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第九話 魔術師
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「なんてね。別にどうでも良いけど」
「何がどうでも良いんですか?」
「——っ!」
ただの独り言に言葉が返って来るとは思わず反射的に飛び退いて発信源から距離を取ると、同時に腰に差した柄に手を伸ばした。
「わあー。素晴らしい反応速度ですね」
そこに立っていたのはフワフワとした笑みを浮かべ、柔らかく両手を合わせている女性。制服を着ているし女子生徒か。
「カユちゃんに頼まれて様子を見に来たんですけど、正解だったみたいですね」
「……誰だお前」
「うふふっ、そんなに警戒しないで下さいよ。ここは戦場ではなく学びの場なんですよ?」
「普通の学び舎ならそうかもしれないけど、ここは違うだろ?」
この学院については馬車の中でカユから色々と聞いている。
東にある壁国[アベル]と長らく戦争をしていたって事は既に伝えたと思うが、その戦争におけるこの町の意味は最前線に物資と人材、つまり兵士を送るための拠点だったんだ。そして前線が崩れた時、最初に襲撃を受けるのは当然この町となる。
戦いが隣人となっている町[東方町]。
今は戦争が静かになっているとはいえ、その名残もありこの町に住む者のほとんどが武器を持ち、そして戦う事が出来る技術と経験を有している。
町の住人全員が兵士になりうる町。それがここなのだ。
そんな町にある学校となれば普通であるなんてありえない。[法威学院]は必須授業において、戦闘を教える武装学校なんだ。
だからこそ学校という学び舎の中だというのに、俺の腰には刀がある。帯刀する事が出来ているんだ。そして、武装という意味では目の前にいる女子生徒も同じ。
「カユって言ったな。あいつの知り合いか」
「あら? うふふっ、カユちゃんの事を呼び捨てにするんですね。やっぱり予め来て正解でした。あっ、これはカユちゃんのお願いとは別件ですよ? カユちゃんは純粋にあなたが暇をしているだろうから、話し相手になってくれないかと言われただけですから」
「なんだそれ、わざわざ話相手をするためにあいつが寄越したって事か?」
確かに暇なのは確かだけど、それで人を向かわせるって……この依頼そのものもそうだし、カユの目的って一体なんなんだ?
「そうですよ。個人的にも用がありましたし」
「用事? これが初対面だと思うが?」
「ええ、ただカユちゃんの言葉から言っておいた方が良いと思いまして」
そう言って歩を進め、近寄って来る女子生徒。
いつでも剣を抜けるように不自然じゃないくらいで身体を動かした。
「そんなに警戒しないで下さい。隣に座っても良いですか?」
「その前に、お前は誰だ」
「あっ、ごめんなさい。自己紹介がまだでしたね。わたしは西塔《さいとう》ソラ。カユちゃんと同じ生徒会役員、恐れながら副会長をしています」
手を胸に当ててそう自己紹介をした後、ぺこりと会釈するソラ。
西塔ソラと名乗った女子生徒。カユが会長をしている生徒会の副会長らしい。カユの事をちゃん付けしているし、まず後輩って事はないだろうな。となると二年生か三年生って事になるか。……この精神的包容力、多分後者だな。
「俺の事はどこまで聞いた? とは言ってもあいつもそこまで知ってる事はないだろうけど」
「カユちゃんの依頼によってここに来たハンターさんですよね。名前はジョンスさん。それも二つ名があるほどの実力って聞きました。ふふっ凄いですね」
なるほど、カユが知ってる情報の全てって感じだな。
ただ一つ思うのは二つ名の由来まで知っているのかってところだな。もしも知った上で好意的な反応なのだとすれば……人と人が命を奪い合う戦争に近いこの町故って感じだな。
「隣、良いですか?」
「……ああ、いいぞ」
ソラの腰にある武器を一瞥した後に許可すると、彼女はキョトンとした表情を一瞬見せた後に笑みを浮かべた。
「流石です」
警戒心を解いてみると……美人だな。
長い水色の髪を腰まで真っ直ぐ伸ばし、女としては高身長なカユよりも更に高い。胸はカユより小さいけど、カユが大きいのであって充分過ぎる存在感がある。なんというか、モデル体型って言うのか? 知らんけど。
ちなみに俺はソラの事を信用したわけじゃない。ただ、警戒する必要がないって理解しただけだ。ソラの腰にあるのは俺やカユが使っているような刀剣じゃない。そこにあるのは小さな宝石が複数個付けられた棒。わかりやすく言えば杖だ。
杖を武器にしているとくれば彼女の戦闘スタイルは推測出来る。杖による殴打を基本にした脳筋スタイル——ってのは勿論違う。
杖の役割り、それは魔術を発動するための触媒だ。つまりソラは剣士じゃない。魔術を操る者、魔術師なんだ。
「察していると思いますけど、わたしはこの通り魔術師です」
そう言って自身の腰にある杖を一瞥した後、微笑みかけるソラ。
「この距離は剣士であるあなたの間合いですね」
「やっぱりわかった上でか」
「はい。プロのハンターを説得するには効果的かと思いまして」
魔術は強い。間合いは刀剣よりも遥かに広く威力も上だ。だけど、一つ明確な弱点がある。それは発生の遅さだ。
ソラの魔術師としてのレベルがどれくらいかわからないけど、才能があり過ぎる天才だったとしても発動まで一秒弱はある。それなら俺の居合の方が確実に早い。
魔術師から距離を詰めるってのは敵対の意志はないと宣言してるようなものだ。そもそも、ソロなら遠距離から不意打ちってのが基本だしな。
「何がどうでも良いんですか?」
「——っ!」
ただの独り言に言葉が返って来るとは思わず反射的に飛び退いて発信源から距離を取ると、同時に腰に差した柄に手を伸ばした。
「わあー。素晴らしい反応速度ですね」
そこに立っていたのはフワフワとした笑みを浮かべ、柔らかく両手を合わせている女性。制服を着ているし女子生徒か。
「カユちゃんに頼まれて様子を見に来たんですけど、正解だったみたいですね」
「……誰だお前」
「うふふっ、そんなに警戒しないで下さいよ。ここは戦場ではなく学びの場なんですよ?」
「普通の学び舎ならそうかもしれないけど、ここは違うだろ?」
この学院については馬車の中でカユから色々と聞いている。
東にある壁国[アベル]と長らく戦争をしていたって事は既に伝えたと思うが、その戦争におけるこの町の意味は最前線に物資と人材、つまり兵士を送るための拠点だったんだ。そして前線が崩れた時、最初に襲撃を受けるのは当然この町となる。
戦いが隣人となっている町[東方町]。
今は戦争が静かになっているとはいえ、その名残もありこの町に住む者のほとんどが武器を持ち、そして戦う事が出来る技術と経験を有している。
町の住人全員が兵士になりうる町。それがここなのだ。
そんな町にある学校となれば普通であるなんてありえない。[法威学院]は必須授業において、戦闘を教える武装学校なんだ。
だからこそ学校という学び舎の中だというのに、俺の腰には刀がある。帯刀する事が出来ているんだ。そして、武装という意味では目の前にいる女子生徒も同じ。
「カユって言ったな。あいつの知り合いか」
「あら? うふふっ、カユちゃんの事を呼び捨てにするんですね。やっぱり予め来て正解でした。あっ、これはカユちゃんのお願いとは別件ですよ? カユちゃんは純粋にあなたが暇をしているだろうから、話し相手になってくれないかと言われただけですから」
「なんだそれ、わざわざ話相手をするためにあいつが寄越したって事か?」
確かに暇なのは確かだけど、それで人を向かわせるって……この依頼そのものもそうだし、カユの目的って一体なんなんだ?
「そうですよ。個人的にも用がありましたし」
「用事? これが初対面だと思うが?」
「ええ、ただカユちゃんの言葉から言っておいた方が良いと思いまして」
そう言って歩を進め、近寄って来る女子生徒。
いつでも剣を抜けるように不自然じゃないくらいで身体を動かした。
「そんなに警戒しないで下さい。隣に座っても良いですか?」
「その前に、お前は誰だ」
「あっ、ごめんなさい。自己紹介がまだでしたね。わたしは西塔《さいとう》ソラ。カユちゃんと同じ生徒会役員、恐れながら副会長をしています」
手を胸に当ててそう自己紹介をした後、ぺこりと会釈するソラ。
西塔ソラと名乗った女子生徒。カユが会長をしている生徒会の副会長らしい。カユの事をちゃん付けしているし、まず後輩って事はないだろうな。となると二年生か三年生って事になるか。……この精神的包容力、多分後者だな。
「俺の事はどこまで聞いた? とは言ってもあいつもそこまで知ってる事はないだろうけど」
「カユちゃんの依頼によってここに来たハンターさんですよね。名前はジョンスさん。それも二つ名があるほどの実力って聞きました。ふふっ凄いですね」
なるほど、カユが知ってる情報の全てって感じだな。
ただ一つ思うのは二つ名の由来まで知っているのかってところだな。もしも知った上で好意的な反応なのだとすれば……人と人が命を奪い合う戦争に近いこの町故って感じだな。
「隣、良いですか?」
「……ああ、いいぞ」
ソラの腰にある武器を一瞥した後に許可すると、彼女はキョトンとした表情を一瞬見せた後に笑みを浮かべた。
「流石です」
警戒心を解いてみると……美人だな。
長い水色の髪を腰まで真っ直ぐ伸ばし、女としては高身長なカユよりも更に高い。胸はカユより小さいけど、カユが大きいのであって充分過ぎる存在感がある。なんというか、モデル体型って言うのか? 知らんけど。
ちなみに俺はソラの事を信用したわけじゃない。ただ、警戒する必要がないって理解しただけだ。ソラの腰にあるのは俺やカユが使っているような刀剣じゃない。そこにあるのは小さな宝石が複数個付けられた棒。わかりやすく言えば杖だ。
杖を武器にしているとくれば彼女の戦闘スタイルは推測出来る。杖による殴打を基本にした脳筋スタイル——ってのは勿論違う。
杖の役割り、それは魔術を発動するための触媒だ。つまりソラは剣士じゃない。魔術を操る者、魔術師なんだ。
「察していると思いますけど、わたしはこの通り魔術師です」
そう言って自身の腰にある杖を一瞥した後、微笑みかけるソラ。
「この距離は剣士であるあなたの間合いですね」
「やっぱりわかった上でか」
「はい。プロのハンターを説得するには効果的かと思いまして」
魔術は強い。間合いは刀剣よりも遥かに広く威力も上だ。だけど、一つ明確な弱点がある。それは発生の遅さだ。
ソラの魔術師としてのレベルがどれくらいかわからないけど、才能があり過ぎる天才だったとしても発動まで一秒弱はある。それなら俺の居合の方が確実に早い。
魔術師から距離を詰めるってのは敵対の意志はないと宣言してるようなものだ。そもそも、ソロなら遠距離から不意打ちってのが基本だしな。
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