こっち向いて、運命。-半神騎士と猪突猛進男子が幸せになるまでのお話-

だいきち

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「んで、これなに。」
「…キメラだ。吸血花とイビルアイのな。」
「ほお、通りで大味だと思ったあ。」

 ぺしょりと手についた体液を舐めるカルマの膝の上には、先程の魔物の大きな目玉がある。サディンは研究局に頼んでカルマにシャワーを浴びさせることに成功した後、さてなにがあったかの話し合いをはじめたのだが、相変わらずマリーとジキルの人狼二人は匂いがだめらしい。二人は大人しく研究局の外で二人並んで立っていた。
 しかし、研究局が臭いのはいつものことだとしても、まさかの魔物が現れたとなると話は別だ。仮にも城の中で、しかも国の産業を担う部署をピンポイントで狙うなど、いよいよきな臭い。サディンはひとまず見慣れない魔物のキメラはどうしたのかと聞くと、ダラスは珍しく言い淀む。

「…俺の机の上に置いてあった。」
「は?」

 言っている意味がわからぬまま、おもわず聞き返す。サディンから顔を背けたまま、もごもごと口を動かすダラスに、研究員のロンは痺れを切らしたように口を開いた。

「あなたの好奇心で危うく死ぬところだったんですよおおお!!もおお、なんですぐ開いちゃうんですか!!局長が迂闊に開封なんかしなければ、あんな訳のわからない魔物に襲われることなんてなかったんですからね!?」
「開封…、荷物として届いたということか?」

 ロンの言葉にサディンが難しい顔をする。どうやら納品とともに紛れていたらしい。種子が包まれていたその紙は、ほのかに魔力を帯びていたという。
 サディンはポケットからハンカチを取り出すと、その布の中身をダラスに見せた。

「なんだこの毛は。」
「殺されたマイアの牢に落ちていた。キメラの件といい、いよいよきな臭くなってきた。ジキルが言うには、この毛の持ち主はセリアンスロープらしい。」
「セリアンスロープ!」

 サディンの言葉に、ロンが反応した。どうやらとても珍しい半魔らしく、まるで取りすがるかのようにサディンの手のひらを覗き込むと、どこからか取り出したピンセットでその毛をつまんだ。

「はああ、珍しいこともあるものですねえ。セリアンスロープっていったら、よほど魔物の血が濃くないといけません。ああ、ほんとうだ。本体から離れてもわずかに魔力を帯びている。これならすぐに持ち主はわかりますよ。」

 ロンは眼鏡をかけ直すと、ごきげんな様子でインベントリからくまのぬいぐるみを取り出した。ダラスは何をするかわかったらしい、納得するかのように頷くと、意味を理解していないサディンに顔を向ける。

「ロンは探知術に人形をつかうんだ。あいつがぬいぐるみを取り出したとなれば、すぐに見つかるだろうよ。」
「セリアンスロープ、僕も生で見たことないんですよねえ。さて、いきますよももちゃん。」

 ニコニコ顔のロンの取り出した、ももちゃんと名付けられたピンクの耳も顔もない人型のぬいぐるみに、カルマが反応した。あー!!と一際大きな声を上げて立ち上がると、ぎょっとしたサディンは何事かと振り向く。

「ロン!!!おま、お前もしかしてパペットメーカーか!?こんなとこにいたのかよ!!くっそ、灯台下暗しじゃん!?」
「うはは、知らぬ間に人気者になっていたようです。さてと、ならば皆さんお立ち合い。抜け穴に通すは細い糸。」
「パペットメーカー?」

 サディンの疑問に答えぬまま、ロンは妙な言葉を紡いだすると、いつの間にやら手の中に細長い針を出現させた。その針穴の中に、サディンに渡された体毛を術で圧縮し細い糸にすると、それを穴に通した針をズブリとピンクのぬいぐるみに差し込んだ。

「さて、何になるかなあ。」
「これは、」

 ロンが床においた人形が、プルリと震える。幼児の愛玩具でもあるそれが、中に針が入っているにも関わらずにぐにゃりとその身を変化させる。凹凸も何もなかった頭には大きな耳、そして四足のデフォルメされた獣姿になると、その尾は二股に別れた大きなものになった。狼にも見えるが、口吻は少し細い。デフォルメされてはいるが、それは確かに狐のような形をしていた。

「テウメシアン!!」

 嬉々としたロンの声が上がった。まるで聞き慣れないその魔物の名に、怪訝そうな顔をする。説明を求めるようにダラスがロンの脇腹をどつくと、おや、これは失敬。などと、まるで悪びれることなく居住まいを正す。どうやらダラスにとっても聞き慣れぬ魔物らしく、ボタンの瞳で大人しく四足で立っているぬいぐるみを見ると、ロンがごきげんな様子でボードをガロガロと持ってくる。

「さて、皆さんお勉強の時間ですよ。まずはえーと、ジキルくんこっちおいで!」
「くせぇからいやだ!」
「カルマ君だと説明しづらいんだよ!彼は獣人じゃないもの!」

 マリーは泣きそうな顔でぶんぶんと首を振っているが、ロンはおかまいなしのようである。ジキルは己のインベントリから布を取り出すと、まるでその匂いを遮るかのように鼻から下に巻き付けた。

「そんなに嫌なら俺が結界張るが。」
「それだ!!頼む団長!」
「はいはい。」

 魔力の無駄遣いだが、まあ話が進まねば先が見えぬ。サディンは指を縦に振りおろして二人を包むそれを展開させると、キン!という涼やかな音を立てて出来上がった。

「さて、ジキルくんは本性だせる?そこの君は部分的でいいよ。」
「ぼ、僕も?」
「そうだよ!出し惜しみなんてしなくていいからね。これは魔物の授業みたいなものだからね!ダラス局長、あなたもサディンくんの隣にお座りください。」
「仕方ない、付き合わねば進まんからな。」
 
カルマの横にサディンが。そしてその隣にダラスが腰掛けると、ジキルは指を引っ掛けるようにして上顎と下顎に手を差し込んだ。

「ほんほにやふのは。」
「なんだい君。まだ、見せてなかったのかい?」
「らっへぐろひらほ。」
「何言ってっかわかんないからとりあえずやんなよ。」

 どうやらカルマは見たことがあるらしい。戸惑った顔で何度もジキルを見上げるマリーも、同じく人差し指以外を握りしめたままおろおろしている。ロンから、君は耳と尾だけと言われるとホッとした顔をする。髪を揉むように耳を立て、尻から引っ張るかのように尾を表すと、豊かなそれを体の前で抱きしめた。

「…はあ。」

 ため息を吐くと、ジキルはまるで両手で顔を横から引き裂くかのようにして、思い切り己の顔を剥いた。見えた肉の色が黒く艶を帯び、その皮膚と皮膚の切れ間から一気に魔力が吹き出ると、あまりの光景にサディンとダラスが目を丸くした。まるで、文字通り人の皮を被っているかのような変化の仕方だ。ようやく転化を終えると、ジキルの顔の周りに漂っていた黒いモヤが消える。

「はい、お疲れ様。」

 絶句するサディンとダラスとは裏腹に、ご機嫌にパチパチと拍手をするロンの隣で、顔を完全な狼の魔物にしたジキルが、目元に傷を残した本性の姿で二人を見つめ返した。


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