狼王の贄神子様

だいきち

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ちいさき繋がり

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 ティティアの意識が戻ってから、三日がたった。体はようやくゆっくりとだが歩けるようになり、カエレスの献身的すぎるほどの看病。──ティティアとしては介護だと思っている──から解放された。
 カエレスを枕にしたあの夜。ティティアが予想をした通り、腹に子が宿っていた。己の予測を確かめるように、カエレスの魔力放出が治ったからと告げれば、思わぬ自己判断方法にウメノは両目の宝石を丸くして驚いた。

「え、頭良くない?」
「やった、俺褒められた!」
「我もそう思う。なるほどそういった初期判断が出来るとはなあ」

 ぼぼ、と空気の膨らむ音がして、ウメノの背後からアモンが現れた。ベットに横たわったまま、薄い腹を晒しているティティアを見下ろすと、まるで老爺のようにうんうんと頷く。
 ティティアの体内に宿るカエレスの魔力と、同じ波長を流すことで反発がないかを確認する。以前のように魔力酩酊を起こすこともなく受け入れた華奢な体の中には、確かに豆粒ほどの小さな存在が確認できた。
 
「僕でも思いつかなかったのに。というか、こういう検査は過去の文献参考にするしかないんだけどさ。よく考えてみたら僕は奇跡を目の前にしてるのかもね」
「豆粒って爪くらい?俺よくわかんないけど、赤ちゃんってこんなに早く形ができるの」
「うんうん、ティティアが相変わらず呑気なのはよくわかったから。あんましはしゃがないでね」

 まだ目立たぬお腹を触っては、豆粒の大きさを予測するように呑気を晒す。どこまでもおっとりとしているティティアに、男性ながら妊娠したことに対する怯えは見当たらない。
 てっきりもっと取り乱すと思っていたのに、これは随分な拍子抜けであった。
 むしろ、オメガの健康管理やら出産までの引き継ぎが、本しか頼るもののないウメノの方が死にそうである。何を言おうとどうしようもない事実には、腹を括るしかないのだろうが。

「はあぁ……もうわかんないことだらけは僕も同じだからさ……、とりあえず勉強しよ……」
「豆粒……豆粒かあ……ひよこ豆ってかんじかな」
「うんうん、一応過去のオメガの妊娠から出産までは八ヶ月かかるって書いてあったから、そう考えると成長は早い方なのかも……」

 ティティアの体に流れる魔力を調べる限り、カエレスの魔力を薄めることなく腹へと回していることが一つの要因のようだった。まだ薄い腹に顕著な変化は見られないが、微かな張りのようなものは感じているようだ。
 正式なティティアの妊娠は一部の者たちにしか伝えないだろうが、カエレスの行動が分かりやすく変わりそうだ。きっと大きな体を揺らして、ティティアが安心して出産できる巣作りをするのだろう。容易く巻き込まれる未来が想像できて、ウメノが頭を痛めるようにため息を吐く。

「あ」
「ロクじゃん」

 不思議そうにお腹を触るティティアの眼の前で、両開きの扉がノックされる。
 こんなに律儀なことをするのは、この城の中でも一握りだけだ。ティティアは久しぶりの気配に嬉しそうな表情を見せると、晒した腹を隠すように服の裾を伸ばした。

「お体は大丈夫ですか? その、お見舞いの品を持ってきたのですが」
「きたよ唯一の理性!」
「何を言ってるんだおまえは」

 カエレスを筆頭に、日頃からニルやハニに振り回されているウメノが嬉々として本から顔を上げる。触覚にも似た頭頂部の髪が、感情を表すように小刻みに揺れた。

「これでカエレス様だったら蹴り出してるとこだった。あの人ホントにティティアにべったりで、この検査も立ち会うって煩いのなんの!」
「鬱憤が溜まっているのは理解した」
「だが昼時も間もなくぞ。きっと確定診断を聞きに真っ先に戻ってくるだろうよ」
「僕からつかの間の休みを奪わないでよー!!」
「な、なんかごめん」

 執務を貯めるのが趣味なのかと思ってた。ティティアの衝撃的な発言のお陰で、合法的にカエレスを仕事へと蹴り出したのは先程の話である。
 なにやら事後処理が溜まっているらしいことは聞き及んでいた。番いとのひとときを楽しむために時間を費やすのは雄の鏡だが、一国の王は暇ではないのだ。

「いまカエレスなんの仕事してるの?」
「ああ、なんだかカテア村に魔物が出たらしいんですけど、それを自警団だけで収めようとしたらしくてけが人が出たようで」
「国に申請だせばお金を取られるって勘違いしてたんだってさ。血税からでてんだから頼りゃいいのに、カエレス様はその保証をどう出すかで頭抱えてるよ」

 虫の魔物らしい、ということまでは聞いているようだ。魔物討伐のために、ヘルグの部隊と暗部の数人が既に村へと向かったようで、討伐を終え次第議会を開いて決めるらしい。

「なんか、すごい王様ってかんじ」
「ティティア様はその番いですよ」
「自覚持たなきゃまずいよな」

 ロクの言葉に、苦笑いを浮かべる。
 カエレスの命をつないで、ティティアの役目が終わりというわけではないのだ。枕に背を預けるように休むティティアの体は、完全に癒えたわけではない。

「いいんですよ」
「ん?」
「カエレス様が政の相談をして、ティティア様を王妃として育てていくんです。これは、貴方が憂うことでは有りません」
「何のために、とか考えなくていいの。ただ近くで見てあげてて。簡単でしょ」

 緩く微笑むウメノに、ロクもこくりと一つ頷いた。
 右も左もわからないままここに来て、ティティアは周りから気にかけられてばかりだった。
 心も体も通わせて、腹には確かな血のつながりを宿した。安静を命じられている今だからこそ、出来ることがあるのかもしれない。
 目立たない腹をそっと撫でる。カエレスは喜んでくれるだろうか。自己主張は得意ではないが、小さな存在が背中を押してくれるような気がした。


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