若き二つ名ハンターへの高額依頼は学院生活!?

狐隠リオ

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第三話 ベストファイブ

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「くだらないよな」
「……どういう意味だ?」

 驚く事はなく。ただ怪訝そうに問い掛けられた。
 そんな彼女に反応に俺は冷めた口調で返す。

「同じ人間を殺したくない。ほとんどのハンターが対人クエストを受けたがらない理由ってそういう事だろ? 全く理解出来ないとは言わねえけど、くだらねえなって。だって、人もモンスターも同じ命だろ?」
「なるほど、本当に噂通りのようだ」

 噂? ああ、俺に付けられた二つ名。その本当の由来についてか。
 紅蓮。この二文字の意味。

 それは赤いロングコートじゃないんだ。なんせそう呼ばれるようになった頃の俺は、まだそれが出来なかったからな。

 それを知った上での依頼か。なるほど、面白いじゃん。

「今更その身を更なる赤色に染める事になっても構わないという事だな」

 二つ名の真の由来、紅蓮の意味。それは返り血だ。
 モンスターだけではなく、人間を含めた生命の血によって染まった姿。

 熱く滾る命の赤を纏った姿。故に紅蓮。

「ああ、わざわざそんな確認をするって事はそういう事か?」
「そうだ。貴方に頼みたいのは依頼は対人だ」

 対人クエスト。つまり殺しの依頼って事だ。

「仔細はこれを確認してくれ」

 依頼書を渡しカユは続ける。
 人を殺す仕事。別にどうって事はない。今日だってロリを攫った命を斬ってるからな。

「了解っと……ん?」

 渡された依頼書に視線を落とすと読み始めてからすぐに妙なことに気が付いた。

「おい、これってどういう事だよ」

 意図的に不機嫌の三文字を表情と言葉に強くのせたものの、カユの表情に動揺はなく、恐怖を感じているようにも見えなかった。

(こいつ……普通じゃないな。本気じゃないにしろ、俺の事を知った上で今の敵意を向けられて平然としていやがる)

 後者からカユが一般人で無い事はわかった。少なくとも、こいつ自身も我が身を戦場に投じているタイプの生物だ。
 それから、この依頼内容が本気だって事もな。

「そこにあるようにこれは長期に及ぶ依頼となる。最終報酬とは別に期間中には一定の支払いが発生し申請され、それが正式に受理されれば更に追加を支払おう」
「……妙だな」
「妙とは?」

 俺は過去に長期依頼を経験した事がある。
 盗賊の活動領域内を通る行商人などの護衛依頼となれば、依頼期間が一週間や一ヶ月というのはよくある事だ。
 だが、今回はその拘束期間があまりにも長い。どれくらい長いかというと、過去に経験した事がなければ聞いたこともない期間。

 一年だ。

 今月。つまり九月から来年の九月までというあまりにも長い長期依頼。
 依頼完了時、一年後に貰える金額はその期間に見合った、いや、平均よりも随分と高く設定されている。
 その上、期間中の生活費や必要経費なら別途でくれるなんて、これはあまりにも……怪し過ぎる。

「俺の方に利があり過ぎる。詐欺だろ」
「アハハッジョンス君ジョンス君。そんなに警戒する必要はないと思うよー」
「……なんでだよフェイ」

 嫌な予感しかしない以上、俺としては断る気満々だったのだが、そんなタイミングで待ったをかける我が友人フェイ。

「だってこの子さっき名乗ってたじゃーん」
「ああ、それなら聞いたぞ。カユだろ?」
「ノンノンノンッ! そこじゃないよないよー。その前に言ってたでしょー?」

 ……なんか言ってたか? 
 やべ、最初の方は主張の激しい二つのタワワに意識が持っていかれてたからなー、なんか言ってたんだろうなー。

「あー、どうやら他の事に気が散ってたみたいだねー」

 そう言いながらカユからは見えないように自然な仕草で口元を手で隠し、ニタァーとした笑みを浮かべるフェイ。

 あははー、バレてーる。
 わざとらしく咳をしてからあいつは続けた。

「この子、東根家の長女なんだってー」
「……東根家?」
「えっ」

 あからさまにドン引きしているフェイ。
 なんだその反応。うるさい。知らないもんは知らんぞ。常識とか知らないから。
 ……まあ、確認はするけどさ。

「なんなんだよ、その東根家ってさ。有名なのか?」
「有名どころか、この国の東方地区をまとめる大貴族様だよー。つまりこの国のベストファイブ一家の一つ。しかも長女って事は次期当主候補筆頭様だー」
「へー、凄いんだな」
「……まあ、ジョンス君はそうだよねー」

 あえて口にはしなかったけど、凄いんだなって言葉には一つ隠している。
 お前の親がなって言葉を。

 そんな言葉もフェイは察しているんだろうな。なんとなくそう思った。

「ジョンス君ジョンス君。そんなに警戒しなくてもさー、一体どんな依頼なのかは知らないけど、東根家なら信用出来ると思うし、やってみたらー」
「簡単に言ってくれんなー」

 依頼内容を一切知らないフェイからすれば安請け合い出来るかもしれないけど、俺目線じゃ一年っていうとんでも条件がわかってるからな。

 もしも最悪な環境だとすれば一年はやばい。

 さーて、どうするか……あっ、そうだ。それなら依頼人に直接聞いてみればいいのか!

「なあカユ」
「……ふふっ、なんだ?」

 ん? なんだ今の間。それに反応がちょっとおかしくないか?
 なんで嬉しそうにしているんだろうな。

「ナハァー」

 それからフェイ。なんだそのムカつく顔は。ニヤつくな。
 まあ良い。それよりも先にカユだ。

「この依頼書をこいつに見せても良いか? 俺じゃ判断出来ない」
「無論構わない。私は貴方にお願いしている立場なのだ。どうこう言えるものではない」
「そりゃどうも、つう事でほい」
「えぇー、こんなよっぱっぱおじさんに何を見ろと言うのだよーん」

 フェイがおじさん? とてもそうは見えないけどな。
 ふざけた事を言いながらも依頼書を受け取り、眠たそうな目をして読むフェイ。

「んーなるほどねー。一年、えーと今が九月だから、随分と中途半端なタイミングになっちゃうねー」
「聞きたいのはそういう事じゃない。これでもその東根家からの依頼だから受けろって言えるのか?」
「んー、ボクとしてはアリ中のアリ一○○パーセントだと思々ー」

 なるほど。これを読んでも怪しくないと、それがフェイの判断か。
 こんな時間から酔っ払ってる奴だけど、判断力は高いというか、信頼出来る。そんなフェイがアリと言ってるなら……アリなのかねー。
 良し。決めたぞ。

「わかった。その依頼受けるぞ」
「そう言って貰えるのはありがたいが、そう答えを急ぐ必要はない。明日の朝にまた来よう。答えはその時に改めて聞く事としよう」
「別に俺は今すぐでも良いが?」
「ふふっ、そうか。しかし念のために明日また来よう。こちらとしても用意するものがあるのでな」
「へー、そういう事ならわかった」
「昼頃にここで待っている」

 今回の依頼内容からして、必要なものは色々と多そうだからな。それらは全部向こうが用意してくれるって約束、いや契約だ。

「ジョンス君ジョンス君」
「どうした?」

 カユが優雅な一礼をして帰った後、何やらウキウキ顔のフェイ。

「この後付き合ってくれない?」
「別にいいけど、どこ行くんだ?」
「ボクのお家だよ」
「——っ、わかった」

 その誘いって、つまりそういう事だよな?
 長期依頼でしばらく会えなくなるだろうし、その前にって……事だよな。

 ちなみに念のために言っておくけど、フェイは男だからな? どれだけ見た目が美少女だとしても、男なんだ。
 つまり、勘違いはするなよっと。

「お姉さーん。お会計よろろー」
「はーい。フェイ君、お支払い方法はいつも通り口座引き落としで良いですが?」
「もっちもちのそれロンロンロン!」
「かしこまりました。いつもありがとうございます」
「はーい、またねねー」

 元気に両手を振りながら後ろ歩きでギルドを出るフェイ。酔っ払いとはいえ元気だな。

 こいつが住んでいるのは六番街だ。店よりも住居が多い住宅街だな。

「どうする、歩くのか?」
「ボクとしては歩くの大好きだけど、ジュンス君に悪いからねー。ヘイッタクシー!」

 道に出ると躊躇いなく手を上げて走っていた馬車を止めるフェイ。

 街の各地を繋げるように走っている大馬車。通常は一定のルートを走っていて相席が基本になるのだが、中には小型の馬車も走っていてフェイが呼び止めたのはそっちだった。

「個人馬車とかお前は……」
「いいじゃーん。こっちの方が早々だし、揺れも少ないからねー」

 小型の馬車は個人馬車、貸切馬車などと呼ばれる事もあって、大馬車と比べると高い。料金がとんでもなく高い。桁が一つ変わるレベルでだ。

 どうして小型の方が高いのかというと、あくまで一定のルートしか走らない大馬車と違い、小型馬車は目的地を指定する事が出来るからだ。

「あー、そういえばフェイは車酔いしやすいんだったな」
「そーそー、フェイ君の揺れ耐性はバツだね」

 とても同性には見えない笑顔と共にVサインを見せるフェイ。
 弱点公開のタイミングで何故ドヤ顔なんだ?

 まあ、それがフェイって人間なんだろう。
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