若き二つ名ハンターへの高額依頼は学院生活!?

狐隠リオ

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第四話 金色

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「うげぇー、気持ちばるい……」

 一定と見せ掛けて意外と不規則な揺れにガブガブされる事二十分。フェイは完全にダウンしていた。

「うぅー、おうち……まだぁー?」
「もう少しだから頑張れ」
「うぅー」

 顔を青くしているフェイ。馬車が苦手って長距離移動には向かないって事だよな。ハンターとしては不便な弱点だ。

 ただ、ふと思った事がある。フェイ? お前のそれって本当に車酔いだけが原因なのか? あれだけ飲んでたし、普通にアルコール殿が体内で反乱を起こしているだけなのでは?
 ……多分、両方だな。

「ほーら、フェイ。ついたぞ」
「うぅー、お支払いはこれでおねげえじまずー」
「はいよー、いつもありがとよー」

 御者にカードを渡して支払いを済ませるフェイ。……あれ、馬車ってカード支払い出来たっけか?

 ギルドが管理している口座から後日まとめて支払うというシステムがカード払いと呼ばれる方法なんだけど、確かあれってギルドが経営してる店でしか出来なかったはずだが?

 それに今のやりとり……フェイ? もしかして君、超が付くほどの常連か? 常連だから許される特別対応って事? 顔パス信用なのか!?
 ……前から薄々思ってたけど……金持ちなのか?

「あー、大地の安心感がパナっぱだー」
「はいはい、とりあえず入るぞ。んで、水のめ」
「えぇ、なんでー? ボクはただ車酔いしてるだけだよー?」
「たらふく呑んでるんだろ? なら水飲め」
「むぅー、わかったよー。用意、よろぴ」
「……こいつ」

 完全に俺任せにじゃねえか。
 中に入るなり長椅子に寝そべるフェイ。……完全に酔っ払いだな。

「ほらよ」
「テンキュー」

 冷蔵庫から瓶入り水の蓋を外して渡すと、グビグビと一気飲みするフェィ。

「寝たまま飲むな、気管に入るぞ」
「ぷっはー。大丈夫大丈夫、慣れてるからのぉー」
「そうかい」

 とても年上とは思えない自由さというか、なんというかクソガキ感。俺はこんな大人にはならないぞって心の底から思える。
 ……いや本当に、俺の見た目でこんな感じだったら最悪だな。パッと見が女子にしか見えないフェイだからこそ許されるキャラクター性だな。

「おりゃーっフェイちゃん様ご復活じゃいっ!」

 揃えた両足を大きく振り子にて起き上がるなり、そんな雄叫びをあげるフェイ。

「いやー、やっぱりお水は世界を救うんだねー」
「大袈裟過ぎるだろ」

 俺が呆れた声を出している間に立ち上がり、冷蔵庫から新たな瓶を取り出すフェイ。中身が何か? そんなの見て確かめるまでもない。
 どうせ酒だろ?

「ぷっはーっ! 直飲み瓶ビール最高!」
「いやいや、そういうもんじゃないだろ」
「まっ、そうなんだけどねー。外じゃ出来ない飲み方が出来る幸せ。そうっこれこそが自由なのですよ! 理解してくれましたかっジュンス君!」

 いやいや、俺は忘れてないぞ? お前、店でやってただろ。徳利直飲み。

「フェイ?」
「ごーめんめんごるぅーっと、そろそろ本題が欲しいよねー。それじゃあ単刀直入に聞いちゃいますけれども……刀、どう?」

 俺がフェイと交流するようになったきっかけ、それはフェイの趣味……いや、むしろそっちが本業だろって感じの内容なんだけど、こいつのソレは鍛冶屋だ。

 この少女みたいな見た目でフェイは鍛冶が出来るんだ。とはいえ、俺が使っている刀を作った本人とか、そういう話じゃない。ただ、俺が使っている刀の研ぎを任せているだけ。

 刀は普通の直剣や槍と違い、独特な刀身だからな。まさか刀の研ぎが出来る鍛冶屋がここまで珍しいとは思ってなかった。
 確かに他に使ってるやつなんて見た事ないし……マイナー武器だったりするのか? 何故か俺の意識の中じゃ剣といえば刀しかねえだろうって感じなんだけど。

「あー、それが流石に限界が近そうだな」
「だっよねー。前の研ぎの時点で随分と細くなってたし、一年間ボクのメンテが受けれーんとなると、ピーマンワロチじゃないかなーって思ったわけですよー」

 ピ《・》ーマン《・》ワロチ《・》? あー、ピンチって意味か。
 こりゃ万年よっぱっぱ女児オジサンなフェイとの会話に慣れてる俺じゃなきゃ……ふっ理解出来なかっただろうな。

 それにしても単語雑過ぎるだろ。

「本当なら今まで仲良くしてくれたし? ボクとしても楽しかったし? こんなダメダメなボクのダル絡みにもなんだかんだ言っても付き合ってくれたし? 気合いを込めた一本を用意したいところなんだけど、流石にこんな突然じゃ時間がないよねーって事で、ボクが今まで作ったKATANA《カタナ》の中から、オッキニッキニーな一振りをチョイスざポンポコしてしてねーんっと思ったフェイちゃん様なのですけれどもー」

 相変わらずフォイ語が多いなー。
 つまり要約すると、今の刀は状態がやばいし一年保つかわからないから新しいのをプレゼントするよって事だな。

「そういえばフェイの打った刀って見た事ないな」

 フェイは鍛冶屋として複数本の刀を鍛えた実績があるらしい。
 だけど俺は今の刀にはそれなりに少なくない愛着があるし、買い替える気なんてなかったからな。フェイにはいつも研いでもらうだけで、打った刀を見た事はないんだよな。

「ジョンス君ジョンス君、これこれ」

 渡されたのは一枚の……カード?

「なんだよ、これ?」
「地下室の鍵だよーんと」
「地下室?」

 えっ、この家って地下室なんてあるの? 何度か来てるけど、初耳なのだが?

「登り階段の横に入口が隠されてるんだけど、地下室にはねー、ボクが今まで作ったKATANA《カタナ》が飾ってあるんだー。そこからユーの直感に任せて一振り持っていってよー」
「任せてって……雑過ぎね?」
「アッハーッ、世の中そんなもんだよー。素振りとかして気に入ったの持って行ってー。ボクはもうお眠の時間じゃからのー」

 そう言って退室の構えのフェイ。
 こいつ、本気で寝に行く気じゃねえか!

「はぁー、俺が守銭奴って知ってるだろ? いいのか、見張らなくてさ」
「んー? いいよー、別に。ジョンスの将来には期待してるかんねー。安い投資だーよ」

 そう言っていつもとは違う、なんかこう……本当に年上なんじゃないかなって、そう思ってしまう、認めてしまうような笑みを浮かべるフェイ。

 ただ、ちょっと言ってる事がズレてないか?

 そのまま歩き進め、部屋から出て行くフェイの背中を見つめながらため息をこぼした。

(いや、信用し過ぎだろ)

 長期依頼によって俺は一年間ここを離れる。となれば戻ってこない可能性だって十分にあるって事だ。
 俺とフェイの間にある絆なんて高が知れている。
 友達じゃないんだ。
 刀を持つ者と、刀を打つ者。
 侍と鍛冶屋。そういう関係でしかなかったはずだ。

 だけど……俺の仮定が現実で、刀がマイナーウエポンだったとするならば、フェイが俺に懐くのもありえる話なのか?
 狂った方の共依存、狂依存……なんてね。

「はぁー、なんか調子狂うな」

 頭を掻きながらため息をつくと、俺は地下室へと向かった。

(これか?)

 それらしき扉を発見。ただしドアノブがない。あるのはカードが挿れられそうな横筋の穴が一つ。ここに渡されたカードを差し込めって事であってるよな?

 こんな形状の鍵なんて今まで見た事ないし、差した後はどうすりゃ良いんだ?
 まっ、挿れてから考えればいっか。

「えいっと」

 何も考えずに挿入。奥まで差し込むとカチリと何かがはまる音がした。

「お、お?」

 俺がしたのはただカードを穴に差し込んだだけ、だというのにドアノブのない扉は勝手に動き、先に広がる空間を開放した。

(いや、どんな仕組みだよ)

 どういう原理で扉が自動で開いたのかはわからないけど、そんな事を考える余裕があったのは一瞬だった。

「……すげえ」

 思わず声が漏れた。
 開放された部屋に飾られている数多の刀。まるで美術品のように展示されたそれらはどれも美しく、本当の意味で美術品のように見えた。

「世が世なら高値で売れそうだな。いや、マイナーだからこそプレミアなるか?」

 刀が武器として一般的でないわけだし、純粋に美術品、芸術作品として価値がありそうだ。

「さーて、どれにしようかね」

 どれも心惹かれる見事な姿をしている刀たち。
 種類名とかはわからないけど、いくつかの型があるように見えた。

(あれ?)

 抜き身の状態で鞘と共に飾られている刀たち。その中で唯一、納刀のまま飾られている刀が一振りだけあるのを見つけ、まるで吸い込まれるように意識が向かった。

「金色の鞘に納められた刀か」

 鞘が金色だからといって豪華な飾り付けがされているわけじゃない。シンプルな拵だ。

 金色だけど黄金ってわけじゃないのか? 王とか地位あるものが周囲に見せ付けるためのお飾りの刀ではなく、実用的な造り。

「……決めた。お前だ」

 一振りだけ他と違う飾られ方をしていた刀。なんとなく、こいつを選ぶべきだって、そう思ったんだ。

「まっ、俺にはぴったりだな」

 金を求めて刃を振るう。故に刀も金色染ってな。
 [紅蓮の金色]が金色を振う。良いじゃん。

 次の相棒は見つかった。それなら残るのは。

「今までありがとな、きっとフェイが弔ってくれる。じゃあな」

 長らく世話になった刀を腰から鞘ごと引き抜き、金色の刀が飾られていた場所に置くと、新たに金色の相棒を腰に差した。

 振り向き背を向けると一歩前へと進み腰を沈めた、そして手を腰へと伸ばし、得意の技を放つ。

「ハッ!」

 抜刀と共に斬撃を放つ居合。
 今まで何度も何度も放って来た得意技だ。
 数多の反復によって身体に染み付いた動き。それを放てば過去と今でどう変わったのかがわかる。

 刀が変わるってのは大きな変化だ。
 シンプルに刀身の差から間合いが変わるし、重量だって変わる。重さなんて多少の変化だと思うかもしれないけど、重心のバランスが変わる事、それが特に重要だ。

「やっぱり違和感があるな。これは流石に調整が必要だな」

 フェイはもうぐっすりだろうし、起こすのも悪いからな。というか、酔って眠ってる以上、そう簡単には起きないだろうし、声を掛ける事もなく家を後にした。

「それにしてもあいつ……間に合ったってところか?」

 フェイの家が見えなくなる前に振り向くと、俺はフェイから貰ったこの唯一無二を撫でた。

   ☆ ★ ☆ ★
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