こっち向いて、運命。-半神騎士と猪突猛進男子が幸せになるまでのお話-

だいきち

文字の大きさ
87 / 151

86

しおりを挟む
「だああ!!意外とすばしっこい!!」
「狩りだと思え!!」
「よく言うよ全く!ああ、紐つけときゃよかった!」

 タタッと軽やかに通路をかけながら、そのぬいぐるみは後ろの四人など気にもせずに突き進む。ジキルの首にしがみつくようにしていたマリーはというと、なんで自分も巻き込まれているのだろうと泣きそうだった。

「おら、待てこら!!」
「ジキル!捕まえようとするな!」
「ねええもう俺もはしりたくないんだけどおおお!」

 目玉を抱きかかえながら文句を言うカルマに同意するかのように、後ろで二人も首を振る。このぬいぐるみときたら、まるで当てつけのようにわざと階段の方ばかりを選ぶのだ。お陰でトレーニングもかくやと言わんばかりの運動量である。こんな具合では、いざ戦闘となってしまえばうまく動けるかもわからない。サディンは少しだけ悩んだ後、くるりと振り向いてジキルとカルマに強化魔法をかけた。

「やっぱりまだ走れってか!!!」
「こんなところでへばられてたまるか。ほら、もうつくだろうから頑張れ!」

 ぬいぐるみが、ぴょんと跳ねて窓から飛び降りる。ぎょっとしたのもつかの間、サディンは躊躇いなく窓から身を乗り出すと、ぬいぐるみが外のバルコニーを階段代わりに上がっているところだった。なるほど、ショートカットすると言うことか。欄干を掴み、そしてサディンも飛んだ。

「むりむりむりむり!!!」
「うるさい!ならお前たちは執務室にそこから向かえ!」
「団長まじでわんぱくだな!?」

 なんの躊躇いもなく、命綱さえなしで城の外壁をよじ登ると、そこから長いコンパスを駆使してバルコニーを足場に駆け上がる。窓ガラス越しにサディンを見たものは、皆一様に呆けたり、はては飲んでいたカップを落とすものまでいた。
 ぬいぐるみが、漸く目的地についたらしい。まるでサディンを待つかのようにぷよぷよと浮かんで待っている。まったくのんきな顔をして、飛んだ鬼教官だなと草臥れながらカインの部屋のバルコニーに降り立った瞬間だった。

「っ、」

 ひゅう、という空を裂くような音とともに、突然短剣が飛んできた。慌ててその柄を掴み構えると、周りの空気が静電気を帯びた。

「くそ、なんだってんだ!」

 危険を察知し慌てて放り投げた短剣に向かって、稲妻が一直線に走る。握りしめることを見越していたらしい。やけに周到過ぎて関心すらする。身を低くして結界を展開させると、頭上から斧を持ったイズナが身をひねり遠心力を加えた勢いで襲いかかってきた。

「っ、硬…」
「ああ、褒めてくれてありがとよ。」

 斧を弾いた反動で降り立ったイズナは、まるで暗殺者のような鋭い瞳でサディンを睨む。気が立っているようだ。ちろりと執務室に目を配ばると、あっけにとられた顔でカインが突っ立っていた。

「殿下の私室への不躾な訪問。貴殿が騎士団のものであるならなおさらに悪い。その行いを悔いるがいい。」
「俺はカインじゃなくてお前に会いに来たんだよ。そんな熱烈に見るなって。」
「無駄口を!時間稼ぎをするのなら、もう少し考えて物を言いなさい!」
「どわっ、」

 イズナの手から伸びた鎖がサディンの足に絡まる。引き寄せるように飛び込んできたイズナの武器を持つ手を鷲掴むと、そのままわざと背中から外へ身を投げた。 

「イズナ!!サディン!!」
「おま、っ…」

 目を見開いたカインが、取りすがるかのように欄干に手をついて覗き込む。叫ぶカインの背後から漸く駆け込んできたジキル率いる三人が、その姿に血相を変えた。

「だああ!!なんでこんなことに!!」
「おま、おまえら!!はやく二人を助けにいけ!!」
「団長ーーーー!!!」

 三者三様ぎゃあぎゃあとやかましい。サディンはイズナを抱き込むと、そのままくるりと身をよじる。腕の中で身じろぐイズナが、酷く慌てた様子でサディンを見た。このままでは、地べたに身を叩きつけて死んでしまう。

「転化すりゃあいいじゃん。」
「な、っ」
「ああ、時間切れ。ミュクシル!」

 イズナを抱き込んだまま、手を下に向けた。その瞬間、まるでその手を取るかのように黒いなにかがサディンの腕を掴むと、ぐんっ、と引っ張られるかのような重力と共にイズナとサディンは中に浮かんだ。いや、滞空した。

「うわあああ!!」
「うるっさい、耳元で騒ぐな。」

 サディンの腕を掴んで飛び上がったのは、金の三眼をもつ恐ろしい顔をした幽鬼であった。魔物の中でも割とメジャーな幽鬼だが、この目の前の歪な魔物は手懐けられている様子だった。サディンとイズナの腰に、鎌のような腕を回す。そうしたかと思えば、そのままま下の中庭に向かって、木や壁面に飛び移るように勢いを殺しながら降り立った。

「っ、…貴様!!」
「なんだよ。やんの?」

 図上ではホッとした様子でカインが欄干に突っ伏していた。どうやら無事だと確認した途端に腹が立ってきたらしい。中庭の真上からは口汚い野次が飛んでくるが、それは恐らくジキル達だろう。

「イズナ、お前を拘束する。今回の娼館の件で、マイアを殺したのはお前だろう。」
「…何を言っている。」
「理由なんて知らないよ。聞きたくもねえしな。ただ、蜘蛛の巣に一人便利なのがいてね。」

 ニコリと笑ったサディンが、ぬいぐるみを放り投げた。訝しげな様子でそれを受け取ったイズナは、その間抜けな顔をしたキツネのぬいぐるみを見てピクリと反応した。

「マイアの牢に落ちてた体毛を媒介に、探知魔法を使った。パペットメーカーってのは随分と便利なんだなあ。」
「パペットメーカー、ああ…そんなのがいるのか。」

 イズナはぽそりと呟いた。人形を持つ手をおろし、そして肩を落としたかのように静かにうつむく。

「蜘蛛の巣。厄介だな…きちんと調べておけばよかった。」
「イズナ、お前の目的は、」

 サディンがそう言いかけて、口を噤んだ。

「オスカーだって、まだ殺していないのに!!」

 そう、ひどく苛立ったような声色でイズナが吠えた。そのとき、ぶわりとイズナの周りの魔力が張り、その影がざわざわと揺れ動く。木から離れて舞っていた葉の一枚が、その先から徐々に葉の色をモノクロに変えていく。やられた、イズナとサディンのいる空間を切り離したのだ。

「…城を壊さない配慮?さすが殿下付きの侍従は仕事ができるね。」
「後片付けが面倒なのはいやなんだ。」

 イズナの足元から、帯のように黒い影が這い上がる。その身をしゅるしゅると巻き取るかのように全身を黒く染め上げたイズナが、その瞳を光らせながらゆっくりと転化していく。

「おいおい、人形と全然違うじゃんかよ…」

 じゃり、音を立ててサディンが地べたを踏みしめる。空間から切り離された時点で、ミュクシルも存在を保てなくなってしまった。サディンの体に大きな影がかかる。ゆっくりと距離を取るように後ずさりをする姿を見下ろすように、イズナは2つの尾をもつテウメシアンなる大きな狐の魔物に姿を変えた。



 
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

悪役令息に転生した俺は推しの為に舞台から退場する

ユッキー
BL
前世の記憶を思い出したアレクシスは悪役令息に転生したことに気づく。このままでは推しである義弟ノアが世界を救った後も幸せになれない未来を迎えてしまう。それを回避する為に、俺は舞台から退場することを選んだ。全てを燃やし尽くす事で。 そんな俺の行動によってノアが俺に執着することになるとも知らずに。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

虚ろな檻と翡翠の魔石

篠雨
BL
「本来の寿命まで、悪役の身体に入ってやり過ごしてよ」 不慮の事故で死んだ僕は、いい加減な神様の身勝手な都合により、異世界の悪役・レリルの器へ転生させられてしまう。 待っていたのは、一生を塔で過ごし、魔力を搾取され続ける孤独な日々。だが、僕を管理する強面の辺境伯・ヨハンが運んでくる薪や食事、そして不器用な優しさが、凍てついた僕の心を次第に溶かしていく。 しかし、穏やかな時間は長くは続かない。魔力を捧げるたびに脳内に流れ込む本物のレリルの記憶と領地を襲う未曾有の魔物の群れ。 「僕が、この場所と彼を守る方法はこれしかない」 記憶に翻弄され頭は混乱する中、魔石化するという残酷な決断を下そうとするが――。

竜人息子の溺愛!

神谷レイン
BL
コールソン書店の店主レイ(三十七歳)は、十八歳になったばかりの育て子である超美形の竜人騎士であるルークに結婚を迫られていた。 勿論レイは必死に断るがルークは全然諦めてくれず……。 だが、そんな中で竜国から使者がやってくる。 そしてルークはある事実を知らされ、レイはそれに巻き込まれてしまうのだが……。 超美形竜人息子×自称おじさん

【本編完結】キミの記憶が戻るまで

こうらい ゆあ
BL
付き合って2年。 朝陽は福岡に出張中、恋人である琥太郎が事故に遭ったという連絡を受け、慌てて大阪へと戻ってきた。 慌てて病院に駆け付けたものの、彼から言われたのは「あの、どなた様ですか?」という他人行儀な言葉だった。 しかも、彼の恋人は自分ではない知らない可愛い人だと言われてしまい…

処理中です...