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しおりを挟む「んなぁぁぁあ!!!!」
「ええええええ!!!!」
演習場が揺れるほどの驚愕の声が響き渡る。それもそのはずである。勝利を確信して高笑いをするロンとは裏腹に幼児程の大きさになったサリエルは、余程嫌だったらしい。うにゃあああ!!と子供のような声で泣き喚く。
ミハエルは呆気にとられた後、わけがわからないまま駆け寄った。小さな幼児の手が目一杯伸ばされたかと思うと、ひしりとミハエルにしがみついた。
「い、一体何が…」
「ああ、僕ガリャテアの半魔だから。」
「ガリャテア?」
ロンが疲れた顔でひょこひょこと歩いてくる。ミハエルの腕の中でぴいぴいと泣いている幼い神様の真横にしゃがむと、ニコリと笑う。
「祝福と呪いで形成されている魔物だよ、本性は本みたいな形。てか、概念?」
「概念?」
きょとんとしたミハエルに、サディンまでもが駆け寄る。なるほどだからサディンの聖属性も中和できたということか。
ロンいわく、ガリャテアに形などはないらしい。本の形を取ることも多いと聞くが、その本性は影の塊のようなものらしい。ロンはひぐひぐと泣いてミハエルの首にしがみついているサリエルを見ると、その幼児の柔らかな腕に巻き付く金の蔦の葉を、ぷちぷちと数枚拝借した。
「ぴゃぁぁあ!!!」
「あっはっは!!牙を抜かれた神様なんて怖くないんだよぉ!!呪いだって来たところで僕自体が呪いだから何も怖くないしー!!わはは!!」
「わ、さ、サリエルおちついてってば!」
「ひゃあああーーきらいーーーー!!!」
うにゃああ!!とミハエルの腕の中で愚図りまくる幼いサリエルを抱き上げる。首にしがみついたままミハエルの肩口の服を銜え、不機嫌ここに極まれりと言わんばかりに尾を鞭のように振るう。幼くなって、より感情が全面に出ているらしい。
「ろ、ロンさんこれいつもどりますか!?」
「3日で戻るよー。ま、気の早い育児だと思えばいいじゃん。」
途方に暮れるミハエルは、もしかしないでもこれもお仕置きのひとつなのだろうかと思った。幼児独特の体温でくっついてくるのだ、すこしだけ暑い。真っ赤なおめめに沢山の涙を溜めながら、じぇったいにゆるしゃん…じぇったいに、じぇったいにだ…とひどく不穏なことを抜かしながら再戦を誓うサリエルは、そのふくふくとした顔を歪めてロンに吠える。
「ロンきらい!!きらい!!ぶわああか!!ちねっ!!」
「はあーー何言われてもこわくなーーい!!」
「じじい!ほこり!!」
「それ僕の髪のこといってんのかコラァ!!」
「うにゃああ!!」
「わああ!お、おちちゃうからっ!」
腕の中で癇癪を起こしてのけ反るサリエルに、ミハエルがわたわたしながら抱きかかえる。背後に無言の圧を感じて、今度はなにが、と恐る恐る振り向くと、ミハエルの袖をぎゅっと握り締めて佇む17歳位までに化けたサディンが居た。
「ええぇえぇぇえーー!!」
「ぶっは!!サディン!!それ久しぶりじゃん!?!?」
「うるさい黙れ。」
どうやら、騎士団の演習や訓練の一貫で相手に油断をさせる実践があるらしい。エルマーによって練習させられた潜入時に役立つ子供のふりは、無属性魔法で行われる、纏う魔力量を調整することによって一定の年齢まで退行しているかのように見せる知覚魔法の一つ。この騎士団の中だとサディンを入れて3人しかできない。
「なんかムカついてたらこうなった。」
「団長の嫉妬ってまじでわかりやすいよね…」
子犬ちゃんに向かってくうちに背が縮むから、何事かと思ったよ…と、シス。まさかサディンまでこうなるとは思わず、ミハエルは頭が痛そうにすると、泣き顔のサリエルがぎゅっとミハエルに抱きつきながら、むすくれているサディンに向かって意地の悪い顔で笑う。
「…ミハエル、こいつ中身変わってないぞ。」
「サディン、貴方はとりあえず元の大きさに戻ってください…」
「おじちゃんおとなげないでしゅ」
「ああ!?」
「ああもう!!僕にどうしろっていうんですかあ!!」
カルマもジキルも、なんとも気の毒そうな顔でミハエルを見る。この後もやることが山積みだというのに、と肩を落とすと、ロンがそういえばと何かを思い出したかのように口を開いた。
「ミハエルちゃんさ、そういや妹生まれたの知ってる?」
「ひぇ…」
「あ、あー。そうだ、出張先に手紙で知らせるとか言ってたから…、うん、その、やばそうだね。」
ロンの爆弾発言に顔色を失う。そうだ、もういつ産まれてもおかしくなかったというのに、ミハエルは自分の事にかまけてルキーノの出産の際にそばにいてやれなかった。先程から顔色をくるくると変えるミハエルに、流石に気の毒に思ったらしい。サリエルがもぞもぞと顔を上げた。
「どういうちゅもりでしゅか。おまえはし、しゅ、しゅっちょおにいってぅことになってうのれしょう?」
「な、なってます…うわやばい、バレるのも時間の、」
「いや、ここはサディンにまかせなよ。こいつが悪いし。」
「おい、指差すな。」
ビッと親指でサディンを差したロンが、異論はないよね?と団員を見る。サディンがミハエルになにかをしたというのは薄っすらと理解しているものも居るらしい。戸惑いながらも、どうなんですかね?と、顔を見合わせるものもいるなかで、次に爆弾を投下したのはジキルだった。
「ま、孕ませたんだ。娶りの挨拶の一つくらいしてきなって。」
ジキルの言葉に、その場に静かな時が流れた。先程の爆発音で聞き逃した部分である、孕ませた。なる単語に、団員達は男らしい毛の生えた様なだみ声で絶叫をした。
「お、お手つきになっちまった!!」
「年下孕ましちまったとか何やってんだクソ羨ましい!!!」
「ミハエル先生ええええ!!!!あんなんでいいんですかああああ!!!」
「お、俺も先生と結婚したかったあああ!!」
「顔は良いけど性格めっちゃ悪いぞその人!!!」
三者三様思い思いの募るものをぶちまけるものだから、サディンはこめかみに青筋を浮かび上がる。ミハエルはぽかんとしていたが、腕の中のサリエルは可愛らしく手を叩きながらはしゃいでいた。人の悪口は大好きらしい。
「イルザ、ショーン、ヴィンセント、ディアブロ、ルシオ。お前ら覚悟しておけな。」
「こらっ!脅さない!」
「いって、」
10代の見た目のくせして恐ろしく鋭い眼光を放つ。名指しで呼ばれた5人は大慌てでジキルの後ろに隠れてうざがられていたが、ミハエルの打撃攻撃を受けたサディンはというと、何故かこのやり取りが良かったらしい。じんわりと頬を染めると大人しくなった。
「だ、団長って照れることあるんだね…」
「お前ら俺をなんだと思っている。」
「血も涙もない鬼。」
「ほう…?」
ああでもないこうでもないとやり取りをするのを見て、ミハエルは小さく笑う。よかった、と思ったのだ。サディンを取られてしまったと思われたら、どうしようと思ったのだ。しかし蓋を開けてみれば、なにやら自分は団員の皆様に好意的に思われていたらしいと理解する。
そうすると、友達というものがあまり、というか、いないミハエルは、もにょりと口を緩ませる。
「ぼ、」
「ぼ?」
ぽつりと漏らした声に、皆が反応する。そんな大勢に目線を向けられると思わなくて、思わずたじろいでしまった。腕の中のサリエルが、またなにかしょうもないことを言うのだろうと白けた目線を向けてくる。
「僕と友達、に…なってください…」
「え?」
「か、考えてみたら…お、男友達って、ウィル君くらいしかいなくて…」
サディンの麗しの弟君とミハエルの組み合わせは、それは目の保養になるだろう。一瞬そんなことを思ったが、どうやら話はまだ終わらないらしい。
「恋話とか、あと、一緒におでかけしたりとか、誕生日プレゼントとか交換するのでしょう?僕、お父さんとお母さんとしかしたことがないので…もし、ご迷惑でな、」
「俺とすればいいだろう。」
「え。」
ミハエルの可愛らしいおねだりに胸を温め、ならば俺たちは先生の友達ですねと立候補でもするかという空気になったときのことであった。
「さ、サディンは…えっと、この子の、お父さんですから…」
「んぐっ…」
「それに、友達同士だと、サディンとは家族になれません…」
「ウッ」
ミハエルのお父さん発言に息を詰まらせた後、正論でぶん殴られた。どうやらミハエルの言う友達とは、互いに笑いあえて、拳を突き合わせるような男らしい関係らしい。シスがそそくさとそばによると、ガバリと抱きつく。
「ひどいよ子犬ちゃん!僕は友達だと思ってたのに!」
「ええ!!と、友達!!シスさんと僕が!?」
「同じ職場で切磋琢磨したなかじゃん!!」
「それは正解だけど正解ではねえなあ。」
どちらかというと苦い記憶である。ジキルは渋い顔をして嗜めると、ミハエルの柔らかな頬に頬をくっつけたシスが、ぎゅうぎゅうと抱きしめてくる。ミハエルにとってシスは近寄りがたい美人枠である。気高いイメージがあったようで、周りが聞いたら噴飯すること間違いなしだ。
「だ、だってシスさんは高嶺の花というか…!」
「ぶほぉ!!高嶺ぇ!?せんせぇそりゃあ過言だあ!!」
「うるさいジキル!!僕に対する認識を改めろ!!尻しか軽くねえから!!」
「いやそれを尻軽というんだろう。」
びしりとサディンが突っ込む。ミハエルはいそいそとシスの腕の中で身じろいだ。腕を緩めてくれたのでサリエルを抱き直すと、照れくさそうにしながらシスを見る。
「こ、今度一緒に遊んでくれますか…?」
「遊ぶ!!!!サディン抜いてみんなで遊ぼ!!」
「おいこら。」
「賭けチェスでもやる?」
「いや治安悪いわやめろや!」
カルマがニコニコしながら宣うのを、治安の悪い顔をした常識人であるジキルが制す。和気あいあいとしてしまったが、すっかり本題を忘れていた。ミハエルの髪の毛をグイグイと引っ張ったサリエルが、至極真っ当なことを抜かす。
「あしょぶまえに、すじをとおすのでしょう。おまえ、ちちははにせつめいをしぇねば。」
「はっ…そ、うです、ね、」
「まあ、俺が頭を下げるのだからお前は構えなくていいだろう。」
あわあわと分かりやすく狼狽えるミハエルの肩を、サディンが抱いた。どうやら術は解いたらしい。今度は見上げる形になったミハエルを見下ろして満足そうにすると、それをみたサリエルがケッと吐き捨てた。
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