こっち向いて、運命。-半神騎士と猪突猛進男子が幸せになるまでのお話-

だいきち

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「う、ぁっ!」
「いぎ、っ…!!」
 
 バコン!まるで爆発が起きたかのような激しい音を立てながら、シスのあてがわれていた部屋の壁の一部が吹き飛んだ。瓦礫から身を守ろうとしたマリーの手から長剣が弾き飛ばされると、瞬きの合間にシスに跨っていた主が何者かによって壁に叩きつけられる。
 ベッドを真っ赤に染めながら真っ青な顔で痛みを堪えるシスの元に慌ただしい足音が近づくと、重そうな前髪を持つカルマがひょこりとシスを見下ろした。
 
「3Pの邪魔しちゃった!?」
「あ…?」
「うっわ。激しすぎるでしょ!肩に風穴開けて、ついに口と尻だけじゃ満足いかなくなったわけ!?」
「カルマ、お前…」
 
 言うに事欠いてそれか!!シスが危ない目にあったと言うのに、この蝙蝠野郎はそんなことしか言えないのか。整った顔を歪めて文句の一つでも言ってやりたいのに、痛すぎてちょっと元気が出ない。シスは震える手で傷口を抑えようとする。しかしその手はカルマ本人の手によって止められた。
 
「なんてね、冗談。ジキル、シスの手当。」
「あいよ、全くこんなことになるなんてなあ。」
 
 バサリとシスの体に着ていた外套をかけたカルマは、相変わらず表情の読めない顔で壁にもたれ掛かる主を見る。すれ違うようにしてマリーを小脇に抱えたジキルが顔を出すと、ポカンとしているシスの肩口に勢いよくポーションをぶっかけた。
 
「いっっっったい!!!!」
「おうおう、んだけ声でんなら大丈夫だなあ。」
 
 歯で豪快にコルクを引き抜いたままのジキルは、かけ終わったポーションの瓶をその辺に放り投げると、痛みにジタバタするシスの頭をわしりと雑に撫でる。脇に抱えたマリーが暴れる。訳のわからない男に抱き上げられたのが嫌だったらしい。ジキルは心底面倒臭そうな顔をした。華奢すぎて力加減がわからんのだから、頼むから暴れないでくれと言うのが本音である。
 
「やだ、っ…離して…!!」
「おめえも話聞かなきゃいけねえから大人しくしとけ。悪いこと言わねえから。」
「やだ…っ、ま、ママに会わせてよ…っ!ユリ、ねえってば!」
「ああもう、うるっせ」
 
 ジキルの言葉を遮るかのように、悲鳴があがった。部屋の壁が震えるほどの大声だ。思わずシスもマリーも動揺のままに閉口する。小さく舌打ちをしたのはジキルだけで、戸惑う二人に気付かぬまま、カルマの方を振り向いた。
 
「ひ、っいぎ、あ、あああ!!!」
「はーいきちんと俺の方見てねえ、怖くない、怖くなーい。」
「や、だあああ、ああや、やめっ…やめろおお!!!」
 
 まるで幼児のような情けない鳴き声を張り上げながら、ジタバタと身を悶えさせる。カルマはその身を拘束してはおらず、ただ顔を固定したまま、その灰色の瞳を真っ直ぐに合わせているだけであった。両手でガシリと顔を固定し、親指と人差し指で目が閉じないように固定する。その特殊な瞳から放つ魔力で、精神的に追い詰めていく。
 
「ほら、お前は隠れなければ喰われてしまうよ。さ、どうする。お利口なお前は一体どこに隠れる?」
「ひ、…っ、ひい、い、あ、」
 
 引き攣った声は恐怖を如実に表す。男は今、真っ暗な部屋にいた。まるで白線で描いたかのような輪郭しかない家具に囲まれた娼館の中、次々と影から現れてくる幽鬼から逃げるようにして物陰に身を潜める。背後から、金属の擦れあう音が聞こえてくる。その音が、どんどんと大きくなってくるのだ。脳内アラームがけたたましく喚くように鳴り響く。金色の瞳をした歪な幽鬼が、自分を探すようにヒタヒタと歩く。あのクローゼットの中に入って、朝が来るのを待っていたい。
 
「お前の後ろに、何がいる。」
 
 耳元で、複音混じりの男の声がした。振り向きたくないのに、体が言うことを聞かない。壁だったはずのそこから、あの金色の目をした幽鬼と同じ瞳の色を持つ赤毛の死神が、目を隠すように、冷たい掌で視界を奪う。鋭利な金属音を立てて鎌を首にあてがわれる感触に、全身の筋肉がこわばった。
 
「ーーーーーーっ、」
「あ、堕ちた。」
 
 グルンと白目を剥いて気絶をしたのを確認すると、カルマはその肩に足をかけて踏みつけるようにして体を床に倒した。しとどに濡れた股ぐらに、情けでシーツをかけてやる。まるで何事もなかったかのように、エルマー直伝の精神支配の術をかけ終えたカルマは、恐ろしいものを見る目で見てくるジキルとシスに照れたように笑う。
 
「やだなあ、別にそんな大したことやってねえって。」
「カルマ、お前何見せたの?」
「エルマーさんとの地獄のかくれんぼ。」
 
 トラウマばりの隠密の授業であった。懐かしむようにしみじみするカルマとは裏腹に、思い出したのかジキルは真っ青な顔をし、シスは自分もやらかしたことがあるのを思い出して渋い顔をする。蜘蛛の巣としてジルバに来られている三人だが、特別授業と称されたあれは、恐怖でしかなかった。
 
 具合の悪そうな顔をして怯えるマリーと目があった。カルマは近づくと、小脇に抱え上げられているマリーと同じ目線になるようにしゃがみ込んだ。
 
「シスの肩の落とし前、お前はどうやってつけてくれんの。」
「ひぅ、っ…!」
 
 カルマの冷たい目がマリーを捉える。人睨みだけで硬直するほどの効果だったらしい。引き攣った呼吸をし始めたマリーに、シスが慌ててカルマの頭を引っ叩く。
 
「一般人に状態異常かけんなばか!」
「いってえ!」
「ああもう、貸して!」
「うわっ、乱暴すんなって!」
 
 過呼吸の状態に陥ったマリーをジキルから奪うと、シスはベッドにその細い体を押し付けるようにして深く唇を合わせた。 
 
「っン…!ンんぅ、ふ…っ、」
「ん、ばか。吐くんだよ。ほら、もう一回、落ち着きなって。」
「ひぅ、ン…っ…ンゃ…う、っ」
 
 ちゅ、と小さな水音を立てながら、鼻で呼吸をさせるために舌に吸い付いて深く絡ませる。シーツをたぐるマリーの震える指に手を絡ませながら、体で押さえつけながら優しく髪を撫でる。見目麗しいもの同士の欲を煽られるような耽美な光景に、カルマもジキルも目のやり場に困ってしまった。俺たちは一体何を見せられているのだ。そんな具合に、今確かにジキルとカルマの思いは一つであった。
 
 唇がゆっくり離れ、赤い舌が唾液を纏って離れる。くたりとしたマリーを抱き上げたシスが、その身を無理やりジキルに抱かせる。
 
「ひぅ、…も、ふぇ…っ…」
「泣きてえのはこっちなんですけど!ったく、ジキル、マリーよろしく。人狼のよしみで。」
「まじでか。」
 
 ゴシリと唇を拭ったシスは、なぜだか不機嫌そうな様子のカルマに不思議そうにしながらも、あまり時間がないのだと手短に説明をする。どうやらミハエルの方はサディンが単身向かっているらしい。あちらにはサリエルもいる。確かに戦力としては申し分ない。

「どうしろっつんだ…」

 シスが簀巻き状態にした主の体を豪快にインベントリに突っ込んでいるのを見て恐れ慄きながら、ジキルは腕の中に押しつけられた己の仲間だという少年を見て、大きなため息を吐いた。なんで俺ってこんな役回りばかりなんだろうなあとぼやくのも忘れずに。
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