20 / 33
不穏な王都編
人の話を聞かない女騎士と動揺する聖女
しおりを挟む「あんたが聖女!?あんたのせいで…あんたのせいで!」
ドアを開け飛ばしたのは私基準で綺麗な女性だった。
燃えるような赤い髪の毛、それと同じ色の瞳からは怒りの色が滲み出ている。
騎士服を着ているその女性は大振りな歩でこちらへと向かってくる。
その姿は凛々しくて場違いにも私は少し、見惚れてしまった。
ちなみに私はまだ果物を咀嚼している。
「私はセリナ!あんたのせいで私の騎士生命は…もう終わりよ!」
私の前まできた女性…セリナは、頭を手で挟みながら振っている。
綺麗にまとめられたポニーテールが私の目の前でぶんぶんと激しく振られているのを眺めていると、壊れた扉の下敷きになっていたヴェルが這い出してきた。
「いてて…咄嗟に防御したけど扉重過ぎんだろ」
体についた埃などを払いながら私の方を見たヴェルは、未だぶんぶんと髪の毛を振っているセリナを見て固まった。
かなり重そうな扉の下敷きになった筈なのに傷一つないヴェルに私は感心しつつ、二人は知り合いなのかと眺めていた。
何が何だかわからないので、私はひたすら空気に徹することに。
「え、えええ…なんでいるんだよセリナ!…つーか扉ぶっ飛ばしたのお前かこのゴリラ女!」
「ゴリラじゃない!ちょっと身体強化がやめられないだけだ!」
「お前は剣を振る前に魔力制御を覚えろよ!」
どうやらセリナとヴェルは知り合いのようだ。
そして「あの華奢な身体でよくあの重そうな扉を壊したな」と思っていたが、どうやら魔法が原因だったようだ。
「それよりもお前!お前のせいだ!お前のせいで!」
「あぁん?何が俺のせいなんだよ!」
「お前のせいで私は騎士であり続けることができなくなったんだぁああ!」
どんどんヒートアップする二人を眺めてると、壊れた扉のからリュカとレイと使用人達が入ってきた。
壊れた扉を見てギョッとする皆。
『一体何が起こっているんだ』と言いたげな表情で私を見るリュカに対し私は『知らない』という様に首を振る。
「なんの騒ぎですか?これはどういった状況なんですか?」
不機嫌そうにレイが問うがヴェルは『いや、俺が聞きたいっす…』と疲れた顔をしながら答えたのだった。
それから壊れた扉は使用人達が片付けてくれた、扉は無いままなので見晴らしがいい。
ギャンギャンと押し問答を繰り返してる二人を見たリュカが『一先ず落ち着いてはなしたらどうかしら』と言う一声により、座って話をする事に。
気が利く専属メイドのミミちゃんは何も言わずとも全員分のお茶とお菓子を用意してくれた。
さすがミミちゃん、今日も可愛い。
「さて、順番に話してちょうだい」
なぜかリュカがこの場をまとめているのだが、誰もツッコミを入れずに話し合いは進んだ。
セリナも大分落ち着いたらしく、どうして怒っているのかなどを説明してくれた。
セリナの話をまとめると…至ってシンプルだった。
『自分の旦那様になる予定のヴェルが聖女と結婚したので騎士を続けることができなくなった』と、言うことだった。
…すみません、完全に私が原因です。
「いやいやいや!俺はお前と結婚するつもりはなかったから!」
「いや、結婚してもらう予定だった!」
「なかった!」
「あった!」
罪悪感に押しつぶされそうになっている私の目の前で二人は仲良さげに言い合いを続けている。
この二人の幸せを私が無理矢理奪ってしまったのかと考えれば考えるほど気持ちは沈んでゆく。
そんな私を見たリュカがため息を一つついた後に私を小突く。
「何沈んでんのよ、ヴェルがああ言ってんだから少しは信じてあげないと可哀想じゃない?」
リュカが私の耳元で言った言葉に私はハッとした。
確かにヴェルはずっとセリナの言葉を否定してるのに、私はそれを信じていなかったのだ。
こういった修羅場のような場面に遭遇した経験のなさがそうさせた様だ。
リュカの言葉で少し落ち着いた私はふと、何故それが騎士を続けることと関係があるのか気になった。
レイも同じだった様で、セリナに聞いてくれたんだけど…お家事情だった。
セリナは騎士家系の一人娘で、結婚し跡取りになる子供を最低一人産む事が騎士をつづける条件だったそうだ。
本来なら婿探しに時間を割かないといけない所を騎士業に当てる為、絶対結婚しないだろうヴェルを勝手に婿にすると決めていた様だ。
ヴェルは何度かセリナに『婿になれ』と言われていたのだが、結婚に必要性を感じていなかったヴェルは毎度断っていたそう。
そんな時私と出会い、恋に落ちて結婚する事に。
セリナの事は完全に頭に無かったようだ。
父親にそろそろ婚姻しろと言われたセリナがヴェルを探すも、ヴェルは私と疫病の旅へと出ていたので見つからず。
しかも聖女と婚姻を結んだと聞かされたセリナは私達が旅から帰ってくるのを待っていたそうだ。
そして今日、旅から帰って来た話を聞いて飛んできたらしい。
58
あなたにおすすめの小説
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜
具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです
転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!?
肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!?
その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。
そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。
前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、
「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。
「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」
己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、
結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──!
「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」
でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……!
アホの子が無自覚に世界を救う、
価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!
次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m
ブラック企業に勤めていた私、深夜帰宅途中にトラックにはねられ異世界転生、転生先がホワイト貴族すぎて困惑しております
さくら
恋愛
ブラック企業で心身をすり減らしていた私。
深夜残業の帰り道、トラックにはねられて目覚めた先は――まさかの異世界。
しかも転生先は「ホワイト貴族の領地」!?
毎日が定時退社、三食昼寝つき、村人たちは優しく、領主様はとんでもなくイケメンで……。
「働きすぎて倒れる世界」しか知らなかった私には、甘すぎる環境にただただ困惑するばかり。
けれど、領主レオンハルトはまっすぐに告げる。
「あなたを守りたい。隣に立ってほしい」
血筋も財産もない庶民の私が、彼に選ばれるなんてあり得ない――そう思っていたのに。
やがて王都の舞踏会、王や王妃との対面、数々の試練を経て、私たちは互いの覚悟を誓う。
社畜人生から一転、異世界で見つけたのは「愛されて生きる喜び」。
――これは、ブラックからホワイトへ、過労死寸前OLが掴む異世界恋愛譚。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
天使は女神を恋願う
紅子
恋愛
美醜が逆転した世界に召喚された私は、この不憫な傾国級の美青年を幸せにしてみせる!この世界でどれだけ醜いと言われていても、私にとっては麗しき天使様。手放してなるものか!
女神様の導きにより、心に深い傷を持つ男女が出会い、イチャイチャしながらお互いに心を暖めていく、という、どう頑張っても砂糖が量産されるお話し。
R15は、念のため。設定ゆるゆる、ご都合主義の自己満足な世界のため、合わない方は、読むのをお止めくださいm(__)m
20話完結済み
毎日00:00に更新予定
冷淡だった義兄に溺愛されて結婚するまでのお話
水瀬 立乃
恋愛
陽和(ひより)が16歳の時、シングルマザーの母親が玉の輿結婚をした。
相手の男性には陽和よりも6歳年上の兄・慶一(けいいち)と、3歳年下の妹・礼奈(れいな)がいた。
義理の兄妹との関係は良好だったが、事故で母親が他界すると2人に冷たく当たられるようになってしまう。
陽和は秘かに恋心を抱いていた慶一と関係を持つことになるが、彼は陽和に愛情がない様子で、彼女は叶わない初恋だと諦めていた。
しかしある日を境に素っ気なかった慶一の態度に変化が現れ始める。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる