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2章

男子高校生だもの

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「ふぁー、あ、あ、っ」
「随分と長い欠伸だなぁ、さてはお楽しみ?」

珍しく学がクラスに来たかと思うと、ぎゅうと座っている僕を後ろから抱きしめてくる。慣れないクラスメートの一部は、最初のうちこそぎょっとしていたものの、もはや知っている人は動じない。
学もクラスになじめているようで、むしろ毎日末永みてると飽きるな、などと今更なことを言っていた。

「きいちよぉ、模試うけんの?」
「あ、受ける。会場が行きたい大学だったんだよねぇ。」
「大学見学かねて的な?いーなぁ。俺は予備校でだわ。しかも聞けよ、そこまで末永と一緒だぜ?」
「末永くん勉強しなくて良さそうなのに?」
「学が行くなら俺も行く。キリッ!!みたいな?」

なるほど安定の溺愛っぷりだ。
げっそりと悪態をついているが、ばっちり鎖骨についた痕があるので昨日もお楽しみだったようでなによりだ。僕も予備校行こうか迷ったが、妊夫はだめだと俊くんに言われて諦めたのだ。そんなシステムあるとは知らなかった。

「てかそもそも大学いくのか。俺ぁてっきりそのまま家庭に入るもんだと思ってたわ。」
「まあ、大学だけは出といたほうがいいかなって。」
「ふうん、しっかりしてんなぁ。」

むしろ俊くんなんかはもう会社次ぐこと決まってんだから受けなくてもいい気もするが、一緒の大学に行く約束をしてたので受験するらしい。
というか今更だけど子供産んだらおかんに預けっぱなしも嫌だなとは思っている。
行く約束をしたから模試も受けるが、乳幼児に手がかかることは簡単にイメージがつく。
ここらへんの話は俊くんと相談したほうが良さそうだと思った。

「そういえば益子は?」
「ウケるよ。風邪で休み。今朝忽那さんから電話があって、裸で寝てたら拗らせたしい。」
「ヤったな。てかバカでも風邪引くのか。」
「僕帰りに忽那さんに会いにいくの。益子で手が離せないっていうから晩飯の材料買いに行くんだぁ。」

もはや忽那さんとは同じオメガ同士助け合っているので、これくらいのお使いはなんとも思わない。むしろ妊夫なんだからやらなくていいと言われてたのを、家の買い物のついでだからといって僕が受けたのだ。俊くんに行ったら車出してくれるらしい。中島さんが運転する車は厳ついので普通のでおねがいしますと言っておくのは忘れなかった。

「やべ、そろそろいくわ。俊くんによろしく。」
「あいよー、末永くんによろしく!」

チャイムがなったのでそのまま学を見送ると、入れ違いにくたびれた顔をした俊くんが戻ってきた。
先生に志望大学を変更しないかとせっつかれていたらしい。

「はぁ、草臥れた。あのもやし野郎しつこすぎるだろう…」
「まあ、俊くんの偏差値なら全然上目指せるからねぇ、正親さんとおなじとこの大学狙うって思ってたんじゃない?」
「いやだ。面倒くさい。勉強しなくても入れるところで楽したい。」
「おいさり気なく僕のことバカっていったろ。」

ぺしりとおでこを叩くと楽しそうに笑う。三浦くんとかからは、イケメンのご尊顔をぶっ叩けるのはお前くらいだと言われるのだが、寝起きのだらしない俊くんの顔を知ってるので何とも思わない。ちなみに今朝生えていた顎髭も僕が剃ってあげた。なので口端に絆創膏を張ってるのだが、周囲からはなぜか俊くんが悪漢を退治した上での怪我ではと言われている。

「ほらそこの二人いちゃついてないで教科書ひらけー。お、桑原どうした。昨日暴れたのか。」
「きいちに髭剃りしくじられました。」
「おいさり気なくのろけるな。先生なんて嫁にそんなことされたことないぞ。」
「ははっ」
「おい、笑うとこじゃないからな!?」

先生と俊くんのやり取りにクラスメートからは笑いが漏れた。むしろそんな理由か、とほっとしている。
というかうちの俊くんはトレーニング以外はアクティブじゃないぞ。ちなみに切り傷より打撲痕のが多い。警備の為とはいえ、なんとももやつくことである。まあ主に正親さんのせいなのだが。

そんなことを思いながら、板書されていく要点をノートに取っていく。そういえば益子が休みだからノートも持っていってやるかと心に決める。
忽那さんに頼まれたメモを開いて、ノートと書き加えると、覗き込んだ俊くんがその下にプロテインと書き加えた。どうやら僕のお使いの内容が増えたらしい。とは言っても全然一人で持てる量なので構わないが、俊くんの字が雑すぎて少し笑った。右上がりのそのクセ字が可愛い。こうしてみると忽那さんの字が一番キレイだな。


授業が終わると、俊くんは正親さんから電話が来たとかでげんなりしながら席を外す。益子が休みで俊くんがいなくなったとなると、僕が行くのはひとつだ。

「三浦くぅん!」
「来ると思ったわ!きいち!!ウノやろうウノ!!」
「なにそれしらない。なんでそんなんもってんの?」
「吹田が監督から没収されてたやつ。帰ってきたんだってよ。」
「なにそれ駄目なやつじゃね。」

とととっ、と野球部三人組の屯しているところに向かう。奴等はわんぱくなので三浦くん以外は床に座り込んでいる。それでウノやり辛くない?

「でも僕やり方知らないなぁ。取り敢えずダウトって言えばいいの?」
「ウノ知らねぇならつまんねーか。木戸、なんかある?」
「エロ本ならあるぞ。」

木戸くんがにこにこしながら鞄から本を取りだす。なんだこれすごい。エッチなお兄さんお姉さん特集と書かれたそれは、なんかもう収集つかない感じである。

「おい妊婦にエロ本みせんなよ!ところできいちはどの子が好み?」
「胎教に悪いわぁ!!この黒髪のエキゾチック美人が好みっ」
「わははは!やっぱ男の子だなぁ!」

四人でわいわいきゃいきゃいとどのお兄さんがエッチだとか、このお姉さんのおっぱいに埋もれたいだとか下世話な放課後のスタートだ。

「てかお兄さんならどれよ?どのエッチなお兄さんがすきなのよ?」
「ええ!?他人のちんこに興味ないよお。僕と同じのぶら下がってんなら自分の見るわ。」
「だはは!たしかにぃ!!てか抱くならどいつ?あ、きいちってどっち?」
「どどど、童貞ちゃうわ!!僕は育代で捨てたもん!!!」
「育代!?ちょっとどこの女よそいつ!!俺のこと差し置いてさきに童貞脱しやがって裏切り者妊夫!!」

育代はオナホですがな!!
と声を大にして叫びたいが、生憎童貞非処女なので君たちとお揃いなんですぅ。

「てか、俊くんのこと抱きたいとか思わねーの?」
「逆に聞くけど想像できる?」
「あー‥、抱かれる想像できねえなぁ。」

眉間にシワを寄せながら三浦くんがイメージしている。わかるわかる、僕より体大きいしね。というか抱かれたい男ナンバーワンらしいぞ、どこランキングかって?そんなもんうちの新聞部のしわざですがな。
木戸くんと吹田くんもわははと笑っていたのに、急にハッと息をつまらせる。僕と三浦くんは俊くんがもしコスプレしてくれるなら何がいいかで話が盛り上がってたので全然気づかなかった。

「んえー、お医者さんかなぁ。俊くん絶対似合うよなぁ。」
「いや逆に?バニーボーイとかどうよ。あのストリップ劇場とかで着たりするやつ。」
「おー!!なにそれえ、ろ…あ。」
「え?」

にこにこしながら三浦くんの真後ろに立っていた俊くんが、不機嫌オーラ丸出しで見下ろしていた。

「エロ本囲んでやけに楽しそうだなぁ。」

魔王降臨とはこのことかと頭を過るくらい、もの凄い暗雲を背負って仁王立ちしている。あっ、これはアカンやつやないですか!?!?
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