152 / 273
2章
可愛すぎ有罪
しおりを挟む
「うぐっ、」
「で?」
ゴスンと頭頂部に顎を指すようにして手元を見てくる俊くんに、後ろめたいこともないはずなのにワタワタと手紙を隠してしまったのがまずかった。
一気に背後から不機嫌なオーラが膨れ上がる。忽那さんは仕方ないといったかんじで席を立つと、俊くんの分までお茶を入れて戻ってきた。
「まあ、立ってるのもあれだし座ったら?」
「ああ、すんません。」
「ええええ。」
カタンと椅子を引いて隣に座ると、忽那さんが差し出してくれたコーヒーにミルクだけを入れて混ぜる。普段はブラックなのだが、珍しいこともあるものだ。
「カルシウムとっとけば苛つかないかなと思ってな?」
「アッ、ハイ…」
まじで不穏なフラグを自分で立ててしまったようである。忽那さんは自分の分のカフェラテを飲むと、頬杖を付きながらじいっと見つめてきた。
「別にいいと思うけどなぁ…」
「え?」
「ラブレター。そんだけ番が魅力的ってことでしょ?むしろそんな魅力的な人が自分のもの、ってことで優越感とか覚えたりしない?」
ちらりと俊くんをみながらフォローをするように言うと、難しい顔をした俊くんが腕を組んだまま不遜な態度で口を開いた。
「内容にもよる。番が貰ったものなら、俺にも見る権利はあるよなきいち?」
「あ、ええ、えへ、あはは…」
「なぁ?」
「あああ、あはは、ど、どーぞ…」
いい男の顔面の圧がすごい。これは目の当たりにしてみないとわからないだろうが、顔がいいやつに限って迫力のある笑みで圧迫してくるのだ。目尻に柔らかくシワを作りながら完璧スマイルをしているくせに有無を言わせない。めっちゃこわ…
結局諦めてそっと手紙を渡すと、カサリと紙の開く音とともに俊くんが文字をなぞる様に目を滑らせた。
何故その手紙が入っていた封筒がご祝儀袋だったのかも、そこにすべての答えがある。
差出人は僕と俊くんが番だということを知っていてこの手紙を書いたらしい。
端的にまとめると、俊くんが来なければ告白していたこと、番になったことを信じていなかったので、転校してまでそばにいることを選択した、番である俊くんを目の前にして諦めがついたこと。
ご祝儀袋は二人をお祝いする気持ちとして、あえて選んだものらしく、差出人の中での僕への恋の感情はすでに終わっているようだった。
ただ、読み終えた俊くんの眉間のシワが消えない。隠すほどでもないが、俊くんの登場で慌てた僕の行動がよほど気に食わなかったみたい。ごめんて。
「忽那さん、鉛筆かしてくれますか。」
「鉛筆?いいけど、」
読み終えた俊くんが、手紙を何度か色んな角度で見たあと、そんなことを言った。
忽那さんもよくわからないようで、言われた通りに鉛筆を渡す。
ちいさくお礼を言った俊くんが、あろうことかその手紙の余白部分を鉛筆でカサカサと薄く塗り始めた。
「え、え!ちょっとなにしてんの?」
「いいから、見てろ。」
ムスッとした顔のまま満足のいくまで塗り終えたのか、その手紙を僕に向けて返した。
忽那さんも一緒に覗き込むと、薄っすらと書き直して消したであろう痕跡が浮かび上がっていた。
「きいちがよければ、二番目でもいいだとよ。」
苛立たしそうに俊くんが頬杖をついて言う。僕も忽那さんも、まさかの一文に少しだけ動揺してしまった。
「告白するつもりもないらしいが、本音かね。」
「てかきいちくん今日追試だったんでしょ?昨日まではなかったなら、今日入れられたってことだよね。」
「あー‥たしかに…あ。」
そういえば、と頭によぎったのは崎田くんだった。
やると言われて貰ったレモン味のキャンディーがポケットに入っている。もしかして、もしかするのか。でも、彼は僕のことが嫌いなハズなのだ。
考えれば考えるほどわからない。諦めて顔を上げると、俊くんが真っ直ぐ見つめてきた。
「心当たり、あるんだな?」
「…心当たり、ってか」
まだ証拠もなんもない。困った顔で俊くんを見上げると、一つため息をついた。
「もう、そろそろ帰るか。相手が誰だろうと二番目なんかいらない、そうだろ。」
「うん…、忽那さんご馳走さまでした。」
「どういたしまして、また今度ね。」
肩をすくませて、事の成り行きを見守っていた忽那さんにその場を辞すことを伝える。僕の荷物を持って準備万端の俊くんの隣に行くと、空いている手を握って写真館を出た。
なんだか妙なことになってしまった。ムスッと、ふてくされた顔の俊くんが、僕のことで嫉妬をしているのを見て少し嬉しく感じてしまう。僕は危機感が足りていないのかも。
手を繋いで俊くんの家につくと、なんとなく予測はついていたけど、確認するように首筋を撫でられた。
「っん、不安?」
「つーか、単純に腹がたっただけだ。」
頭を後ろ手に引き寄せられ、そっと触れ合うような口付けをする。その先を期待するような熱のこもったものではない。こういう時は俊くんが満足するまであまえるのが一番だった。
「抱っこして、甘えたい。」
「ん、可愛い。おいで。」
両手を上げておねだりすると、ひょいとそのまま抱き上げられてリビングのソファーに運ばれる。期待した通り俊くんの膝に横抱きにされると、すりすりとその首元に甘えるように擦り寄った。
「はじめてもらったから、ああゆうの。テンションあがっちゃってごめんね?」
「…あがってもいいけど、悩むな。」
ぽつりと呟かれた言葉にキョトンとして見上げると、少しだけ耳の先を赤くした俊くんが口をへの字にして顔をそらした。
なんだそれ!!可愛すぎるでしょうが!
「うぶっ!」
「僕が浮かれちゃったの嫌だなって思うくらい好きなんだぁ…」
むにっと両手でその頬を包むと、圧迫されて尖った可愛い唇に音をたてて吸い付いた。
ちゅっ、とリップ音とともに唇を離すと、不機嫌に顔を歪めながら赤らめるという器用な顔色が面白くて、思わず吹き出した。
「ふく、っ…くっくっ…かわゆー!」
「おわ、っ…騒がしいやつめ…」
ソファーに背を預けながらじゃれつく僕をいなす。わしわしと頭を撫でられながら、愛されてるなぁと改めて自覚した。
「で?」
ゴスンと頭頂部に顎を指すようにして手元を見てくる俊くんに、後ろめたいこともないはずなのにワタワタと手紙を隠してしまったのがまずかった。
一気に背後から不機嫌なオーラが膨れ上がる。忽那さんは仕方ないといったかんじで席を立つと、俊くんの分までお茶を入れて戻ってきた。
「まあ、立ってるのもあれだし座ったら?」
「ああ、すんません。」
「ええええ。」
カタンと椅子を引いて隣に座ると、忽那さんが差し出してくれたコーヒーにミルクだけを入れて混ぜる。普段はブラックなのだが、珍しいこともあるものだ。
「カルシウムとっとけば苛つかないかなと思ってな?」
「アッ、ハイ…」
まじで不穏なフラグを自分で立ててしまったようである。忽那さんは自分の分のカフェラテを飲むと、頬杖を付きながらじいっと見つめてきた。
「別にいいと思うけどなぁ…」
「え?」
「ラブレター。そんだけ番が魅力的ってことでしょ?むしろそんな魅力的な人が自分のもの、ってことで優越感とか覚えたりしない?」
ちらりと俊くんをみながらフォローをするように言うと、難しい顔をした俊くんが腕を組んだまま不遜な態度で口を開いた。
「内容にもよる。番が貰ったものなら、俺にも見る権利はあるよなきいち?」
「あ、ええ、えへ、あはは…」
「なぁ?」
「あああ、あはは、ど、どーぞ…」
いい男の顔面の圧がすごい。これは目の当たりにしてみないとわからないだろうが、顔がいいやつに限って迫力のある笑みで圧迫してくるのだ。目尻に柔らかくシワを作りながら完璧スマイルをしているくせに有無を言わせない。めっちゃこわ…
結局諦めてそっと手紙を渡すと、カサリと紙の開く音とともに俊くんが文字をなぞる様に目を滑らせた。
何故その手紙が入っていた封筒がご祝儀袋だったのかも、そこにすべての答えがある。
差出人は僕と俊くんが番だということを知っていてこの手紙を書いたらしい。
端的にまとめると、俊くんが来なければ告白していたこと、番になったことを信じていなかったので、転校してまでそばにいることを選択した、番である俊くんを目の前にして諦めがついたこと。
ご祝儀袋は二人をお祝いする気持ちとして、あえて選んだものらしく、差出人の中での僕への恋の感情はすでに終わっているようだった。
ただ、読み終えた俊くんの眉間のシワが消えない。隠すほどでもないが、俊くんの登場で慌てた僕の行動がよほど気に食わなかったみたい。ごめんて。
「忽那さん、鉛筆かしてくれますか。」
「鉛筆?いいけど、」
読み終えた俊くんが、手紙を何度か色んな角度で見たあと、そんなことを言った。
忽那さんもよくわからないようで、言われた通りに鉛筆を渡す。
ちいさくお礼を言った俊くんが、あろうことかその手紙の余白部分を鉛筆でカサカサと薄く塗り始めた。
「え、え!ちょっとなにしてんの?」
「いいから、見てろ。」
ムスッとした顔のまま満足のいくまで塗り終えたのか、その手紙を僕に向けて返した。
忽那さんも一緒に覗き込むと、薄っすらと書き直して消したであろう痕跡が浮かび上がっていた。
「きいちがよければ、二番目でもいいだとよ。」
苛立たしそうに俊くんが頬杖をついて言う。僕も忽那さんも、まさかの一文に少しだけ動揺してしまった。
「告白するつもりもないらしいが、本音かね。」
「てかきいちくん今日追試だったんでしょ?昨日まではなかったなら、今日入れられたってことだよね。」
「あー‥たしかに…あ。」
そういえば、と頭によぎったのは崎田くんだった。
やると言われて貰ったレモン味のキャンディーがポケットに入っている。もしかして、もしかするのか。でも、彼は僕のことが嫌いなハズなのだ。
考えれば考えるほどわからない。諦めて顔を上げると、俊くんが真っ直ぐ見つめてきた。
「心当たり、あるんだな?」
「…心当たり、ってか」
まだ証拠もなんもない。困った顔で俊くんを見上げると、一つため息をついた。
「もう、そろそろ帰るか。相手が誰だろうと二番目なんかいらない、そうだろ。」
「うん…、忽那さんご馳走さまでした。」
「どういたしまして、また今度ね。」
肩をすくませて、事の成り行きを見守っていた忽那さんにその場を辞すことを伝える。僕の荷物を持って準備万端の俊くんの隣に行くと、空いている手を握って写真館を出た。
なんだか妙なことになってしまった。ムスッと、ふてくされた顔の俊くんが、僕のことで嫉妬をしているのを見て少し嬉しく感じてしまう。僕は危機感が足りていないのかも。
手を繋いで俊くんの家につくと、なんとなく予測はついていたけど、確認するように首筋を撫でられた。
「っん、不安?」
「つーか、単純に腹がたっただけだ。」
頭を後ろ手に引き寄せられ、そっと触れ合うような口付けをする。その先を期待するような熱のこもったものではない。こういう時は俊くんが満足するまであまえるのが一番だった。
「抱っこして、甘えたい。」
「ん、可愛い。おいで。」
両手を上げておねだりすると、ひょいとそのまま抱き上げられてリビングのソファーに運ばれる。期待した通り俊くんの膝に横抱きにされると、すりすりとその首元に甘えるように擦り寄った。
「はじめてもらったから、ああゆうの。テンションあがっちゃってごめんね?」
「…あがってもいいけど、悩むな。」
ぽつりと呟かれた言葉にキョトンとして見上げると、少しだけ耳の先を赤くした俊くんが口をへの字にして顔をそらした。
なんだそれ!!可愛すぎるでしょうが!
「うぶっ!」
「僕が浮かれちゃったの嫌だなって思うくらい好きなんだぁ…」
むにっと両手でその頬を包むと、圧迫されて尖った可愛い唇に音をたてて吸い付いた。
ちゅっ、とリップ音とともに唇を離すと、不機嫌に顔を歪めながら赤らめるという器用な顔色が面白くて、思わず吹き出した。
「ふく、っ…くっくっ…かわゆー!」
「おわ、っ…騒がしいやつめ…」
ソファーに背を預けながらじゃれつく僕をいなす。わしわしと頭を撫でられながら、愛されてるなぁと改めて自覚した。
11
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
番に囲われ逃げられない
ネコフク
BL
高校の入学と同時に入寮した部屋へ一歩踏み出したら目の前に笑顔の綺麗な同室人がいてあれよあれよという間にベッドへ押し倒され即挿入!俺Ωなのに同室人で学校の理事長の息子である颯人と一緒にα寮で生活する事に。「ヒートが来たら噛むから」と宣言され有言実行され番に。そんなヤベェ奴に捕まったΩとヤベェαのちょっとしたお話。
結局現状を受け入れている受けとどこまでも囲い込もうとする攻めです。オメガバース。
孕めないオメガでもいいですか?
月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから……
オメガバース作品です。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
獣人王と番の寵妃
沖田弥子
BL
オメガの天は舞手として、獣人王の後宮に参内する。だがそれは妃になるためではなく、幼い頃に翡翠の欠片を授けてくれた獣人を捜すためだった。宴で粗相をした天を、エドと名乗るアルファの獣人が庇ってくれた。彼に不埒な真似をされて戸惑うが、後日川辺でふたりは再会を果たす。以来、王以外の獣人と会うことは罪と知りながらも逢瀬を重ねる。エドに灯籠流しの夜に会おうと告げられ、それを最後にしようと決めるが、逢引きが告発されてしまう。天は懲罰として刑務庭送りになり――
両片思いのI LOVE YOU
大波小波
BL
相沢 瑠衣(あいざわ るい)は、18歳のオメガ少年だ。
両親に家を追い出され、バイトを掛け持ちしながら毎日を何とか暮らしている。
そんなある日、大学生のアルファ青年・楠 寿士(くすのき ひさし)と出会う。
洋菓子店でミニスカサンタのコスプレで頑張っていた瑠衣から、売れ残りのクリスマスケーキを全部買ってくれた寿士。
お礼に彼のマンションまでケーキを運ぶ瑠衣だが、そのまま寿士と関係を持ってしまった。
富豪の御曹司である寿士は、一ヶ月100万円で愛人にならないか、と瑠衣に持ち掛ける。
少々性格に難ありの寿士なのだが、金銭に苦労している瑠衣は、ついつい応じてしまった……。
アルファのアイツが勃起不全だって言ったの誰だよ!?
モト
BL
中学の頃から一緒のアルファが勃起不全だと噂が流れた。おいおい。それって本当かよ。あんな完璧なアルファが勃起不全とかありえねぇって。
平凡モブのオメガが油断して美味しくいただかれる話。ラブコメ。
ムーンライトノベルズにも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる