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「にしてもさ、治癒使わないの?」
「使うと傷跡が残ってしまいますから、体本来の免疫を高めて、自己治癒を促した方が皮膚も丈夫になるんです。」
そういうと、ミハエルは氷嚢をどかしてガーゼの上から冷却効果のある包帯を巻き付けていく。ジキルの男らしい膝に白い手を添えながら丁寧に巻いていると、医務室の扉がノックされた。
「あ、ジキルさんボトムス履けますか?カーテン閉めておくんで、ゆっくりでいいですからね。」
「あ、ああお…」
なんだか妙な返事を返してしまった。にこりと微笑まれて、カーテンを引かれる。扉が開く音がして、どうやら騎士団のうちの誰かが入って来たらしい。
かちゃかちゃとバックルの音を立てて、身だしなみを整える。外ではカルマが呑気にあくびをしているようだった。
「あ、今日はお一人じゃないんですね。」
「ああ、でも治療は終わりましたから。」
入ってきたのは茶髪頭の若そうな男だった。手には一冊の本を持ち、足を組んでソファに座っているカルマを気にするようにちろりと見やる。
「先日、先生が気になってらしたようだったので、本をもってきたんです。もしよければ、いかがかなと。」
「え、わあ…!この間の?わざわざ買ってくださったんですか?」
差し出された一冊は、ミハエルが一文を口にした例の恋愛小説だ。なかなか忙しくて、本屋に行く暇もないミハエルにとって、そのプレゼントはありがたい。そっとその一冊を受け取ると、仄かに香水の香りがした。
「ミハエルせんせ。」
「はい、」
「俺もお腹痛くなってきちゃったなあ。」
カルマが腹に触れながら、唐突にそんなことを宣った。騎士の男は少しだけ渋そうな顔をしたが、隣のカーテンが開いて、ジキルの強面な顔が現れたら、びくりと体を揺らしていた。
「おお、俺の次はカルマが見て貰えばいい、なんだ、お前も具合が悪いのか。」
「いや、自分は本を届けにきただけだからな。」
ニヤリと笑うジキルに少々物怖じしたようにそう宣うと、ミハエルにこまったように微笑みかけて部屋からさっていく。ミハエルは少しだけ熱に浮かされたような不思議な感覚を抱きながらカルマに向き直ると、心配そうにしながら隣に腰掛けた。
「せんせ、お腹痛い。ちょっと見てくれないかな。」
「ええ、それはもちろ、ん…」
ジキルが手に取ったのは、先ほどの恋愛小説だ。ミハエルはカルマを見なきゃと頭ではわかっているのに、なぜか視線はそちらに向いてしまう。すっとカルマの手がミハエルの頬を包んだかと思うと、ゆっくりと引き寄せられるように顔を向けられる。その前髪に隠された不思議な色合いの瞳が光ったような気がした
「ーーーーー、」
「やっぱりな。」
す、とミハエルの瞼が閉じたかと思うと、かくりともたれ掛かるようにカルマの肩口に倒れ込んだ。渋い顔をしたジキルがその本に魔力を流し込むと、どうやら微かにだが術がかけられていたようだった。
「なんだった?」
「服従魔法。」
「オッケ、報告あげとく。あれと関係あるかな?」
「さあな。でもまあその線は疑った方がいいかもな。」
いつまで抱きしめてんだとジキルがカルマの頭を放ったたく。こてりと眠ってしまったミハエルは、以前にも術をかけられていたらしい。今回のものと合わせることで発動するらしく、随分と手の込んだことをするなあと感心さえした。
「ジキルは騎士団探って。なんならエルマーさんにも報告あげとこ。」
「尻尾掴めりゃ楽だけどよ。はあ、添い寝しても良いかな。」
「言い訳あるか。ほら、せんせー起きてー!朝だよー!」
「う、…うう?」
カルマに肩を揺さぶられて、はたと意識を取り戻す。視界いっぱいにカルマとジキルが覗き込んでいるのを見ると、ミハエルは驚きすぎて床にずっこけた。
「ふわぁ!!はぇ、あ、あええ?」
「おわっ、先生どんくさいなあ。ほら、ちゃんとたちな。」
「あ、すみませ…え?」
ジキルによって手を引き寄せられて立たされる。ミハエルはポカンとした顔で首を傾げると、カルマによって口端の唾液を拭われた。
「せんせ、疲れてたんだねえ。俺の肩借りて爆睡してたよ?」
「お腹は?あれ?お腹痛くないんですか?」
「お腹?先生夢でも見てたんじゃない?」
「あれえええ?」
ペタペタと自分の顔を触りながら、わたわたとあわてるミハエルに、ジキルもカルマも顔を見合わせる。ミハエルが密かに人気だというのはわかるが、本人の預かり知らぬ所でこんな犯罪まがいのことをされているとなるといささか心配になってくる。
今回は自分達がいたからいいが、2度目はないとは言い切れない。
「そういえばさ、さっき来た茶髪頭の騎士って誰?」
「はぇ…あ、先日ここに本を忘れて行った彼ですよ。」
「名前名前、なんか名簿とかないの?」
「ああ、そういえばないですね。」
「ないの!?」
呑気なミハエルの言葉に、次に素っ頓狂な声をあげたのはカルマであった。
「普通利用者の名前とか書かない!?」
「最初はやっていたんですけど、急いでいる方も少なくはないのでやめちゃいました。」
「じゃあ、あいつがどこの騎士団かもわからないの!?」
「やけにこだわりますね?まあでも、多分第一じゃないかなあ。」
城の内部にある医務室は、騎士団の兵舎からも近い場所にある。場内にある兵舎は第一騎士団と第二騎士団があるのだが、第二騎士団の兵舎付近の医務室はルキーノが担当していた。
「せんせい…とりあえず俺らは名簿書いてから行くわ。」
「うん、まあ特に意味はないけど、なんかそうした方がいい気がする。」
疲れたような顔をする二人を見て心配気な顔をしてくれるのはとても嬉しいが、あまりに無防備がすぎやしないだろうか。
今回の件は報告としてあげるものの、ジキルとカルマは、やはり定期的にミハエル先生を気にかけた方が良さそうであると判断した。
「使うと傷跡が残ってしまいますから、体本来の免疫を高めて、自己治癒を促した方が皮膚も丈夫になるんです。」
そういうと、ミハエルは氷嚢をどかしてガーゼの上から冷却効果のある包帯を巻き付けていく。ジキルの男らしい膝に白い手を添えながら丁寧に巻いていると、医務室の扉がノックされた。
「あ、ジキルさんボトムス履けますか?カーテン閉めておくんで、ゆっくりでいいですからね。」
「あ、ああお…」
なんだか妙な返事を返してしまった。にこりと微笑まれて、カーテンを引かれる。扉が開く音がして、どうやら騎士団のうちの誰かが入って来たらしい。
かちゃかちゃとバックルの音を立てて、身だしなみを整える。外ではカルマが呑気にあくびをしているようだった。
「あ、今日はお一人じゃないんですね。」
「ああ、でも治療は終わりましたから。」
入ってきたのは茶髪頭の若そうな男だった。手には一冊の本を持ち、足を組んでソファに座っているカルマを気にするようにちろりと見やる。
「先日、先生が気になってらしたようだったので、本をもってきたんです。もしよければ、いかがかなと。」
「え、わあ…!この間の?わざわざ買ってくださったんですか?」
差し出された一冊は、ミハエルが一文を口にした例の恋愛小説だ。なかなか忙しくて、本屋に行く暇もないミハエルにとって、そのプレゼントはありがたい。そっとその一冊を受け取ると、仄かに香水の香りがした。
「ミハエルせんせ。」
「はい、」
「俺もお腹痛くなってきちゃったなあ。」
カルマが腹に触れながら、唐突にそんなことを宣った。騎士の男は少しだけ渋そうな顔をしたが、隣のカーテンが開いて、ジキルの強面な顔が現れたら、びくりと体を揺らしていた。
「おお、俺の次はカルマが見て貰えばいい、なんだ、お前も具合が悪いのか。」
「いや、自分は本を届けにきただけだからな。」
ニヤリと笑うジキルに少々物怖じしたようにそう宣うと、ミハエルにこまったように微笑みかけて部屋からさっていく。ミハエルは少しだけ熱に浮かされたような不思議な感覚を抱きながらカルマに向き直ると、心配そうにしながら隣に腰掛けた。
「せんせ、お腹痛い。ちょっと見てくれないかな。」
「ええ、それはもちろ、ん…」
ジキルが手に取ったのは、先ほどの恋愛小説だ。ミハエルはカルマを見なきゃと頭ではわかっているのに、なぜか視線はそちらに向いてしまう。すっとカルマの手がミハエルの頬を包んだかと思うと、ゆっくりと引き寄せられるように顔を向けられる。その前髪に隠された不思議な色合いの瞳が光ったような気がした
「ーーーーー、」
「やっぱりな。」
す、とミハエルの瞼が閉じたかと思うと、かくりともたれ掛かるようにカルマの肩口に倒れ込んだ。渋い顔をしたジキルがその本に魔力を流し込むと、どうやら微かにだが術がかけられていたようだった。
「なんだった?」
「服従魔法。」
「オッケ、報告あげとく。あれと関係あるかな?」
「さあな。でもまあその線は疑った方がいいかもな。」
いつまで抱きしめてんだとジキルがカルマの頭を放ったたく。こてりと眠ってしまったミハエルは、以前にも術をかけられていたらしい。今回のものと合わせることで発動するらしく、随分と手の込んだことをするなあと感心さえした。
「ジキルは騎士団探って。なんならエルマーさんにも報告あげとこ。」
「尻尾掴めりゃ楽だけどよ。はあ、添い寝しても良いかな。」
「言い訳あるか。ほら、せんせー起きてー!朝だよー!」
「う、…うう?」
カルマに肩を揺さぶられて、はたと意識を取り戻す。視界いっぱいにカルマとジキルが覗き込んでいるのを見ると、ミハエルは驚きすぎて床にずっこけた。
「ふわぁ!!はぇ、あ、あええ?」
「おわっ、先生どんくさいなあ。ほら、ちゃんとたちな。」
「あ、すみませ…え?」
ジキルによって手を引き寄せられて立たされる。ミハエルはポカンとした顔で首を傾げると、カルマによって口端の唾液を拭われた。
「せんせ、疲れてたんだねえ。俺の肩借りて爆睡してたよ?」
「お腹は?あれ?お腹痛くないんですか?」
「お腹?先生夢でも見てたんじゃない?」
「あれえええ?」
ペタペタと自分の顔を触りながら、わたわたとあわてるミハエルに、ジキルもカルマも顔を見合わせる。ミハエルが密かに人気だというのはわかるが、本人の預かり知らぬ所でこんな犯罪まがいのことをされているとなるといささか心配になってくる。
今回は自分達がいたからいいが、2度目はないとは言い切れない。
「そういえばさ、さっき来た茶髪頭の騎士って誰?」
「はぇ…あ、先日ここに本を忘れて行った彼ですよ。」
「名前名前、なんか名簿とかないの?」
「ああ、そういえばないですね。」
「ないの!?」
呑気なミハエルの言葉に、次に素っ頓狂な声をあげたのはカルマであった。
「普通利用者の名前とか書かない!?」
「最初はやっていたんですけど、急いでいる方も少なくはないのでやめちゃいました。」
「じゃあ、あいつがどこの騎士団かもわからないの!?」
「やけにこだわりますね?まあでも、多分第一じゃないかなあ。」
城の内部にある医務室は、騎士団の兵舎からも近い場所にある。場内にある兵舎は第一騎士団と第二騎士団があるのだが、第二騎士団の兵舎付近の医務室はルキーノが担当していた。
「せんせい…とりあえず俺らは名簿書いてから行くわ。」
「うん、まあ特に意味はないけど、なんかそうした方がいい気がする。」
疲れたような顔をする二人を見て心配気な顔をしてくれるのはとても嬉しいが、あまりに無防備がすぎやしないだろうか。
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