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ミハエルの薄い胸がゆっくりと呼吸をするのが、サディンはひどく怖かった。薄い肩が更に薄くなって、そして縋り付くように首に回された腕が冷たくて、サディンはミハエルをきつく抱きしめると、鋭い視線を3人に向けた。今日の事といい、一体なんだというのだ。ただでさえカインに呼び出されて帰りが遅くなった。それも3人の策略であるのかと考えてしまうくらい、サディンの心は荒れていた。
「手負いの獣のような目でみないでくださいよ。それに、まだ俺たちは納得していません。ミハエル医師は3ヶ月は戻らないはずでは?」
「帰れ。」
「さ、サディン…二人で話し合って決めたんなら、今回は引くけどさ…っ、あんなの監禁にしか見えないよ!?」
戸惑ったように告げるシスの言葉に、サディンの顔が歪む。ミハエルはようやく気持ちの悪さと酩酊感が取れてきたらしい、ゆるゆるとサディンの服を握りしめると、違うんです、と小さく声を震わせた。
「違うって、なにが。」
カルマが聞き返せば、ミハエルはその唇を小さく噤む。腹を押さえてゆっくりとサディンを見上げる。ああ、自分がこうして隠しているから、サディンにも無駄な心配をかけてしまった。みんなにもこんなに迷惑をかけて、ミハエルは自分が矮小な人間になってしまった気がした。
「…ここじゃ駄目だ。中に入る。」
「サディン!」
「どうせ何を言っても納得しないんだろ。なら、せめてミハエルの言い分聞いてから出ていけ。」
サディンが足で自室の扉を蹴りあける。ゆっくりとミハエルをベットに寝かせると、サリエルの体毛が散らばっているのを見て嫌そうな顔をした。
「紐も切ったのか…」
「いや、それ見て監禁を疑ったんじゃん。」
「せんせー、まだ気持ち悪い?」
「ご迷惑おかけして…」
迷惑とかじゃなくてさ、カルマがミハエルの体にかけていた服をとると、寝具をかけてやる。よろよろと起き上がろうとした背を支えてやると、サディンが背とベットの隙間にそっと枕を差し込んだ。
「あのさ、子犬ちゃん。」
「はい、」
「夢の中で話してくれたこと、まだ言えてないってことなんだよね?」
「…夢の中?」
シスが侍るようにベットに腰掛けると、その手を添えるように優しく触れる。顎のラインが際立つ、ミハエルの痩せ方は尋常ではない。まるで不治の病を患っているかのようだった。
シスの言葉を暫く考えていたらしい。ミハエルが夢で会った妖精を思い出すと、その目を見開いた。
「よ、妖精さん…」
「は?誰が妖精?」
「カルマ煩い、すっこんでて!」
サディンも同意する。シスは妖精というよりと小悪魔だろう。と言いかけたが、どうやらサディンが邪魔をした夢渡で、ミハエルの秘密をシスが知っているのだとわかると、嫉妬からか背後に背負う雰囲気が重くなる。それに冷や汗をかきながら、シスが見えないふりをしてミハエルに問いかければ、じんわりと涙を滲ませながら、小さく頷いた。
「そっか…、医者には見てもらった?」
ふるふると首を振るミハエルに、シスがだよねえ…と同意する。サディンは胸からこみ上げるザラつきを飲み下した。医師に見せなくては、そんなことサディンだってわかっていた。それでも、サディンが手を握るとミハエルの具合が改善するのだ。だから、一時も離れたくなかったのに。暗い顔をして落ち込むサディンに、ミハエルはもうだめだと思った。
「言い、ます…」
「ミハエル、」
「言いますから…、き、嫌いにならないで…」
はらはらと涙を零しながら、ゆっくりと深呼吸をする。まるで譲られるかのようにして、シスがジェスチャーで隣に座るように促した。
隣に腰掛けたサディンが、ミハエルの手を握る。辛そうな顔をすると、その薄い手の平に指を絡めながら、ひどく思い詰めたかのように口を開いた。
「…俺は、お前が言いたくないなら、聞かないようにしていた…、それが、お前の最後の望みなら、それに寄り添ってやるのが優しさだと思ってた。」
ん?とシスとミハエルがぽかんとした顔をする。どうやら周りもそう思っているらしい、カルマもヨナハンも、鎮痛そうな顔をしてミハエルを見る。
「日に日に体力がなくなってくお前を見て、辛かった。俺はお前の最後なんて見たくないし、受け入れられるわけもないだろう…」
「サディン?」
「ミハエル、お前は医師だから、自分の体の変化はもう最初からわかってるんだろうけど…、それでも、生き汚くていいから、足掻いてほしい…これは、エゴだけど…」
サディンの金色に水分が含まれる。ミハエルもシスも先程よりもぐっと顔色を悪くした。これは確実に勘違いをしているということを理解したのだ。恐らく、サディンはミハエルが死ぬと思っている。それはそうだ、だってミハエルは何も言わないし、体調も優れない。補えない分をミハエルの栄養を回す形で育んでいる腹の子は、半神でもあるサディン子なのだ。当然悪阻だって酷いわけで。
「生きてくれ、死なないでくれミハエル…たのむ、頼むから…、俺から、お前を奪わないで…っ」
「団長、」
部下の前で、そんな悲痛な声を漏らしながらサディンがミハエルを抱きすくめる。肩口に埋まったサディンの吐息が熱い。ミハエルは顔を真っ赤に染め上げながら絶句をしている。だって、そこまで想ってくれてるだなんて、その事実が語彙を消失させる。
口元を抑えて、シスも顔を赤らめる。こんな甘い言葉を言うキャラじゃないだろうと思ったのだが、こんなこと言えるわけもない。見ているこっちが照れてしまうのだが、どうやらこの場でやらかしたと思っているのはミハエルとシスだけなようで、二人して目線を合わせて口を噤むと、なんとも言えない顔をした。
「に、」
「うん…」
ミハエルのちいさな声に反応して、サディンがゆっくりと顔を上げる。目の前のサディンの大切が、頬に触れて涙を拭ってくれるその手の優しさを、忘れたくないなと思った。
「妊娠、してるのです…さ、サディンの…赤ちゃん、を…」
顔を赤くして、震える声で告げた言葉はゆっくりと室内に溶け込んだ。サディンの背後で口を開けたまま固まったカルマと、ヨナハン。何か言おうとする二人にむけて、シスが慌てて防音魔法で声を消すと、声を出さないまま背後で絶叫をして崩折れた。よかった、やかましい声が二人の空気を邪魔しなくて。シスは疲れた表情を浮かべたまま恐る恐る振り向くと、目を見開いたまま硬直しているサディンの、見たこともない間抜け面に閉口した。
「に、ん、しん」
「ぼ、僕のおなかに…サディンの、赤ちゃんが…います、」
「にんしん、って、え、」
「妊娠、です…だから、悪阻が辛くて…」
言えなくてごめんなさい。そうぽつりと呟いて、また瞳を潤ませて俯くミハエルに、サディンはぽかんと口を開けたまま暫くほうけていた。頭の中が、現在慌ただしく入り乱れているのである。物言わぬサディンに不安げな顔をしているミハエルに気づかぬまま、なんで?やどうして。そしてミハエルは女だったかしらとぐるぐると幼少期からのミハエルを思い浮かべる。
可能性を考えても、全く思い至らない。妊娠薬だって飲んでいないはずだ。まさか天からの授かりもの?疑問符を振りまいているサディンが、ようやく我に帰ったのは、ミハエルのごめんなさいという言葉だった。
「…は?」
「ご、ごめんなさい…か、勝手に、相談もせずに…っ…き、嫌いにならないで…っ」
「嫌い?俺がヨナハンを?」
「サディンが、っ…僕のこと…」
ヨナハン?と涙目で見上げてくるミハエルに、サディンは益々わからないといった顔をした。
「俺も貴方のこと嫌いですがね。」
「やるじゃんサディン。ヨナハンと両思いじゃんね。」
「茶化すな!今まだ話終わってないでしょうが!!」
キレ気味のヨナハンを無視しつつ、サディンは労るようにミハエルの頬に手を添えた。泣きすぎて、ミハエルの可愛い鼻もすっきりとした目元もえらいことになっている。サディンは何から聞こうか考えた後、まるで自分で納得するかのように数度うなずく。
「妊娠薬、いつ飲んだんだ。」
「っん…さ、サディンと、初めて行為をしたときです…」
「…ピルケース開けたの、俺だな。」
「妊娠薬、今開発中のやつが、風邪薬と見た目があまり変わらないので…多分、そのときに…」
「俺が飲ませたな…ああ…」
「か、確認しなかった、僕も悪くて…」
ひっく、と細い体を震わしながら、両手で涙を受け止める。サディンが飲ませた。たしかに風邪薬と同じような色合いのそれがあったのは見ていたし、一錠だけ一回り大きかったのだ。なので、元来の雑な性格が災いしてでかいほうがいいだろうとそれを飲ませた。
そして、熱が出ていたミハエルを抱いたのだ。
「……………。」
サディンは頭を抱えた。だって、意図的ではないにしろミハエルはサディンの行いで妊娠した。避妊をすればよかったのだろうが、そんな余裕もない。そして、なによりもサディンを落ち込ませたのは、その事実を隠されたことではなく、その事実を隠させてしまった不甲斐ない自身に対して、何やってんだ年上のくせにという自己嫌悪で落ち込んだ。
沈黙が痛い。なにか声をかけてやりたいのに、それもできない。ミハエルは俺に気を使って、言えなかったのだろう。多分、この素直で純粋でドクソ真面目なこの青年が、悩み苦しんで、そして切羽詰まっていたというのに、サディンは自分の前からいなくなると恐れてしまって大人気なく囲ってしまった。
やっちまった、ああ、くそ。
沈黙は暫く続いた。頭の中で色々と考えていたサディンであったが、ゆっくりと顔をあげたのとほぼ同時に、痺れを切らしたらしいシスが思い切りサディンの後頭部をぶっ叩いた。
「だぁぁああ!!!」
「いっ…!!!」
「シスなにやってんの!?今、今それやる!?それやる空気じゃなかったよね!?!?」
悲鳴を上げながらシスを止めるカルマは、ミハエルの膝に顔を埋めるように悶絶するサディンと、呆気にとられるミハエルを交互にみやる。
「そうじゃねえじゃん!!!」
そして、止めるカルマを振り払って喚くシスに、頭を抑えて苦痛に顔を歪めるサディンと、ぽかんとしたミハエルがゆるゆると顔を上げる。そこには、淫魔の角を晒して、文字通り鬼のようにキレ散らかしているシスが、止めに入ったヨナハンとカルマをくっつけながら二人を見下ろしていた。
「手負いの獣のような目でみないでくださいよ。それに、まだ俺たちは納得していません。ミハエル医師は3ヶ月は戻らないはずでは?」
「帰れ。」
「さ、サディン…二人で話し合って決めたんなら、今回は引くけどさ…っ、あんなの監禁にしか見えないよ!?」
戸惑ったように告げるシスの言葉に、サディンの顔が歪む。ミハエルはようやく気持ちの悪さと酩酊感が取れてきたらしい、ゆるゆるとサディンの服を握りしめると、違うんです、と小さく声を震わせた。
「違うって、なにが。」
カルマが聞き返せば、ミハエルはその唇を小さく噤む。腹を押さえてゆっくりとサディンを見上げる。ああ、自分がこうして隠しているから、サディンにも無駄な心配をかけてしまった。みんなにもこんなに迷惑をかけて、ミハエルは自分が矮小な人間になってしまった気がした。
「…ここじゃ駄目だ。中に入る。」
「サディン!」
「どうせ何を言っても納得しないんだろ。なら、せめてミハエルの言い分聞いてから出ていけ。」
サディンが足で自室の扉を蹴りあける。ゆっくりとミハエルをベットに寝かせると、サリエルの体毛が散らばっているのを見て嫌そうな顔をした。
「紐も切ったのか…」
「いや、それ見て監禁を疑ったんじゃん。」
「せんせー、まだ気持ち悪い?」
「ご迷惑おかけして…」
迷惑とかじゃなくてさ、カルマがミハエルの体にかけていた服をとると、寝具をかけてやる。よろよろと起き上がろうとした背を支えてやると、サディンが背とベットの隙間にそっと枕を差し込んだ。
「あのさ、子犬ちゃん。」
「はい、」
「夢の中で話してくれたこと、まだ言えてないってことなんだよね?」
「…夢の中?」
シスが侍るようにベットに腰掛けると、その手を添えるように優しく触れる。顎のラインが際立つ、ミハエルの痩せ方は尋常ではない。まるで不治の病を患っているかのようだった。
シスの言葉を暫く考えていたらしい。ミハエルが夢で会った妖精を思い出すと、その目を見開いた。
「よ、妖精さん…」
「は?誰が妖精?」
「カルマ煩い、すっこんでて!」
サディンも同意する。シスは妖精というよりと小悪魔だろう。と言いかけたが、どうやらサディンが邪魔をした夢渡で、ミハエルの秘密をシスが知っているのだとわかると、嫉妬からか背後に背負う雰囲気が重くなる。それに冷や汗をかきながら、シスが見えないふりをしてミハエルに問いかければ、じんわりと涙を滲ませながら、小さく頷いた。
「そっか…、医者には見てもらった?」
ふるふると首を振るミハエルに、シスがだよねえ…と同意する。サディンは胸からこみ上げるザラつきを飲み下した。医師に見せなくては、そんなことサディンだってわかっていた。それでも、サディンが手を握るとミハエルの具合が改善するのだ。だから、一時も離れたくなかったのに。暗い顔をして落ち込むサディンに、ミハエルはもうだめだと思った。
「言い、ます…」
「ミハエル、」
「言いますから…、き、嫌いにならないで…」
はらはらと涙を零しながら、ゆっくりと深呼吸をする。まるで譲られるかのようにして、シスがジェスチャーで隣に座るように促した。
隣に腰掛けたサディンが、ミハエルの手を握る。辛そうな顔をすると、その薄い手の平に指を絡めながら、ひどく思い詰めたかのように口を開いた。
「…俺は、お前が言いたくないなら、聞かないようにしていた…、それが、お前の最後の望みなら、それに寄り添ってやるのが優しさだと思ってた。」
ん?とシスとミハエルがぽかんとした顔をする。どうやら周りもそう思っているらしい、カルマもヨナハンも、鎮痛そうな顔をしてミハエルを見る。
「日に日に体力がなくなってくお前を見て、辛かった。俺はお前の最後なんて見たくないし、受け入れられるわけもないだろう…」
「サディン?」
「ミハエル、お前は医師だから、自分の体の変化はもう最初からわかってるんだろうけど…、それでも、生き汚くていいから、足掻いてほしい…これは、エゴだけど…」
サディンの金色に水分が含まれる。ミハエルもシスも先程よりもぐっと顔色を悪くした。これは確実に勘違いをしているということを理解したのだ。恐らく、サディンはミハエルが死ぬと思っている。それはそうだ、だってミハエルは何も言わないし、体調も優れない。補えない分をミハエルの栄養を回す形で育んでいる腹の子は、半神でもあるサディン子なのだ。当然悪阻だって酷いわけで。
「生きてくれ、死なないでくれミハエル…たのむ、頼むから…、俺から、お前を奪わないで…っ」
「団長、」
部下の前で、そんな悲痛な声を漏らしながらサディンがミハエルを抱きすくめる。肩口に埋まったサディンの吐息が熱い。ミハエルは顔を真っ赤に染め上げながら絶句をしている。だって、そこまで想ってくれてるだなんて、その事実が語彙を消失させる。
口元を抑えて、シスも顔を赤らめる。こんな甘い言葉を言うキャラじゃないだろうと思ったのだが、こんなこと言えるわけもない。見ているこっちが照れてしまうのだが、どうやらこの場でやらかしたと思っているのはミハエルとシスだけなようで、二人して目線を合わせて口を噤むと、なんとも言えない顔をした。
「に、」
「うん…」
ミハエルのちいさな声に反応して、サディンがゆっくりと顔を上げる。目の前のサディンの大切が、頬に触れて涙を拭ってくれるその手の優しさを、忘れたくないなと思った。
「妊娠、してるのです…さ、サディンの…赤ちゃん、を…」
顔を赤くして、震える声で告げた言葉はゆっくりと室内に溶け込んだ。サディンの背後で口を開けたまま固まったカルマと、ヨナハン。何か言おうとする二人にむけて、シスが慌てて防音魔法で声を消すと、声を出さないまま背後で絶叫をして崩折れた。よかった、やかましい声が二人の空気を邪魔しなくて。シスは疲れた表情を浮かべたまま恐る恐る振り向くと、目を見開いたまま硬直しているサディンの、見たこともない間抜け面に閉口した。
「に、ん、しん」
「ぼ、僕のおなかに…サディンの、赤ちゃんが…います、」
「にんしん、って、え、」
「妊娠、です…だから、悪阻が辛くて…」
言えなくてごめんなさい。そうぽつりと呟いて、また瞳を潤ませて俯くミハエルに、サディンはぽかんと口を開けたまま暫くほうけていた。頭の中が、現在慌ただしく入り乱れているのである。物言わぬサディンに不安げな顔をしているミハエルに気づかぬまま、なんで?やどうして。そしてミハエルは女だったかしらとぐるぐると幼少期からのミハエルを思い浮かべる。
可能性を考えても、全く思い至らない。妊娠薬だって飲んでいないはずだ。まさか天からの授かりもの?疑問符を振りまいているサディンが、ようやく我に帰ったのは、ミハエルのごめんなさいという言葉だった。
「…は?」
「ご、ごめんなさい…か、勝手に、相談もせずに…っ…き、嫌いにならないで…っ」
「嫌い?俺がヨナハンを?」
「サディンが、っ…僕のこと…」
ヨナハン?と涙目で見上げてくるミハエルに、サディンは益々わからないといった顔をした。
「俺も貴方のこと嫌いですがね。」
「やるじゃんサディン。ヨナハンと両思いじゃんね。」
「茶化すな!今まだ話終わってないでしょうが!!」
キレ気味のヨナハンを無視しつつ、サディンは労るようにミハエルの頬に手を添えた。泣きすぎて、ミハエルの可愛い鼻もすっきりとした目元もえらいことになっている。サディンは何から聞こうか考えた後、まるで自分で納得するかのように数度うなずく。
「妊娠薬、いつ飲んだんだ。」
「っん…さ、サディンと、初めて行為をしたときです…」
「…ピルケース開けたの、俺だな。」
「妊娠薬、今開発中のやつが、風邪薬と見た目があまり変わらないので…多分、そのときに…」
「俺が飲ませたな…ああ…」
「か、確認しなかった、僕も悪くて…」
ひっく、と細い体を震わしながら、両手で涙を受け止める。サディンが飲ませた。たしかに風邪薬と同じような色合いのそれがあったのは見ていたし、一錠だけ一回り大きかったのだ。なので、元来の雑な性格が災いしてでかいほうがいいだろうとそれを飲ませた。
そして、熱が出ていたミハエルを抱いたのだ。
「……………。」
サディンは頭を抱えた。だって、意図的ではないにしろミハエルはサディンの行いで妊娠した。避妊をすればよかったのだろうが、そんな余裕もない。そして、なによりもサディンを落ち込ませたのは、その事実を隠されたことではなく、その事実を隠させてしまった不甲斐ない自身に対して、何やってんだ年上のくせにという自己嫌悪で落ち込んだ。
沈黙が痛い。なにか声をかけてやりたいのに、それもできない。ミハエルは俺に気を使って、言えなかったのだろう。多分、この素直で純粋でドクソ真面目なこの青年が、悩み苦しんで、そして切羽詰まっていたというのに、サディンは自分の前からいなくなると恐れてしまって大人気なく囲ってしまった。
やっちまった、ああ、くそ。
沈黙は暫く続いた。頭の中で色々と考えていたサディンであったが、ゆっくりと顔をあげたのとほぼ同時に、痺れを切らしたらしいシスが思い切りサディンの後頭部をぶっ叩いた。
「だぁぁああ!!!」
「いっ…!!!」
「シスなにやってんの!?今、今それやる!?それやる空気じゃなかったよね!?!?」
悲鳴を上げながらシスを止めるカルマは、ミハエルの膝に顔を埋めるように悶絶するサディンと、呆気にとられるミハエルを交互にみやる。
「そうじゃねえじゃん!!!」
そして、止めるカルマを振り払って喚くシスに、頭を抑えて苦痛に顔を歪めるサディンと、ぽかんとしたミハエルがゆるゆると顔を上げる。そこには、淫魔の角を晒して、文字通り鬼のようにキレ散らかしているシスが、止めに入ったヨナハンとカルマをくっつけながら二人を見下ろしていた。
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