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七つ下がりの雨(なかなか止まない)
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夢を見る。
夢の中ではいくら非現実的なことが起ころうともすんなり受け入れてしまうものである。だから俺は近所をプカプカとアヒルボートで散歩していても全く違和感を感じずにいた。
そのアヒルボートは大きかった。8人くらいは裕に乗れそうなくらい大きくて、そんなに大きければ漕ぐ力も大変だろうに俺は難なく楽に漕いでいる。日頃の筋トレの成果ではない。夢だからだ。まず俺は筋トレを日課にしていない。残念ながら。
最初に会ったのは母親だった。
「ちょっとスーパーまで乗せてってよ」
母が立っているのは人1人立っていられるくらいの小島だった。
母を乗せ、またボートを漕ぎ始める。後ろから母が何か喋りかけてくるが俺は別のことを考えていた。
理由はわからないがこれからマズイことになる予感があった。
その次に会ったのはけいすけだった。
「おい、いつの間にこんなの買ったんだよ」
そう言いながら当たり前のようにボートに乗ってきた。それからまた次から次へとボートに人が乗り込んでくる
マズイ…マズイ…
もう誰が乗っているのかも把握できない。ただもう定員いっぱいなのは分かっていた。ペダルもさすがに重くなっている。
すると1番恐れていた事が起こる。
地面がぐらっと揺れてみんながボートに捕まってなんとか揺れをしのぐ。
揺れが収まってから安全な場所への移動を急ぐ。焦る気持ちに体が追いつかない。
そして気づいてしまった。
すぐそこの屋根の上にあまねがいる。
あまねはこちらを見ていた。
ずっとこちらを見ていた。
目が覚めると大抵の夢は忘れてしまっている。しかしこのなんとも言えないリアルな感情は残っている。
その感情の正体を知ろうとするも、時計を見て慌てて現実に戻される。
そしてその感情の行方を見失う。
朝食を済ませ、歯を磨き、服を着替え、エプロンやらが入った仕事用のトートバッグを持って準備OK。
おっと。充電器を抜いて携帯をポッケに仕舞おうとすると小さな液晶がチカチカ光っているのに気づいた。
久しぶりに見たその光の色の意味を思い出すのに少し時間がかかった事に俺は驚いた。メールの通知一件。これは由香利からの通知の色だ。
時間がないのでメールは確認せず、バタバタと家を出る。しばらく小走りで職場に向かい、信号で立ち止まった。
ぼーっとしていると信号は変わるのが速い。ただそう感じるだけだろうけど。
「今日の遅番って誰だっけ?」
スズが俺に聞いてくる。俺は消毒用のタオルでアヒルのおもちゃを拭きながら昨日の夢を思い出そうとしていた。
「えーっと多分真子先生じゃない?もう1人は分かんないけど」
昨日後片付けをしながら「明日も遅番なんだよねー」と言う真子先生を思い出す。
「あぁ真子先生か。あっ、そういえばすぐる先生、真子先生に何か言われなかった?」
一瞬ドキッとするが別に教える義務もないだろうと判断し、シラを切ることにした。
「え?何かって?」スズと恋愛トークをする気にはなれないんだよなぁ
「いや!何も言われてないならいいんだ!気にしないで、ごめんごめん」
そう言って足速に職員室に行ってしまった。
あ や し い
明らかに焦ってたし、人は2回言葉を繰り返す時は大体嘘か何かを隠している時だ(俺論)
絶対あの様子は何かおかしい…
スズとはこの園で知り合った。
3年前新人ホヤホヤで保育士として就任した俺はびっくりするほど仕事ができなかった。
今となっては全部初めてのことだったんだから仕方がない部分もあっただろうが、その時の俺はそんなことを考える余裕もなく、毎日上も下も右も左も分からないまま働く日々。頑張ろうとすればするほど空回りしていた。
正直に言うと最初の1ヶ月はほぼ毎日泣いていたくらい、しんどかった。
そんな時に途中採用で入ってきたのがスズだった。
スズはブランクがあるものの、1年は保育経験があり、それだけでも俺の目にはテキパキ仕事をこなすスーパーレディに見えた。
ある日の遅番。俺とスズは2人で何か製作の準備をしていた。確か春のイースターに向けてウサギの型紙を切っていたのだ。何個も何個も作っていくうちに俺は完全に参っていた。それでも「なんとしてもこの仕事を今日中に終わらせなければ」と謎の焦りに急かされながらハサミをショキショキ動かしていた。
「あの、、すぐる先生」
「はい?」
当時そこまで仲良くもなく、お互いの年齢さえよく分かっていなかった俺たちはまだ敬語を使っていた頃だったと思う。
「えーっと、すごく言いにくいんですけど…これ…」
スズは俺の作ったウサギを持っている。何を伝えたいのか初めは分からなかったがよく見てみるとウサギの可愛らしいお目目がピンと立った耳にくっついている…
自分が作り上げた化け物ウサギはざっと半数以上あり、その目がこちらをじっと見つめているもんだから色々な意味で身震いした。
嘘やん……
「すいません…すごい必死に作ってたから声かけるの気後れしちゃって…」
スズは俺と目を合わせず申し訳なさそうに化け物ウサギを見つめていた。
これ全部作り直し…?もう何も考えたくなくて俺は呆然としてしまった。
「…ふっ」
ふいにスズが下を向きながら口に手を当てて震えていた。
「や…やば……よく見ると…ウサ、ギふっ笑えてきて…ふっ」
言葉の端々に堪えた笑いが見え隠れしながらスズは言った。
確かに
それに加えて俺は何を躍起になってウサギの耳なんぞに目なんか付けていたんだろう。
自分のバカらしさに笑えてきた。
「確かに…ぷっ…ふふ、やばいですね」
スズはもう隠さずに大声で笑った。「これ子どもが見たら泣くやつだよね?」
「うわーそれ困るな」笑いながら俺も答えた。
「ちーちゃんとか、確実にギャン泣きだよ?」
「確かにそうですね笑、困るなーぁちーちゃん俺に1番懐いてるのに」
「いや、ちーちゃんは和美先生でしょ」
「えっ、でもこの前ちーちゃん、すぐる先生が1番好き!って言ってくれましたよ!」
「あぁ、それ私も言われたし松坂さんにも言ってたよ」
「…嘘だろ…ちーちゃん恐るべし」
2歳児に弄ばれる俺って一体。
もう何もかも面白くなって2人で笑い転げた。なんだか30年ぶりに笑った気分だった。そん時まだ26だったけど。
「はー、笑った。すぐる先生がこんなに面白い人だったなんて知らなかったです」
「おもしろいって…ただミスしただけですが」
「ミスしてる所が面白いんです」
「俺一応落ち込んでるんですけど」
「私、人の不幸を見て笑う女なので」
「マジすか」
スズ先生は最初から正直な人だった。表裏がなく、良くも悪くも正直な意見をいつも言っていた。
「あーもう、すぐる先生が笑わせるから仕事が進まないじゃないですかー」
「俺のせいですか」
「そうですよ」
ふっと息を漏らしてからスズは言った
「まぁ、面白いし良かった。すぐる先生もちゃんと笑えるんですね」
スマホを操作しながらちらっと俺を見た
「え、いや毎日満面の笑みですけど」
スズのスマホから音楽が流れてきた。
「や?すぐる先生毎日こーんな顔して働いてますよ?」
リズミカルなそのメロディに聞き覚えがあった。スズは女性とは思えない変顔をしていて俺はまた笑った
「いや真面目な話本当にこんな顔ですからね!?…まだ閉園まで時間あるし、音楽でも聞きながら楽しくやりましょ」
世界の終わりなんてすごい名前だけど、その曲を聞くと夏の空とスズのあの変顔を思い出して少し笑える。
昨日の真子先生の発言と今のスズの言動を推察するに、真子先生は俺がスズを好きなんだと勘違いしていたのではなかろうか。
ありえる。大いにあり得る。てか絶対そうだ。
「何難しい顔しておもちゃ拭いてるの?」
気づくと技師の松坂さんが俺を覗き込んでいた。
「そんな変な顔してました…?」
俺は今も昔も気づかないうちに色々な人に顔を見られているらしい。
「うん。こーーんな。しかもそのアヒルそんなに汚いの?ずっと拭いてるけど」
鬼の形相をする松坂さん…本当に俺そんな顔なの…?
「…ちょっと考え事してて」
「お、なになに~。悩み事ならいつでも聞くからね」
ありがとうございますーと言いながら、松坂さんならきっと5倍にして話を言いふらすんだろうなと想像する。
「はっはっ、少年よ悩め悩め~」
豪快に笑いながら消えていく松坂さん。お昼寝中なので声のトーンは抑え気味にしてくれている。松坂さんにとって俺はまだ少年なのか…もう30手前なのに。57歳からしたら少年…なのかなぁ…
何はともあれ、俺は割と不自由なくこの生活を楽しんでいる。
悩みがないと言ったら嘘になるけど、最近は身近な幸せをしみじみ感じられるようになった。
「俺もそれなりに歳を取ったってことか…」そして大人になったんだな。
テレビには最近人気のお笑い芸人が出ている。それを見ながらふぅと息を漏らす。
「あー、お兄ももう30だもんね~。やっぱランニングとかがいいんじゃないー、準備するの少ないし」
妹が急に話しかけてきた。「なに?なんの話?」
「え?年取ったから痩せづらいとかそういう話じゃないの?」
ペットボトルのレモンサイダーをくぴくぴ飲みながら妹はぷはーーと美味しそうに息を吐く。
「いや待って、別に俺体型に悩んでないから」
「…ふーん」
妹の視線が腹回りに突き刺さる。気になんか…してない…けどね!
時に家族は誰よりも本音をぶつけてくれる大切な存在であり、そして俺はその意見をありがたく頂戴し、つまりは筋トレに励んだ。
「ぐぅ、ご、50ぅ~」
腹筋を久しぶりにして息が上がる。はぁはぁと息を整え携帯で時間を確認しようとしてメール通知の光がまだ点滅していることに気づく。
すっかり忘れてた…
少し重い気持ちでメールを開く。
夢の中ではいくら非現実的なことが起ころうともすんなり受け入れてしまうものである。だから俺は近所をプカプカとアヒルボートで散歩していても全く違和感を感じずにいた。
そのアヒルボートは大きかった。8人くらいは裕に乗れそうなくらい大きくて、そんなに大きければ漕ぐ力も大変だろうに俺は難なく楽に漕いでいる。日頃の筋トレの成果ではない。夢だからだ。まず俺は筋トレを日課にしていない。残念ながら。
最初に会ったのは母親だった。
「ちょっとスーパーまで乗せてってよ」
母が立っているのは人1人立っていられるくらいの小島だった。
母を乗せ、またボートを漕ぎ始める。後ろから母が何か喋りかけてくるが俺は別のことを考えていた。
理由はわからないがこれからマズイことになる予感があった。
その次に会ったのはけいすけだった。
「おい、いつの間にこんなの買ったんだよ」
そう言いながら当たり前のようにボートに乗ってきた。それからまた次から次へとボートに人が乗り込んでくる
マズイ…マズイ…
もう誰が乗っているのかも把握できない。ただもう定員いっぱいなのは分かっていた。ペダルもさすがに重くなっている。
すると1番恐れていた事が起こる。
地面がぐらっと揺れてみんながボートに捕まってなんとか揺れをしのぐ。
揺れが収まってから安全な場所への移動を急ぐ。焦る気持ちに体が追いつかない。
そして気づいてしまった。
すぐそこの屋根の上にあまねがいる。
あまねはこちらを見ていた。
ずっとこちらを見ていた。
目が覚めると大抵の夢は忘れてしまっている。しかしこのなんとも言えないリアルな感情は残っている。
その感情の正体を知ろうとするも、時計を見て慌てて現実に戻される。
そしてその感情の行方を見失う。
朝食を済ませ、歯を磨き、服を着替え、エプロンやらが入った仕事用のトートバッグを持って準備OK。
おっと。充電器を抜いて携帯をポッケに仕舞おうとすると小さな液晶がチカチカ光っているのに気づいた。
久しぶりに見たその光の色の意味を思い出すのに少し時間がかかった事に俺は驚いた。メールの通知一件。これは由香利からの通知の色だ。
時間がないのでメールは確認せず、バタバタと家を出る。しばらく小走りで職場に向かい、信号で立ち止まった。
ぼーっとしていると信号は変わるのが速い。ただそう感じるだけだろうけど。
「今日の遅番って誰だっけ?」
スズが俺に聞いてくる。俺は消毒用のタオルでアヒルのおもちゃを拭きながら昨日の夢を思い出そうとしていた。
「えーっと多分真子先生じゃない?もう1人は分かんないけど」
昨日後片付けをしながら「明日も遅番なんだよねー」と言う真子先生を思い出す。
「あぁ真子先生か。あっ、そういえばすぐる先生、真子先生に何か言われなかった?」
一瞬ドキッとするが別に教える義務もないだろうと判断し、シラを切ることにした。
「え?何かって?」スズと恋愛トークをする気にはなれないんだよなぁ
「いや!何も言われてないならいいんだ!気にしないで、ごめんごめん」
そう言って足速に職員室に行ってしまった。
あ や し い
明らかに焦ってたし、人は2回言葉を繰り返す時は大体嘘か何かを隠している時だ(俺論)
絶対あの様子は何かおかしい…
スズとはこの園で知り合った。
3年前新人ホヤホヤで保育士として就任した俺はびっくりするほど仕事ができなかった。
今となっては全部初めてのことだったんだから仕方がない部分もあっただろうが、その時の俺はそんなことを考える余裕もなく、毎日上も下も右も左も分からないまま働く日々。頑張ろうとすればするほど空回りしていた。
正直に言うと最初の1ヶ月はほぼ毎日泣いていたくらい、しんどかった。
そんな時に途中採用で入ってきたのがスズだった。
スズはブランクがあるものの、1年は保育経験があり、それだけでも俺の目にはテキパキ仕事をこなすスーパーレディに見えた。
ある日の遅番。俺とスズは2人で何か製作の準備をしていた。確か春のイースターに向けてウサギの型紙を切っていたのだ。何個も何個も作っていくうちに俺は完全に参っていた。それでも「なんとしてもこの仕事を今日中に終わらせなければ」と謎の焦りに急かされながらハサミをショキショキ動かしていた。
「あの、、すぐる先生」
「はい?」
当時そこまで仲良くもなく、お互いの年齢さえよく分かっていなかった俺たちはまだ敬語を使っていた頃だったと思う。
「えーっと、すごく言いにくいんですけど…これ…」
スズは俺の作ったウサギを持っている。何を伝えたいのか初めは分からなかったがよく見てみるとウサギの可愛らしいお目目がピンと立った耳にくっついている…
自分が作り上げた化け物ウサギはざっと半数以上あり、その目がこちらをじっと見つめているもんだから色々な意味で身震いした。
嘘やん……
「すいません…すごい必死に作ってたから声かけるの気後れしちゃって…」
スズは俺と目を合わせず申し訳なさそうに化け物ウサギを見つめていた。
これ全部作り直し…?もう何も考えたくなくて俺は呆然としてしまった。
「…ふっ」
ふいにスズが下を向きながら口に手を当てて震えていた。
「や…やば……よく見ると…ウサ、ギふっ笑えてきて…ふっ」
言葉の端々に堪えた笑いが見え隠れしながらスズは言った。
確かに
それに加えて俺は何を躍起になってウサギの耳なんぞに目なんか付けていたんだろう。
自分のバカらしさに笑えてきた。
「確かに…ぷっ…ふふ、やばいですね」
スズはもう隠さずに大声で笑った。「これ子どもが見たら泣くやつだよね?」
「うわーそれ困るな」笑いながら俺も答えた。
「ちーちゃんとか、確実にギャン泣きだよ?」
「確かにそうですね笑、困るなーぁちーちゃん俺に1番懐いてるのに」
「いや、ちーちゃんは和美先生でしょ」
「えっ、でもこの前ちーちゃん、すぐる先生が1番好き!って言ってくれましたよ!」
「あぁ、それ私も言われたし松坂さんにも言ってたよ」
「…嘘だろ…ちーちゃん恐るべし」
2歳児に弄ばれる俺って一体。
もう何もかも面白くなって2人で笑い転げた。なんだか30年ぶりに笑った気分だった。そん時まだ26だったけど。
「はー、笑った。すぐる先生がこんなに面白い人だったなんて知らなかったです」
「おもしろいって…ただミスしただけですが」
「ミスしてる所が面白いんです」
「俺一応落ち込んでるんですけど」
「私、人の不幸を見て笑う女なので」
「マジすか」
スズ先生は最初から正直な人だった。表裏がなく、良くも悪くも正直な意見をいつも言っていた。
「あーもう、すぐる先生が笑わせるから仕事が進まないじゃないですかー」
「俺のせいですか」
「そうですよ」
ふっと息を漏らしてからスズは言った
「まぁ、面白いし良かった。すぐる先生もちゃんと笑えるんですね」
スマホを操作しながらちらっと俺を見た
「え、いや毎日満面の笑みですけど」
スズのスマホから音楽が流れてきた。
「や?すぐる先生毎日こーんな顔して働いてますよ?」
リズミカルなそのメロディに聞き覚えがあった。スズは女性とは思えない変顔をしていて俺はまた笑った
「いや真面目な話本当にこんな顔ですからね!?…まだ閉園まで時間あるし、音楽でも聞きながら楽しくやりましょ」
世界の終わりなんてすごい名前だけど、その曲を聞くと夏の空とスズのあの変顔を思い出して少し笑える。
昨日の真子先生の発言と今のスズの言動を推察するに、真子先生は俺がスズを好きなんだと勘違いしていたのではなかろうか。
ありえる。大いにあり得る。てか絶対そうだ。
「何難しい顔しておもちゃ拭いてるの?」
気づくと技師の松坂さんが俺を覗き込んでいた。
「そんな変な顔してました…?」
俺は今も昔も気づかないうちに色々な人に顔を見られているらしい。
「うん。こーーんな。しかもそのアヒルそんなに汚いの?ずっと拭いてるけど」
鬼の形相をする松坂さん…本当に俺そんな顔なの…?
「…ちょっと考え事してて」
「お、なになに~。悩み事ならいつでも聞くからね」
ありがとうございますーと言いながら、松坂さんならきっと5倍にして話を言いふらすんだろうなと想像する。
「はっはっ、少年よ悩め悩め~」
豪快に笑いながら消えていく松坂さん。お昼寝中なので声のトーンは抑え気味にしてくれている。松坂さんにとって俺はまだ少年なのか…もう30手前なのに。57歳からしたら少年…なのかなぁ…
何はともあれ、俺は割と不自由なくこの生活を楽しんでいる。
悩みがないと言ったら嘘になるけど、最近は身近な幸せをしみじみ感じられるようになった。
「俺もそれなりに歳を取ったってことか…」そして大人になったんだな。
テレビには最近人気のお笑い芸人が出ている。それを見ながらふぅと息を漏らす。
「あー、お兄ももう30だもんね~。やっぱランニングとかがいいんじゃないー、準備するの少ないし」
妹が急に話しかけてきた。「なに?なんの話?」
「え?年取ったから痩せづらいとかそういう話じゃないの?」
ペットボトルのレモンサイダーをくぴくぴ飲みながら妹はぷはーーと美味しそうに息を吐く。
「いや待って、別に俺体型に悩んでないから」
「…ふーん」
妹の視線が腹回りに突き刺さる。気になんか…してない…けどね!
時に家族は誰よりも本音をぶつけてくれる大切な存在であり、そして俺はその意見をありがたく頂戴し、つまりは筋トレに励んだ。
「ぐぅ、ご、50ぅ~」
腹筋を久しぶりにして息が上がる。はぁはぁと息を整え携帯で時間を確認しようとしてメール通知の光がまだ点滅していることに気づく。
すっかり忘れてた…
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