こっち向いて、運命。-半神騎士と猪突猛進男子が幸せになるまでのお話-

だいきち

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「きっと、母様はお忙しいんだわ。だって、最近はご挨拶もまともにできませんもの。」

 サリエルを抱きしめながら、ミハエルと手を繋いだアイリスがつまらなさそうな顔をする。三人はグレイシスが居るであろうサロンに向かっており、二人はアイリスに許可をもらって王の居住区まで足を踏み入れた。開けた城の内部は、認められたものであれば家族以外でも入室の許可がでる。グレイシスによって、急ぎの案件があるのなら無駄な時間を費やすなという理由で、王族とそれに使える者たちは信頼の元、開かれた生活を送るのだ。

「お稽古だって、私きちんと毎日していたわ。でも生徒が私一人よ、そんなの張り合いがないじゃない。」
「ジルバ様はお稽古のご様子は見に来られないので?」
「父上は音楽の才能がなくてよ。お歌もお付き合いくださるけれど、棒読みだもの。」
「それは、なんとも…」

 ジルバが真顔で歌を歌うというのもなんとも想像しづらい。ミハエルもサディンもなんとも言えない想像をしてしまったせいで、震える口端を咳でごまかした。
 ミハエルの手に、アイリスの体温がじんわりと染み込む。少しだけ高い気がして、なんとなくそれがきになった。

「アイリス様、もしかしてお熱をお召ですか?」
「お熱なんかないわ、ちょっとあついだけですもの。」
「もしかして、それでお探しに?」
「ちがうわ、」

 サディンが立ち止まると、アイリスの顔を覗き込む。こころなしかじんわりと目が潤んでいることを認めると、ちろりとミハエルを見た。

「アイリス様、私は医師でもございます。隠し事をなさいますと、お母様が悲しまれますよ。」
「うぎゃっ」

 ミハエルの言葉にぎゅううっとサリエルを抱きしめた。唇をつんと尖らし、小さな声でそれは嫌だわと言う。ミハエルはそっと頭を撫でてやると、その前髪をよけて額に手を添える。やはり熱があるようで、唐突に触れた無礼を謝ると、アイリスは大きなおめめを潤ませながら、きょとりとミハエルを見上げた。

「ねえミハエル、母さまのご友人たちは、皆そんなに顔がよろしいの?」
「え?」
「だから父様は、私に貴方たちを紹介してくださらないの?」

 恋泥棒って、こういうことを言うのね。頬を染めたアイリスに、サディンがぎょっとする。ミハエルはどうやらよくわかっていないらしい。アイリスにとって、体の大きなサディンよりも、中性的なミハエルに心を開くのは当然だったようだ。アイリスに締められているサリエルがげんなりとしている。

「れ、レディ…」
「アイリス!!!」

 青褪めたサディンの言葉に、聞き慣れた声が重なる。ミハエルとサディンが声のした方向へと振り向くと、その視線が目にしたのはカインがイズナを伴ってかけてくる姿だった。

「お兄様、」
「アイリス、お前なんでここに!なにか怖いことされなかったか!?男は皆狼なのだからな!?」
「カイン殿下、気が緩んでおいでですよ。」

 まるで滑り込むかの勢いでアイリスの目の前で跪いてきつく抱きしめると、呆れた目をしたイズナがカインの横に並ぶ。どうやらカインは妹思いらしく、まるで頬で頭を撫でるかのごとく頬ずりをするものだから、アイリスは嫌がって悶ていた。

「ミハエル殿がお連れくださったのですか?」
「ええ、サディンとジルバ様のもとに向かう途中にお会いしまして。」

 サディンもミハエルの言葉に小さく頷くと、イズナはありがとうございますと言う。カインは3人の前では取り繕う気はないらしい。ぎゅうぎゅうアイリスを抱きしめて堪能しているせいで、間に挟まれたサリエルが毛を逆立てて威嚇の声を上げていた。

「髪がぼさぼさになるじゃない、はしたないわよお兄様!」
「アイリス!兄の愛が受け取れぬというのか!」
「お兄様のそれは、ご病気みたいで嫌よ。」
「なん、だと…」

 幼い妹の指摘に、ミハエルとサディンが吹き出す。イズナはまったくもってその通りでございますね。と頷くと、アイリスがカインを押しのけた隙に逃げ出したサリエルを見て、申し訳無さそうな顔をした。

「ミハエル殿の飼い猫殿にもご不便を強いたようで。」
「イズナ、それは飼い猫ではなく神であるぞ。」
「…誠に、申し訳もありません。」

 ミハエルの首に抱きつくようにすがりつくサリエルのボサボサの毛並みを直してやりながら、全然気にしないでくださいと苦笑いする。

「ええと、レディ…アイリス様はお風邪をお召になっているようで、どうやら心細くなって国王様をお探しになったようです。」
「ああ、なるほど…。アイリス、今母上は父上と共に裁判に出ている。夕刻には終わるから、それまでは兄と一緒にいよう。」
「裁判?」
「ほら、貴族街の一件があったろう。今父上が嬉々として国庫を潤すために絞りまくっている。俺もおかげでバタバタだ。」

 例のオークションでの大捕物で、以前から鼻についてた悪徳貴族をまとめて処することになったらしい。たしかにそんな場面は娘には見せられない。例の馬車は何も知らされずに呼び出されたそれら貴族のものらしく、カインいわくそれすらも金に変えて市井に還元するらしい。悪徳貴族を絞った金で王立の病院を建設する予定らしく、ミハエルはそれを聞いて飛び上がって喜んだ。

「それは誠に良いことですね!医術局員が派遣されていくよりも、よほど効率がいいです!」

 月に数度、教会等に訪れて診察などもする医術局員が聞いたら大喜びするに違いない。場所はもう決まっているらしく、貴族街との境に立てるようだ。資金を貴族街から出すという体裁を整えるためらしいが、国立ではあるが貴族からの有志によって建てられると広める代わりに、お前らまじで見張っているからなという圧も込めているらしい。
 分院も出すそうなので、どうやら揉めることとなさそうである。器具なども揃っているマイアの邸宅をごっそりと改装して移設することと、土地はジルバがあれこれ言って巻き上げたとかなんとかで、わりとリーズナブルなようである。

「さすがジルバ。金のことになると頭の回転が早くなるな。」
「まあ、そうだな…。」

 息子ながらに強欲すぎて引くところもあると言っているが、貴族達からは恐れられ、市井からは賢王とその宰相というイメージを作り上げているので、そういった戦略も大切なのだろう。思い切り国内に還元して尽くしているが、そのかわりジルバの市井への監視の目は静かに広がるのだ。蜘蛛の巣はしっかりと拡大している。王族に背く行いをしなければいいだけなので、悪い子としたら自己責任だ。

「さて、悪いが俺はアイリスが心配だからそろそろ行く。ミハエル、後でイズナをよこすから風邪薬を頼む。」
「承知しました。」

 カイン抱かれたアイリスが、ゆるゆるとミハエルとサディンに手をふる。二人してペコリと一礼をしようと思ったが、敢えて手を振替してみる。どうやらそれが正解だったようで、アイリスは嬉しそうに微笑んだ。
 


「小さいのに、聡明でいらっしゃる。でも少しだけ寂しそうでしたね、アイリス様。」
「初恋がお前だとしたら遠慮してもらわねば。」
「今僕そんな話してませんでしたよね?」

 何を真顔で言ってるんですか。カイン達を見送ってなおそんな間抜けなことを宣うサディンに、ミハエルが突っ込む。
 サディンはむすくれたままがしりとミハエルの手を握りしめると、ジルバの手があくまで付き合えと歩き出した。普段城の中では手を繋がないサディンだ。ミハエルが頬を染めながら戸惑って見上げると、耳の先を赤らめたサディンが手を引くように前を歩いていた。

「息子殿、あのがきがお前に恋心を抱いたのに嫉妬したのだぞ。」
「え、」

 肩によじ登って、囁くようにサリエルが言う。まさかそんなわけないだろうとミハエルが笑って一蹴しようとすると、顔を赤くしたサディンが無言でミハエルを見つめた。

「…………。」
「えっ」
「悪いか。」

 サディンの端的な言葉に、ミハエルはじわじわと顔を染め上げると、繋がれていない方の片手で顔を隠す。

「な、んだその反応…」
「だ、だって…貴方の子を妊娠しているのに、そんな不安になるだなんて…」

 ちょっと、可愛いなって。

 ミハエルの小さな呟きに、サディンの顔がきゅっとなる。結局ミハエルはサディンのそんな変な顔は見れなかったのだが、その後もサディンが堂々と手を繋いだまま中庭まで歩くので、すれ違う人で二人の関係を知らなかった者には二度見されたり、騎士団やら局員には冷やかされたりとミハエルの情緒は忙しなくて敵わない。
 最終的には中庭の手前でミハエルがギブアップを叫び、そこで漸くサディンもここまで手を繋いでいた事に気がついたらしい。

「年甲斐もなく…その、すまん。」
「い、いえ…び、びっくりしましたけど…」

 などと、二人して唐突に初心の極みの如くそんなことを宣うので、ちょっとだけ面白くなってしまい、中庭の四阿でケラケラと笑ってしまった。まさかそのやり取りをジキルとカルマに見られていたとは気づかない。後日蜘蛛の巣のコンビは、怖いもの見たとしばらく地雷を踏み抜かぬように気を配るのに苦労したという。



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