こっち向いて、運命。-半神騎士と猪突猛進男子が幸せになるまでのお話-

だいきち

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「完っ全に俺の手落ちではないか…後回しにせずにやっておけばよかった…」

 むああ、と唸るダラスの横で、どうやら納得の行く答えだったらしい。ルキーノが肩の力を抜くと、まだ薄い腹を撫でる息子を見た。


「ミハエルはどうしたいのです。」
「僕は、この子を産みます。悪阻は辛いですが、せっかく僕のもとに来てくれたのですから。サディンも産んでほしいって言ってくれましたし。」
「ああ、うちの家族にも報告するつもりだし、それに責任取るつもりで挨拶に来た。」

 まっすぐと見つめながらそう宣うサディンに、額を赤くしたダラスが顔を上げる。ジトリと擬音がつきそうなほどの恨めしさを宿した瞳に、サディンはなんとも言えない顔をした。まあ、考えてみればダラスと長い付き合いだが、ここまで振り回したのは初めてかもしれないなと思ったのだ。別に悪気なんて微塵もないのだが、サディンがそう思っていてもダラスは違うかもしれない。
 
「ええと…」
 
 サディンはダラスを見ると、ますは詫びようと口を開こうとした。
 
「お前…時期を考えろ…俺の娘が生まれたというのに、ミハエルが孕んだだと…?」
「…ああ、だけど、それは授かりものだろうが。」
「授かりもの…ああ、確かにそうだが、俺が言いたいのはそうじゃない。」
 
 何やら不穏な空気を察したのか、ミハエルが戸惑ったように瞳を揺らした。手放しでおめでとうだなんて、言われないことはわかっていた。だけど、ミハエルはそれでも認めて欲しかったのだ。口をつぐんで俯く息子に、ルキーノが寄り添う。まるでダラスの真意を汲み取るかのように、サディンは真っ直ぐに見つめ返した。
 
「生まれたばかりの俺の娘を…、おばさんにするのが早すぎるだろう!!!!」
 
 ばん!と手を机に叩きつけながら、ダラスが叫ぶ。サディンもミハエルも、もっと別のことを言うのだろうと思っていた分、つい呆気にとられたような顔をしてしまった。無論、ルキーノはダラスの言いたいことはわかっていたらしい。頭が痛そうに眉間を抑えると、疲れたような声で兄さん…と呟く。
 
「俺に孫ができたことについては構わん。どうせ貴様のことだ、手を出したんだから早々に孕ませると思っていたしな!!」
「へぁ…」
「しかしそれ事態を早める結果にしてしまったのが己の手落ちだというのが気に食わん!だが一番気に食わんのは、まだ1歳にもなっていない俺の娘が叔母扱いされることだ馬鹿め!!おめでとうミハエル!!」
「あ、ありがとうございます…」
 
 顔を真っ赤にし、涙目でそんなことを言うものだから、サディンはギョッとした。ダラスの泣きそうな顔なんて初めて見たし、おめでとうと言ってくれたダラスが、早い段階でサディンを許していたのだと知って、同時に込み上げてくるものがあったのだ。
 
 嬉しそうに、涙目でサディンを見上げたミハエルは、がたりと音を立てて立ち上がった腹の子の父親に、不思議そうな顔をした。
 
「ダラス。」
「うるさい、ダラス様と呼べばかものが。俺の方がえら、ぅぶっ」
「ありがとう。」
 
 ルキーノの横で不貞腐れるダラスの横についたかと思えば、サディンがその言葉とともにダラスをキツく抱きしめた。これにはルキーノもミハエルも驚いたが、ぷよぷよと浮かぶサリエルだけは、一体どんな茶番かと大口を開けてあくびを漏らす。二人同様、しばし抱きすくめられたまま言葉を失っていたダラスの顔色が、徐々に悪くなる。足元から這い上がってくるような悪寒を身に走らせると、情けない悲鳴をあげた。
 
「ああああっ!!!やめろ離せ気持ち悪い!!むさ苦しい男に抱きしめられる趣味なんぞないわ!!」
「感謝は態度で示せって、前に言ったろう。」
「示し方なら他にあっただろうが!!」
「なんだかお前に優しくしてやりたい気分だった。」
「そんな恐ろしい気まぐれなんぞ一生来なくていいわ!!!」
 
 うわあああ!と叫びながら、ダラスがサディンを振り解く。そのやりとりがなんだか面白すぎて、ミハエルとルキーノは顔を見合わせると吹き出すように笑ったのであった。
 
 
 
 ルキーノには研究機関に行くと言った息子の進路を無理やり閉ざしたことは嗜められたが、まあ二人が幸せなら僕は構いませんよ。となんとも寛大なお言葉をいただけた。実に柔軟なものの考えであるとサディンが口に出さずとも関心していれば、ミハエルはこんなことを宣った。
 
「うちのお母さんもお父さんも、色々なことがありましたから。」
 
 そう言って微笑む姿に妙な説得力を感じる。まあサディンもそばで見てきたからわかるにはわかるが、やはり血のつながった息子ならではの解釈もあるのだろうなと妙に納得した。
 
 そして二人はというと、ミハエルの実家に挨拶も済んだし、ならば次はサディンの実家かという話になった。サリエルは遊び疲れたらしく、ぷうぷうと寝息を立ててミハエルの腕の中にいる。子供体温が暖かい。ミハエルは垂れた涎をハンカチで甲斐甲斐しく拭っているところを見る限り、なんだかちょっと可愛く見えてきたようだ。
 
「そういえば、例のナーガの子だけどな、あれ、預け先が見つかったんだ。」
「え、そうなんですか?」
「サジが引き取るそうだ。あいつ、ああ見えても子供好きだしな。」

 サディンは、エルマーによってその事実を知らされた。ミハエルが気にしていることを思い出して、預けたナーガの子はどうなったのかと聞いたところ、ナナシが面倒を見てからちょくちょくサジが遊びにくるようになり、ある日突然孤児院に入れるならサジが引き取ると宣ったらしい。無論、番のアロンダートも同意しているらしく、何やら根城であるエルフの森で趣味の日曜大工でベビーベットまでこさえたという。
 
「あの二人なら魔力も豊富にあるしな。まあ、サジは自分で産むよりもいいと思ったんだろう。」
 
 腹に大穴を開けられた過去があるせいで、サジは自分の腹が子を孕むのに適していないと思っていたらしい。アロンダートはそれを知っていて、今回のサジの里親志願にも何も言わなかったのだそうだ。
 
「サジさん、お子さん欲しかったんですね。」
「まあ、そこらへんはあいつにしかわかんないだろ。だけど、」
 
 サディンがチラリと前を向く。エルマー宅まで目と鼻の先のその場所から、見慣れない馬車が止まっているのそみて、サディンはしばらく黙りこくった。
 
「サディン?」
「…アロンダートさんがきてる。」
「馬のない、馬車?」
「ああ、必要ないからな。」
 
 必要ない?ミハエルがサディンの言葉を計りかねて首を傾げる。近づくにつれて、ふにゃあという赤ちゃんの声が聞こえてくるので、おそらくサジが来ているのだろうと思った。
 
「うんん…、ぷわああ…」
「あ、サリエル起きましたか。」
「まじゅい…このからだ…ねむい…」
「子供はそういうものです。まだ眠っててもいいですからね。」
「むうう…くぁ、ふ…」
 
 もぞりと動いて、ミハエルの肩口に顔を埋めると、再びぷうぷうと寝息を立てる。サディンが呆れたようにみつつ、実家のドアを開けて中に入った。
 
「ただいま、サジ来てるの?」
「おかえりサディン。僕もいるぞ。」
「外の馬車見て気づいてましたよ。」
 
 サディンがリビングから顔を出したアロンダートを見て小さく笑う。ミハエルは初対面ということもあり、おずおずとサディンの後ろから顔を出すと、アロンダートと呼ばれた黒髪の美丈夫はにこりと微笑んだ。
 
「君がサディンのいい人かな。」
「あ、こ、こんばんは…ミハエルと申します。」
「聞いているよ。ダラスとルキーノの子だね。僕はアロンダート、サジとは夫婦だ。」
「あ、伺っております。えっと、ナーガの子を引き取ってくださったとお伺いしました。」
 
 まずはそのお礼からした方がいいだろうと言葉をつづけようとしたが、まずは上がれとサディンに促されてお邪魔することにした。リビングからはふにゃあと可愛らしい乳児の声が聞こえてくる。アロンダートがおやおやと言わんばかりにリビングの方へ姿を消すと、サディンもミハエルの腰を抱いて後に続いた。
 

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