なんだか泣きたくなってきた

金大吉珠9/12商業商業bL発売

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育代

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ペリリリ、と端っこをつまんだガムテープを平行に浮かせて剥がしていく。こう言うのが綺麗に剥がせるか剥がせないかで今日の運勢を占っちゃったりするよね、おかんも僕もこういう細かい作業を慎重にするのは嫌いじゃないので、ガムテープ一つ剥がすだけでも恭しくなってしまう。

ペチッと剥がれたテープを小さく畳んで床に置くと、観音開きの蓋をパカリとあけると小花柄の包装紙に包まれた箱が入っていた。

「めっちゃいいやつなんじゃね?」
「ふぅん…バスセットだったら今日から使おうぜ。」

オカンが期待するようにソワソワと箱を取り出すのを見ている。やっぱなんかでかい。試しに軽く揺らしてみると、瓶やボトルのような音はしない。

「もしかして足湯キットとか?なんかでかそう。」
「足湯!そういや吉信につま先冷えるとか言った気がする。」
「おー!でも化粧品じゃなくね?」
「たしかにな。まあ、あけてみ。」

もし吉信がオカンの冷え性の為に足湯キットもしくは冷え性関連のグッズを送ってきたのなら、吉信のダメ親父のレッテルは剥がされるだろう。
2、3回箱を回転させて剥がす場所を探すと、包装紙もまた丁寧に剥がしていった。この固めの紙が擦れ合う音というのは、なんだかわくわくするものだ。そして化粧品でも入ってそうな綺麗な箱が出てくると、オカンと二人でドキドキしながら蓋を開けた。










「オヤジ、そう言えばあのことどうなった?」
「ああ、きいちくんのやつ?オメガの子はみんな一度は入れてみたいもんかねぇ。」

桑原家のリビングでは、珍しく正親が家のリビングで寛いでいた。どうやら大きな契約を結ぶことができたので、今日を入れて三連休の有給休暇をもぎ取ったらしい。
そろそろ夫婦での時間も楽しみたいとか言っていたから、明日明後日あたりで夫婦二人は家をあけるだろう。

「とりあえず吉信に連絡して、二人で何を贈ろうかって話になってね。」
「は…?吉信さんも巻き込んだのか?」

俊くんは単純に同じような経験をしたアルファ二人から的確なアドバイスが欲しかっただけなのだが、まさか本人の預かり知らぬところで自分の父親にも知られているという事実を、きいちは知っているのだろうか。
正親が、まさか吉信を巻き込んでダメなアルファ二人が和気あいあいと決めて贈ると決めたもの。だめだ、想像するだけで嫌な予感しかない。

俊くんは嫌な予感を無視して、ワンチャンまともなものかもしれない、という期待を大きく持ちながら正親に聞いてみた。

「ああ、大したものじゃないよ。所謂据え置き型オナホだね。」










「えっ、」
「なんだこれ、」

細切れになった紙を敷き詰められた鳥の巣のような緩衝剤に守られて、まるで桃尻のようなフォルムをした謎素材のそれを恐る恐るとりだした。
おかんと二人で首を傾げながら色んな角度で見ていると、一緒に入っていたボトルと説明書のような紙を見つけた。

「すげぇ、これ膝に載せてるとお前が赤ちゃんのときを思い出す。」
「抱っこするやつ?でも何で下半身…ん?」

なんだか見覚えのあるボトルである。そして説明書に記載されている商品名をなんとなく読み上げた。

「ハメテンガ…桃尻育代…へんなの。」
「ハメ…あ。」

瞬間、先程まで膝に乗せて楽しんでいたはずのオカンが何を意味するのか理解したようで、持ち上げてテーブルに置いた。そこでええんか!?
そして思い切り尻のような部分を割り開いたと思ったら、なるほどと理解したように頷いた。

「これオナホ。」
「オナ、っ…」

まさに衝撃の一言である。僕の知ってるオナホとは明らかに形状がちがうし、なんでそんなでかいのか訳がわからない。据え置き型ってなに!?
僕が絶句していると、オカンが丁度入れる部分であろうそこを指差した。

「これで脱童貞しろってことだろ。」
「育代で!?てか名前古風すぎんだろ!情操教育ガバガバかよ!」
「未使用だから締りは良さそうだけど、」
「そっちのことは言ってないんですけどねぇ!?」

なんと、アナルセックスもできるらしい。すごすぎるだろ育代。保健の授業のおかげで何処に挿れるとかはわかるけど、こんなグロテスクなオナホに勃つ気がしない。というか、なんで吉信からオナホが届いたのかわからない。
そして全く分けがわからないまま育代の尻を指でつつく晃の横で頭を抱えた。

「はっ、ももも、もしかしてっ」

ふと頭によぎったのは、俊くんである。考えとくってもしかしてこれか!?と慌ててスマホで連絡を取る。数コールの後、聞き慣れた俊くんの声が繋がった。

「俊くん僕に育代送りつけたでしょ!?」
「育代?」
「桃尻育代だよ!!!!据え置き型のオナホ!!僕んちに届いたんだけど吉信にバラしたの!?!?」
「ぶふっ……」

電話越しで吹き出したのか、しばらくの間げほげほと噎せている俊くんの声が聞こえる。晃はぷにぷにとさっきから突きまくっている。やめなさいまじで。

「すまん、それ多分オヤジが発端だ。いや、おれか?ううん…」
「正親さん!?なんで!!」
「忍もおんなじ内容でごねてたことあったから、そんときどうしたかって先人の知恵を借りるつもりだったんだけどな。なんでこんなことに。」
「吉信と正親さんに僕の野望バレてんのクソ恥ずかしい!!オカン!育代ぷにぷにしないで!そっとしといてあげて!!」

電話越しでゲラゲラ笑う声が聞こえる。僕の周りはマイペース多すぎかよ!どうすんだこれ、ていうか、どうやってやり過ごしたか聞いた解答がこれってなんだそれ。これだからバカ共は!!僕と俊くんが求めてたのはプロセスであって物理的な答えではないんだよ!!!

「きいち、今度それ持って俺んち。」
「お断りしますぅ!!!」

たとえ使ったとしてもレビューだけは絶対に書かないからな!?
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