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season 1
02
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お酒ぶっかけられた事件から半年、お店にも慣れてきて、あの時に学んだ酔っ払いのお客さんは店長に任せよう!は、今でも健在。
そう言えば、最近まどかさん見ないなぁと思ってたら、辞めてた。
店長に告白して思いっきりフラれて辞めたとか。
新しいバイトさん雇うのかって聞いたら当分は雇わないらしい。
悦子さんいるし、私も慣れてきたから大丈夫だろうって。
まぁ、座席も少ない居酒屋だから、今のところは混んでも大丈夫なんだけど。
それに、私が来る前はこの人数で回してたし。
前に戻っただけだよって言ってた。
まどかさんがいなくなったのともう一つ変わったことがある。
それは、店長が毎回家まで送ってくれるようになった。
ここの居酒屋は、21時には閉まる。
居酒屋と言えるのか?と思うけど、住宅街にあるお店だから、遅くまで騒がしいのはダメだと店長が決めたらしい。
その代わり、朝からお店開いてるんだけどね。
朝はモーニング出してて、お昼はランチをやってる。
夜は15時から開いて、21時に終わる。
とても健全な居酒屋だ。
「梨恵ちゃん、帰るよー」
「あ、はい!皆さん、お疲れ様でした!」
「はい。お疲れ様」
みんなに挨拶して、店長の後ろを歩く。
駐車場まではそこまで遠くなくて、ゆっくり歩いてるけど、多分店長は私の歩く速さに合わせてくれてる。
「今日は暑いくらいだねー」
「そうですね」
季節は夏に近づいてる。
ずっと雨ばっかだったけど、今日は晴れてる。
梅雨特有のじめってる感じはするけど、過ごしやすい。
「…梨恵ちゃんはさ」
「はい?」
「彼氏とか、作らないの?」
「え?」
彼氏…彼氏?彼氏かぁ…考えたことなかったな。
可愛らしさのかけらもない私がモテるわけもなく。
学校では仲良くしてる子はいるけど、深い関係なわけじゃないし、男子はなんか、店長とか見てるからか、子供に見えて論外だ。
そう考えると私って孤独なのか?
いや、うん。恋愛が全てではないし、結婚は…したいとは思うけど、現実味ないし。
「恋とか…よくわかんないんです」
「え?」
「好きな人、出来たことないので」
「そう、なんだ」
「はい。店長は?」
「えっ?」
「彼女とか、いないんですか?」
「…彼女は、いないけど」
「…はっ!奥さんがいるとか?!」
「ええ?!なんでそうなるの?!」
「いや、彼女はいないと言ったので…」
「ああ…うん。彼女も奥さんもいないよ」
「そうなんですか」
「うん…ただ、好きな人はいる」
「…ええ?!そうなんですか!?」
「う、うん…」
えー!びっくり!店長好きな人いるってよ!
って、なんか…あれ?ちょっと心臓の辺りがチクッでした。なんでだ?
「どんな方なんですか?」
「んー…芯があって、かっこよくてでも可愛くて、クールなんだけど笑った時の笑顔がすっごく可愛くて、ずっと守ってあげたいって思うし、ずっと一緒にいたいって思ってる」
「…羨ましいです。そんなに思われるのって」
「そう?」
「はい」
私は愛されて産まれた子供ではなかった。
私には3つ上の姉がいて、姉はすごく頭が良くて器用になんでもこなせる人で。
父も母もそんな姉につきっきりだった。
私は、本当は産むつもりはなかったと言われたことがある。
でも出来ちゃったから産んだんだって。
世間体があるから育ててるけど、本当はめんどくさいって言われた。
すごい親だよね。実の娘にそんなこと言うんだから。
だから私は、こんな性格になったのかなとも思うけど、小学生の時に2人からの愛情は諦めた。
勿論、姉からの愛情も。
だから、愛情がなんかのかよくわからない。
「…もしさ、」
「あ、はい?」
「もし…俺が梨恵ちゃんのこと好きって言ったら、梨恵ちゃんはどうする?」
「…………え?」
「うん。そうなるよね」
「…………へ?」
「ふふ。可愛いなぁ、梨恵ちゃん」
「な、え…え?」
待って。今私、何を言われた?
好き?誰が?店長が?誰を?私を?
「…俺ね、梨恵ちゃんのこと好きだよ」
「店長…?」
「5歳も年上で、高校生に言うことじゃないのはわかってるんだけど」
「………」
「でもやっぱ、好きなんだ」
「あ、の…」
「…諦めるつもりはないからね」
「っ……、」
「だから、今は返事しないで?」
「そ、れは…」
「…絶対に、俺に惚れさせてみせるから」
「っ!」
道のど真ん中で、店長に手を握られたまま目を合わせて、真剣な眼差しでそう言われたら、意識しない方がおかしいと思う。
いくら恋愛のことがわからないと言っても、そこまで子供じゃない。
真剣で、真っ直ぐで、本当に好きだって目をしてて。
ああ…私多分、このまま店長に落ちるかもしれない。
そう思いながら家路に着いた。
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