こっち向いて、運命。-半神騎士と猪突猛進男子が幸せになるまでのお話-

だいきち

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「ぅ…、っ…い、いた…っ…」
 
 寝返りを打とうとして、体の節々が悲鳴を上げた。ミハエルは横たわったままぼんやりと目を開ければ、そこは以前きたサディンの兵舎の私室であることに気がついた。
 
 なんでこんなところにいるのだろう。ぼうっとしたまま、肌触りのいいシーツの感触を素肌に感じる。全身が気だるくて、熱はないけれど、指一本も動かせないようなそんな感じだ。
 扉が開いて、サディンが入ってくる気配がした。ミハエルはサディンの顔が見たかったけれど、緩慢な動きではサディンの方が速かった。
 
「起きたか。」
「サディン…?」
「ああ、声ひどいな。」
 
 くすくす笑ってベットに腰掛ける。ギシリと抗議を揚げたスプリングがサディンの体重によって傾くと、ミハエルの柔らかな頬にそっと手を伸ばした。
 
「清拭したくらいだから、起きれそうなら風呂に行かないか。」
「おふろ…う、っ」
 
 確かに体は暖かい湯を欲している。ミハエルはモゾモゾと動こうとして、びきりと走った腰への鋭い痛みにヘナヘナとうずくまった。
 
「ああ、…すまん。大丈夫か、腰。」
「うう…、へ、平行にしていれば…だ、大丈夫です…」
「それはだいじょばないやつだな。」
 
 苦笑いをしたサディンが、そっとミハエルの腰に手を添えた。暖かな光と共に施された治癒に、ミハエルの腰の痛みが緩和する。ほう、と気持ちよさそうな吐息を漏らすと、サディンの大きな手が優しく頭を撫でた。
 
「あんなとこで抱いて悪かったな。」
「あ…、」
 
 サディンの言葉にじわじわと顔を赤くする。そうだ、まさか3回目があんなことになるとは思わなかった。ミハエルは気恥ずかしそうに小さく頷くと、サディンはその体を抱き寄せるかのようにして布団から引き摺り出した。
 
「わ…っ、」
「風呂行くぞ、この時間なら他のやつは使ってないから大丈夫だ。」
「へ、兵舎の、ですか…。」
「大浴場、入ってみたいとか言ってたろ。」
 
 確かに前にそんな事を言った気がする。裸のままのミハエルと違って、サディンはラフな格好である。己も服を貸して欲しいのに、どうせすぐ脱ぐとか言ってシーツだけ巻きつけただけであった。ミハエルは横抱きにされると、恥ずかしそうに肩口にもたれかかる。
 
「なんか、体がまだ変です。」
「そんなこと言ってると確かめるけど?」
「け、結構です…。」
 
 サディンは絶倫なのだろうか。ミハエルはその発言に若干慄いたが、くつくつと笑っているあたり冗談らしい。全くもって心臓に悪い事極まりない。男として羨ましいほどの体躯は、ミハエルの華奢な体を軽々と持ち上げる。
 
「体調は?事後に言うのも変だけど。」
「え?」
「おい、この間顔真っ白だっただろ…。忘れたのか?」
「あ、ああ、ええと…」
 
 そういえば、今朝方気持ちが悪くなって吐いたことを思い出した。不思議と今はなんともないが、これは大丈夫と言ってもいいのだろうかと逡巡する。どうやらサディンにはお見通しらしい、隠すなと言わんばかりにコツンと軽く頭突きをされてたしなめられた。
 
「明日も仕事だしな…。心配だし、お前早上がりなら、帰りにここに来いよ。」
「なんでですか。」
「心配してんだよ。また倒れんじゃないかって。昼時もスープとホットミルクだろ。無理なダイエットでもしてんのか。」
「そう言うつもりは、ないんですけど…。」
 
 そこまで見ていたのかと思うと気恥ずかしい。ミハエルを抱いたサディンは深夜の兵舎の廊下を進み、大浴場まで淀みなく向かう。暗くて見えづらいのになあとチラリとサディンを見上げると、どうやら夜目が効くらしい。金眼が爛々と輝いていて、獣のようだと思う。
 
「ん、悪いけど扉開けて。静かにな。」
「はい、…っと、もう少し近づけますか。」
「おう。」
 
 ミハエルが抱えられたまま引き戸をそっと開けると、サディンが中に入る。入ってきたと同じくらい静かに扉を閉めれば、そこは大きな脱衣場となっており、ガラス戸の向こうは石づくりの浴場となているようだった。
 
「わ…、初めてきました。」
「下ろすぞ。ほら気をつけてな、」
「あ、うん…は、はい…。」
 
 首にすがるように抱きつくミハエルを、サディンが優しく下ろす。思わずうんと言ってしまったミハエルが、慌てて訂正をするのを少しだけ残念に思ったらしい。シーツを巻き付けたミハエルの頬をそっと撫でる。
 
「うん。でいいよ。」
「え、」
「お前に敬語使われると、なんか悪い大人になった気分だ。抱いた後だし。」
「だ、だってずっと敬語ですよ…。」
「俺がミハエルを、お前って呼ぶようになたのは、一応俺のだっていう主張の一つなんだけど。」
 
 無骨な指が、そっと長い髪を耳にかける。サディンの所有物発言にじわじわと顔を赤くする様子に満足そうに微笑むと、ムニリとミハエルの鼻を摘む。
 
「ふぐ…っ…」
「ヨナハンに言われたこと、気にしてるわけじゃないけど。」
「へぁ…」
「お前も、俺に遠慮しなくなればいいんだ。」
「あいたっ、」
 
 軽く押すように鼻を離せば、頰だけではなく鼻まで赤くしたミハエルが、はわ…と謎の吐息を漏らして胸に手を当てた。なんだそれ、めちゃくちゃ気にしているではないか。まさかのサディンがヨナハンを敵対視しているのが可愛くて、ミハエルの情緒はおかげさまで大忙しである。サディンの手がミハエルの手を掴んで、軽く引くように浴室の中に入る。あれよあれよと言う間にシーツを剥ぎ取られ、座らされた風呂場の低い椅子。なんで僕だけなのだろうとキョトンとサディンを見上げると、腕まくりをしたサディンがにこりと笑う。
 
「俺のなんだから、俺がくまなく洗うのは当然だろう。」
「え?」
「大丈夫、俺ギンイロもよく洗うし、こう見えて結構うまいから。」
「な、なんの話ですか…あ、ちょ、ちょっとまっ、」
 
 満面の笑みでミハエルに容赦なくお湯をぶっかけたかと思うと、いつの間にやら泡立てたスポンジを握ったサディンが、ミハエルの上半身を抱き込むかのように手を滑らせる。自分の服が濡れるとか、気にしないのだろうか。ミハエルはえほえほと咳き込みながら、せめて脱いで、と言おうとしたのだが、サディンの男らしい体に、濡れて張り付いた衣服を見て思わず口をつぐんだ。
 
「こういうの、好きだろうと思って。」
 
 確信犯だ。サディンはミハエルの大好きな、意地悪を言うときの口調でそんな事を宣う。衣服が張り付いて透ける肌は、なんとも色っぽい。ミハエルだって男の子だ。好きな子のそういう姿だって、つい目の前に晒されたら見てしまうのは性である。尻で抱く方ではあるが。
 
「す、きです…」
「ぶはっ…くく、っ、ほら、洗うから前向いてな。」
 
 照れたように呟くミハエルがツボだったらしい。サディンのちょっとした悪戯心がミハエルに見事ヒットしたのをいいことに、サディンの手の動きに若干の悪意が混じる。

「なら、俺も好きに洗うかな。」
「あ、や、やっぱりいらな、」
「遠慮しないで、年下は年上に甘えておきなさい。」
 
 さっきまで年齢差地味に気にしてたじゃないですか!ミハエルはそう思いながらも、事後の敏感な体を悪戯に刺激されて仕舞えば、もうどうしようもない。ミハエルは学んだ。サディンが甘えてくるのも嫉妬をしてくれるのも幸せなことだが、甘やかしすぎて己が痛い目を見ないように、時には流されないという己の強い意志を持たねばならないと。
 静かな浴場で、火照った体を持て余したミハエルをあやしながら、今日のことを思い出して勃ってしまうことがあれば、その時はまたミハエルに慰めてもらおうかなあと自己都合甚だしいことをサディンが思っていたことを知っていれば、間違いなく今が嗜めどきだったのだが、ミハエルはそんな内心を汲むことができぬまま、結局流されるがままにサディンによって美味しく頂かれてしまったのであった。


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