こっち向いて、運命。-半神騎士と猪突猛進男子が幸せになるまでのお話-

だいきち

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「絶対にへんだよ。」

 兵舎の食堂、カルマは庭師姿のまま、シスに絡みに昼間っからお邪魔していた。フォークにさした肉をバクリと食べると、ピアスの着いた舌でべろりとソースを舐めあげる。

「絶対に、へんだ。」
「うるさい、2度も言うなって。」
「だってさぁ~」

 カルマは行儀悪く皿を横に除け、空いたスペースに肘をつくとシスを上目で見上げる。相変わらず目の前の同僚は自分の体には気を使っているらしい。趣味のセックスをする日なのだろうか、昨日から野菜しか食べていない。

「大体なんでそんな気にしてんのさ。いいじゃん別に、サディンが機嫌悪いと指導きついしさー。」

 もそもそと葉物野菜をフォークに突き刺して食べるシスを見ながら、カルマは不貞腐れたように唇を尖らせる。

「淫魔のくせに菜食主義?」

 トレーをもって、シスのとなりに腰掛けてきたのはヨナハンだ。どうやらガッツリ食べる気らしい。午後の訓練を考えているのかいないのか、燃費が悪いのかもしれない。シスのトレーに添え物の果実を乗せる。

「ちげーよ。肉食べると体臭きつくなるっしょ。抱いてもらうのにそれは嫌じゃん。」
「へえ、過小評価しすぎじゃない?中にはそんなのがいいっていうやつも居るかもよ?」
「ヨナハン、お前シスにちょっかいかけるなよな。」

 さんきゅー、といってヨナハンからもらった赤い実を齧る。カルマはなんだかそれが面白くない。ヨナハンは少しだけカルマの声色に棘を感じたらしい。片眉を上げると小さく微笑まれた。

「で、何の話してたの?」
「ああほら、子犬ちゃん出張してんじゃん。それなのにサディンがやけに機嫌いいからきみわりいって。」
「え、いないの?」
「いないよ。あと2ヶ月は帰ってこない。」
「そうなのか…、つまんないな…」

 ヨナハンはフォークに巻いたパスタをバクリと食べる。片手間にパンを齧ると、隣りにいたシスの腕が肩にまわる。

「なに、お誘い?」
「馬ちんこ興味あるけどね。ヨナハンさ、子犬ちゃんのこと好きなの?」
「シス!」
「なんだよ、いいじゃん減るもんじゃないし。」
「ちがうってば、お前パーソナルスペースなさ過ぎ。」

 ヨナハンはどうやらカルマをからかっているらしい。微笑むと、シスの細腰を抱き寄せるように腕を回す。カルマの眉間に皺が寄る。どうやら不服なようであった。

「好きだよ。ミハエルはとってもきれいで、汚したくなる。」
「変態だなー。寝取るとしても相手が悪すぎるでしょ。」
「馬と狼ってどっちが強いんだろうね。」
「穏やかじゃないなー。ったく、」

 そんなやり取りをしている二人の背後から、噂のサディンが入ってくる。入口側にいた部下がぺこりとお辞儀をするのに軽く返すと、どうやら今日もここでは昼を取らないらしい。食堂のおばちゃんに何を頼んだかわからないが、昼飯であろう茶色の紙袋を受け取っていた。

「執務室で食ってる感じもないんだよね。」
「カルマ、ストーカー?」
「やめろよするなら人選ぶわ。」

 ヨナハンの軽口に軽く返すと、カルマは食べ終えた食器片手に立ち上がる。どうやら興味が勝ったらしい。俺ちょっと尾行する。などと言って、どうやら己の能力を活かすらしい。馬鹿なのかと言わんばかりに呆れるシスの目線に振り向くと、スンとした顔をする。

「だってさ、もし浮気だったらどうすんの。竿の休まる暇がないで有名だった団長だよ?」
「なにその不名誉なあだ名…」
「ヨナハンはあとから来たから知らんでしょうが。」
「サディン僕とも寝てたことあるからなあ。」
「そういうの言わなくていいってば!」

 聞きたくなかったとカルマが憤慨しながらも、目標は目の前のサディンである。シスもヨナハンも何だかんだ暇らしい。潜伏訓練するかと意外と乗り気である。サディンが食堂から出ていったのを見計らうと、カルマはそそそっと窓に近づいて口を開いた。使役している蝙蝠達を呼ぶらしい。がちかよと笑ったシスは、そのカルマの横から身を乗り出すと、その本性を表して黒い蝙蝠羽を晒す。

「僕もいこーっと。」

 夢渡でもして探ろうかなーと楽しげに言うと、そのまま羽ばたいて兵舎の屋根の上まで軽やかに飛び去る。ヨナハンは溜息を吐きながらシスの分まで食器を片すと、蝙蝠を放ったカルマのそばまで行く。

「俺は?」
「やるの?んー、ならもし団長ばれたときに逃げるときの足止め役。」
「とばっちりじゃないか、それ。」

 肉弾戦得意とか言ってたじゃん。カルマがそんなことをいうので、ヨナハンは渋い顔をする。まあ、セントールになれば図体が大きくなるので足止め役には適してるだろう。
 ヨナハンはどうやらそれまでカルマと行動らしい。二人分に認識阻害をかけると、そそくさと尾行を行う。


 一方で、兵舎の屋根の上、もといシスのサボり場では、久しぶりに夢渡をするために、結界を張った。外で行う場合はこうしていると雨が降っても濡れないのだ。室内でやれとも言われるが、どちらにしろ寝るのだ。なので晴れているのなら日向ぼっこも兼ねたい。

「お休み僕、子犬ちゃん、寝てるといいなあ。」

 ミハエルの夢の中へ飛んでいくつもりらしい。シスはサディンに限って浮気は無いだろうが、まあ3ヶ月も離れているミハエルの方が心配というのもあった。膝を抱える様にして瞼を閉じると、シスは好奇心強めに久しぶりの夢渡を行った。

 今考えれば、やらなければ面倒なことにならなかったのになあと思う。まあ結局後の祭りだが。とまあそんな具合に、シスはミハエルの夢で絶句をする羽目になるのであった。

 
 ふわりと柔らかな被膜に包まれるかのように、シスが夢の中に入り込む。どうやらシスが願った通り、ミハエルは眠っているようであった。ミハエルの夢の中はというと、なんというかとんでも無く不思議空間であった。
 抜けるような青い空が広がり、サワサワと心地の良い風に吹かれるかのように草原が広がっている。しかし、よく見るとそれは全て食用の葉物野菜で、ミハエルが好んで食べている野菜がみちりと生えていた。中央には大きな樹がどかんと生えており、まるで実るかのようにカラフルな卵やら、キラキラした石、そしてミハエルの気に入りの本の帯などがリボンのように装飾されている。好きなものがたくさん詰まった空間の青い空も、よく見ると水彩画にも見える。

 一見普通そうなのに、よくよく見るとなんだか歪だ。空間は暖かみがあるのに、なんだか長くいると少しずつ狂ってしまいそうな、そんな複雑な夢の中。シスは腹に一物抱えている者の夢の中だなあと思った。まるで、見た瞬間は普通に見えても、まじまじ見ると取り繕っている。そんな夢の中に、ミハエルはいた。

「あ、あれ?」

 すい、と泳ぐように近付くと、ミハエルは樹のそばの揺り籠の中、まるで腹を守るかのように触れながら、ぽろぽろと涙をこぼしていた。なんだこれ、今まで色々な夢にお邪魔してきたが、泣いているなんて滅多にない。そして、なによりシスが戸惑ったのは、その体を拘束するように赤い糸が揺り籠ごとミハエルを縛り付けている様だった。
 そばによらないと可視化しないそれに、シスはぶわりと鳥肌を立てる。何だこれ、すごい執着を感じる。一見毛糸のようにも見える柔らかな糸が、ミハエルの首や手、足などを縛り付けている。涙を流しながら心做しか、微かに膨らんだ腹を撫でては、どうしよう、どうしよう、と呟く。

「こ、子犬ちゃん?」
「どうしましょう、ああ、言わなくては、でもいけません…」
「子犬ちゃん、ねえってば、こんなところで何をしているの?」
「え…?」

 ミハエルの瞳がゆっくりと開く。その瞳は緑ではなく、サディンによく似た金色だ。目の色が変わるだけでこうも印象が変わるのかと驚くと、瞬きをひとつしただけで目の色は変わってしまった。

「こんばんは、はじめまして…」
「うん?」

 ああ、そうか。ミハエルはシスが夢の中に来ているとわからないのか。そう思い至ると、まあそのほうが都合がいいかとニコリと笑う。

「こんばんは、随分と動き辛そうだけど、どうしたの?」
「動き辛い、僕が?」
「だって、がんじがらめだよ?」

 シスの言葉に、ミハエルがきょとんとした顔をする。改めて自分の体を見てみるが、そんな紐なんか見えませんといった様子で不思議そうにする。もしかすると、これはサリエルの愛し子としての影響で、サディンの持つ彼への執着が可視化したものかもしれない。シスはなんとなくそれが当たりな気がして、つい苦笑いを浮かべる。

「…お腹、どうしたの?」
「お腹…う、…ごめんなさい…」
「なにか、悩み事でもあるの?」

 ミハエルの嫋やかな手が、赤い糸が絡みついたまま腹を撫でる。やはり僅かだが膨らみを感じる。わけがわからなかったが、あまりに切なそうに涙を流すのだ。ミハエルの心の模様に反応したらしい、あんなにきれいだった水彩のような青い空が、ゆっくりと灰色が混じる。

「…僕は君の夢の中の妖精みたいなものだよ、なにか困っていることがあるなら力になりたいんだ。」
「妖精さん…」

 何いってんだ。と自分でも思った。妖精よりも悪魔に近い羽を持っているのだが、どうやら力になりたいという言葉に、ミハエルが顔を上げる。撫でるようにそっと手の甲にふれると、ミハエルは眉を下げ、ちいさく唇を動かす。

「妊娠を、していて」
「お、」
「恋人に、まだ言えてなくて…」
「ーーーーーーー、」

 神様。シスは顔を両手で覆うと、信心深いわけでもないのにそう呟く。なんだか聞いてはいけない話を聞いた気がする。シスはやっちまったと言わんばかりに顔を隠したまま上を向くと、唐突にミハエルの夢の中に干渉してきた大きな気配にびくんと体を震わした。



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