31 / 45
第二十九話 竜信仰
しおりを挟む
「この町は高頻度でモンスターに襲われるわ。その度に鐘が鳴って無事に終息するからみんな落ち着いてるんでしょうね」
「それは聞いた。俺からすれば異常な光景だな」
警戒発令が出てるのに安穏と授業を受けている生徒たち。無警戒にも程がある。もしも壁が突破されたらどうするつもりなんだ?
……いや、逆にそれだけ壁が、何より防衛している人たちが信頼されているという事か。
「頻度は大体一月に一度。それがここ数ヶ月なかったのよ」
「良い事じゃんか」
「そうかもしれないわね。でも、違うかもしれない」
「……どういう事だ?」
「嵐の前の静けさって事よ。今回の襲撃は今までのそれとは違うかもしれない」
考え過ぎだと言いたいところだが、戦場では最悪のケースを予め想定しておくべきだ。心構えとしてユニのそれは正しい事だと思う。
彼女は真剣な表情を浮かべるだけでなく、その目に映しているのは強い殺意だった。
圧の理由なんて一つしかない。
「新種が来てる。そう思ってるのか?」
「——っ、ええその通りよ。そもそも生徒会役員が勝てないほどの敵が突然現れるなんて、そんな事ありえると思う? 強さには個体差があったけど、生徒会役員のレベルならどれも倒せる範囲だったわ。それが突然死者を出すほど……グラお姉様を殺すほどの強さだなんて不自然過ぎるもの」
「不自然か……ユニ、何が言いたいんだ?」
ここまで話を聞いて確信した事がある。
ユニはただ実力を認めてもらうためだけに防衛戦に向かおうとしているんじゃない。ユニは最悪のパターンを警戒しているんだ。
ユニの姉であるグラを殺した新型が来ているかもしれないと。
防衛戦力がどの程度なのか俺は知らない。生徒会と同等の質なのか、それとも格上か、あるいは格下なのか。
質も量もわからない。だから予測する事は出来ないけれど、ユニの反応からして新型が来ていたらやばいのかもしれない。
「これは予測とか、推理と言うよりも、あたしの妄想に過ぎないわ」
真剣そのものな声色でユニは続ける。
「新種には[アベル]が関わってると思うのよ」
確か[アベル]というのはは現在休戦中の隣国だったな。
そこが関係している? どういう事だ?
「[アベル]は元々[竜信仰]の壁国よ。竜を神の如く信仰し、いずれ邂逅する時を願う」
「へえ。で、それが?」
信仰なんて世の中色々とあるものだ。
世界的に有名な信仰。村や辺境などの限定地域による信仰。竜信仰は比較的有名な信仰の一つだ。
この世界は一柱の竜から始まり、全ての生命は虚無を飛ぶ竜の背中で生じた。故に我々は等しく竜の眷属なのだ。竜と共に在り未来で竜と共に歩む。
細部までは自信ないけど確かそんな感じの信仰だったはずだ。
それにしても竜信仰自体は知っていたけど[アベル]がそうだって事は知らなかったな。そもそも今まで[アベル]の事すら知らなかったわけだし当然なんだけどさ。
「噂を聞いた事があるわ。[アベル]の信仰は歪んでいるって」
「歪んでる?」
「ええ、本来の竜信仰は竜との再会を運命の日とし、その日を待つ姿勢なのよ。だけど[アベル]での竜信仰は本来の待つではなく、新たな竜を生み出そうとしているらしいの」
「新しい竜を? そりゃ……歪んでるな」
再会を待つのではなく、新しく生み出すか。やばいな頭。発想が異常者のそれだろ。
「新たに作る……まさかユニ」
「そのまさかよ。お姉様たちが遭遇した新種って[アベル]が生み出した竜の失敗作なんじゃないの?」
「それは流石に考え過ぎだろ。飛躍し過ぎだ」
人工的に竜を生み出そうとした結果、新種のモンスターが生まれてしまった。ユニ自身最初に言っていたけど、とんでもない妄想だな
「それじゃあジョンスは新種は自然発生したと思うの?」
「それは……知らんけど[アベル]が関わってるとは限らないだろ?」
「すっごーい。情報なんてここじゃ限られてるだろうに。それでそこまで推理出来るなんて天才的だねー」
「「——っ!?」」
突然掛けられた俺たちではない第三者の声に肩が跳ねた。
振り返った先に立っていたのは、オレンジ色の髪が特徴的な少女だった。
(和服?)
彼女は随分と珍しい服装をしていた。一般的には年に数回行事などで着るような服だな。和服を私服にしているなんて随分とレアだ。
とはいえ、ガチガチの和服じゃない。和服風というか改造和服というか、彼女のそれはミニスカートになっていた。
和服っぽい私服って事だな。
髪色は特徴的なオレンジ色で、髪の一部を二つに分けたハーフツイン。視線を頭から下にずらせば、そこには白く透明な二つの山の間に深い谷間が見えた。
和服って本来は美人系の綺麗な姿になるはずなんだが、こいつの着崩し方はエロ可愛って感じだな。腰の背面には刀剣の鞘が差してあるし、剣士なのか。
凄まじい美人寄りの美少女。是非とも我がハーレムの一員に迎え入れたい。とても綺麗な顔をしているし……なんだろう。その顔に見覚えがある気がした。
ふと視線が横に向いた。
そして気が付いた。俺が邪な事を考えている中、隣に立っていた少女があからさまな動揺を見せている事に。
(ユニ?)
あまりの動揺に声を失っているユニ。そんな彼女に声を掛けようとした時,それに気が付いた。
初対面なのにどうして見覚えがあったのか。
彼女の顔は、ユニとよく似ていた。
「……どう、して?」
震えていて消えてしまいそうな声だった。
俺は確信した。このオレンジ髪の少女の正体に。
「久しぶりだねユニちゃん。流石はアタシの妹だ。良い勘しってるぅー」
「グラお姉様……」
突然現れた彼女の正体。
それは死んだとされていたユニの姉。グラだった。
「それは聞いた。俺からすれば異常な光景だな」
警戒発令が出てるのに安穏と授業を受けている生徒たち。無警戒にも程がある。もしも壁が突破されたらどうするつもりなんだ?
……いや、逆にそれだけ壁が、何より防衛している人たちが信頼されているという事か。
「頻度は大体一月に一度。それがここ数ヶ月なかったのよ」
「良い事じゃんか」
「そうかもしれないわね。でも、違うかもしれない」
「……どういう事だ?」
「嵐の前の静けさって事よ。今回の襲撃は今までのそれとは違うかもしれない」
考え過ぎだと言いたいところだが、戦場では最悪のケースを予め想定しておくべきだ。心構えとしてユニのそれは正しい事だと思う。
彼女は真剣な表情を浮かべるだけでなく、その目に映しているのは強い殺意だった。
圧の理由なんて一つしかない。
「新種が来てる。そう思ってるのか?」
「——っ、ええその通りよ。そもそも生徒会役員が勝てないほどの敵が突然現れるなんて、そんな事ありえると思う? 強さには個体差があったけど、生徒会役員のレベルならどれも倒せる範囲だったわ。それが突然死者を出すほど……グラお姉様を殺すほどの強さだなんて不自然過ぎるもの」
「不自然か……ユニ、何が言いたいんだ?」
ここまで話を聞いて確信した事がある。
ユニはただ実力を認めてもらうためだけに防衛戦に向かおうとしているんじゃない。ユニは最悪のパターンを警戒しているんだ。
ユニの姉であるグラを殺した新型が来ているかもしれないと。
防衛戦力がどの程度なのか俺は知らない。生徒会と同等の質なのか、それとも格上か、あるいは格下なのか。
質も量もわからない。だから予測する事は出来ないけれど、ユニの反応からして新型が来ていたらやばいのかもしれない。
「これは予測とか、推理と言うよりも、あたしの妄想に過ぎないわ」
真剣そのものな声色でユニは続ける。
「新種には[アベル]が関わってると思うのよ」
確か[アベル]というのはは現在休戦中の隣国だったな。
そこが関係している? どういう事だ?
「[アベル]は元々[竜信仰]の壁国よ。竜を神の如く信仰し、いずれ邂逅する時を願う」
「へえ。で、それが?」
信仰なんて世の中色々とあるものだ。
世界的に有名な信仰。村や辺境などの限定地域による信仰。竜信仰は比較的有名な信仰の一つだ。
この世界は一柱の竜から始まり、全ての生命は虚無を飛ぶ竜の背中で生じた。故に我々は等しく竜の眷属なのだ。竜と共に在り未来で竜と共に歩む。
細部までは自信ないけど確かそんな感じの信仰だったはずだ。
それにしても竜信仰自体は知っていたけど[アベル]がそうだって事は知らなかったな。そもそも今まで[アベル]の事すら知らなかったわけだし当然なんだけどさ。
「噂を聞いた事があるわ。[アベル]の信仰は歪んでいるって」
「歪んでる?」
「ええ、本来の竜信仰は竜との再会を運命の日とし、その日を待つ姿勢なのよ。だけど[アベル]での竜信仰は本来の待つではなく、新たな竜を生み出そうとしているらしいの」
「新しい竜を? そりゃ……歪んでるな」
再会を待つのではなく、新しく生み出すか。やばいな頭。発想が異常者のそれだろ。
「新たに作る……まさかユニ」
「そのまさかよ。お姉様たちが遭遇した新種って[アベル]が生み出した竜の失敗作なんじゃないの?」
「それは流石に考え過ぎだろ。飛躍し過ぎだ」
人工的に竜を生み出そうとした結果、新種のモンスターが生まれてしまった。ユニ自身最初に言っていたけど、とんでもない妄想だな
「それじゃあジョンスは新種は自然発生したと思うの?」
「それは……知らんけど[アベル]が関わってるとは限らないだろ?」
「すっごーい。情報なんてここじゃ限られてるだろうに。それでそこまで推理出来るなんて天才的だねー」
「「——っ!?」」
突然掛けられた俺たちではない第三者の声に肩が跳ねた。
振り返った先に立っていたのは、オレンジ色の髪が特徴的な少女だった。
(和服?)
彼女は随分と珍しい服装をしていた。一般的には年に数回行事などで着るような服だな。和服を私服にしているなんて随分とレアだ。
とはいえ、ガチガチの和服じゃない。和服風というか改造和服というか、彼女のそれはミニスカートになっていた。
和服っぽい私服って事だな。
髪色は特徴的なオレンジ色で、髪の一部を二つに分けたハーフツイン。視線を頭から下にずらせば、そこには白く透明な二つの山の間に深い谷間が見えた。
和服って本来は美人系の綺麗な姿になるはずなんだが、こいつの着崩し方はエロ可愛って感じだな。腰の背面には刀剣の鞘が差してあるし、剣士なのか。
凄まじい美人寄りの美少女。是非とも我がハーレムの一員に迎え入れたい。とても綺麗な顔をしているし……なんだろう。その顔に見覚えがある気がした。
ふと視線が横に向いた。
そして気が付いた。俺が邪な事を考えている中、隣に立っていた少女があからさまな動揺を見せている事に。
(ユニ?)
あまりの動揺に声を失っているユニ。そんな彼女に声を掛けようとした時,それに気が付いた。
初対面なのにどうして見覚えがあったのか。
彼女の顔は、ユニとよく似ていた。
「……どう、して?」
震えていて消えてしまいそうな声だった。
俺は確信した。このオレンジ髪の少女の正体に。
「久しぶりだねユニちゃん。流石はアタシの妹だ。良い勘しってるぅー」
「グラお姉様……」
突然現れた彼女の正体。
それは死んだとされていたユニの姉。グラだった。
0
あなたにおすすめの小説
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
『25歳独身、マイホームのクローゼットが異世界に繋がってた件』 ──†黒翼の夜叉†、異世界で伝説(レジェンド)になる!
風来坊
ファンタジー
25歳で夢のマイホームを手に入れた男・九条カケル。
185cmのモデル体型に彫刻のような顔立ち。街で振り返られるほどの美貌の持ち主――だがその正体は、重度のゲーム&コスプレオタク!
ある日、自宅のクローゼットを開けた瞬間、突如現れた異世界へのゲートに吸い込まれてしまう。
そこで彼は、伝説の職業《深淵の支配者(アビスロード)》として召喚され、
チートスキル「†黒翼召喚†」や「アビスコード」、
さらにはなぜか「女子からの好感度+999」まで付与されて――
「厨二病、発症したまま異世界転生とかマジで罰ゲームかよ!!」
オタク知識と美貌を武器に、異世界と現代を股にかけ、ハーレムと戦乱に巻き込まれながら、
†黒翼の夜叉†は“本物の伝説”になっていく!
おいでよ!死にゲーの森~異世界転生したら地獄のような死にゲーファンタジー世界だったが俺のステータスとスキルだけがスローライフゲーム仕様
あけちともあき
ファンタジー
上澄タマルは過労死した。
死に際にスローライフを夢見た彼が目覚めた時、そこはファンタジー世界だった。
「異世界転生……!? 俺のスローライフの夢が叶うのか!」
だが、その世界はダークファンタジーばりばり。
人々が争い、魔が跳梁跋扈し、天はかき曇り地は荒れ果て、死と滅びがすぐ隣りにあるような地獄だった。
こんな世界でタマルが手にしたスキルは、スローライフ。
あらゆる環境でスローライフを敢行するためのスキルである。
ダンジョンを採掘して素材を得、毒沼を干拓して畑にし、モンスターを捕獲して飼いならす。
死にゲー世界よ、これがほんわかスローライフの力だ!
タマルを異世界に呼び込んだ謎の神ヌキチータ。
様々な道具を売ってくれ、何でも買い取ってくれる怪しい双子の魔人が経営する店。
世界の異形をコレクションし、タマルのゲットしたモンスターやアイテムたちを寄付できる博物館。
地獄のような世界をスローライフで侵食しながら、タマルのドキドキワクワクの日常が始まる。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる