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不穏な王都編
怒りっぽい産婆は涙を流し聖女を叱責する
しおりを挟む「あんた産婆の私がくる前に産んでんじゃないわよ!
まぁ、そのお陰であんたの場所がわかったんだけど…魔力の方は大丈夫なの!?
魔力回路を調べるから少し動かないでくれる!?
あ、何があったかちゃんと話しなさいよ!?」
驚く私を尻目にリュカは早口でいろいろなことを捲し立ててくる。
ひとまず魔力回路?を調べてもらうことに。
よくわからないけど、リュカが調べると言うなら黙っているのが得策だ。
私はこの世界の出産に関しては無知なのだから。
「うん…うん、ちょっと傷ついてるけど大丈夫ね…安産だったから良かったけど、魔力が多い人が出産すると稀に魔力回路がボロボロになって魔法が使えなくなるのよ。
ほんとよかったわ…あ、これは『再生』の力でも回復しないからね。少しの間はできるだけ魔力使わない様に気をつけてちょうだい」
「ん?うん。わかった」
「それと、あんたの子…うん。あんたに似て可愛いわね、ちょっと色々と確認したいから抱かせてもらってもいいかしら?
うん、うん。すごいわね、うん。…いいわ、何も問題ないわ。かなり魔力が多いから膜も安定してるし、何も心配ないわよ」
「あ、ありがとう?」
矢継ぎ早にいろんなことを言われすぎて喜べばいいのか安心したらいいのか泣きつけばいいさっぱりわからなくなった私は、曖昧な返事を返す。
それにしてもリュカから見ると私とこの子は似てるのか、なんだか少し嬉しい。
なんとも言えない感情のままに子を見つめながらにやつく私。
私がふとリュカの方を見ると、珍しいことに眉を下げとても優しく微笑んでいた。
そもそもとても素敵なご尊顔のリュカが儚く微笑んで私を見てるのだ、私が動揺するのは至極真っ当な事である。
いつもは眉が少し上がった勝ち気な笑顔なのだが、急にそんな表情をするので私は少しだけドキドキしてしまった。
聞きたいことも言いたい事も沢山ある筈なのに、リュカのペースに飲まれてばかりだ。
「色々聞きたいことはあるけど…二人の最低限の確認は終わったし、早くここから移動しましょう」
「あ…それなんだけど」
私は先ほどの出来事をリュカへと報告した。
すると私の話を聞いたリュカは、眉間に皺を寄せつつ指を口元に当てたまま考え込んでしまった。
「私がここにくるまでには誰にも会わなかったわ。
会わなかったと言っても、この森の性質上会っていてもお互い気付かなかった場合もあるから…でも、そうね。
魔力が高い優里はこの森の中でも全部見えるし、誰からも認識されるんだものね…どうしようかしらね」
リュカの呟く独り言を私は黙って聞く。
リュカは考えこめば考え込むほど口から考えてることが出てくるのだ。
そんな時は何かを話しかけても返事は来ないと知ってるので、私は黙ってその独り言を聞きながら待つ。
「じゃぁ、そうね…いや、でも今優里に無理させるのは得策じゃないわ…そうしたら、そうね…連絡かしら?いや、無理ね。
…多分ヴェルだものね、レイだったらよかったのだけれど…うん。そっちにしましょうか、よし。」
何やら方向性が決まった様なので、私はリュカの言葉を大人しく待つ。
それからリュカは私にこれからの行動方針を教えてくれた。
私はただ、リュカの後ろを子を抱いたままついて行くという簡単なことだった。
他にも帰る方法はあるらしいのだが、それは何かしら不都合が起こる可能性があるらしいのだ。
私はリュカを全面的に信頼してるので、何も文句も言わずついてゆく。
「ほんとにあんたが無事でよかったわ。もうこっちは色々と大変だったのよ?
ヴェルはいなくなるし、知らないうちにティルは軟禁されてるし、レイはあんたを探しに行きたいって大騒ぎしたり…もう、あんたがいないだけで本当にに大変だったわ」
「え?ヴェルいないの?」
「そうなのよ、あんたが拐われる前日の昼ごろに目撃したのが最後だったらしいの」
私はリュカの言葉を聞いて、セリナさんがさっき言っていた言葉を思い出した。
『ヴェルがいる』『ここにいないがそばにいる』『手遅れになる前に見つけないといけない』
そんなことを言っていたが、もしかしたらヴェルは今大変なことになってるのかもしれない。
私は『ヴェルがいる』と言うのは私を探しに来ているのだとばかり思っていた。
ヴェルが前日から居なかった…?そんな事私は知らない。
私はリュカと城に向かってるけど…セリナさんが言う様にもし今すぐ見つけないと手遅れになるのなら、私はヴェルを見つけることを最優先にしたい。
そう思った私はリュカに『ヴェルを探したい』と言うのだった。
私の言葉を聞いたリュカは目を吊り上げて怒った。
「あんたね!ヴェルは今他の人達も探してんのよ!あんたは今監禁された上に出産もして心身ともにボロボロなわけ!子供もいんのよ!?そんなあんたがヴェルを探しに行きたいですって!?馬鹿も休み休み言いなさいよ!
…あん…あんたが…いなくなってわた、私が…どれだけ心配したと…」
リュカは初めは怒涛の勢いで私に怒っていたけど、後半はなんと泣き始めてしまったのだ。
あのリュカが泣いている、私はひどく動揺してリュカを片手で抱きしめた。
私がリュカの背中をポンポンと優しく叩く。
リュカの綺麗な瞳から涙が真珠の様にポロポロと流れ出る。
泣くほど心配されていたとは思ってもいなかったし、ここまで怒られるとは思ってなかった。
でも、私はヴェルが大切で大好きなのだ。
「リュカ、ごめんね?そこまで思ってくれてたんだね、無神経でごめんね?
…でも、ヴェルは私の大切な夫なの。何か危ないことになってるかもしれないなら妻である私が助けたいの。
本当に…ごめんね?ありがとうね?」
私は申し訳ない気持ちも勿論あるが、…助けたい気持ちも譲れなかった。
そう言う私にリュカは半ば諦めた様な表情をしながらため息を吐く。
「なら、あんたは先に自分の体力と魔力を回復することね」
そう言ったリュカはどこからか小さな錠剤の様なものを三つ取り出し私に飲めと渡してきた。
私は何も疑うことなくそれを口に入れる。
その時のリュカの表情が何故か憐れんでいる様に見えた気がした。
「ふぐっ…」
それを口に入れた瞬間、口の中に今まで感じたことの無い味を感じた。
もう、なんて表現していいのかもわからない。酷い味だ。
リュカは『あんたがこのまま城へと行くのならこれは飲ませなかったのよ』と遠い目をしながらそう言っていたが、私はそれどころじゃない。
飲み物もなければ食べ物もないこの状況でこの味は…はっきり言って地獄である。
けれど、気がつけばだるかった体は元気になりお腹も空いていない。
口の中に広がる最悪な味を除けば元気100%と言っていい。
『これは、味が改善できれば最高なのよね』と、リュカは遠い目をしたまま呟いていたのだった。
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