14 / 151
13
しおりを挟む
「なあ、頼む。泣き止んでくれ。これはあくまでも建前のようなものだ。お前の意思はきちんと尊重するから…。」
綺麗な服を着て、城から迎えに来た馬車に促されるようにのせられたミハエルは、せっかくルキーノに治癒をしてもらったというのに、またその頬を涙で濡らしていた。
心底困ったという顔つきのダラスの目の前で、今まで見たこともないくらいに怒っているルキーノが腕を組んでダラスを睨みつける。
「その目つきはやめろ、めげそうになる。」
「報連相。」
「わかった、わかったから。」
まじでお前本気で許さん。ルキーノだからそんな口調では言わないことはわかっている。しかし、目がそう語っているのだ。
話はルキーノも知っていた。というか、妊娠していた頃にそんな話があがっていたのは覚えている。しかし、なにも成人した当日にお見合いだなんて意味がわからない。水面下で旦那同士で積極的に動きすぎだろう。グレイシス国王もそのことは知っているのだろうか。いや、しらないだろうな。知っていたらきっとルキーノに止めるように進言してくるはずである。
「愛想が尽きました。出ていきます。」
「はあ!?」
「と、喉まででかかっていますから。」
「待て!腹の子はどうなる!」
慌てふためいたダラスの言葉に、今度はミハエルが驚いた。その反応を見たルキーノが、またしてもダラスを睨む。なんで言っていないのだというように。
「か、母さん…お、おめ、おめでとう…はぇ…?」
「第一声がその言葉とは、やはり貴方はいい子ですね、ありがとう…」
「離婚はしないからな!?」
「黙りなさい、あなたは墓穴しか掘らないのですか?」
カッとルキーノに睨みつけられ、うぐ、と喉を詰まらした。ミハエルはより一層混乱の坩堝に入ってしまった。大人しく落ち込むことで、父親に対して静かなる抗議をしていたはずなのに、ルキーノの妊娠と言われればそれどころではなくなる。
ルキーノは、まだ確かではなかったから口にはしなかったと言うが、また父の薬の実験台になったのだとしたら、さすがのミハエルも思うところはある。
「父さん、また怪しい薬で母さんを手籠めにしたのですか…?」
「その怪しい薬を国が後押しして、お前もアドバイスをくれただろうが…」
「二段階アプローチ検証を、母さんで試したのですか?」
「ミハエル、僕も納得していますから、そちらではなく攻めるならお見合いの方を攻めなさい。」
僕はいいから、自分の人生を左右する方を気にしなさい。そう困った顔で言うルキーノは、自分の身に起きていることを棚に上げていることは気づかない。
狭い馬車の中が、まるで弾劾裁判のような状況になってしまった。ダラスはげんなりとした顔をしながら、ルキーノの妊娠については安定期に入るまで黙っているつもりだったという。
「5ヶ月も黙認されていたら、さすがに泣きます。」
「その前に腹でばれそうなものですねえ。」
まだ薄く目立たぬ下腹部を撫でるルキーノを、ミハエルがちらりと見やる。弟か妹ができるらしい。まだ実感はわかないが、なんとなく自分とサディンを重ねてしまった。
産まれた兄弟に告白されているようなもの、というサディンの立場を考えてみたら、たしかに困るかもしれない。ミハエルは、ぺたりとルキーノの腹に触れると、うる、と涙をにじませる。
「お前は本当に泣き虫だな…、男らしくしろと言うのは無理だと思うが、まあルキーノに似たしな。」
「二人目の子育ても、あなたは口出し無用ですからね。」
「なんでだ!」
「日常生活に支障が出るような報連相のできない大人に育ってほしくないという親心ですねえ。」
にべもなくそう言ってのけるルキーノに、ダラスがたじろぐ。可愛いがるのはいい、しかし可愛いが過ぎて子供の人生を振り回すなど、ルキーノが許さない。
ぐすぐすと再び落ち込んでしまったミハエルの頭を慰めるように撫でながら、ルキーノはニッコリと微笑んだ。
「うまく話をまとめてくださるんですよね?ジルバ様には丁寧にお断り申し上げてくださいな。」
「う、ああ…」
帰りはお父様のお金で美味しいものでも食べて帰りましょうね。そう言って慰めるルキーノの優しい声色であったが、ダラスは取り繕って入るが背筋が伸びるほど恐れおののいていたという。
ガタガタとした道から、城に近づくにつれて舗装された道になる。ミハエルはわざわざ馬車で行くくらいなら歩いてもいいのにとは思ったが、迎えに来たということはつまり、そういう事なのだろう。
サディンに会わないといいな、ミハエルは着飾った自分は見てほしかったが、見合いに行くのにそんな浮ついた気持ちでいるのも良くないだろう。
短く整えられた、生白い自分の手指を見る。自分がもう少し男らしかったら、こんな話はなくなっていただろう。
ふとそんなことを考えてみたが、それはそれでサディンに相手にされないかもしれないと思い直すと、そんなことを考えてばかりいる自分に更に落ち込んだ。
馬車のなかで、難しい顔をしたかと思うとしょんもりとするを繰り返す息子を見つめながら、ダラスは漸くやらかしたかもしれんと思い始めていたという。
綺麗な服を着て、城から迎えに来た馬車に促されるようにのせられたミハエルは、せっかくルキーノに治癒をしてもらったというのに、またその頬を涙で濡らしていた。
心底困ったという顔つきのダラスの目の前で、今まで見たこともないくらいに怒っているルキーノが腕を組んでダラスを睨みつける。
「その目つきはやめろ、めげそうになる。」
「報連相。」
「わかった、わかったから。」
まじでお前本気で許さん。ルキーノだからそんな口調では言わないことはわかっている。しかし、目がそう語っているのだ。
話はルキーノも知っていた。というか、妊娠していた頃にそんな話があがっていたのは覚えている。しかし、なにも成人した当日にお見合いだなんて意味がわからない。水面下で旦那同士で積極的に動きすぎだろう。グレイシス国王もそのことは知っているのだろうか。いや、しらないだろうな。知っていたらきっとルキーノに止めるように進言してくるはずである。
「愛想が尽きました。出ていきます。」
「はあ!?」
「と、喉まででかかっていますから。」
「待て!腹の子はどうなる!」
慌てふためいたダラスの言葉に、今度はミハエルが驚いた。その反応を見たルキーノが、またしてもダラスを睨む。なんで言っていないのだというように。
「か、母さん…お、おめ、おめでとう…はぇ…?」
「第一声がその言葉とは、やはり貴方はいい子ですね、ありがとう…」
「離婚はしないからな!?」
「黙りなさい、あなたは墓穴しか掘らないのですか?」
カッとルキーノに睨みつけられ、うぐ、と喉を詰まらした。ミハエルはより一層混乱の坩堝に入ってしまった。大人しく落ち込むことで、父親に対して静かなる抗議をしていたはずなのに、ルキーノの妊娠と言われればそれどころではなくなる。
ルキーノは、まだ確かではなかったから口にはしなかったと言うが、また父の薬の実験台になったのだとしたら、さすがのミハエルも思うところはある。
「父さん、また怪しい薬で母さんを手籠めにしたのですか…?」
「その怪しい薬を国が後押しして、お前もアドバイスをくれただろうが…」
「二段階アプローチ検証を、母さんで試したのですか?」
「ミハエル、僕も納得していますから、そちらではなく攻めるならお見合いの方を攻めなさい。」
僕はいいから、自分の人生を左右する方を気にしなさい。そう困った顔で言うルキーノは、自分の身に起きていることを棚に上げていることは気づかない。
狭い馬車の中が、まるで弾劾裁判のような状況になってしまった。ダラスはげんなりとした顔をしながら、ルキーノの妊娠については安定期に入るまで黙っているつもりだったという。
「5ヶ月も黙認されていたら、さすがに泣きます。」
「その前に腹でばれそうなものですねえ。」
まだ薄く目立たぬ下腹部を撫でるルキーノを、ミハエルがちらりと見やる。弟か妹ができるらしい。まだ実感はわかないが、なんとなく自分とサディンを重ねてしまった。
産まれた兄弟に告白されているようなもの、というサディンの立場を考えてみたら、たしかに困るかもしれない。ミハエルは、ぺたりとルキーノの腹に触れると、うる、と涙をにじませる。
「お前は本当に泣き虫だな…、男らしくしろと言うのは無理だと思うが、まあルキーノに似たしな。」
「二人目の子育ても、あなたは口出し無用ですからね。」
「なんでだ!」
「日常生活に支障が出るような報連相のできない大人に育ってほしくないという親心ですねえ。」
にべもなくそう言ってのけるルキーノに、ダラスがたじろぐ。可愛いがるのはいい、しかし可愛いが過ぎて子供の人生を振り回すなど、ルキーノが許さない。
ぐすぐすと再び落ち込んでしまったミハエルの頭を慰めるように撫でながら、ルキーノはニッコリと微笑んだ。
「うまく話をまとめてくださるんですよね?ジルバ様には丁寧にお断り申し上げてくださいな。」
「う、ああ…」
帰りはお父様のお金で美味しいものでも食べて帰りましょうね。そう言って慰めるルキーノの優しい声色であったが、ダラスは取り繕って入るが背筋が伸びるほど恐れおののいていたという。
ガタガタとした道から、城に近づくにつれて舗装された道になる。ミハエルはわざわざ馬車で行くくらいなら歩いてもいいのにとは思ったが、迎えに来たということはつまり、そういう事なのだろう。
サディンに会わないといいな、ミハエルは着飾った自分は見てほしかったが、見合いに行くのにそんな浮ついた気持ちでいるのも良くないだろう。
短く整えられた、生白い自分の手指を見る。自分がもう少し男らしかったら、こんな話はなくなっていただろう。
ふとそんなことを考えてみたが、それはそれでサディンに相手にされないかもしれないと思い直すと、そんなことを考えてばかりいる自分に更に落ち込んだ。
馬車のなかで、難しい顔をしたかと思うとしょんもりとするを繰り返す息子を見つめながら、ダラスは漸くやらかしたかもしれんと思い始めていたという。
0
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
悪役令息に転生した俺は推しの為に舞台から退場する
ユッキー
BL
前世の記憶を思い出したアレクシスは悪役令息に転生したことに気づく。このままでは推しである義弟ノアが世界を救った後も幸せになれない未来を迎えてしまう。それを回避する為に、俺は舞台から退場することを選んだ。全てを燃やし尽くす事で。
そんな俺の行動によってノアが俺に執着することになるとも知らずに。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
竜人息子の溺愛!
神谷レイン
BL
コールソン書店の店主レイ(三十七歳)は、十八歳になったばかりの育て子である超美形の竜人騎士であるルークに結婚を迫られていた。
勿論レイは必死に断るがルークは全然諦めてくれず……。
だが、そんな中で竜国から使者がやってくる。
そしてルークはある事実を知らされ、レイはそれに巻き込まれてしまうのだが……。
超美形竜人息子×自称おじさん
虚ろな檻と翡翠の魔石
篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」
不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。
待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。
しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。
「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」
記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
中年冒険者、年下美青年騎士に番認定されたことで全てを告白するはめになったこと
mayo
BL
王宮騎士(24)×Cランク冒険者(36)
低ランク冒険者であるカイは18年前この世界にやって来た異邦人だ。
諸々あって、現在は雑用専門冒険者として貧乏ながら穏やかな生活を送っている。
冒険者ランクがDからCにあがり、隣国の公女様が街にやってきた日、突然現れた美青年騎士に声をかけられて、攫われた。
その後、カイを〝番〟だと主張する美青年騎士のせいで今まで何をしていたのかを文官の前で語ることを強要される。
語らなければ罪に問われると言われ、カイは渋々語ることにしたのだった、生まれてから36年間の出来事を。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる