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第二十八話 勘違い
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あてもなく進み出すと学院内に設置された小鐘が鳴った。これは町中に響き渡る大鐘と違って学院内だけで聞こえる鐘だ。
中央大鐘と同じく定期的に鳴るけど頻度は小鐘の方が遥かに多く、一日に一度しか鳴らない中央大鐘とは違い、約一時間毎に二回鳴る。
なんとなくその意味がわかったのではないだろうか。所謂授業や昼休みの始まりと終わりを告げる音って事だ。
今の小鐘は昼休みが終わった事を告げる音だ。通りでさっきから廊下を歩いていて生徒を見掛けないわけだ。
(それにしても、普通にしてるな)
廊下から各教室の様子が見えるけど、大鐘なんて聞こえなかったと言わんばかりの通常運転だな。教師も生徒も日常の中にいるようだ。
(防壁付近では既に戦いが起きてるかもしれないってのにな。休戦が続いて平和ボケしているってところか?)
そういえばカユがモンスターの接近はいつもの事だって言っていたな。だけど本当に今回もモンスターの襲撃なのか? 昨日と同じ今日が来るとは限らないというのに。
心の奥が冷めていく感覚を自覚しながら、まるで生温い日常から目を逸らすように外に通じる窓へと目を向けると、校庭を走っている人影が見えた。
特徴的な紅蓮の尻尾が二つ揺れる。ユニだ。
「ユニ!」
窓を開けて声を掛けると、彼女は減速して数歩進んでから振り返った。キョロキョロとした後に俺を見つけるユニ。
「ジョンス?」
「今そっちに行く! 待ってろ!」
「えっ、ジョンスっ!?」
困惑している彼女を置いて俺は走り出した。
廊下であんな大声を出したんだ。各教室から野次馬の視線が集まるけれど……今更だな。目立たずに平穏な学院生活ってやつはとっくに諦めている。
「どこに行くつもりだ?」
急いでユニの元まで走ると、意外な事に彼女は振り返った場所から動いていなかった。
「あんたこそ、わざわざ呼び止めるなんてどういうつもりよ」
「防衛戦に参加するつもりなんだろ? それを止めに来た」
「——っ、どうしてあんたが?」
一瞬だけ見せた動揺。防衛戦に参加しようとしている事がバレたとしても問題はないはずなんだが、どうして慌てる必要があるというのだろうか。
その行動に何かしらの意味が、裏があると宣言しているようなものだ。
「防衛戦に参加して自身の実力を示す。そんな事をしても無駄だぞ、たとえ本当に優秀な戦果を残したとしても、ソラはお前の参加を絶対に認めないだろうよ。それはお前も気が付いているんじゃないか?」
「それは……」
ソラはユニの実力をまったく認めていないって事はないと思うんだ。それについさっきカユも言っていたけど、ソラがユニを同行させない事には明確な理由があるらしい。
実力不足だから認めない? それならちゃんとそう言えば良いだけだ。あんな子供みたいな拒否ではなく、ソラならもっと理性的に説得出来ると思うんだ。
あいつの拒絶には一種の狂気が見て取れた。実の姉の命を犠牲にしてカユと共に生き残った。だから残った妹を大切にする。その想いから溢れた狂気? 俺の目にはとてもそうとは見えなかった。
ただ大切だから。もう失いたく無いから。その想いに嘘はないんだと思う。だけどただそれだけの理由ではない。違う何かがあるように見えた。それがカユの言う理由なんじゃないか? 普通ではない匿べき理由。
出会って間もない俺ですらそれに気が付く事が出来た。血の繋がりがある。俺にはない縁があるユニが気が付かないわけがない。
言い淀んでいるのがその証明だ。
「防衛戦は生徒会に任せろ。二人ともそれを望んでる」
「——っ!?」
迷った表情から目を丸くするユニ。
これは……ミスったかも。
「お姉様とカユ会長が向かった? それ、どういう事よ!」
「何をそんなに驚いてるんだ? あの二人らしいだろ?」
ユニの反応から生じた動揺は、ほぼ完全に飲み込んだ。
そんなに驚くような事なのか? 二人とも正義感が強い印象があるけれど。
「確かにらしいからしくないかで言えばらしいわよ! でも……でも今まで二人が防衛戦に参加した事はないのよ!」
「……えっ?」
今まで参加した事がない?
勝手に二人の参加はいつもの事だと、そう思い込んでいた。生徒会が定期的な国外調査をしている件もあって、非常時には戦力として頼りにされているのだろうと。
それが勘違いだと?
「生徒会は防衛戦に参加するもんじゃないのか?」
「いいえ、むしろ学院に通う生徒たちを守る立場にあるわ」
「生徒会がか?」
生徒を守るのは生徒会じゃなくて、普通は教師たち大人がするもんじゃないのか?
「言いたい事はわかるわ。正直言って先生たちは教える事は出来ても、実戦はそこまで得意じゃないのよ」
「……え」
教えてる側が出来ないって……それで良いのかよ。
「技術があってもそれを敵に使えるかどうかは別って事よ」
「あー、なーるほど?」
わかったような……わからないような……。
「そんな事はどうでもいいのよ! 今回になって突然向かうなんてやっぱりおかしいわ」
「そんなに気にする事でもないだろ」
「ええ、そうね普段なら。でも今回は気になるのよ」
「……わかった。一応聞いてやる。それで納得出来たら一緒に行くぞ」
「え?」
真剣な表情から目を丸くするユニ。
カユの願いを切り捨てる事になるけど、あくまで納得出来たらだからな。
「ほら、早く言えよ」
「え、ええ」
少し困惑しているみたいだったが、ユニは自分の考えを話し出した。
中央大鐘と同じく定期的に鳴るけど頻度は小鐘の方が遥かに多く、一日に一度しか鳴らない中央大鐘とは違い、約一時間毎に二回鳴る。
なんとなくその意味がわかったのではないだろうか。所謂授業や昼休みの始まりと終わりを告げる音って事だ。
今の小鐘は昼休みが終わった事を告げる音だ。通りでさっきから廊下を歩いていて生徒を見掛けないわけだ。
(それにしても、普通にしてるな)
廊下から各教室の様子が見えるけど、大鐘なんて聞こえなかったと言わんばかりの通常運転だな。教師も生徒も日常の中にいるようだ。
(防壁付近では既に戦いが起きてるかもしれないってのにな。休戦が続いて平和ボケしているってところか?)
そういえばカユがモンスターの接近はいつもの事だって言っていたな。だけど本当に今回もモンスターの襲撃なのか? 昨日と同じ今日が来るとは限らないというのに。
心の奥が冷めていく感覚を自覚しながら、まるで生温い日常から目を逸らすように外に通じる窓へと目を向けると、校庭を走っている人影が見えた。
特徴的な紅蓮の尻尾が二つ揺れる。ユニだ。
「ユニ!」
窓を開けて声を掛けると、彼女は減速して数歩進んでから振り返った。キョロキョロとした後に俺を見つけるユニ。
「ジョンス?」
「今そっちに行く! 待ってろ!」
「えっ、ジョンスっ!?」
困惑している彼女を置いて俺は走り出した。
廊下であんな大声を出したんだ。各教室から野次馬の視線が集まるけれど……今更だな。目立たずに平穏な学院生活ってやつはとっくに諦めている。
「どこに行くつもりだ?」
急いでユニの元まで走ると、意外な事に彼女は振り返った場所から動いていなかった。
「あんたこそ、わざわざ呼び止めるなんてどういうつもりよ」
「防衛戦に参加するつもりなんだろ? それを止めに来た」
「——っ、どうしてあんたが?」
一瞬だけ見せた動揺。防衛戦に参加しようとしている事がバレたとしても問題はないはずなんだが、どうして慌てる必要があるというのだろうか。
その行動に何かしらの意味が、裏があると宣言しているようなものだ。
「防衛戦に参加して自身の実力を示す。そんな事をしても無駄だぞ、たとえ本当に優秀な戦果を残したとしても、ソラはお前の参加を絶対に認めないだろうよ。それはお前も気が付いているんじゃないか?」
「それは……」
ソラはユニの実力をまったく認めていないって事はないと思うんだ。それについさっきカユも言っていたけど、ソラがユニを同行させない事には明確な理由があるらしい。
実力不足だから認めない? それならちゃんとそう言えば良いだけだ。あんな子供みたいな拒否ではなく、ソラならもっと理性的に説得出来ると思うんだ。
あいつの拒絶には一種の狂気が見て取れた。実の姉の命を犠牲にしてカユと共に生き残った。だから残った妹を大切にする。その想いから溢れた狂気? 俺の目にはとてもそうとは見えなかった。
ただ大切だから。もう失いたく無いから。その想いに嘘はないんだと思う。だけどただそれだけの理由ではない。違う何かがあるように見えた。それがカユの言う理由なんじゃないか? 普通ではない匿べき理由。
出会って間もない俺ですらそれに気が付く事が出来た。血の繋がりがある。俺にはない縁があるユニが気が付かないわけがない。
言い淀んでいるのがその証明だ。
「防衛戦は生徒会に任せろ。二人ともそれを望んでる」
「——っ!?」
迷った表情から目を丸くするユニ。
これは……ミスったかも。
「お姉様とカユ会長が向かった? それ、どういう事よ!」
「何をそんなに驚いてるんだ? あの二人らしいだろ?」
ユニの反応から生じた動揺は、ほぼ完全に飲み込んだ。
そんなに驚くような事なのか? 二人とも正義感が強い印象があるけれど。
「確かにらしいからしくないかで言えばらしいわよ! でも……でも今まで二人が防衛戦に参加した事はないのよ!」
「……えっ?」
今まで参加した事がない?
勝手に二人の参加はいつもの事だと、そう思い込んでいた。生徒会が定期的な国外調査をしている件もあって、非常時には戦力として頼りにされているのだろうと。
それが勘違いだと?
「生徒会は防衛戦に参加するもんじゃないのか?」
「いいえ、むしろ学院に通う生徒たちを守る立場にあるわ」
「生徒会がか?」
生徒を守るのは生徒会じゃなくて、普通は教師たち大人がするもんじゃないのか?
「言いたい事はわかるわ。正直言って先生たちは教える事は出来ても、実戦はそこまで得意じゃないのよ」
「……え」
教えてる側が出来ないって……それで良いのかよ。
「技術があってもそれを敵に使えるかどうかは別って事よ」
「あー、なーるほど?」
わかったような……わからないような……。
「そんな事はどうでもいいのよ! 今回になって突然向かうなんてやっぱりおかしいわ」
「そんなに気にする事でもないだろ」
「ええ、そうね普段なら。でも今回は気になるのよ」
「……わかった。一応聞いてやる。それで納得出来たら一緒に行くぞ」
「え?」
真剣な表情から目を丸くするユニ。
カユの願いを切り捨てる事になるけど、あくまで納得出来たらだからな。
「ほら、早く言えよ」
「え、ええ」
少し困惑しているみたいだったが、ユニは自分の考えを話し出した。
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