされた瞬間聖女として顕現した令嬢は竜の伴侶となりました。

梅花
恋愛
侯爵令嬢であるフェンリエッタはこの国の第2王子であるフェルディナンドの婚約者であった。 16歳の春、王立学院を卒業後に正式に結婚をして王室に入る事となっていたが、それをぶち壊したのは誰でもないフェルディナンド彼の人だった。 卒業前の舞踏会で、惨事は起こった。 破り捨てられた婚約証書。 破られたことで切れてしまった絆。 それと同時に手の甲に浮かび上がった痣は、聖痕と呼ばれるもの。 痣が浮き出る直前に告白をしてきたのは隣国からの留学生であるベルナルド。 フェンリエッタの行方は… 王道ざまぁ予定です

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

花の精霊はいじわる皇帝に溺愛される

アルケミスト
恋愛
崔国の皇太子・龍仁に仕える女官の朱音は、人間と花仙との間に生まれた娘。 花仙が持つ〈伴侶の玉〉を龍仁に奪われたせいで彼の命令に逆らえなくなってしまった。 日々、龍仁のいじわるに耐えていた朱音は、龍仁が皇帝位を継いだ際に、妃候補の情報を探るために後宮に乗り込んだ。 だが、後宮に渦巻く、陰の気を感知した朱音は、龍仁と共に後宮の女性達をめぐる陰謀に巻き込まれて……

とんでもない侯爵に嫁がされた女流作家の伯爵令嬢

ヴァンドール
恋愛
面食いで愛人のいる侯爵に伯爵令嬢であり女流作家のアンリが身を守るため変装して嫁いだが、その後、王弟殿下と知り合って・・

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」

透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。 そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。 最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。 仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕! ---

【完結】シュゼットのはなし

ここ
恋愛
子猫(獣人)のシュゼットは王子を守るため、かわりに竜の呪いを受けた。 顔に大きな傷ができてしまう。 当然責任をとって妃のひとりになるはずだったのだが‥。

処理中です...