こっち向いて、運命。-半神騎士と猪突猛進男子が幸せになるまでのお話-

だいきち

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「いやあ実に愉快。中から見ていたが、お前も粗野な言葉を使えるんですねえ。面白いから、ずっとそのままでいいのに。」
「…僕は、なんてことを言ってしまったのでしょう…お、怒ってました…絶対あれ、胸ぐら掴んだのに怒ってました…。」
「お前が逃げ出したことに対して怒ってるんじゃないのかあれは。」
 
 木の柵に額をくっつけるかのようにして、ミハエルが落ち込む。自分でもわからない、なんであんなに粗野な言葉が出てしまったのか。本当に無意識に、勝手に口から溢れ出てしまったのだ。多分、男らしさを追求するために読み始めた冒険譚に影響されたに違いない。顔を羞恥で染め上げながら、大きなため息を吐く。
 
「嫌われたらどうしよう…」
「嫌ったら追いかけてこないでしょうねえ。ほうら。」
「へぁ…っ!」
 
 しゃがみ込んでいたミハエルの隣に立ったサリエルが、ほれと追いかけてきたサディンを指差す。どうしよう!?と助けを求める目でサリエルを見上げたのに、何やら面白そうだから手伝ってやんね。と宣って柵の上に腰を下ろす。
 ワタワタと立ち上がり走り出そうとして、草に足を取られ体がよろめいた。
 
「わっ、」
「ミハエル!!」
「ひょわ…っ!」
 
 手摺に捕まろうとして空を切った手を、間一髪サディンが掴むことで転倒は避けられた。そのまま乱暴に引き寄せられると、ミハエルは腕の中に抱きすくめられた。
 

「お前…」
「ごっ、ごめんなさぃ…っ…」
 
 後ろからキツく抱きしめられて、結構苦しい。ミハエルは尻すぼみになる謝罪を返しながら、真っ青な顔でゆっくりとサディンを振り向いた。
 
「ヒェ…」
 
 ツノが出ている。これは完全にキレている時のサディンだ。獣の部分のみの時はリラックスモードだが、サディンがツノを生やした時は、マジで怒られる時であった。ミハエルの顔色が悪くなる。腕の中で情けなく震える様子を見て、サディンはガブリと首に噛み付いた。
 
「いっっったい!!!!」
「うるさい!お前!妊娠しているんだから走るなって言っただろうが!!転んで何かあったらどうする!!鈍臭いんだから、俺から逃げようなんて思うんじゃねえ!!」
「ひゃい…」
 
 情けないお返事をして、じわじわと涙で目を潤ませるミハエルが力を抜く。どうやら降参したらしい。ミハエルの肩口に思い切り歯を突き立てたサディンは、じんわりと滲んだ血をな舐めとると、心底疲れたといわんばかりにため息を吐いた。そうしてようやく人心地がつくと、辺りを見回す余裕も出てきた。
 
「…教会?」
「い、いいえ、多分、孤児院も兼ねているなら礼拝堂かと…。」
 
 二人の目の前には、廃れた孤児院と、そこに併設された小さな礼拝堂があった。周りは木の柵で囲まれ、なんとも牧歌的な風景だ。もう随分と使われていないらしく、夜に来るには少しだけ勇気が入りそうな気配がする。
 
「う、っ」
「ミハエル?」
「す、すみませ…ちょっと、気持ち悪い…」
 
 悪阻がきたらしい、サディンはヘナヘナと崩れそうになるミハエルを慌てて抱き上げると、もう廃墟となっている礼拝堂の扉を足蹴にして開く。どこか寝かせられる場所があれば、休ませてやろうと思ったのだ。
 
 中には横長の椅子が通路を挟んで六脚、埃がキラキラ止まっており、その先の祭壇にある聖人像はステンドガラスによって美しく照らされていた。
 横抱きにしたまま、しばらく二人してその美しい光景を見つめた。なんというか、埃被ってはいるが、ひどく静謐な雰囲気だったのだ。像の目の前には埃被ったルリケールと、枯れた水瓶。祭壇横には小部屋があり、サディンが足で雑に開くと、ギイイと抗議をするかのように蝶番が軋む。階段を降りて地階に行く。ミハエルはちょっとだけ怖いなと思いながらも、サディンに凭れ掛かるようにしておとなしくしていた。
 
「応接間、か?」
 
 入った部屋には、古びたソファとテーブル。そして食器棚に簡易的なキッチンもあった。サディンはソファにミハエルを座らせると、膝枕をするようにして寝かせた。
 
「まずは色々言いたいことはあるが、ひとまずは飲み込んだ。」
「ご、ごめんなさい…」
「パニクって逃げるな。逆に俺がパニックになったわ。」
「誠に…申し訳ございません…」
 
 大きなため息を吐きながら、サディンが背もたれにもたれる。ミハエルのまろい頬を手なぐさみに撫でながら、しばらく黙っていたのだが、サディンは数度深呼吸をしたのち、ゆっくりと口を開いた。
 
「怖かったんだよ。」
「へ、」
「呪われてくださいなんて、言えないだろ。普通に。」
 
 ミハエルは膝枕をしてもらいながら、サディンをチラリと見上げた。金色と目が合う。瞬きで答えると、小さく笑われた。
 
「結婚してください、っていうか、俺に呪われてください、っていうか。それも考えてたんだけどな。」
「………。」
「違うな、それもそうだけど、…まあ、お前に断られるかもしれないって考えて、ビビってたのもある。」
 
 サディンの掌が、優しくミハエルの髪をすく。それが気持ちよくて、つい目を細めた。
 
「断られるって思った。でも、子供産んでくれるだけで嬉しいし、まあいいかってなった。」
「サディン、」
「聞けって、…後単純に、お前から人生とりあげるかもしれないって考えて、我を通して嫌われたら嫌だなって、びびってた。」

 ぽそりと呟くサディンの言葉に、ミハエルは胸が甘く鳴いた。信仰じみた相手への想いは、ミハエルだけではなかったのだ。11歳も上のサディンが、顔を染め上げてそんなことを言う。ミハエルの否定に怯えて震えていたのだ。そんなこと、あるわけないのに。

「似たモノ同士ですね、僕たち。」
「ああ、確かに。」
 
 ミハエルはサディンの心配をして、サディンはミハエルの心配をして、互いが互いの首を絞めていた。それってなんて愚かで愛おしいことだろう。行き過ぎた信仰で、相手を思いやり過ぎて苦しくなる。これも、ある意味呪いのようなものだと思った。
 
「結婚してください、ええっと…呪われてください。」
「あは、っ…ふふ、ふへ、っ…」
「おい、泣くか笑うか、ノーかイエスか。どれか一つにしろ。」
 
 不器用でぶっきらぼうなプロポーズに、ミハエルは嬉しいやら、面白いやら、ケラケラ笑いながら泣くと言う器用なことをして、サディンを困らせる。ミハエルはサディンに振り回されてたくさん泣いたし、サディンもミハエルに振りまわされて、年甲斐もなく泣いた。二人して情けなくて、でもそれがらしくていいなと思った。
 
「ん…イエスです。」
「言ったな、お前、もう絶対に離してやらないから覚悟しろ。」
「はい、ただし、出産までは待ってください。これは僕の誓いです。」
「…怒るぞミハエル。」
 
 ゆっくりと起き上がったミハエルが、サディンの頬にそっと手を添えて言う。
 
「僕があなたの子を産んで、誠意を見せたら、その時に呪ってください。」
 
 ミハエルはサディンを置いて絶対に死なない。だから怖がらなくていいよと優しく微笑む。サディンはなんだかそれが嫌で、不服そうな顔でミハエルを見つめる。
 
「怖がらないで、僕は貴方の番になる男ですよ。」
 
 サディンの頭を引き寄せて、優しく抱きしめた。頭を撫でやれば、サディンはゆっくりとミハエルの背中に手を回す。
 
「貴方の子を産める幸せを、貴方がくれたんです。だって僕、まだ貴方に幸せを返す途中なんですもん。」
「…お前、それはずるい。」
「妻のおねだりに答えてください、いい子のお返事くださいな。」
 
 サディンは少しだけ困ったように微笑むと、そっとミハエルの頬に手を添えて唇を重ねる。その口づけは繊細なものに触れるかのように、ひどく優しい。
 
「…俺も立ち会うからな。出産。」
「ええ、僕の勇姿をぜひ見てください。」
 
 ミハエルはそう言って、可愛く微笑む。サディンの小さな不安なんて、簡単に吹き飛ばしてしまうくらい、まっすぐなミハエルの言葉はサディンの胸にじんわりと染み込んだ。
 こんな、廃れた礼拝堂の、しかも応接間での様にならないプロポーズ。しかも見届けたのはタチの悪い執着の神様であるサリエルである。
 
「あーあ、まさか俺が夫婦の誓いを見届ける日が来るとは。」

 面倒臭そうな顔で空中に寝転んだサリエルが、やれやれとため息を吐いた。まさかこんなことになるなんて思いも寄らなかった。そう言わんばかりに寝返りを打って二人を見下ろす。
 
「しかしまあ極上の執着は、確かに愛というわけですねえ。ああ怖い怖い。」
 
 そう言って、本職の神様が誉めるほどに見事な二人の執着は、誓いとなって見届けられた。文句を言うわりには空気を読んで、姿を消して見守るあたり、サリエルも丸くなった。まあこれは先行投資だと割り切ったらしい。サリエルは不器用ながらも祈りを受け取ると、それをしっかりと聞き届けて祝福に変えた。
 まだ見ぬ二人の子供に与える、二人の愛のこもった祝福に。
 
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