だいきちの拙作ごった煮短編集

金大吉珠9/12商業商業bL発売

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こっち向いて、運命。ー半神騎士と猪突猛進男子が幸せになるまでのお話ー

 X X Xたい愛情(リクエスト短編、アロサジ)

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 それはある日のことだった。
 アロンダートが市井へと頼まれていた魔道具を卸しに行くというので、それならばとサジはマイコとシンディにロズウェルを任せてミルクを買いに行くことにした。
 サジの才能豊かな魔物たちは、実に良いシッターを務めてくれる。愛息子であるロズウェルの半魔の血がそうさせるのか、はたまたナナシのように魔物から好かれる魅力があるのかは定かではないが。

「アロンダートがいるとゆっくり選ぶこともままならぬ。ロズは舌も肥えておるし、全く幼児のうちから粉ミルクにこだわりを持つのは誰に似たのやら」

 腕に抱いた茶色の紙袋からは、おむつやら粉ミルク。離乳食にも使えそうな野菜のペースト数種類に、乳幼児用のケア用品までが入っている。インベントリに入れると、空間収納が実に便利すぎて買い過ぎてしまうのだ。
 便利が効率をよくする訳でもないのだということを、ここ最近知った。

「あん?」

 日差しが照りつける地べたを、サジはサンダルで石畳を摩擦するように立ち止まる。長い枯葉色の髪を一つにまとめているせいか、いつもよりも視界に入る情報が多い。
 サジの目の前。お互いの用事が済んだらここで落ち合おうと約束した場所で、アロンダートが見知らぬ女性に絡まれていた。

「すまないが、人と待ち合わせをしている。以前も話したが、僕は番いを裏切るようなことをしたくないんだ」
「つがいって、なんですか? 恋人ではないなら、私にも」

 白い女の手のひらが、アロンダートの袖に触れたように見えた。それがなんの意味合いを持つのかを思考する前に、体は勝手に動いた。

「気持ちは嬉しいが、応えられない。すまないが理解して、──── サジ」
「お嬢さん、私の連れ合いに興味を示す審美眼は認めよう。だが、あいにくこいつが貴女を選ぶことはない」

 その小さな手にサジの手が重なった。己よりも一回りも小さな女性の手のひらを、袖から外させるサジの瞳には牽制が滲んでいる。
 はたから見れば、美丈夫二人に迫られているような距離感だろう。しかし、放たれる言葉の冷たさは、しっかりと女性へ伝わったようだ。

「────、さ」
「油を売るなアロンダート。それは私を待たせた罰だ。家路までお前がもてよ」
「じ」

 外面用の、私。を使うサジが、紙袋をアロンダートの胸へと押し付ける。茶色のそこから、ロズウェルのミルクがこぼれ落ちそうになった。それを大きな手のひらが受け止めると、アロンダートを待たずにスタスタと歩いて行ったサジの背中を追いかける。
 今までサジが女性と話している姿は見たことがなかった。己へ向けての嫉妬を喜ぶ気持ちはある、しかし、アロンダートはサジを怒らせたかもしれないという不安から、気持ちはせいでいた。
 荷物を落とさないようにインベントリへと突っ込む。普段はしないような駆け足をしてサジの横に並ぶと、白い手のひらは幻惑の森へと繋がる道を路地の一角に繋いだ。

「サジ」
「早くしろ。む、なんて顔をしている」
「あ、いや……、すまない」

 どういう顔をすればいいのかがわからないようだった。アロンダートは、反省と喜びを混ぜたような複雑な表情を浮かべる。
 妙竹林な表情は、先ほどの不機嫌が原因だと思うと幾分か胸がすく。その手を取ると、大きく口を開けた空間へと引き込むようにして場所を変える。

 道が、ざらつく地面からふかりとした土に変わる。サジの塒がある幻惑の森は今日も青の世界だ。
 透明度の高い水面越しに映したかのように、揺らぐ魔素がゆったりとした靄を纏って森を支配する。何百年もこの土地を見下ろす大樹の群れに出迎えられるように、草の生い茂る道の真ん中に二人はいた。

 この森の中で、サジは一層静謐さを身に纏うかのようだった。
 枯葉色の美しい髪が目立つ森で、アロンダートを前におし黙る。嫉妬をしてくれたのか。そんな野暮を聞くような空気ではない。アロンダートは、サジが触れた女性の手を思い出して、ちくんと胸の奥を痛めた。
 どこかむすりとした表情のサジの手を掬うように持ち上げる。細い指に絡めるようにして握りしめると、ようやくラブラドライトはアロンダートを映し込む。

「その、不機嫌だろう。僕のせいで」
「ぬ……」

 窺う様な色を含んだ問いかけに、サジの眉間に皺がよる。
 心情を指摘されるのが得意ではないことは知っていた。繋いでいない方の手のひらが、握り込まれる。薄い手のひらはアロンダートの手を握り返すなり、先導するように慣れた道を歩き出す。
 ロズウェルと出会ってから守るものが増えて、互いの手の温度を重ねることは減っていた。それが寂しいと感じていたのは、アロンダートだけではなかったようだ。
 質問に答えは返してくれなかったが、絡められた指が何よりも如実に語っていた。

「サジは、結構余裕がある方だと思っていた」

 ポツリと溢れた独白。返答を求めている気配はなく、ただ静かに聞く。
 森の、草木の呼吸にさらわれてしまいそうなほどの細やかさは、心のうちを晒すのが苦手なサジの歩み寄りだ。

「モテていたんだぞ、結構な。いろいろ遊んだ。まあ、いろいろだ……。サジは魅力的だしな。うむ」

 エルマーがいれば、てめえでいうんじゃねえとヤジが飛んできそうだ。それほど不遜で、横柄な恥じらい混じりの言葉。
 性的に社交的だったサジは、己の魅力の出し方も、どう動けば物事が都合よくことが回るかも理解していた。無論、閨事の主導権だって奪われるヘマもしない。誰もが触れてみたくなるような美貌を持つ高嶺の魔女、それが種子の魔女であるサジだった。
 
 背後に引かれるように、サジが止まる。振り向けば、手を握るアロンダートが足を止めていた。

「でも、今は僕のだ」
「…………むう」

 唇をへのじに曲げるサジを前に、アロンダートの口元にはほのかな笑みが浮かんだ。
 
 その体をつまみ食いをしたのはサジだ。しかし、差し伸べた手のひらごと、体まで持って行かれた。魔獣の血が濃いアロンダートの童貞を奪った代償を、しっかりとその体で払う羽目になったのだ。
 神使になって、まだ短い期間だったというのも理由の一つであった。悪食魔女が本当の意味で死んだと、魔女協会の一部で噂が流れたのも同じ頃合いである。
 無論本当に命を落として縛りから解放されたので、サジからしてみば今更何をが本音であった。弱いものこそ群れてよく吠える。そう歯牙にもかけずに過ごしていたくらい、サジは己に絡む全ての事象に対して余裕があったというのに。
 
 心を乱されて、らしく振る舞えなかった相手がまさか、まさか魔女でもなんでもない市井の女だったとは。

「後ろをむけ」
「?」
「いいから、今すぐそこの木に両手をつけと言っているのだ! サジの命令だぞ!」
「ああ、これで構わないか」
「ぬ……」

 家までは、あとわずかだ。いくら優秀なサジの魔物たちがロズウェルをあやしているからといって、いつもなら寄り道もせずにまっすぐ帰るサジが、随分と珍しいことを言う。
 口数が少ないのも妙だ。サジの内心とは裏腹に、アロンダートは少しだけ心配の色を向けながらも、おとなしくいうことを聞いた。
 正面にした太い木の幹を、手持ち無沙汰に手で触れる。今日のは腹が立ったと尻でも叩かれるのかと思っていれば、ふわりとサジの甘い香りが鼻腔をくすぐった。

「……サジ」
「黙れ、お前はそこで反省をしろ」

 先程痛めた心臓が、容易く鼓動を弾ませる。アロンダートの腹に細いサジの両腕が回ったのだ。まさか背後から抱き付かれるとは思いもよらない、いつもなら正面からだ。
 腹に、心地の良い締め付けを感じる。木肌に触れていた手のひらをそっと添えれば、背中にごつんと頭突きをされた。

「お前、サジの騎獣だろう。自覚が足りないのではないか。女相手にやにさがった顔をしよってからに」
「していただろうか……」
「して、ないかもしれんが不服だ」

 背中に顔を押し付けるように、くぐもった声で宣う。背中の一箇所がサジの吐息によって温められるのがむず痒くて、アロンダートはそっと己の手をかさねた。
 
「サジ……」
「本当は、男の喜びも知りたいんじゃないのか」

 不機嫌な言葉に反応を示すように、アロンダートの指先が小さく跳ねた。

「それはどういう意味だサジ」
「おい、振り向けなんて一言も言ってな」
「どういう意味だと聞いているんだ」

 サジの腕を外す様にして、正面に向き直る。いうことを聞かないなんていうのは久しぶりであった。語気を強めるアロンダートの様子に、戸惑い見上げる。
 ラブラドライトに映るアロンダートの表情は、飲み込みきれない何かを抱えているように眉を寄せていた。
 口にした言葉で、もしかしたら拗ねるかもしれないとは予測していた。それでも、ここまで不機嫌になるとは思いもしなかった。サジの体はわかりやすく体温を下げる。悪いことをしたという自覚はしても、苛立ちを向けられる心の準備はしていない。
 大きな手のひらに掴まれた手首が少しだけ痛い。もしかして、初めての喧嘩をしてしまうことになるのだろうか。好戦的なサジとはいえ、番いの前ではいつも通りを振る舞えるわけがない。

「……っ離せ馬鹿者、痛い」
「僕の目を見ろサジ。まだ質問に答えていない」

 口を真一文字に引き結ぶ。後退りするように腕を引けば、腕を引くようにアロンダートが立ち位置を入れ替える。気がつけば、サジは木の幹を背に見下ろされていた。

「僕が女性相手に、そういうことをしたいとでも思うのか」
「お、おまえも男だろう! そういう気だって起こりうる!」
「この体の味を覚えさせておいて、それをいうのか」
「んぃ、っ……!」

 気がつけば、サジの腰はもう一対の獣の腕で押さえつけられていた。アロンダートが欲をぶつける時、本能が前に出ている証でもあった。
 琥珀の瞳を魔物の金色のように輝かせ、腕の檻で獲物を逃さぬ様に閉じ込める。逃げ場のないまま、サジは肩をすくませる様にして俯いた。ツンと尖った耳に、唇が寄せられる。
 大きな手のひらがゆっくりとサジの胸元に触れると、長い指先で顎を救われるように顔を上げさせられた。

「僕はサジで童貞を捨てた。忘れていないだろう?それは、ここが一番記憶しているはずだ」
「くぅ……っ」

 晒された細い首筋に歯を立てられる。アロンダートの手のひらは下腹部に移動すると、臍を隠す様にして、ぐっと押される。
 直接中を暴かれたわけではない。それなのに、散々教え込まれたサジの腹の奥は、上等な雄に反応を示すかのように収縮した。

「っ生意気を」
「生意気にさせたのはサジだろう。違うか」
「ひぅ、っ」

 熱い舌が首筋を舐める。柔らかな唇は再び耳へと戻ってくると、エルフの血を引く特徴的な耳を甘く喰む。気がつけば、だらしなく着込んでいた服を乱され、大きな手のひらはサジの上半身をさらしていた。
 
「ま、待て、ここでっんん、っ」
「……いくら汚しても構わない、外は楽だと前に言っていた」
「い、ぃまいう、なっ、ぁう、っ」

 ぺんだこの目立つ節ばった指先が、サジの薄桃色の胸の突起を挟む。強弱をつけるように触れられるのが好きなことは知られている。サジによって仕上げられたアロンダートの手練手管は、的確に体に火を灯していくのだ。
 ない胸を柔らかく揉まれ、鎖骨に歯を立てられる。それだけで、はしたない体は簡単にとろけ、素直な部分が布地を押し上げる。心許ない布面積の下着は先走りによって染みをひろげ、その一筋が服の内側で股へと伝うのがわかった。

「ふ、服が、汚れる……っ、」
「もう濡らしたのか」
「は、ぁあくそ……っ、は、早く触れ、っ」
「ふふ」

 熱を帯びるサジの声色に、アロンダートが笑う。柳腰を締め付ける野暮な紐を緩めると、布を巻きつけただけの簡易な服は容易く取り払える。静かな幻惑の森で、サジだけが白い体を晒している。
 足元に布地を落としたアロンダートは、跪く様にしてサジの薄い腹に唇を寄せた。頬に当たる熱源は、サジの勃ち上がった性器だ。アロンダートが贈った、繊細な黒のレースの下履きは、もうすでに目も当てられないほどに濡れそぼっていた。
 布が押し上げられることでできた隙間が目に毒だ。性器に血が溜まる感覚を感じながら、下着としての体裁を保つ唯一の紐を唇で解く。

「っ、……あぁ、気に入っていたのに」
「いくらでも贈る」
「ふは、……っ、あ、くち、……っ……」

 跪くアロンダートの頭を引き寄せるように、サジの行儀の悪い足が肩へと回る。不安定な体勢を木の幹で支えられたまま、赤い舌が溢れた先走りを受け留めるのを見つめる。
 そのまま、ねろりと裏筋に走る血管を確かめるように舌が這わされた。透明な蜜は舌の上で溶け、たどり着いたみずみずしい果実のような先端をゆっくりと口に含まれる。
 静かな森で、じぱ、という耳を塞ぎたくなるような音が響いた。聴覚からも、視覚からも神経を侵されている様だった。

「溢れてくるな。昨日も散々出したというのに」
「ぁ、う、ぅるさ……っ、ふ、は、……はあ、ぁ、っ……」
「熱い、ふふ……。楽しいな、サジ」

 なけなしの雄の本能が、サジの腰を揺らす。小さな尻に手を添えるように律動を助けるアロンダートは、喉を大きく開く様にしてサジの性器を深くまで咥えこむ。
 上顎の、ざらりとした感触がダメだ。だらしなく唇を半開きにしたまま、小ぶりな袋や柔らかな内股を唾液と先走りで濡らす。体の中心から広がる刺激が末端まで行き渡り、力が入らない。尻にキュウと力が入り、腰のゆらめきが少しずつ早くなる。

「は、ぁあ、あ、あも、い、ぃく……で、でる、ぁ、あー……っ」
「ン、」
「ぁあ? っ、ぁ、あ、あ、っば、か……そ、そこ、は……っ」
「使うだろう。ほら、力を入れるな」

 吐精後の余韻に浸ることは許されなかった。己の足を自ら開くような体勢で、蕾はアロンダートの指を腹に収めていた。二本の指が縦に伸ばすように蕾を開く。粘膜は、この先を期待するように腸液を滲ませていた。
 ぷしょ、と情けない量の潮が性器から溢れた。雫がパタパタと足元の草を揺らすと、いたたまれないとでもいうように目を瞑る。
 太い指は内壁を馴染ませるように、予測もできぬ動きを繰り返す。指先が前立腺を掠めるたびに、目の前で火花が散る様であった。

「ぁ、あう、う、ぅン……っ」
「締め付けてくるな……そんなに僕の指がすきか」
「ん……も、もっと、ぉく……擦れ、っ……」
「なら、もう指はしまいだな」

 赤い媚肉は待ち侘びるように涎を垂らしていた。アロンダートの鼻先が、袋を押し上げるように股座に唇を寄せる。濡れたまま、肉の色を晒すそこをベロリと舐め上げると、肩に乗せられた足をどかすように掴んだ。

「ぁ、う……」
「体を持ち上げる。首に腕を回して」
「は、ぅあ、っ」

 アロンダートが立ち上がると同時に、支えるようにサジの背中に腕が回った。人外の、四つ腕にしかできないやり方で両足を大きく広げられる。近い距離で、肩口に額を預けるように下腹部を見れば、褐色の手が己の性器を外気に晒していた。

「……毎回、サジは自分の尻ほめてやりたい」
「ああそうだな、だから僕が代わりにここで感謝を伝える」
「も、親父くさいことを言うでない、わ……あっ」

 熱い肉の塊が、サジの割れたそこを押し開く様にして侵入を果たす。猛禽の鉤爪は見た目以上にひどく優しく、ゆっくりとサジの腰を落としていった。もう腹の内側で覚えている。どこを擦られれば一番気持ちがいいかということを。

「ふ、く……ぅん……っ……」
「……馴染んでいるが、苦しくは?」
「ぁ、い、いつも、より……でか、い……」
「うん。サジの中も、いつもより狭い」

 労わるように頬に口付けられる。首に絡めた腕を緩め、頬を重ねるように甘える。腹の中が窮屈で、くちくて、苦しいのに気持ちがいい。足りないものを求めるようにアロンダートへと視線を合わせれば、ゆっくりと唇が重なる。
 舌に欲を乗せるような口付けも好みだが、今はこうして啄むものの方が心地よかった。

「……唇が熱いな、なかも、心地がいい」
「お、女よりもか」
「僕は、後にも先にも経験することはないだろうな。こうして、抱きたいと思う人はサジだけだ」

 額が重なる。サジが好きな柔らかいアロンダートの言葉が、甘く胸を締め付ける。無条件に優しく、そして指先に愛情を込める様に触れてくれるのはアロンダートが初めてであった。
 ふとく、硬い性器によって意識を奪われる前に、サジは言っておかねばならないことがあった。

「ならば、サジの目の前ではやめろ。女と話すな……、っ……嫌いだそういうの」
「嫉妬したのだろう。悲しませてすまないが、僕は……少しばかし高揚した」
「ひ、っあ……‼︎」

 体を持ち上げられるのと、アロンダートが腰を引くのは同時だった。ずろりと肉襞を巻き込むようにゆっくりと摩擦される。蕾が逃すまいと亀頭を絞るのがありありとわかった。
 漏れそうな声を、厚みのある唇が飲み込む。興奮を如実に表すように差し込まれた舌によって、サジは鼻にかかったような甘えた声を漏らしてしまった。
 嫌だ、恥ずかしい、気持ちいい、溶ける。
 蕾の縁を巻き込むような、重い腰の打ち付けが前立腺を押し潰す。その刺激はサジから体の主導権を奪い、アロンダートへと明け渡すものだ。

「ンぅ、ン、んん、ンっ、ぅ、うふ、ぁ……ぁン、っい、いぃ、あ、あぁ……っ」
「噛みたい……っ、か、んでも……い、いか」
「い、いっ、も、す、気にし、ひぁ、あっ」
「は……、ンぐ……っ」
「い、った、ぁ、あい、ィいぐ、っ、い、いくぅ、あぁあ、っ」

 肩に犬歯を埋め込むように噛み付かれるだけで、神経の先に熱が灯る。燃え広がるような性感は脳を焼いて、腹の上で跳ね回る腑抜けた性器から色味の薄い精液を漏らす。
 男としての矜持を奪われた。女に教えることのできないサジの体に、女を知らぬアロンダートが雄の欲を教え込む。人としての正常と言われる営みを放棄して、二人は獣のように貪り合う。
 結合部は先走りが摩擦されて泡立ち、尻たぶは激しい腰の打ちつけによって赤くなっていた。縋り付く広い背中。手の下で蠢く男らしい筋へと傷をつけるように爪を立て、サジは縋りついた。
 腹の中を何度も勝手気ままに蹂躙される。静かな森の中で、そこだけが熱を持ったように温度が違う。足元の葉は体液を受け止め、朝露よりも粘着質な雫を地べたへと落とす。
 貪るように重なる唇。互いの酸素を交換するように味蕾を摩擦しあえば、アロンダートは己の茂みを押し付けるようにしてサジの尻を揺らした。

「ぁぐ、っ……‼︎」

 目の前で光が弾ける。だらしなく開いた唇から、唾液が溢れた。肺が膨らんで、新鮮な空気が肺を満たす。感覚の麻痺した内壁は、吸い付くように性器を舐めしゃぶり、太い血管の一本を圧迫するようにして射精を促す。
 じゅわり、と腹の奥で熱が染み込む。肩口に顔を埋め、獰猛に喉を鳴らしたアロンダートの腰がかすかに震え、余韻を味わうように精液を中に馴染ませる。

「……っ、サジ……」
「ひぅ……あ……」

 くたりとするサジを、支えるように背に手を回す。長い髪を汗で体に貼り付けながら、体重をかけるように甘えてくるのが心地よい。まるであとは任せたと言われているようだと口元に笑みを浮かべると、手の甲にふかりとしたものを感じた。
 
「これは……」

いつの間にか、サジが背にしていた木の表面には柔らかな苔が侵食していた。おそらくセフィラストスがサジの背を傷つけないように施したのだろうことを予測して、バツが悪そうな顔になる。
 ここは幻惑の森で、確かにセフィラストスの目の届く範囲であった。この行為を見られていたと思った方がいい。アロンダートはそっと腕の中のサジへと顔を寄せると、瞼に唇を落とした。

「……大丈夫か。すまない、少し暴走した」
「ん……、も、帰る……」
「ああ、そうしよう。……抜くぞ」
「ふ、んん……っ」

 性器は、グチュ、と音を立ててゆっくりと引き抜かれた。量の多い精液が、呼吸をするように収縮するサジの蕾からぼたぼたと溢れる。それが地べたを汚すのだ。
 力の入らないサジを両腕で抱き上げる。家まで転移をするかと足元に魔力を溜めれば、首筋に額を重ねるようにしてサジが寄り添った。

「……種は、つかぬからなあ」

 ポツリと呟いた。サジが手のひらを添える薄い腹は、風穴を開けられた過去がある。ロズウェルを引き取ったサジだ。だからこそ、孕めないことを気にもしていないと思っていた。
 妊娠薬は、一度腹を修復した経験があるものは推奨されない。孕んだとしても、妊娠に体が耐えられない可能性があるからだ。だからこそサジは最初から子を引き取る方を選んだ。アロンダートも、サジが望むならと、なんの心配もしていなかった。

「……孕みたかったのか?」
「今はロズがいる。……世迷言を拾うな馬鹿者」
「ああ、……でも僕は望まない。サジが死ぬかもしれないのならな」

 穏やかな声色で宣う。アロンダートの言葉に、サジがゆっくりと顔を上げた。いらないのではなく、望まない。己の番いが死を迎える可能性があるものは、すべて受け入れられないと言い切ったのだ。
 だから、アロンダートはロズウェルを迎えた時、安心をした。サジの心の中に潜めた寂しさを理解しながら、己の都合を優先して知らないふりをした。
 ラブラドライトに映り込むアロンダートの瞳に金が差す。魔物のように身勝手で、醜い愛情をまっすぐに向けてくる。半魔は醜い。それは、容姿ではなく、人の心を持ちながら、時として他者の心の機微を見て見ぬふりをして自我を通す。そんな不遜さが表されるからだと思っている。

「ロズはサジを愛するよ。半魔は露骨なのだ、知っているだろう」
「重いのはお前だけで十分なのだがなあ……」
「サジが神使で本当に良かった。僕はきっとサジが死んだら、その体をロズと取り合う気しかしないからな」

 亡骸を前にしたら、そこに親としての愛情を交えられるかはわからない。きっと二人して魔物の本能が前に出て、仲良く分け合うことなどしないだろう。
 薄い手のひらがアロンダートの頬に触れた。サジはいつもの、性格の悪さが滲む顔に戻っていた。整った顔は、口端を吊り上げるように笑みを浮かべる。魔女らしい、いつものサジだ。
 

「サジが死んだら、二人で腹に収めると思ったが違うのか?実に残念」
「ああ、手綱は外れてしまうだろう?」

 美しい黒髪を緩く弾くように顔を近づける。サジは満足そうに微笑むと、その唇にがじりと噛みついた。

「……ならば骨の髄までしつけねば。まだまだ手がかかりそうな馬鹿者で困ったものだ」
「手がかかるほど可愛いというだろう」
「お前よりも、ロズのがよほど可愛らしいわ」

 小さく笑って宣った。まだ幼い我が子に嫉妬を向けるのかと言わんばかりの挑発に、アロンダートは珍しく悔しそうな表情を見せつけたのであった。

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