狼王の贄神子様

だいきち

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獣の本能

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 視界いっぱいに広がるのは、黒鉄の毛並みだ。寝具を大きな手で剥がされたせいで、火照った肌は少しの寒さを感じる。それなのに、カエレスの金糸水晶の瞳で見つめられると、内側から熱が溢れるように湧き上がってくる。
 己の体であるのに、意思が効かない。どういうことになっているのかも、皆目見当がつかなかった。
 ティティアには、カエレスの体から滲み出る黒いモヤのようなものが見えていた。これが、漏れ出ていく魔力なのだろうか。視界におぼろげに収め、手を伸ばす。そっと滑らかな狼の頬に触れれば、掠れた声でカエレスが呟いた。

「……何が見えている……?」
「くろ、の……けむ、り?」
「これが、私から奪われる魔力だ。そうか、もう見ることができるのだな」
 
 低い声だ。それも、威圧を感じるような重々しさがあった。それでも、カエレスの瞳は変わらず優しくティティアを映していたから、怯えることはなかった。
 大きな手のひらが、体温を確かめるように細い首筋に手を添える。少しだけ冷たくて、それが気持ちが良くて、思わず吐息が漏れた。

「私は、すまないが、……あまり、堪えられそうにない。ティティアの、……体を、労われなかったら」
「いい、けど」
「けど?」
「い、いっぱい、……」

 夕焼けの瞳の中に、怯えた色を宿すカエレスの姿が映っていた。
 ああ、またこの人は俺のことを心配している。カエレスを拒絶するなんてあるわけないのに。ティティアの手のひらが、言葉の代わりに後頭部に伸ばされる。柔らかな毛並みを撫でるように触れれば、窺うようにティティアを見つめる。
 周りはカエレスの表情が読めないというけれど、澄んだ金糸水晶の瞳は雄弁であった。
 顔を引き寄せるように、鼻先に唇を落とした。ぐるりと治安の悪い音がして、今にも噛みきそうな狼の顔がおそるそる近づいてくる。本能を堪えようとしているのか、体の毛は逆立っているというのに、押し潰さないように気を使って身を寄せる優しさが好きだ。

 この綺麗な瞳は、いつだって密やかにティティアを想ってくれていた。きっと、どうしていいかわからないことも多かっただろうに、ティティアがやりたいことを尊重してくれた。
 一緒に眠る夜の暖かさも、見た目の割に丁寧な口調も、感情に素直な可愛いところも、ティティアのことになるとすぐに拗ねるところも。
 好きを向けられることの、全部が苦しくて嬉しいものだと教えてくれた。
 忙しなく相手を思い、感情が揺さぶられることも、カエレスが教えてくれたのだ。違う種族で、繋がりは嘘みたいな神話の話だけなのに。細い糸を包むようにして、ティティアに心を寄せてくれた。

「俺、す、好き。カエレス……いっぱい、好きだよ」
「人の姿の方が、」
「全部……好きだよ……」

 獣の姿でも、人の姿でも、ティティアにとって、そんなもの些末事でしかない。カエレスが狼姿のまま触れることに怯えるのなら、ティティアはそれを払拭してやればいい。
 真っ直ぐな言葉を前に、カエレスの大きな体はゆっくりと重なりを求める。上等な毛皮に包まれながら、濡れた鼻先が首筋に埋まる。肩口に感じた呼気がくすぐったくて、無意識に熱い吐息を漏らした。足元でパタパタと寝具を叩く音がして、カエレスが無言で喜んでいるのを感じた。

「可愛いね」
「本当に、魔性だな」
「あ、っ」

 それは、照れ隠しにも聞こえた。そんなカエレスの反応に小さく笑えば、喉元をベロリと舐められた。体の奥、ティティアのやかましい鼓動が一際跳ねたのがバレたらしい。大きなお耳をヒョコリと向け、窺うような顔で見つめられる。
 カエレスの鼻先と、ティティアの鼻先がくっついた。ご挨拶にも見えるそれは、角度を変えるようにゆっくりと口付けに変わった。犬歯が見える濡れた唇を、カエレスを真似るようにペショリと舐めた。

「ん、む……っ」

 ティティアの狭い口の中に、そっとカエレスの舌先が差し込まれた。厚みのあるそれを頬張るように、甘く吸う。与えられた唾液をこくりと飲み込むと、大きな手のひらが首筋を撫でるようにして後頭部に手を添える。
 熱い体温が重なって、気持ちがいい。カエレスの匂いが安心させてくれるから、もう怖いものなんてなかった。

「はぁ……、ティティア……」
「う、」

 寝具の擦れ合う音がして、カエレスの切ない声が腹の奥を刺激する。大きな口で首筋を甘噛みをされても、恐怖はない。手は無意識にふかふかの耳へと伸ばされて、褒めるようにくすぐる。
 可愛い、可愛いなあ。きっと、こんなことをしながら向ける言葉じゃないのだろうけど。カエレスの手のひらが遠慮がちに薄い腹に触れて、唯一着せられていた長衣の中に侵入する。
 やかましい鼓動はもうとっくのとうにバレているから、開き直って仕舞えばどうとでもない。爪をしまった指先が、ティティアの胸の粒に触れる。己でも慰めない部分を柔らかな指先でふにりと押されて、くすぐったくて身を捩る。

「んっ……」
「いい匂いがする。……ティティアからは、紅茶のようなふくよかな香りが」
「うそ……」
「花の香に例えると……ゼラニウムかな」
「あ、っい、言われるの、は、恥ずかしいね……」

 喉奥で笑う。カエレスの尾がご機嫌に揺れている。己の発情の香りを検分されるのは少しばかし恥ずかしい。ゼラニウムって、どんな香りなのだろう。そんな具合に思考を飛ばしかけたのを窘められるように、親指で胸の粒を摩擦された。

「ぅあ、ま、……っ、まだ、で、出ないから……」
「きっと、孕ませる自信しかない。ティティアが私のものである時間は短い。だから、好きに触れたい」
「ぅ……ず、ずるい……」

 そんなに可愛い顔でおねだりをされたら、断れないじゃないか。丸い瞳が、熱っぽく見つめてくる。そのくせ手は了承も得ぬままに好き勝手を振る舞うのだ。言っている言葉と行動がチグハグなのには、きっと気がついていないだろう。
 胸から撫でるように背中へと回された手のひらは、背筋を辿るように下へとおりた。指先がティティアの下着に引っかかる。つい膝を閉じて仕舞えば、するりと抜き取られた下着が膝に溜まった。

「好きにしてていいよ、私も、そうするから」
「え、あ、ちょ……っまっ」

 鼻先で辿るように、カエレスの口吻が薄い腹へと降りてくる。手のひらは柔らかさを確かめるように尻を包み、ティティアが思わず閉じた両足は、あっという間に肩に担ぎ上げられた。
 夕焼けの瞳が、真っ直ぐに上等な雄を収める。体を離すように起き上がったカエレスが、穿いていたボトムスの前に手を伸ばした。

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