こっち向いて、運命。-半神騎士と猪突猛進男子が幸せになるまでのお話-

だいきち

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「このように、リカントロープはベースは人型。ほら見て、この大きな手に怖い爪!人型のときよりも攻撃力が増すんだよ!」
「おい嘘だろ。このまま話し始めんのかよ。」

 呆気にとられているサディンたちを無視して始まった講義に、待ったをかけたのは他でもないジキルである。狼の顔を嫌そうに歪めて宣う姿が面白い。口吻はあまり動いていないのに、どういう構造で話しているのか少しだけ気になる。

「ちなみに、リカントロープの雄型がこんな感じになるんだけどね、雌型はこのこのように転化が下手くそな子が多いんだ。上下関係がはっきりしている人狼たちは、こうして己の所有印を群れの下の者たちにつける。」
「わ、っ!」

 ロンによって後ろを向かされたマリーの項や首周りに、ジキルのマウントの痕が残っていた。痣だらけであるが、ロンいわく、こうされることで守る意味合いもあると聞いては、サディンもカルマもじっとジキルを意味ありげに見つめた。

「やめろ。こっち見んな!吠えるぞ!」
「いつも無駄吠えばかりだろうが。」
「ああ!?やんのカルマ表出ろコラァ!!」

 ギャンギャンとやかましい二人に顔を顰めながら、サディンは話の続きを促す。ロンは怖いもの知らずらしく、ジキルの腕をがしりと手に取ると、それを脇の下に挟んで固定した。

「そんでね、セリアンスロープはジキル君のように人型を取るには、完全に人間の姿しかできない。逆に彼らは四足の獣になる代わりに、こんな具合に部分的な転化は下手くそなんだ。」
「おい離せや!脇が生暖かくて気持ちわりい!」
「おや、随分ないいようだ。」

 サディンたちが見やすいように固定していたジキルの腕を、ぱっと離す。そんなロンの様子を、サディンはぽかんとした顔で見つめていた。どうやら異様な光景だったのはサディンにしかわからなかったようで、その様子にカルマが首を傾げる。

「ロン、お前は聖属性か?」
「おや。そういえば団長はそちら側だったね。」
「は?」

 ニコニコしながらロンは肩をすくめた。だって、ありえないことに、ロンはサディンの目の前で、結界を施していたジキルに触れたのだ。サディンの結界は、その展開した結界と同じ魔力の波長を起こして打ち消さないと中には入れない。あの一瞬でそれをやってのけたロンに、サディンは酷く狼狽えた。

「サディン、こいつは半魔の癖に、なぜだか聖属性もちでな。」
「うんうん、きっと前世で余程の徳を積んだのでしょう。生まれた頃から、かの方への信仰は変わりありません。」
「この間母さんきたけどな。」
「ええ!!なんで教えてくれなかったんですか!!ずるい!!」

 ロンは心底残念そうに宣うと、その灰色の髪の間から、真っ赤な瞳をサディンに向けた。カルマのように重そうな前髪だとは思っていたが、ロンには片目がなかった。生まれた頃からずっとそうらしい。
 どうやらそこを大胆にも異空間収納にしているらしく、ロンは楽しげにそこから飴玉を取り出した。

「ももちゃんがしっかりとセリアンスロープを見つけたら、あなたのお母さまにあわせてくださいねえ。」
「考えておく。」
「おやまあ、俄然やる気がでてきました。」

 ロンはそう言うと、ももちゃんとよんだ変化を済ませたぬいぐるみの頭を、撫でるようにして術をかけた。びくん!と四肢を突っ張らせながら固まったかと思うと、その動きがなめらかになる。綿の詰め込まれた鼻先をふんふんと動かしたかと思えば、タタッと軽い足音を立てながら駆け出す姿は、ぬいぐるみというよりもそう言った魔物のようにすら見える。

「ほら!追って!追わないと見失っちゃいますよ!」
「わかった、ダラス、ロン、ありがとうな!」
「まて、俺はこのままか!?」
「ひゃっ、」

 ぬいぐるみを追って駆け出したサディンに、ジキルは慌ててマリーを小脇に抱えて後を追う。カルマは部屋着のようなラフな格好に、目玉を抱きしめながらロンへ振り向いた。

「お前も蜘蛛の巣の一員なら、会議の一つくらい参加しろよな!」
「おやまあ。」

 言い捨てるかのように忠告をすると、3人の後を追うべく姿を消す。ダラスはロンの頭をぺちりと叩くと、疲れたような顔をして椅子にすわる。

「お前の秘密主義も大概にしろ。」
「ええ?だって僕、今の生活で満足してますし。いいではないですか。有事の際だけ頑張れば。」
「ジルバはそれでなんて言ってんだ。」
「ええ、裏切らないなら好きにしろと。裏切るわけないですよね!僕、死ぬなら御使い様に看取られてって決めてるんですから!」

 目を輝かせながらロンが言う。エルマーが聞いたら憤慨しそうだ。しかし、ロンにとってエルマー一家こそが信仰の対象であった。ご機嫌に散らかった室内を片付け始めるロンの姿を見て、ダラスはつくづく敵にならなくてよかったと思う。
 蜘蛛の巣のメンバーの中で、ロンだけは異色だ。半魔でもあるロンは、見た目では何かはわからないが、実のところナナシが関わった何かの生まれ変わりなのではと踏んでいる。それがなにかは分からないが。

「ロン!おまえドサクサに紛れてどこにいこうとしている!」
「おやあ!ちょっと自室に、今日あったことを日記にしたためねば!」
「業務時間外にやれ、そんなものは!」
「この間は許してくれたのに!」

 なんでえ!と衝撃を受けているが、この間は主にサディンの件で色々とあったので、それはノーカンだ。ダラスはロンの首根っこを掴むと、滞っていた改良版の妊娠薬の研究を進めることにした。

「む。」
「おや、なにか探しものでも?」
「いや、カプセルが無くてな。」
「カプセル?」

 たしかこの辺にあったような、と続けながら、ダラスは散らかした机の上をバサバサといじくる。ロンは顎に指先を当てながら、何かを思い出すように暫くの間口を噤んだ。

「最後に出したのって、いつでしたっけ?」
「培養液につける前段階だ。だから、ええと…」
「あ、ゴブリンの耳の大量納品の日では?ほら、たしかミハエルちゃんと構築がどうのって。」
「…あーーーーー。」

 どうやら思い至ったらしい。ダラスが頷きながら渋い顔をする。そういえば、あのとき内線がかかってきて、ミハエルに薬を取られたままだった。薄青の液体が入ったカプセル。サンプルの予備はあるので問題はないが、まあミハエルが持っているのなら悪用もし無いだろう。

「ま、ミハエルちゃんが持ってるなら大丈夫でしょう。あの子は仕事となるとしっかりしますし。」
「一言多いんだよお前は。んで、なんだったかな。」
「ああほら!これですよ。風邪薬と見た目が似てるから、誤って服用しないように色味を変えるってやつです。」

 ロンが取り出した書類には、そう書かれていた。確かに素人目でみればどちらが妊娠薬だとはわかりにくい。若干液体の色が違うくらいか。別に流通前なので急ぐこともないのだが、まあとにかく先にやっておいて悪いことはないだろう。

「これが広がれば、負担が減りますから。実にいい仕事をしましたねえ局長!」
「まあ、熱は出るのは仕方ないがな。」

 そういって、先日のミハエルの発熱を思い出した。

「ああ、そういえばミハエルの風邪薬を作っておかねば。」
「え?お風邪をお召しに?」
「ああ、まあ疲れがでたのだろう。」

 ダラスはそう言うと、忘れぬようにメモに認めた。
 治ったとはいえ、ミハエルは体が強いわけではない。親ばかと言われようが、ダラスにとってミハエルの体の些細な変化も、こうして気にかけてやらなくてはと思っていた。何せダラスにとってのミハエルは、愛おしい大切な一人息子なのだから。


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