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第三章
40話 優勝
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その後も勝ち進み、ランカー戦最後の相手、無敗の王者・レッサードラゴンとの決戦となる。
双方入場し、リングの上へと上がる。
「とうとうここまで来てしまいました。まさか最後まで上り詰めるとは、誰が予想できたか。いや、皆、心どこかでやってくれると思っていたでしょう。このまま、無敗の王者を打ち破ってしまうのか!? ……おや? ちょっと失礼」
決戦前にMCが話していると、一人の職員が駆け寄ってきて、彼に耳打ちをした。
すぐに職員は中へと引っ込み、MCが口を開く。
「決戦直前ですが、ここで召喚獣ではないかと疑いが出てきました。一時、ランカー戦を中断して、検査を行います」
会場がどよめく中、職員の人がぞろぞろと出て来て、玖音を取り囲む。
「こんな嫌がらせするの?」
「少し調べさせてもらうだけです。問題がなければ、すぐに再開いたしますので」
職員の人達は、玖音の手足を触ったり、探知魔法で怪しいところがないかチェックを始める。
凛も玖音も冷静を装うが、内心ハラハラしていた。
召喚獣とは、アーティファクトとほぼ同等の価値がある召喚器と呼ばれるアイテムを使って、呼び出すことのできる特殊なモンスターである。
非常に強力で、召喚者の意のままに操ることが出来る為、モンスターバトルでの使用は禁止されていた。
玖音は召喚獣ではないが、モンスターでもなかったので、検査に引っかかる恐れがあった。
検査を受けていると、職員の一人が、玖音の股座を掻き分けて、中を見ようとした。
直後、玖音は驚きと羞恥の表情をして飛び退く。
突然動いた為、職員達の間で緊張感が走る。
「ちょっと。この子、女の子なんだから、セクハラ紛いなことはしないでよ」
「しかし、これは検査ですので」
「無理にやると、暴れると思うわよ。そんなとこ、必ずしも見ないといけない必要ないでしょ?」
身の危険があるとのことで、職員達はデリケート部分を除いて、検査を続けた。
程なくして検査が終わる。
「特に変わった点はありませんでした。補助魔法がかかっている痕跡もありません」
職員の報告を聞き、凛と玖音は安堵する。
だが、続けて職員が言う。
「最後に、この餌を食べさせて見せてください。召喚獣でないなら、食事はできますので」
召喚獣は生物ではないので、食事は摂取しない。
それが最後の確認であった。
「……いいけど、その毒入りのは食べさせないわ」
凛がそう言うと、職員の人達はぎょっとする。
その反応を見て、凛はやはりと思う。
そして、観客席に向かって言う。
「誰か、食べれるものくれる人いないー?」
すると、一番前列に座っていた中年男性が応える。
「姉ちゃん、これやるよ」
会場で売っていたフランクフルトを、一本丸々投げ渡してきた。
受け取った凛は、みんなが見守る中、玖音へと与える。
玖音は躊躇うことなく、ぺろりと一口で完食した。
「どう? 問題ないでしょ?」
「はい、大変失礼しました」
妨害工作は失敗に終わったが、聴衆の面前であった為、職員達は大人しく引き下がるしかなかった。
検査を乗り切り、玖音は改めて相手モンスターと対峙する。
相手方も追い詰められているようで、反対側に居る調教師は、非常に険しい表情をしていた。
「さぁ、お待たせしました。これが最終決戦。名立たるランカーを次々と倒してきた挑戦者に、最後に立ちはだかるは、ベルガのスター・無敗の王者。ここまで来たら最早言葉は不要。どちらが真の王者か、互いの実力を掛け、いざ尋常に勝負!」
最後の試合が、今ここに始まった。
開始直後、レッサードラゴンは玖音目掛けて炎を吐く。
炎が浴びせられた瞬間、玖音の足元が大爆発し、会場に爆風が吹き荒れた。
仕込みの手札も惜しむことなく、初手から全力で仕掛けてきた。
会場は騒然となるが、爆風が止み、無傷の玖音が姿を見せると、一気に沸き上がった。
熱狂する観客達とは対照的に、相手の調教師、そしてレッサードラゴンまでも真っ青となっていた。
玖音が歩み出すと、レッサードラゴンは身体を強張らせる。
堂々と歩みを進め、近付こうとしたところ、突然、玖音が歩く足元の床が割れ、片足が落ちる。
直後、レッサードラゴンが飛び掛かった。
首元に食らいつこうとしたその瞬間、玖音は埋まっていた前足を強引に振り上げ、地面を抉り上げながら、爪で切り裂いた。
爪を受けたレッサードラゴンは、飛ばされて床に倒れる。
レッサードラゴンが顔を上げると、玖音は嘲笑うかのように、不敵な笑みを見せた。
調教師に指示され、何度も飛び掛かるが、その度に、玖音は楽々と叩き落とす。
誰の目から見ても、その実力差は明らかであった。
何度も叩き落とされているうちに、レッサードラゴンはあっという間に満身創痍の状態になってしまう。
工作の仕掛けは、初めのうちに出し尽くしてしまっていた為、レッサードラゴン側の手札はもう残っていない。
それでもレッサードラゴンは、調教師に命令されて懸命に立ち向かってきたが、最早その気力も限界だった。
(これくらいにしておいてやるかの)
とどめを刺そうと、玖音が足を一歩踏み出すと、その瞬間、レッサードラゴンは背を向けて逃げ出した。
調教師が制止する声も無視して、自分から場外へと出てしまった。
最終決戦であったにも拘らず、王者がギブアップをするという異例の幕引きに、会場は呆気にとられる。
「じょ、場外に出てしまったので、これで決着です。勝者、玖音ー!」
MCが勝利宣言を行うと、観客達は一気に沸き上がる。
「無敗の王者を打ち倒し、新たな王になったのは、まさかの飛び入り参加の挑戦者。これから歴史に名を刻むであろうスター誕生の瞬間です。そう、今まさに我々は歴史的瞬間に立ち会っているのです」
溢れんばかりの歓声と称賛の声を浴び、玖音は得意げに胸を張る。
ベルガモンスターバトル協会への報復は、見事成功したのであった。
双方入場し、リングの上へと上がる。
「とうとうここまで来てしまいました。まさか最後まで上り詰めるとは、誰が予想できたか。いや、皆、心どこかでやってくれると思っていたでしょう。このまま、無敗の王者を打ち破ってしまうのか!? ……おや? ちょっと失礼」
決戦前にMCが話していると、一人の職員が駆け寄ってきて、彼に耳打ちをした。
すぐに職員は中へと引っ込み、MCが口を開く。
「決戦直前ですが、ここで召喚獣ではないかと疑いが出てきました。一時、ランカー戦を中断して、検査を行います」
会場がどよめく中、職員の人がぞろぞろと出て来て、玖音を取り囲む。
「こんな嫌がらせするの?」
「少し調べさせてもらうだけです。問題がなければ、すぐに再開いたしますので」
職員の人達は、玖音の手足を触ったり、探知魔法で怪しいところがないかチェックを始める。
凛も玖音も冷静を装うが、内心ハラハラしていた。
召喚獣とは、アーティファクトとほぼ同等の価値がある召喚器と呼ばれるアイテムを使って、呼び出すことのできる特殊なモンスターである。
非常に強力で、召喚者の意のままに操ることが出来る為、モンスターバトルでの使用は禁止されていた。
玖音は召喚獣ではないが、モンスターでもなかったので、検査に引っかかる恐れがあった。
検査を受けていると、職員の一人が、玖音の股座を掻き分けて、中を見ようとした。
直後、玖音は驚きと羞恥の表情をして飛び退く。
突然動いた為、職員達の間で緊張感が走る。
「ちょっと。この子、女の子なんだから、セクハラ紛いなことはしないでよ」
「しかし、これは検査ですので」
「無理にやると、暴れると思うわよ。そんなとこ、必ずしも見ないといけない必要ないでしょ?」
身の危険があるとのことで、職員達はデリケート部分を除いて、検査を続けた。
程なくして検査が終わる。
「特に変わった点はありませんでした。補助魔法がかかっている痕跡もありません」
職員の報告を聞き、凛と玖音は安堵する。
だが、続けて職員が言う。
「最後に、この餌を食べさせて見せてください。召喚獣でないなら、食事はできますので」
召喚獣は生物ではないので、食事は摂取しない。
それが最後の確認であった。
「……いいけど、その毒入りのは食べさせないわ」
凛がそう言うと、職員の人達はぎょっとする。
その反応を見て、凛はやはりと思う。
そして、観客席に向かって言う。
「誰か、食べれるものくれる人いないー?」
すると、一番前列に座っていた中年男性が応える。
「姉ちゃん、これやるよ」
会場で売っていたフランクフルトを、一本丸々投げ渡してきた。
受け取った凛は、みんなが見守る中、玖音へと与える。
玖音は躊躇うことなく、ぺろりと一口で完食した。
「どう? 問題ないでしょ?」
「はい、大変失礼しました」
妨害工作は失敗に終わったが、聴衆の面前であった為、職員達は大人しく引き下がるしかなかった。
検査を乗り切り、玖音は改めて相手モンスターと対峙する。
相手方も追い詰められているようで、反対側に居る調教師は、非常に険しい表情をしていた。
「さぁ、お待たせしました。これが最終決戦。名立たるランカーを次々と倒してきた挑戦者に、最後に立ちはだかるは、ベルガのスター・無敗の王者。ここまで来たら最早言葉は不要。どちらが真の王者か、互いの実力を掛け、いざ尋常に勝負!」
最後の試合が、今ここに始まった。
開始直後、レッサードラゴンは玖音目掛けて炎を吐く。
炎が浴びせられた瞬間、玖音の足元が大爆発し、会場に爆風が吹き荒れた。
仕込みの手札も惜しむことなく、初手から全力で仕掛けてきた。
会場は騒然となるが、爆風が止み、無傷の玖音が姿を見せると、一気に沸き上がった。
熱狂する観客達とは対照的に、相手の調教師、そしてレッサードラゴンまでも真っ青となっていた。
玖音が歩み出すと、レッサードラゴンは身体を強張らせる。
堂々と歩みを進め、近付こうとしたところ、突然、玖音が歩く足元の床が割れ、片足が落ちる。
直後、レッサードラゴンが飛び掛かった。
首元に食らいつこうとしたその瞬間、玖音は埋まっていた前足を強引に振り上げ、地面を抉り上げながら、爪で切り裂いた。
爪を受けたレッサードラゴンは、飛ばされて床に倒れる。
レッサードラゴンが顔を上げると、玖音は嘲笑うかのように、不敵な笑みを見せた。
調教師に指示され、何度も飛び掛かるが、その度に、玖音は楽々と叩き落とす。
誰の目から見ても、その実力差は明らかであった。
何度も叩き落とされているうちに、レッサードラゴンはあっという間に満身創痍の状態になってしまう。
工作の仕掛けは、初めのうちに出し尽くしてしまっていた為、レッサードラゴン側の手札はもう残っていない。
それでもレッサードラゴンは、調教師に命令されて懸命に立ち向かってきたが、最早その気力も限界だった。
(これくらいにしておいてやるかの)
とどめを刺そうと、玖音が足を一歩踏み出すと、その瞬間、レッサードラゴンは背を向けて逃げ出した。
調教師が制止する声も無視して、自分から場外へと出てしまった。
最終決戦であったにも拘らず、王者がギブアップをするという異例の幕引きに、会場は呆気にとられる。
「じょ、場外に出てしまったので、これで決着です。勝者、玖音ー!」
MCが勝利宣言を行うと、観客達は一気に沸き上がる。
「無敗の王者を打ち倒し、新たな王になったのは、まさかの飛び入り参加の挑戦者。これから歴史に名を刻むであろうスター誕生の瞬間です。そう、今まさに我々は歴史的瞬間に立ち会っているのです」
溢れんばかりの歓声と称賛の声を浴び、玖音は得意げに胸を張る。
ベルガモンスターバトル協会への報復は、見事成功したのであった。
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