強くてニューサーガ

阿部正行

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第五章

閑話

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五章と六章の間の話です
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 カイル達が魔族領を去り七日、ルイーザは本拠である魔族領中央の魔王城には戻らずまだ小島にいた。

「話にならんな」
 いつものように玉座に気怠そうに座りながら報告を聞いていたルイーザが、形の良い眉をしかめながら不愉快そうに言う。

「申し訳ございません」
 ルイーザの正面で片膝をつき報告をしていたユーリガは本当に申し訳なさそうだった。
 ユーリガが報告していたのはターグとその主である黒翼の魔族についてで、明確にルイーザに反逆の意を表した魔族だ、処罰しなければならないのだが今のところ何も解っていないのが実情だ。
 
「あの者達のことを知っている者すら見つけられんとはな……まあ仕方あるまい、お前が悪い訳ではないしよくやっているほうだ」
 魔族は人族に比べ数は遥かに少ないが、その分広大な魔族領に散らばっており、細部まで命令が届きにくいのだ。
 そんな事情もあり情報収集は上手くいかないことが多く、一応の労い言葉を主人からもらうユーリガだが俯いてしまう。
 ルイーザの期待に応えられないのが何よりもつらいのだ。

「魔王の座を狙っていると言うのであれば、いずれ余の命を狙って来る。その時に対応すればよいか……そ奴らは放置していてもとりあえずは問題あるまい」
 ルイーザにとって命を狙われるのは日常茶飯事とまでは言わないまでも、よくある事でそれほど危険視はしていなかった。

「は……念のため捜査のほうは続けます」
 ユーリガもルイーザと同じで気持ちであったが、カイルに決して油断するなと散々念を押されていた為に注意を怠るつもりは無かった。

「それよりももう一つの、ジュバースの件はどうなっておる?」
 こっちの方が重要だと言わんばかりにルイーザが言う。

「はい。ジュバースが住んでいたと言われる氷山に立ち入りましたが、もぬけの空だったそうです。ただ確かにそこにいたという痕跡はありました。少なくとも数年前までそこにいたのは確実との事です」
 魔族領に居るはずの世界に二頭しかいない古竜のジュバース。
 イルメラ達ドラゴンから行方を探すよう頼まれており、決して疎かにはできないことだった。

「ですが、それ以外に今のところ目撃情報などはなく、行方は解らないとの事です。こちらも継続して調べていきます」
「そうか……ゼウルスとの義理もある、そっちのほうは手を抜くでないぞ」
「かりこまりました」
 ルイーザが念を押すとユーリガは心得ていますとばかりに大きく頷いた。

「結局何も解ってないのね……でもジュバース程のドラゴンが何らかの活動をしているのならば、全く目撃情報が無いというのは普通なら考えられません、意図的に隠されてなければ」
 ここで口を挟んできたのは、本来ならここ居るはずのない者で、今まであえて無視していたのだが、ユーリガが不機嫌そうに睨む。

「何故まだここにいる、炎眼。もう用は無い筈だ」
「あら、魔族の一員である私が、魔王様のお側でお仕えするのは当然じゃないの」
 ルイーザの傍らに、まるで昔からの側近であるかのように佇む炎眼は何を言っているの? と小馬鹿にしたかのような物言いをする。

「ぬけぬけと……今まで散々ルイーザ様に逆らっていたお前が何を言うか!」
 ユーリガが怒りの声を上げるが、炎眼のほうは平然としたままだ。

「確かに残念ながら少々意見の相違はあったわね。でもこれからは心を入れ替えて誠心誠意お仕えするつもりよ。何か問題あるの?」
 わざと嫌味そうな笑顔と共に炎眼は言った。

 炎眼がこうまで態度を変えたのは無論理由がある。
 好戦派としてルイーザの方針に逆らっていたのは主義主張があった訳ではなく、その方が自分の権力に繋がるからだ。
 だがそれも人族との戦争を望む三腕や雷息に便乗した形で、二人がいなくなった今、自身の身の安全のためにはルイーザにつくのが最善と判断したのだ。

「安心しろ、ユーリガ。少なくとも今は余に逆らうことは無い」
 そのことをよく解っているルイーザが苦笑した。

「ですが……」
 それでもユーリガは反発する。
 確かに今は従うだろうが、それは立場が変われば逆らい裏切ると言う事で、決して心許せる相手ではない。

「ふふ、あなたの気持ちは解るけど、私は役に立つわよ? 例えばジュバースの行方とかにはねえ……」
 炎眼はその実力も当然あるが、立ち回りで今の地位を築いたとも言え、力が全てという者が多い魔族の中では珍しく策を弄するタイプだ。
 必然的に情報収集にも長けており、今のルイーザには必要と言える。

「お前の得手であったな。期待しているぞ」
「はい、必ずやご期待に添えましょう」
 炎眼はルイーザに優雅に頭を下げたあと、勝ち誇ったかのような笑みをユーリガに向ける。
 ユーリガは炎眼に歯ぎしりをしつつも、それが最終的にはルイーザの為になると解ったため、これ以上の発言は控えた。

「さて……報告はそれだけではあるまい?」
 ここでルイーザが今までのだらしない恰好ではなく座りなおした後少し身を乗り出し、早く話せと急かすかのような口ぶりになる。

「は、はい……あの人族達は人族領に無事戻ったとの事です」
 ユーリガがそう言うとルイーザはどこかほっとしたような寂しそうな、複雑そうな表情で「そうか」とだけ呟いた。
 ルイーザがこの小島に滞在していた理由の一つがこれで、人族領に近いこの場所は、情報を手に入れるのに都合が良いからだ。

「それから……妙な情報もあります。どうも人族では近々大きな戦争が起きるかもしれないとのことです」
「大規模な戦争? 同じ人族同士でよくやるわね」
 炎眼が見下したように言う。
 魔族にとって小競り合い規模の戦いは日常茶飯事だが、大規模な戦いは魔族同士で起こることは例外を除いて無い。
 魔族の戦争とは人族とのみおこなわれることで、同族同士では考えられないのだ。

「何でも人族においての重要人物が殺され、それによる混乱が原因だとか……」
 ユーリガもたった一人の死で揺らぐ人族の社会に少し呆れ気味に言う。
 だが報告を聞いたルイーザは先ほどまでとは顔つきが変わる。

「重要人物とは何者だ?」
「ガルガン帝国の皇子だそうです」
「誰に、何故、どのように殺されたのだ?」
「も、申し訳ございません。そこまでは……」
 立て続けに質問をしてくるルイーザに、恐縮した様子でユーリガは答える。
 これまでの人族に関する報告では、ルイーザはほとんどを聞き流すくらいで聞いていたのだが、今のルイーザは長年側に仕えているユーリガでもあまり見ない、真剣な顔だった。

「……人族の協力者に詳しい情報をよこすように言え」
「はっ! すぐさま手配いたします」
 ユーリガが即答する。

「もしかしたらその件、魔族にも影響があるかもしれんな」
 ルイーザが玉座から立ち上がり、窓際へと歩みながらそう独り言のように呟く。

「何故そうお思いになられたのです?」
「……解らん。これは余の勘でもあるが……何かが起ころうとしている気がしてな」
 炎眼の問いかけに、自分でも説明できないものを予感したのか、少しだけ深刻そうな表情で窓から曇天を見上げるルイーザ。

「もし我らに害が及ぶとしたら……備える必要がある。一度、魔族全体の引き締めを行わなければならないかもしれんな」
 ルイーザのその声に炎眼は、背筋にぞくりと底冷えがするかのような感覚を覚える。

 元々魔族は個人主義のものが多く、魔王の命令とはいえ無条件に絶対服従という訳ではない。
 そもそも今代の魔王であるルイーザ自身が魔族の支配にそれ程興味を示しておらず、規律が緩い為に好き勝手にする者が多く、炎眼たちのような好戦派が幅を利かせていたのだ。
 だがそれに対して引き締めを行うと言っているのだ。

「そ、それがよろしいかと思います! ルイーザ様!」
 急ぎユーリガが賛成する。
 ルイーザ当人はまったく気にしていなかったが、舐められているも同義で、ユーリガにとっては自身が侮辱されるよりも耐え難い屈辱だったのだ。

「……私も依存ありません」
 炎眼も、平伏し同意する。このタイミングで付き従うことにした自分の幸運を噛み締めながら。



 明確な目的も無く自堕落でどこか厭世的でもあったルイーザが少しやる気のようなものをだしている。

(これもあの人族達の影響か……)
 眼に精気も宿り、顔つきもどこか違う主人を見て、少なくとも悪い変化ではいと、ユーリガにとって嬉しい限りだった。

 だがこれは同時に人族への更なる傾倒を意味し、それがもたらす結果については予想がつかない。

「そうなると、またセ……あの人族達に会う必要が出てくるかも知れんな。必然であって、仕方の無いことでもある……」

 敬愛する主の自分を納得させるかのような呟きも聞こえてきてしまい、これからもより一層励み、ルイーザを全力で支えていこうと誓うユーリガであった。


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五章と六章の間の話です

六章は戦闘が多めの話になる予定で、現在執筆中です。
もうしばらくお待ちください。


※活動報告でもお知らせいたしましたが今月に強くてニューサーガ五巻が発売になります。
 今回は番外編の【巨人殺し】の書下ろしも書いておりますので、よろしければ手に取って見てください。
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