アネモネ

ぱる@あいけん風ねこ

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10 - 二学年 二学期 秋 -

04

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◇◆◇




「………」
「………」
「………」




…ねぇ、なんでだんまり。
いや、うん…何から話して良いか分かんないのは分かる。
俺も正直言って、頭の中整理出来てないし。

そもそも、大倉はいつ帰って来てたんだ?
それに、真琴も大倉が帰って来てたの知ってたって事だろ?
しかも、今日学校に来る事も知ってた、と。
やっぱ俺だけ除け者じゃん。




「…あの、航ちゃん」
「…なに」
「えーっと、ね?」
「………」
「…黙っててごめんなさい」
「………」
「別に航ちゃんを騙そうとか、除け者にしようとか思ってたわけじゃないからね?」
「…へぇ」
「ぅっ…、」




そんな事言われてもさ、「そうですか」では終われないよ。終われるわけない。
結局は、俺に黙ってたんだし。それで俺、除け者みたいにされたわけだし。




「…はぁ」
「…航ちゃん」
「なんかもう…すげー疲れた…」
「……ごめん」
「はぁ…」




なんかほんと、怒ってるのとかすげー疲れた。
怒るのだってエネルギーいるんだよなぁ、ほんと。
それと、なんでここまで怒ってるんだろって言う、なんかよく分かんない自己嫌悪がすごい。

素直に、大倉に会えてよかったとか、真琴も何か考えてたんだろうなとか思うんだけど、思うだけでその考えに納得出来てない自分が居る。




「…大倉」
「ん…?」
「………おかえり」
「…うん、ただいま」




これだけでよかったんだよな…本当は。
多分、ただの嫉妬。俺には何も言わないで、真琴には言ってて、真琴は大倉が帰って来てる事も知ってて。
ほんと、ダサいなぁ、俺。



その後、また真琴に謝られて、取り敢えず許した。
でも、取り敢えず、な!まだ完全に許したわけじゃないからな!!と言ったら、泣きそうな顔して「ありがとう」って言われた。




「じゃあ、俺帰るね」
「おう。また学校でな」
「うん。航ちゃん、ありがとね」
「別に?」
「ふふ。大倉くんも、また」
「うん」




仲直りと言っていいのか分かんないけど、取り敢えずは仲直りって事で。
そして、大倉はなぜ帰らない?





「…部屋行く?」
「行く」




即答か…即答なのか。
因みに、今までリビングで話してた。母さんは買い物行ってるらしく、まだ帰って来ない。
きっと近所のお友達さんと井戸端会議でもしてるんじゃないかな。




「…こう、」
「ぅをっ、」
「っ…航」
「…大倉」




ただ、俺の名前を呼びながら苦しいくらいに抱き締めてくる大倉に、俺は何も言えなくなった。

聞きたいことは山ほどある。
でも、今は取り敢えず、俺に縋り付くように抱き締めてくる大倉を、俺も苦しいくらいに抱き締めてやるしか出来なかった。



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