こっち向いて、運命。-半神騎士と猪突猛進男子が幸せになるまでのお話-

だいきち

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「ミハエルの気持ちは嬉しい。だけどわざわざ手短で探すよりも、お前なら選び放題だろう。」

 サディンの言葉に、ミハエルは絶望の淵に立たされていた。
 
 15歳の誕生日、その日はサディンがご飯に連れてってくれたのだ。昼くらいに迎えにきてくれて、そしてミハエルが前から行きたいと思っていたケーキ屋さんに連れてってくれた。
 前日の夜からずっと眠れなくて、ギリギリまで着ていく服だって迷った。サディンがお休みの日を態々ミハエルにくれたのだ。だから、ミハエルが勝手にデートだと思い込んでしまった。
 
 今、ミハエルの気持ちを受け取ったサディンが、困ったように頭を掻きながら、俯いている小さな体を見下ろしている。
 
 ここは、城下からほど近い願いの蛙の噴水広場で、シュマギナールでは有名なデートスポットだった。
 もしかしたら、という淡い気持ちを抱いて、ミハエルはサディンとここを通りかかった時に、勇気を出して告白をしたのである。
 それなのに、ミハエルの願いは叶わなかった。
 
「歳が離れてるし、お前はダラスの息子だ。数少ない友人に不義理なことはしたくない。わかってくれ。」
「…そ、れは…僕が、子供…だからですか、」
「…そうだな、お前はまだ成人していない。騎士である俺が、青少年であるお前に手を出してみろ、世間様にどう顔向けすりゃあいいんだって話になる。」
 
 ミハエルの声が震えていることには気がついていた、サディンは職業柄、こう言ったことがままあった。まさかミハエルまで告白してくるとは思っていなかったが。
 親しくない仲じゃないからこそ、返答に困った。サディンは泣くまいとしているミハエルのことは、服の裾を握りしめた震える手からよくわかっていた。いつもなら落ち込んでいるミハエルに胸を貸すくらいはしていたのだが、それもよくなかったのだろうなと思っていた。
 
「俺がお前に勘違いさせるようなことをしたのが悪かったな、…ウィルのように、お前も歳の離れた弟のように感じてしまっていた。」
 
 俯く小さな頭に、そっと手を置く。癖のないさらりとした髪の撫で心地が良くて、ついミハエルに会う度に何の気なしに触れていた。
 本人が嫌がらないから甘えていたが、なるほどどうやら自分は酷いことをしてきたらしいと言うことを理解した。
 いつもと違って、頭に手を置いたかと思えば、そのまま撫で梳くこともなくゆっくりと離れていく。
 サディンの手がいつもと違うことをするから、ミハエルは追い打ちをかけられたように小さく息をつめた。
 
「あ、…」
 
 ぽろりと溢れた、切ない吐息混じりのミハエルの声が静かに夕暮れに溶ける。小さな手が、まるで余韻を探るかのようにゆるゆると自分の前髪をゆるく直すと、サディンはその置いてけぼりにされたかのようなミハエルの姿に、すこしだけ胸が痛くなった。
 
「ミハエル、」
「あ、あ…え、えっと…、」
「うん、」
「す、好きで…いるのは、いい…ですか、」
 
 何を言っているんだ。ミハエルは自分で口にしておいて、バカなことを言ってしまったとおもった。両手で口を抑える。黙り込んでしまったサディンに困らせたのだと理解すると、ゆるゆると顔を上げた。
 
 夕日がミハエルの薄茶の髪に溶け込んでいく。光の加減で、金色が混じっていることに気がついた。サディンは、綺麗になったミハエルの頬に触れようとして、やめた。
 
「俺は、いつ死ぬかわかんないから。」
 
 サディンはそういうと、困ったように笑った。騎士は、この国に魔物や敵が攻め入った時には、真っ先に肉の盾となる。死ぬつもりは毛頭ないが、それでも未来はわからない。
 ミハエルの気持ちは嬉しい、不覚にも今まで受けた告白の中で、一番響いてしまったのもある。だけど、ミハエルはダメだ。弟のように、ずっと成長を見守ってきた、サディンが助けた親友の息子だ。
 
 ポタリと道に、堪えきれなかったミハエルの涙が染み込んだ、ああ、もったいないなとも思う。サディンはミハエルから目を逸らすと、明日から関係が変わってしまうのだろうかと考えて、少しだけ落ち込んだ気持ちになった。
 
「…いつ死ぬかわからないのは、サディンくんだけじゃありません。」
「ん?」
「諦められたら、こんなに長く片思いなんてしてませんから…、」
 
 目にたくさん涙を溜め込んだまま、ミハエルが少しだけ怒った顔で言う。寂しくなったり、ほっとかれたりすると、よくこの顔をしていたなあ。と、そんな見当違いなことを思っていたサディンの腹に、押しつけられるような形で小さな巾着が渡される。
 ポカンとした顔で受け取ったそれは、ミハエルが欲しいと言っていた髪紐だった。
 
「え、これ。」
 
 お前に買ってやったやつだろうとサディンが顔を上げる頃には、ミハエルはもう走って広場を抜けていた。
 
「…、せっかく買ってやったのに。」
 
 ため息ひとつ、自分が振ってしまった手前、未練が残るくらいなら返すと言うことだろうか。
 サディンは手のひらにその赤い髪紐を取り出した。薄茶なんだから、赤じゃない方がいいんじゃないかと言ったのだが、これがいいんですと嬉しそうに笑っていた顔を思い出す。
 
「俺は緑の方がいいと思うけど、」
 
 無骨な指に、赤に金混じりの飾り糸が編み込まれたそれを手に取る。サディンは髪が長くないから、必要のない代物だ。今更返しにいくのもなあと考えて、それをボトムスのポケットに突っ込んだ。
 自分がその髪紐と同じ色味を持つことに気が付かぬまま、明日からのことを考えるサディンの足取りは、訓練後以上に重くなっていた。
 ミハエルのために買ってあげた、プレゼントにしては安すぎるその髪紐は、それから三年経った今でもサディンはミハエルに返せていない。だって、この時はまだサディンはわかっていなかった。しおらしく、健気で純粋ないい子のミハエルが、三年経った今でも気持ちが変わっていないだなんて思いもよらなかったからである。

 
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