67 / 228
第五章 俺様、北方へ行く
1、あぁ~、やだなぁ。行きたくない……。
しおりを挟む
俺達は今、街道を北に向かってトボトボと歩いている。
あぁ~、やだなぁ。行きたくない……。
今向かっている北方の国、ノルドは放牧国家。
セントゥロからすると少し寒冷な土地はそこかしこに草原が広がっていて、カーサという布と数本の柱からなる家を季節ごとに移動させて凄すのだそうで。なんとなく地理で習ったモンゴル民の生活を想像した。
「特産品は燻製肉と乳酒です。我々が旅路で用意するものとは味も香りも別次元の高級品ですよ」
と笑顔のエミーリオに言われて思わず涎を流したが、いやいや、騙されないよ。
国家元首が革命によって交代して、あちこちで反乱だのなんだのって混乱の最中にあるって言ったじゃん! アッファーリ並みに女神信仰が強くてモンスター見たら即殲滅するって言ったじゃん! どう考えても面倒なことになる気がするんだよ。
……でも、美味しい肉は気になる。
『話を聞いた限り心配なのは、遺体がちゃんと保全されているかだな』
「だなぁ」
「どういうことです? いくら何でも、召喚に失敗したとはいえ勇者様の聖骸です。きちんと葬送しているのでは?」
俺達の心配を他所に、エミーリオはきょとんと首を傾げる。
「俺達の国じゃ黒髪が普通なんだよ」
『前世の俺様もまた黒髪であったな』
「おまけに、学校の制服も黒が基調だ。こっちの世界と違って、黒が高貴な色とされていた時代があったからか公式の場では黒い服が選ばれる傾向が強くてな」
黒髪黒づくめの恰好をした人間を、こっちの世界ではどう見る? と最後まで言わずともエミーリオは解ったようだ。
「まさか、召喚失敗というのは嘘で、こちらでも処刑されていたと?!」
「『可能性はある』」
はぁ。何かまた貴族がらみとかだったら嫌だなぁ。
「ま、まぁ、フリスト司祭の紹介状もありますし、まずは教会を目指しましょう」
やる気なさげにダラン、とエヴァの首の上で伸びる俺にエミーリオが明るい声で言ってくるがやる気は出ない。
「あっ、あ~?! やめてよして殺さないで!」
『どうした?』
突然奇声を上げるちびきのこに驚き飛び上がると、エミーリオも剣の柄に手を添えて辺りを警戒する。
「あっ、いや、こっちじゃなくて。分体4号が人間に捕まっちゃったみたい」
『大丈夫なのか?』
いくらでも分身できるとはいえ、視覚や情報などは共有しているという。これまで何度も食べられてきたって言ってたし、こいつ実は何度も臨死体験しているんじゃ……?
もうちょっとだけ優しくしてやろう。
「……うん? リージェ?」
『何だ?』
「お前かよ!」
どうやら捕獲された方が俺の知り合いと一緒なようだ。
暫く独り言のようなきのこの言葉を黙って聞いていたところ、なんとルシアちゃんと行動を共にすることになったのだとか。
さらに、あのおっとり国王に1匹仕えることに。国王の連絡係とか情報入りまくりじゃないかひゃっほーう、と喜ぶちびきのこ。
『大丈夫なのか?』
「ん? 本体には何の影響もないから大丈夫」
なんだ心配してくれてんのか? と頭を撫でられた。くそっ、調子崩れるな。
向こうのちびきのこが言うには、今日セントゥロを発って俺達を追いかけてくるのだと。
「何でも、勇者の死に関して、戦争準備をしていないかとか何か不穏なことがないか調査して欲しいって」
『ふむ、ならばこのまま先行して情報を集めつつノルドで待ったほうが良いか』
「ですね! 聖竜様と聖女様が一緒にいればもう怖い物なしですね!」
ちびきのこ……あっちのちびきのこと紛らわしいので、今一緒にいる方を1号、ルシアちゃん達といる方を4号と呼ぶことにした。
1号もエミーリオもルシアちゃんと合流するのには賛成なようだ。
今生の別れ、或いは再会した時には敵同士になることを覚悟してルシアちゃんを置いてきたっていうのに、こんなに早く仲間として合流することになるとは。
何となく気恥ずかしいような、居たたまれないような、どんな顔で会ったら良いのかわからない。再会の時が少しでも遅れたらいいのに。
『先を急ぐぞ、エミーリオ。少しでも多く情報を集めるのだ』
「おお、聖竜様が急にやる気に……!」
「お? 何だ? 女の子にいい所を見せたいってか? うんうん、あの聖女の子可愛いもんなぁ」
『黙れ』
先刻までの行きたくないと駄々をこねていた俺から一転シャキッとしたのを、1号にニヤニヤとからかわれる。悔しい。
こんな感じでわちゃわちゃとやりながら進んでいたら、いつの間にか景色が変わっていた。
森が途切れ低い灌木ばかりとなり、地平線が見えるのだ。見渡す限り水色と若葉色のコントラスト。とても美しい。
「おおー」
『視界が開けているというのは良いものだな』
感動の声を上げる俺達に、エミーリオがもうすぐ国境であることを教えてくれる。
だが、今から行ったのでは確実に並んでいる間に日が暮れてしまうというので、この景色の良い場所で野営をすることにした。
あぁ~、やだなぁ。行きたくない……。
今向かっている北方の国、ノルドは放牧国家。
セントゥロからすると少し寒冷な土地はそこかしこに草原が広がっていて、カーサという布と数本の柱からなる家を季節ごとに移動させて凄すのだそうで。なんとなく地理で習ったモンゴル民の生活を想像した。
「特産品は燻製肉と乳酒です。我々が旅路で用意するものとは味も香りも別次元の高級品ですよ」
と笑顔のエミーリオに言われて思わず涎を流したが、いやいや、騙されないよ。
国家元首が革命によって交代して、あちこちで反乱だのなんだのって混乱の最中にあるって言ったじゃん! アッファーリ並みに女神信仰が強くてモンスター見たら即殲滅するって言ったじゃん! どう考えても面倒なことになる気がするんだよ。
……でも、美味しい肉は気になる。
『話を聞いた限り心配なのは、遺体がちゃんと保全されているかだな』
「だなぁ」
「どういうことです? いくら何でも、召喚に失敗したとはいえ勇者様の聖骸です。きちんと葬送しているのでは?」
俺達の心配を他所に、エミーリオはきょとんと首を傾げる。
「俺達の国じゃ黒髪が普通なんだよ」
『前世の俺様もまた黒髪であったな』
「おまけに、学校の制服も黒が基調だ。こっちの世界と違って、黒が高貴な色とされていた時代があったからか公式の場では黒い服が選ばれる傾向が強くてな」
黒髪黒づくめの恰好をした人間を、こっちの世界ではどう見る? と最後まで言わずともエミーリオは解ったようだ。
「まさか、召喚失敗というのは嘘で、こちらでも処刑されていたと?!」
「『可能性はある』」
はぁ。何かまた貴族がらみとかだったら嫌だなぁ。
「ま、まぁ、フリスト司祭の紹介状もありますし、まずは教会を目指しましょう」
やる気なさげにダラン、とエヴァの首の上で伸びる俺にエミーリオが明るい声で言ってくるがやる気は出ない。
「あっ、あ~?! やめてよして殺さないで!」
『どうした?』
突然奇声を上げるちびきのこに驚き飛び上がると、エミーリオも剣の柄に手を添えて辺りを警戒する。
「あっ、いや、こっちじゃなくて。分体4号が人間に捕まっちゃったみたい」
『大丈夫なのか?』
いくらでも分身できるとはいえ、視覚や情報などは共有しているという。これまで何度も食べられてきたって言ってたし、こいつ実は何度も臨死体験しているんじゃ……?
もうちょっとだけ優しくしてやろう。
「……うん? リージェ?」
『何だ?』
「お前かよ!」
どうやら捕獲された方が俺の知り合いと一緒なようだ。
暫く独り言のようなきのこの言葉を黙って聞いていたところ、なんとルシアちゃんと行動を共にすることになったのだとか。
さらに、あのおっとり国王に1匹仕えることに。国王の連絡係とか情報入りまくりじゃないかひゃっほーう、と喜ぶちびきのこ。
『大丈夫なのか?』
「ん? 本体には何の影響もないから大丈夫」
なんだ心配してくれてんのか? と頭を撫でられた。くそっ、調子崩れるな。
向こうのちびきのこが言うには、今日セントゥロを発って俺達を追いかけてくるのだと。
「何でも、勇者の死に関して、戦争準備をしていないかとか何か不穏なことがないか調査して欲しいって」
『ふむ、ならばこのまま先行して情報を集めつつノルドで待ったほうが良いか』
「ですね! 聖竜様と聖女様が一緒にいればもう怖い物なしですね!」
ちびきのこ……あっちのちびきのこと紛らわしいので、今一緒にいる方を1号、ルシアちゃん達といる方を4号と呼ぶことにした。
1号もエミーリオもルシアちゃんと合流するのには賛成なようだ。
今生の別れ、或いは再会した時には敵同士になることを覚悟してルシアちゃんを置いてきたっていうのに、こんなに早く仲間として合流することになるとは。
何となく気恥ずかしいような、居たたまれないような、どんな顔で会ったら良いのかわからない。再会の時が少しでも遅れたらいいのに。
『先を急ぐぞ、エミーリオ。少しでも多く情報を集めるのだ』
「おお、聖竜様が急にやる気に……!」
「お? 何だ? 女の子にいい所を見せたいってか? うんうん、あの聖女の子可愛いもんなぁ」
『黙れ』
先刻までの行きたくないと駄々をこねていた俺から一転シャキッとしたのを、1号にニヤニヤとからかわれる。悔しい。
こんな感じでわちゃわちゃとやりながら進んでいたら、いつの間にか景色が変わっていた。
森が途切れ低い灌木ばかりとなり、地平線が見えるのだ。見渡す限り水色と若葉色のコントラスト。とても美しい。
「おおー」
『視界が開けているというのは良いものだな』
感動の声を上げる俺達に、エミーリオがもうすぐ国境であることを教えてくれる。
だが、今から行ったのでは確実に並んでいる間に日が暮れてしまうというので、この景色の良い場所で野営をすることにした。
0
あなたにおすすめの小説
企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する
namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。
転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。
しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。
凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。
詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。
それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。
「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」
前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。
痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。
そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。
これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。
死に物狂いで支えた公爵家から捨てられたので、回帰後は全財産を盗んで消えてあげます 〜今さら「戻れ」と言われても、私は隣国の皇太子妃ですので〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能、我が公爵家の恥だ!」
公爵家の長女エルゼは、放蕩者の父や無能な弟に代わり、寝る間も惜しんで領地経営と外交を支えてきた。しかし家族は彼女の功績を奪った挙句、政治犯の濡れ衣を着せて彼女を処刑した。
死の間際、エルゼは誓う。 「もし次があるのなら――二度と、あいつらのために働かない」
目覚めると、そこは処刑の二年前。 再び「仕事」を押し付けようとする厚顔無恥な家族に対し、エルゼは優雅に微笑んだ。
「ええ、承知いたしました。ただし、これからは**『代金』**をいただきますわ」
隠し金庫の鍵、領地の権利書、優秀な人材、そして莫大な隠し資産――。 エルゼは公爵家のすべてを自分名義に書き換え、着々と「もぬけの殻」にしていく。
そんな彼女の前に、隣国の冷徹な皇太子シオンが現れ、驚くべき提案を持ちかけてきて……?
「君のような恐ろしい女性を、独り占めしたくなった」
資産を奪い尽くして亡命した令嬢と、彼女を溺愛する皇太子。 一方、すべてを失った公爵家が泣きついてくるが、もう遅い。 あなたの家の金庫も、土地も、働く人間も――すべて私のものですから。
騎士団長のお抱え薬師
衣更月
ファンタジー
辺境の町ハノンで暮らすイヴは、四大元素の火、風、水、土の属性から弾かれたハズレ属性、聖属性持ちだ。
聖属性持ちは意外と多く、ハズレ属性と言われるだけあって飽和状態。聖属性持ちの女性は結婚に逃げがちだが、イヴの年齢では結婚はできない。家業があれば良かったのだが、平民で天涯孤独となった身の上である。
後ろ盾は一切なく、自分の身は自分で守らなければならない。
なのに、求人依頼に聖属性は殆ど出ない。
そんな折、獣人の国が聖属性を募集していると話を聞き、出国を決意する。
場所は隣国。
しかもハノンの隣。
迎えに来たのは見上げるほど背の高い美丈夫で、なぜかイヴに威圧的な騎士団長だった。
大きな事件は起きないし、意外と獣人は優しい。なのに、団長だけは怖い。
イヴの団長克服の日々が始まる―ー―。
※84話「再訪のランス」~画像生成AIで挿絵挿入しています。
気分転換での画像生成なので不定期(今後あるかは不明ですが)挿絵の注意をしてます。
召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?
浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。
「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」
ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。
世界を救った変身ヒーローだったのに、人類に危険視されて異世界へ追放されたのだが
天地海
ファンタジー
世界を救った変身ヒーロー――大地彰はその力を恐れた人類に異世界へ追放される。
巻き込まれて異世界へ追放された妹とはぐれた彰は、妹を捜すために変身ヒーローの力を駆使して冒険者として活躍を始める。
異世界の事情に関わるつもりはなかったのに、強力な魔物との戦いや国家間の戦争に巻き込まれていく。
小説家になろうにて掲載済みの作品です。
カクヨムと同時掲載します。
魔力値1の私が大賢者(仮)を目指すまで
ひーにゃん
ファンタジー
誰もが魔力をもち魔法が使える世界で、アンナリーナはその力を持たず皆に厭われていた。
運命の【ギフト授与式】がやってきて、これでまともな暮らしが出来るかと思ったのだが……
与えられたギフトは【ギフト】というよくわからないもの。
だが、そのとき思い出した前世の記憶で【ギフト】の使い方を閃いて。
これは少し歪んだ考え方の持ち主、アンナリーナの一風変わった仲間たちとの日常のお話。
冒険を始めるに至って、第1章はアンナリーナのこれからを書くのに外せません。
よろしくお願いします。
この作品は小説家になろう様にも掲載しています。
メルレールの英雄-クオン編-前編
朱璃 翼
ファンタジー
月神を失って3000年ーー魂は巡り蘇る。
失われた月神の魂は再び戻り、世界の危機に覚醒するだろう。
バルスデ王国の最年少騎士団長クオン・メイ・シリウスはある日、不思議な夢を見るようになる。次第に夢は苦しめる存在となりーーーー。
※ノベルアップ+、小説家になろう、カクヨム同時掲載。
悪役令嬢はBL作家「処刑覚悟で萌えますわ!」~婚約者の王子様ごめんなさい、あなたをネタに小説書いてます~
すえつむ はな
ファンタジー
公爵令嬢メリーローズの前世は、日本人女性でゴリゴリのBL同人作家。なぜか前世で活動していたジャンルの乙女ゲームの世界に転生!大好きなイケメン王子(受け)や、貴族のキャラ(攻め)が周りにいるなんてパラダイス!転生先でもついついBL小説を書いてしまい、いつしかBLという一大人気ジャンルを生み、瞬く間に女子学生の間で知る人ぞ知るカリスマ作家となった。しかし、実はこの世界、同性愛はタブーとされていて、BL小説を書いていると知られたら逮捕・有罪、場合によっては死刑になるかも?
しかしそんな危険を冒してでも、大好きなBLを生み出さずにはいられない!そんな貴腐人メリーローズを、婚約者のアルフレッ
ド王子(受け)は何故か溺愛してくる。「ごめんなさい、王子様。私はあなたの総受小説を書いてます……」懲りない腐女子ヒロインが、突っ込み担当で苦労性のメイドや、BL小説のファンになった乙女たちと共に、やがて世界の常識をぶち破っていく。
※ 他投稿サイトでも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる