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season 1
01
しおりを挟む私の旦那さんは、私のことが好きすぎる。
私と旦那さん(名前は京輔さん)は、店長とバイトという関係だった。
今考えたら、ある意味禁断よね。
京輔さんは私の5歳年上で、当時私は17歳。京輔さんは22歳だった。
22歳で店長とかすごい!って思ってたけど、そのお店は家族経営で回してる小さな居酒屋さんで、お義父さんが小さい会社を経営してて、その会社が経営してる居酒屋だったから、必然的に京輔さんが店長になっただけだった。
最初は、優しそうな人だなぁとだけ思ってた。
髪の毛は短髪ででも爽やかさもあって、見た目は年齢にそぐわない大人な雰囲気で。
憧れに近い存在だった。
私の他にもバイトの人が2人いた。
1人はお義父さんの会社で働いてる方の娘さんで、年は二十歳。
もう1人は厨房を任されてるフリーターで、25歳の男性。
あと、厨房長で京輔さんの叔父さんと、その奥さんがいるだけの本当にこじんまりとした居酒屋。
その中に私がいた。
私は、たまたまお店の外にバイト募集のチラシを見つけて、働いてみたいと思って声かけたのがきっかけ。
最初は店長である京輔さんに、高校生は雇えないって言われたんだけど、たまたま面接の日にお義父さんがいて、お義父さんが鶴の一声のごとく、「いいじゃないか!若い子いた方がやる気出るだろ!」と言って、採用になった。
「りえちゃん!!」
「え?はい?なに?え?」
いつものようにバイトしてたら、突然まどかさんに呼び止められた。
あ、まどかさんは、二十歳のバイトさん。
すっごく可愛らしくて、庇護欲をそそられるような人。
「助けて!」
「え?」
そんなまどかさんからのヘルプ要請。
なんだなんだ?と思いながら近づいたら、酔っ払ってるお客さんに絡まれてた。
あー、またかぁ…てなる。
まどかさんは、めちゃくちゃ可愛らしい人だから、よく酔っ払いのお客さんに絡まれてる。
「あの、お客様?」
「んだよ!」
「他のお客様にも迷惑になりますので、従業員に対する迷惑行為並びに、大声を出すのはお控えください」
「うるせぇなぁ!俺は客だぞ?!ガキが偉そうに言うな!」
今回のお客さんやばいな…。
悪酔いしてるし話聞きもしないし。はぁ…。
「そう言う態度をお取りになるなら、出禁にさせていただきますが?」
「うるせってんだよ!ガキが!」
その言葉と同時に、テーブルに置いてあったお酒が私目掛けて飛んできた。
あ、やばい、かけられる。と思ったら遅かった。
頭からお酒被って。最悪。お酒臭い。無理。泣きそう。
自分で言うのもなんだけど、私は多分他の同い年の子と違ってめちゃくちゃ冷めてる。
よく、高校生には見えないって言われるくらいには冷めてる。
だからなのか、私が声かけられることは殆どないし、絡まれることも殆どない。
でもだからと言って、大人の人に怒鳴られたりすれば怖いし、お酒だって飲んだことないから苦手だ。
それを全部一気にやられたら泣きたくもなる。
「っ…」
泣くな泣くな、と思いながらこの後どうしようって考えて、でもなんにも思い浮かばなくて呆然としてたら、後ろから肩を掴まれた。
「っ、!」
「大丈夫?」
「ぁっ…は、い」
「悦子さん!梨恵ちゃんお願い」
そう言って私の前に出てきたのは店長だった。
私を悦子さんに任せて、酔っ払いのお客さんの対応をしてくれた。
いつの間にか、まどかさんはいなくなってた。
「梨恵ちゃん!ああ、風邪引いちゃう!」
「………」
バックヤードに連れて行かれて、悦子さんにお世話してもらいながら濡れた身体を拭いて、厨房長の正行さんが温かい飲み物を用意してくれた。
「大丈夫?お酒臭いよね?」
「はい…」
悦子さんは正行さんの奥さん。
とても面倒見のいいお母さん的な人で、みんなから慕われてる人。
悦子さんに肩を摩られながら、正行さんが用意してくれた紅茶を飲んで落ち着かせる。
この匂いって、取れるのかな…どうなんだろ。
しかしあれだな…お酒ぶっかけられたのなんか初めてだ。
怖かったけど、それよりもそんな人いるんだ…って方が強い。
いくら酔っ払ってるからと言って、人にお酒かけるのはないよ、ほんと。
ああ…今更また怖くなってきた…。
やばい、手の震え止まんない。涙出てきた。
「梨恵ちゃん…」
「ご、ごめんなさい…なんか…っ」
「大丈夫。大丈夫だからね?」
ダメだ。止まらない。
すっごく怖かった。
というか、なんでまどかさんは毎回私に助けを求めるんだろう?
店長がいるんだから店長でもいいはずなのに。
いやでも、その助けに対して私も行かなきゃいいのに、行く私も私だな。
ああ…自己嫌悪。馬鹿すぎる、私。
「梨恵ちゃん大丈夫?!」
「っぁ、」
悦子さんにぎゅーぎゅー抱きしめられたまま、いまだに怖くて泣いてたら店長がきた。
その横にはどこかに行ってたまどかさんがいる。
「りえちゃん大丈夫?怖かったよね?」
「……ぇ?」
「私も助けに行けたら良かったんだけど…ごめんね?」
「っ……、」
その時気付いた。
あー、わざとかぁって。
こう言うのって、新人いびりって言うの?それともただの嫌がらせ?
きっと、今までは自分が一番下で、それも自分が可愛いのをわかってて可愛がられてたけど、自分よりも若くて新人が来たことが許せないんだろうなって。
「っ…だいじょうぶ、です」
そう言うしかなかった。と言うか、それしか言えなかった。
ここの人たちはみんな本当に優しくて、正行さんも悦子さんも、本当の娘のように接してくれて、厨房の修司さんも優しくて、店長も優しくて。
まどかさんだって色々教えてくれてたから、優しい人だと思ってて。
あー…ちょっと…いや、かなりつらい。
「今日はもう送るから、帰ろう?」
「え?」
自己嫌悪真っ最中の私に、店長が優しくそう言ってくれた。
いや、待って。店長が送ってくれるの?え?
「え?!京輔さんが送るの?!」
「え?当たり前じゃん」
「そっ、!」
…当たり前なの?そうなの?
いや、確かに店長だけど…でもそこは…あれ?
自己嫌悪と同時にパニックになった。
だって、帰るのは仕方ないけど、送ってくれるなんて思ってなかったから。
その後は早かった。
店長に「着替えて待ってて!」と言われて、悦子さんに支えられながら更衣室に行って着替えて、バックヤードで座らさせられてた。
数分してから、着替えた店長がきて、お店のことを正行さんに任せて送ってくれた。
「大丈夫?寒くない?」
「は、はい…大丈夫、です」
まさかの車で送迎…!!
わ…やばい。店長の匂いする…なんか、安心する…。
はっ、いかんいかん。何考えてるの私…!
と言うか、男の人の車とか初めてだし、なんだったら男の人と2人きりも初めてだし…え、やばい。
「梨恵ちゃん」
「っ!は、はい?」
「働くの…嫌になった?」
「え?」
ぼーっと色々考えてたら声をかけられて横向いたら、こっちをじっと見てる店長と目があった。
ちょうど信号は赤だった。
「嫌に、なったよね?」
「え?」
「うち、居酒屋だし、ああいうことたまにあるし…」
「あ…その、」
「ほんとはね、辞めてほしくないんだけど…無理強いはしないから」
「あ、あの!」
「うん?」
「こ、怖かったですけど…嫌には、なってません」
「ほんと?」
「はい…みなさん、優しい方たちですし、その…酔っ払いのお客様は何しでかすかわからないの、わかってますし…」
「そっか、よかった」
「っはい…」
その時初めて、店長にきゅんってした。
だって、笑顔が…素敵すぎて。
安心したような優しい笑顔で、私よりも大人で優しくて。
この時はまだ、憧れだと思ってた。
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