なんだか泣きたくなってきた

金大吉珠9/12商業商業bL発売

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2章

可愛すぎ有罪

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「うぐっ、」
「で?」

ゴスンと頭頂部に顎を指すようにして手元を見てくる俊くんに、後ろめたいこともないはずなのにワタワタと手紙を隠してしまったのがまずかった。
一気に背後から不機嫌なオーラが膨れ上がる。忽那さんは仕方ないといったかんじで席を立つと、俊くんの分までお茶を入れて戻ってきた。

「まあ、立ってるのもあれだし座ったら?」
「ああ、すんません。」
「ええええ。」

カタンと椅子を引いて隣に座ると、忽那さんが差し出してくれたコーヒーにミルクだけを入れて混ぜる。普段はブラックなのだが、珍しいこともあるものだ。

「カルシウムとっとけば苛つかないかなと思ってな?」
「アッ、ハイ…」

まじで不穏なフラグを自分で立ててしまったようである。忽那さんは自分の分のカフェラテを飲むと、頬杖を付きながらじいっと見つめてきた。

「別にいいと思うけどなぁ…」
「え?」
「ラブレター。そんだけ番が魅力的ってことでしょ?むしろそんな魅力的な人が自分のもの、ってことで優越感とか覚えたりしない?」

ちらりと俊くんをみながらフォローをするように言うと、難しい顔をした俊くんが腕を組んだまま不遜な態度で口を開いた。

「内容にもよる。番が貰ったものなら、俺にも見る権利はあるよなきいち?」
「あ、ええ、えへ、あはは…」
「なぁ?」
「あああ、あはは、ど、どーぞ…」

いい男の顔面の圧がすごい。これは目の当たりにしてみないとわからないだろうが、顔がいいやつに限って迫力のある笑みで圧迫してくるのだ。目尻に柔らかくシワを作りながら完璧スマイルをしているくせに有無を言わせない。めっちゃこわ…

結局諦めてそっと手紙を渡すと、カサリと紙の開く音とともに俊くんが文字をなぞる様に目を滑らせた。

何故その手紙が入っていた封筒がご祝儀袋だったのかも、そこにすべての答えがある。
差出人は僕と俊くんが番だということを知っていてこの手紙を書いたらしい。
端的にまとめると、俊くんが来なければ告白していたこと、番になったことを信じていなかったので、転校してまでそばにいることを選択した、番である俊くんを目の前にして諦めがついたこと。
ご祝儀袋は二人をお祝いする気持ちとして、あえて選んだものらしく、差出人の中での僕への恋の感情はすでに終わっているようだった。

ただ、読み終えた俊くんの眉間のシワが消えない。隠すほどでもないが、俊くんの登場で慌てた僕の行動がよほど気に食わなかったみたい。ごめんて。

「忽那さん、鉛筆かしてくれますか。」
「鉛筆?いいけど、」

読み終えた俊くんが、手紙を何度か色んな角度で見たあと、そんなことを言った。
忽那さんもよくわからないようで、言われた通りに鉛筆を渡す。
ちいさくお礼を言った俊くんが、あろうことかその手紙の余白部分を鉛筆でカサカサと薄く塗り始めた。

「え、え!ちょっとなにしてんの?」
「いいから、見てろ。」

ムスッとした顔のまま満足のいくまで塗り終えたのか、その手紙を僕に向けて返した。
忽那さんも一緒に覗き込むと、薄っすらと書き直して消したであろう痕跡が浮かび上がっていた。

「きいちがよければ、二番目でもいいだとよ。」

苛立たしそうに俊くんが頬杖をついて言う。僕も忽那さんも、まさかの一文に少しだけ動揺してしまった。

「告白するつもりもないらしいが、本音かね。」
「てかきいちくん今日追試だったんでしょ?昨日まではなかったなら、今日入れられたってことだよね。」
「あー‥たしかに…あ。」

そういえば、と頭によぎったのは崎田くんだった。
やると言われて貰ったレモン味のキャンディーがポケットに入っている。もしかして、もしかするのか。でも、彼は僕のことが嫌いなハズなのだ。
考えれば考えるほどわからない。諦めて顔を上げると、俊くんが真っ直ぐ見つめてきた。

「心当たり、あるんだな?」
「…心当たり、ってか」

まだ証拠もなんもない。困った顔で俊くんを見上げると、一つため息をついた。

「もう、そろそろ帰るか。相手が誰だろうと二番目なんかいらない、そうだろ。」
「うん…、忽那さんご馳走さまでした。」
「どういたしまして、また今度ね。」

肩をすくませて、事の成り行きを見守っていた忽那さんにその場を辞すことを伝える。僕の荷物を持って準備万端の俊くんの隣に行くと、空いている手を握って写真館を出た。

なんだか妙なことになってしまった。ムスッと、ふてくされた顔の俊くんが、僕のことで嫉妬をしているのを見て少し嬉しく感じてしまう。僕は危機感が足りていないのかも。

手を繋いで俊くんの家につくと、なんとなく予測はついていたけど、確認するように首筋を撫でられた。

「っん、不安?」
「つーか、単純に腹がたっただけだ。」

頭を後ろ手に引き寄せられ、そっと触れ合うような口付けをする。その先を期待するような熱のこもったものではない。こういう時は俊くんが満足するまであまえるのが一番だった。

「抱っこして、甘えたい。」
「ん、可愛い。おいで。」

両手を上げておねだりすると、ひょいとそのまま抱き上げられてリビングのソファーに運ばれる。期待した通り俊くんの膝に横抱きにされると、すりすりとその首元に甘えるように擦り寄った。

「はじめてもらったから、ああゆうの。テンションあがっちゃってごめんね?」
「…あがってもいいけど、悩むな。」

ぽつりと呟かれた言葉にキョトンとして見上げると、少しだけ耳の先を赤くした俊くんが口をへの字にして顔をそらした。
なんだそれ!!可愛すぎるでしょうが!

「うぶっ!」
「僕が浮かれちゃったの嫌だなって思うくらい好きなんだぁ…」

むにっと両手でその頬を包むと、圧迫されて尖った可愛い唇に音をたてて吸い付いた。
ちゅっ、とリップ音とともに唇を離すと、不機嫌に顔を歪めながら赤らめるという器用な顔色が面白くて、思わず吹き出した。

「ふく、っ…くっくっ…かわゆー!」
「おわ、っ…騒がしいやつめ…」

ソファーに背を預けながらじゃれつく僕をいなす。わしわしと頭を撫でられながら、愛されてるなぁと改めて自覚した。
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