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泡沫(うたかた)
しおりを挟むカランコロン
「いらっしゃいませ」
お客さんが入ってくるとドアのベルが可愛らしく鳴る。平日の昼下がり、今日は人通りが少なく、カフェに入る人もそこまで多くはない。ただ1人、通り過ぎる人の流れを避けながら男性がそのドアを開ける。
カランコロン
「あ」
カフェの店員はつい声が出てしまった。店員は注文を受ける前にアップルハニーミルクティーの用意をする。男性はそわそわしながらもその様子を楽しそうに見ている。
「これ、ありがとう。すっごく面白かった!」
あまねはすぐるに小説を返す。可愛らしい表紙が日差しを受けて光る。
「もう読んだんだ、早いね」
「面白くてついつい読んじゃって」
「よかった。気に入ってもらえて」
「この作家さんって語り口調が面白いよね」
「うんうん、特徴的だよね」
あ、でも。とすぐるは続ける
「普通の、ね、語り口の本も、あるんだよ」
すぐるは少したどたどしい口調で話し始めた。
「へーそうなんですね!ぜひ読んでみたいな」
「最後、のページの最後の、行がね…」
どんどん顔が赤くなっていくすぐる。
「ど、どうしたんですか??」
すぐるは手をブンブン振って「や!なんでもないなんでもない!」
明らかに様子がおかしいすぐるを不思議そうに眺めるあまね。
「お客さま、ちょっとうるさいです。お静かに」店長が注意しにきてしまった。
すいません…とすぐるはどんどん小さくなる。
「あっ、大丈夫ですよすぐるさん、店長の鼻歌の方がずっとうるさ…ボリュームが大きいですから」
「あまねさん、今うるさいって言おうとしなかった?したよね?」
「細かいこと気にしてるとハゲマスヨ。店長。」
あまねの言葉に凍りつく店長マサアキ。
「なぁに?みんな楽しそうだねー!あっ、すぐるくんもやほー!」
制服姿の北上が近づいてくる。「ちょっと竜二、仕事中でしょ。ちゃんと仕事してよ」店長は鋭い目つきで北上を睨む。
「それは店長もじゃないすか。それに今日お客さん全然こないしー、もう休業中にしちゃえばいんじゃないすか?」
「じゃぁ今日の売り上げ足りない分は竜二の給料から引いとくからね」
2人の言い合いをくすくすと笑いながら見ているすぐるとあまね。
「あ、じゃぁ俺ケーキ頼んじゃおっかな…あまねちゃんも食べる?」
メニューを2人で寄せ合いながら仲良く見ている。
「オススメはチョコレートケーキですよ、お客様。」
「それは店長が食べたいだけでしょ」すかさず北上が口を挟む。
「もちろんだけど?え?すぐるくん、あまねさんに奢って店長の僕には奢ってくれないなんてこと…ある?」
「はぁ。店長、ふざけるのは眉毛だけにして下さいよ、すぐるくんも困ってるでしょ」
「俺の眉毛ふざけてる?!ちょーっとかっこいいからって…。竜二こそ店長への態度を改めなさいよ」
「店長こそ、すぐるくんはお客さんなんですよ。何でお客さんにたかってるんすか」
「…だってさ、すぐるくん。」
「なんで俺に?!」
「店長って子どもですよねー、僕はミルクレープにしよーっと!あとは適当に盛り合わせてくるねーっ」
竜二がカウンターの奥に消えていく。
「竜二さん、どれくらい作ってくる気なのかな…」
すぐるは少し青い顔をしながらつぶやいた。
「大丈夫だよ。全部店長の奢りだから」
「えっ!」
ウキウキで竜二さんが戻ってくる。
「お待たせー!竜二セレクト、スウィーツスペシャルです~初めて作ったけど」
「店長、ごちになります!」
「もう、食え食え!そして鶴になって恩返しに来てくれ!」
店長、何言ってるの?とキョトンとしているあまねの発言に「平成の子って怖いわ~」と店長は腕をさすっている。
その日は晴れているのに雨が降っていて、不思議な、ステキな天気だった。
カフェの中では笑い声がいつまでも響いていて、その幸せが永遠のようだった。
そこには温かな場所だけ。背景は何もない。
夏の始まりのことだった。
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