12 / 151
11
しおりを挟む
「ミハエルの気持ちは嬉しい。だけどわざわざ手短で探すよりも、お前なら選び放題だろう。」
サディンの言葉に、ミハエルは絶望の淵に立たされていた。
15歳の誕生日、その日はサディンがご飯に連れてってくれたのだ。昼くらいに迎えにきてくれて、そしてミハエルが前から行きたいと思っていたケーキ屋さんに連れてってくれた。
前日の夜からずっと眠れなくて、ギリギリまで着ていく服だって迷った。サディンがお休みの日を態々ミハエルにくれたのだ。だから、ミハエルが勝手にデートだと思い込んでしまった。
今、ミハエルの気持ちを受け取ったサディンが、困ったように頭を掻きながら、俯いている小さな体を見下ろしている。
ここは、城下からほど近い願いの蛙の噴水広場で、シュマギナールでは有名なデートスポットだった。
もしかしたら、という淡い気持ちを抱いて、ミハエルはサディンとここを通りかかった時に、勇気を出して告白をしたのである。
それなのに、ミハエルの願いは叶わなかった。
「歳が離れてるし、お前はダラスの息子だ。数少ない友人に不義理なことはしたくない。わかってくれ。」
「…そ、れは…僕が、子供…だからですか、」
「…そうだな、お前はまだ成人していない。騎士である俺が、青少年であるお前に手を出してみろ、世間様にどう顔向けすりゃあいいんだって話になる。」
ミハエルの声が震えていることには気がついていた、サディンは職業柄、こう言ったことがままあった。まさかミハエルまで告白してくるとは思っていなかったが。
親しくない仲じゃないからこそ、返答に困った。サディンは泣くまいとしているミハエルのことは、服の裾を握りしめた震える手からよくわかっていた。いつもなら落ち込んでいるミハエルに胸を貸すくらいはしていたのだが、それもよくなかったのだろうなと思っていた。
「俺がお前に勘違いさせるようなことをしたのが悪かったな、…ウィルのように、お前も歳の離れた弟のように感じてしまっていた。」
俯く小さな頭に、そっと手を置く。癖のないさらりとした髪の撫で心地が良くて、ついミハエルに会う度に何の気なしに触れていた。
本人が嫌がらないから甘えていたが、なるほどどうやら自分は酷いことをしてきたらしいと言うことを理解した。
いつもと違って、頭に手を置いたかと思えば、そのまま撫で梳くこともなくゆっくりと離れていく。
サディンの手がいつもと違うことをするから、ミハエルは追い打ちをかけられたように小さく息をつめた。
「あ、…」
ぽろりと溢れた、切ない吐息混じりのミハエルの声が静かに夕暮れに溶ける。小さな手が、まるで余韻を探るかのようにゆるゆると自分の前髪をゆるく直すと、サディンはその置いてけぼりにされたかのようなミハエルの姿に、すこしだけ胸が痛くなった。
「ミハエル、」
「あ、あ…え、えっと…、」
「うん、」
「す、好きで…いるのは、いい…ですか、」
何を言っているんだ。ミハエルは自分で口にしておいて、バカなことを言ってしまったとおもった。両手で口を抑える。黙り込んでしまったサディンに困らせたのだと理解すると、ゆるゆると顔を上げた。
夕日がミハエルの薄茶の髪に溶け込んでいく。光の加減で、金色が混じっていることに気がついた。サディンは、綺麗になったミハエルの頬に触れようとして、やめた。
「俺は、いつ死ぬかわかんないから。」
サディンはそういうと、困ったように笑った。騎士は、この国に魔物や敵が攻め入った時には、真っ先に肉の盾となる。死ぬつもりは毛頭ないが、それでも未来はわからない。
ミハエルの気持ちは嬉しい、不覚にも今まで受けた告白の中で、一番響いてしまったのもある。だけど、ミハエルはダメだ。弟のように、ずっと成長を見守ってきた、サディンが助けた親友の息子だ。
ポタリと道に、堪えきれなかったミハエルの涙が染み込んだ、ああ、もったいないなとも思う。サディンはミハエルから目を逸らすと、明日から関係が変わってしまうのだろうかと考えて、少しだけ落ち込んだ気持ちになった。
「…いつ死ぬかわからないのは、サディンくんだけじゃありません。」
「ん?」
「諦められたら、こんなに長く片思いなんてしてませんから…、」
目にたくさん涙を溜め込んだまま、ミハエルが少しだけ怒った顔で言う。寂しくなったり、ほっとかれたりすると、よくこの顔をしていたなあ。と、そんな見当違いなことを思っていたサディンの腹に、押しつけられるような形で小さな巾着が渡される。
ポカンとした顔で受け取ったそれは、ミハエルが欲しいと言っていた髪紐だった。
「え、これ。」
お前に買ってやったやつだろうとサディンが顔を上げる頃には、ミハエルはもう走って広場を抜けていた。
「…、せっかく買ってやったのに。」
ため息ひとつ、自分が振ってしまった手前、未練が残るくらいなら返すと言うことだろうか。
サディンは手のひらにその赤い髪紐を取り出した。薄茶なんだから、赤じゃない方がいいんじゃないかと言ったのだが、これがいいんですと嬉しそうに笑っていた顔を思い出す。
「俺は緑の方がいいと思うけど、」
無骨な指に、赤に金混じりの飾り糸が編み込まれたそれを手に取る。サディンは髪が長くないから、必要のない代物だ。今更返しにいくのもなあと考えて、それをボトムスのポケットに突っ込んだ。
自分がその髪紐と同じ色味を持つことに気が付かぬまま、明日からのことを考えるサディンの足取りは、訓練後以上に重くなっていた。
ミハエルのために買ってあげた、プレゼントにしては安すぎるその髪紐は、それから三年経った今でもサディンはミハエルに返せていない。だって、この時はまだサディンはわかっていなかった。しおらしく、健気で純粋ないい子のミハエルが、三年経った今でも気持ちが変わっていないだなんて思いもよらなかったからである。
サディンの言葉に、ミハエルは絶望の淵に立たされていた。
15歳の誕生日、その日はサディンがご飯に連れてってくれたのだ。昼くらいに迎えにきてくれて、そしてミハエルが前から行きたいと思っていたケーキ屋さんに連れてってくれた。
前日の夜からずっと眠れなくて、ギリギリまで着ていく服だって迷った。サディンがお休みの日を態々ミハエルにくれたのだ。だから、ミハエルが勝手にデートだと思い込んでしまった。
今、ミハエルの気持ちを受け取ったサディンが、困ったように頭を掻きながら、俯いている小さな体を見下ろしている。
ここは、城下からほど近い願いの蛙の噴水広場で、シュマギナールでは有名なデートスポットだった。
もしかしたら、という淡い気持ちを抱いて、ミハエルはサディンとここを通りかかった時に、勇気を出して告白をしたのである。
それなのに、ミハエルの願いは叶わなかった。
「歳が離れてるし、お前はダラスの息子だ。数少ない友人に不義理なことはしたくない。わかってくれ。」
「…そ、れは…僕が、子供…だからですか、」
「…そうだな、お前はまだ成人していない。騎士である俺が、青少年であるお前に手を出してみろ、世間様にどう顔向けすりゃあいいんだって話になる。」
ミハエルの声が震えていることには気がついていた、サディンは職業柄、こう言ったことがままあった。まさかミハエルまで告白してくるとは思っていなかったが。
親しくない仲じゃないからこそ、返答に困った。サディンは泣くまいとしているミハエルのことは、服の裾を握りしめた震える手からよくわかっていた。いつもなら落ち込んでいるミハエルに胸を貸すくらいはしていたのだが、それもよくなかったのだろうなと思っていた。
「俺がお前に勘違いさせるようなことをしたのが悪かったな、…ウィルのように、お前も歳の離れた弟のように感じてしまっていた。」
俯く小さな頭に、そっと手を置く。癖のないさらりとした髪の撫で心地が良くて、ついミハエルに会う度に何の気なしに触れていた。
本人が嫌がらないから甘えていたが、なるほどどうやら自分は酷いことをしてきたらしいと言うことを理解した。
いつもと違って、頭に手を置いたかと思えば、そのまま撫で梳くこともなくゆっくりと離れていく。
サディンの手がいつもと違うことをするから、ミハエルは追い打ちをかけられたように小さく息をつめた。
「あ、…」
ぽろりと溢れた、切ない吐息混じりのミハエルの声が静かに夕暮れに溶ける。小さな手が、まるで余韻を探るかのようにゆるゆると自分の前髪をゆるく直すと、サディンはその置いてけぼりにされたかのようなミハエルの姿に、すこしだけ胸が痛くなった。
「ミハエル、」
「あ、あ…え、えっと…、」
「うん、」
「す、好きで…いるのは、いい…ですか、」
何を言っているんだ。ミハエルは自分で口にしておいて、バカなことを言ってしまったとおもった。両手で口を抑える。黙り込んでしまったサディンに困らせたのだと理解すると、ゆるゆると顔を上げた。
夕日がミハエルの薄茶の髪に溶け込んでいく。光の加減で、金色が混じっていることに気がついた。サディンは、綺麗になったミハエルの頬に触れようとして、やめた。
「俺は、いつ死ぬかわかんないから。」
サディンはそういうと、困ったように笑った。騎士は、この国に魔物や敵が攻め入った時には、真っ先に肉の盾となる。死ぬつもりは毛頭ないが、それでも未来はわからない。
ミハエルの気持ちは嬉しい、不覚にも今まで受けた告白の中で、一番響いてしまったのもある。だけど、ミハエルはダメだ。弟のように、ずっと成長を見守ってきた、サディンが助けた親友の息子だ。
ポタリと道に、堪えきれなかったミハエルの涙が染み込んだ、ああ、もったいないなとも思う。サディンはミハエルから目を逸らすと、明日から関係が変わってしまうのだろうかと考えて、少しだけ落ち込んだ気持ちになった。
「…いつ死ぬかわからないのは、サディンくんだけじゃありません。」
「ん?」
「諦められたら、こんなに長く片思いなんてしてませんから…、」
目にたくさん涙を溜め込んだまま、ミハエルが少しだけ怒った顔で言う。寂しくなったり、ほっとかれたりすると、よくこの顔をしていたなあ。と、そんな見当違いなことを思っていたサディンの腹に、押しつけられるような形で小さな巾着が渡される。
ポカンとした顔で受け取ったそれは、ミハエルが欲しいと言っていた髪紐だった。
「え、これ。」
お前に買ってやったやつだろうとサディンが顔を上げる頃には、ミハエルはもう走って広場を抜けていた。
「…、せっかく買ってやったのに。」
ため息ひとつ、自分が振ってしまった手前、未練が残るくらいなら返すと言うことだろうか。
サディンは手のひらにその赤い髪紐を取り出した。薄茶なんだから、赤じゃない方がいいんじゃないかと言ったのだが、これがいいんですと嬉しそうに笑っていた顔を思い出す。
「俺は緑の方がいいと思うけど、」
無骨な指に、赤に金混じりの飾り糸が編み込まれたそれを手に取る。サディンは髪が長くないから、必要のない代物だ。今更返しにいくのもなあと考えて、それをボトムスのポケットに突っ込んだ。
自分がその髪紐と同じ色味を持つことに気が付かぬまま、明日からのことを考えるサディンの足取りは、訓練後以上に重くなっていた。
ミハエルのために買ってあげた、プレゼントにしては安すぎるその髪紐は、それから三年経った今でもサディンはミハエルに返せていない。だって、この時はまだサディンはわかっていなかった。しおらしく、健気で純粋ないい子のミハエルが、三年経った今でも気持ちが変わっていないだなんて思いもよらなかったからである。
1
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
悪役令息に転生した俺は推しの為に舞台から退場する
ユッキー
BL
前世の記憶を思い出したアレクシスは悪役令息に転生したことに気づく。このままでは推しである義弟ノアが世界を救った後も幸せになれない未来を迎えてしまう。それを回避する為に、俺は舞台から退場することを選んだ。全てを燃やし尽くす事で。
そんな俺の行動によってノアが俺に執着することになるとも知らずに。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
竜人息子の溺愛!
神谷レイン
BL
コールソン書店の店主レイ(三十七歳)は、十八歳になったばかりの育て子である超美形の竜人騎士であるルークに結婚を迫られていた。
勿論レイは必死に断るがルークは全然諦めてくれず……。
だが、そんな中で竜国から使者がやってくる。
そしてルークはある事実を知らされ、レイはそれに巻き込まれてしまうのだが……。
超美形竜人息子×自称おじさん
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる