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第五章 俺様、北方へ行く
(閑話)聖女の旅 4
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リージェ様に早く追いつきたい。それは私の我儘ですのに、アルベルド様も他の皆様も笑って馬車を走らせてくださいました。
替えの馬がいないから休み休み、とは仰っておりましたがセントゥロを発つ他の馬車の方々にそんなに急いでどこに向かうのかと問われるほどには速度を出してくだいました。
「聖女と聖竜、勇者が揃わないと暗黒破壊神に太刀打ちできないって聞くしな」
と、私の意見を否定せず受け入れてくださいました。
きのこさんから今どのあたりであとどのくらいでリージェ様がノルドに着くと毎晩教えていただいて。
あ、きのこさんと言えば……。
「あの、ベルナルド様、少々宜しいですか?」
夜、ベルナルド様が野営の番をしている時を見計らって声をかけました。一緒に見張り番をしていたアルベルト様が近寄ってくるので、少し席を外していただけないか聞くと渋々といった感じで離れた場所へ行きました。しかし、何か気になるのでしょうか、私達の方をじっと見てきます。
そう言えば……野営の見張り番の二人一組は組み合わせが毎晩違うのに、ベルナルド様とアルベルト様だけは常に一緒です。気づけばアルベルト様がベルナルド様をじっと見ていらっしゃるし……もしかして、お二人は禁断の関係なのでしょうか。いけませんわ、でも、ドキドキしてしまいます。
「それで、どんなお話でしょうか?」
穏やかなベルナルド様の声に我に返りました。荷物を載せている馬車からは他の皆様の大きないびきが聞こえてきます。
夜間だけ私専用としてくださったもう一台の馬車へとベルナルド様に入っていただきました。これから聞くお話はあまり他の方に聞かれたくないので、少しでも声が抑えられるようにです。
「あの、ベルナルド様は何故攻撃魔法をお使いになれるのでしょうか?」
「!」
アルベルト様を遠ざけ馬車へと引き入れたことで他の人に聞かれたくない話だと察してくださったのか、硬い表情をするベルナルド様へと思い切って尋ねてみました。
この世界の魔法と言えば、女神様の授けてくださった守るための力。暗黒破壊神こと男神が司っていた戦うための力は人間には使えないはずなのです。攻撃魔法を使えるのは……。
「……少し長くなるけど、構いませんか?」
ちょっとアルベルトに声をかけてくる、といったん外に出て、戻ってくる時には覚悟を決めたような、ベルナルド様らしくない険しいお顔でした。
私は話の前に、リージェ様やアルベルト様へと同じように接して欲しいとお願いしました。
「単刀直入にお聞きします。ベルナルド様は、黒の使徒――私の敵ですか?」
「違う! いや、黒の使徒であることには変わりないか。でも、信じてもらえないかもしれないけれど、俺はこの力をモンスター以外に向けるつもりはないよ」
その笑顔はどこか諦めたような、今にも泣きそうにも見えて。
きっと私には想像もつかないほどの経験をされてきたのでしょう。
「信じますわ。だって、ベルナルド様、私をどうこうするつもりならとっくにできたはずですもの」
それこそ、ダンジョンの中、王都に入る道中などチャンスはいくらでもありました。ベルナルド様が真に黒の使徒、人類の敵なのであれば王都の結界を修復する前に私を殺すのがベストだったのです。
そうしなかったことこそ、ベルナルド様が信頼できる証。
「無神経に聞いてしまって申し訳ありませんでした。無理に話してくださらなくて大丈夫ですよ」
「……いや、せっかくだしこのまま聞いて欲しい」
モンスター以外に攻撃魔法を使わないという言葉だけで私は十分だったのですが、そう言いかけた私を遮ってベルナルド様がポツリポツリと話し始めました。
ベルナルド様は、アルベルト様と同じ村のご出身で幼馴染なのだそうです。お二人とも故郷に恋人ができ、アルベルト様は王都の騎士養成学校へ、ベルナルド様はマジィアの魔法研究棟へと進まれたそうです。身を立てて戻ってきたら結婚するという誓いを立てて。
ですが、ベルナルド様が戻ると村はモンスターに襲われ跡形もなくなっていたそうで。村人のご遺体をベルナルド様がお一人で泣きながら埋葬したそうです。その中には、ベルナルド様のご家族や恋人も……。
「俺の得意魔法は炎でした。料理をしたり、闇夜を明るく照らしたりするための魔法。ですがその時はとにかくモンスターが憎かった。憎くて憎くて、モンスターがいたら例え仇でなくても燃やしてやろうと。そう思ったら、その通りになったのです」
人々の暮らしの役に立つようにと覚えた魔法が、憎いものを燃やす劫火となった。その炎はとても当時のベルナルド様に制御できるものではなく、廃墟と化していた村まで全て焼いてしまったそうです。
炎が消えたのはベルナルド様のMPが尽きた時。魔法を攻撃に使えると身を以て知ったベルナルド様は、制御方法を学ぶため黒の使徒を探し歩き弟子入りしたそうです。
「いくら制御のためとはいえ、他人を傷つけようとする連中と話すのは虫唾が走ったよ」
ベルナルド様は襲われる町や村に先回りして住人を逃したりして、自身の魔法の練習には森の動物やモンスターを相手にしていたそうです。
そうして、攻撃魔法を制御できるようになると、黒の使徒達が拠点としていた場所を密告、共に捕まったそうです。
「拠点へと攻めてきた騎士たちの中に、アルベルトがいたんだ」
アルベルト様はその場にいるはずのないベルナルド様の姿を見つけ取り乱し、逃そうとしてくれたのだそうです。ですがベルナルド様は抵抗もせず大人しく投降したのだそうです。
「先ほども言ったけど、俺が力を欲したのはモンスターを倒すためでね。人と争うためではないんだ。この力は人に向けるべきではない」
抵抗する使徒たちはその場で斬り捨てられ、投降した者も王都で処刑されたそうです。そしてベルナルド様も……。
「俺がこうして生きていられるのは、アルベルトのおかげなんだよ」
ベルナルド様が情報を流して使徒の襲撃から村人達を逃していたと証言してくれる人を探し出し、恩赦を直訴されたのだと。それは極刑に処されてもおかしくはない行為で。
アルベルト様はベルナルド様を命懸けで救ったのです。そうして、アルベルト様がベルナルド様を監視し、その力が人間に向くようであれば即座に処刑するという条件をお二方とも了承してベルナルド様は自由の身となったそうです。
「だから、俺はアルベルトに報いたい。アルベルトだけは裏切りたくないんだ」
「信じますわ。先ほども言いましたけど、貴方が本当に黒の使徒であれば私が王都に着く前にどうにかしていたでしょうから」
照れたように微笑むベルナルド様は、とても誰かを傷つけようとする人間には見えませんでした。
想像を超えるほどの壮絶なお話にはどんな言葉をかけて良いかわかりません。ですが、今のベルナルド様を信じることならできます。
「ベルナルド様はベルナルド様ですわ。これからも、私達を支えてくださいね」
重い話に暗くなってしまった空気を払おうと馬車に出ると、心配そうなアルベルト様が待っていました。
立ち聞きできるような位置ではありませんが、何かあったらすぐに飛び込んでこられる場所です。その距離は、ベルナルド様を監視しなければならない使命とベルナルド様への信頼に揺れるアルベルト様の気持ちの表れなのでしょう。
「何を話していたんだ?」
「ああ、俺が黒の使徒なんじゃないかって聞かれたから、ちょっとだけ昔話をね」
「ふふ、お二人の絆の深さをお聞かせいただきましたわ」
照れた様子のお二人に、いたずらごころが湧いてきます。いいえ、これはもっとベルナルド様と打ち解けたいからですわ。
「お二人はやっぱり禁断のご関係……いいえ、私偏見なんてありませんわ。応援しておりますのよ」
「「違うから!」」
「まぁ、息ピッタリですわね。さすがですわ……」
ベルナルドてめぇ何話した、とじゃれ合うお二人を見てにんまり。やっぱり仲がよろしいこと、と笑って退散致しました。一緒にいるのに殺し殺されなんて物騒な関係は嫌ですわ。
これでお二人が元通り気兼ねない関係に戻っていただけると良いのですけれど。
「はぁ……」
仲良くじゃれるお二人の姿を思い浮かべ、溜息が出てしまいました。
リージェ様に会いたいのです。きのこさんのお話だと明日追いつける。会えたら抱きしめて、もう二度とどこかへ行ってしまわないようずっと離しませんわ!
そして現在……リージェ様はなぜか腕の中でぐったりしているのでした……。
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と、私の意見を否定せず受け入れてくださいました。
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あ、きのこさんと言えば……。
「あの、ベルナルド様、少々宜しいですか?」
夜、ベルナルド様が野営の番をしている時を見計らって声をかけました。一緒に見張り番をしていたアルベルト様が近寄ってくるので、少し席を外していただけないか聞くと渋々といった感じで離れた場所へ行きました。しかし、何か気になるのでしょうか、私達の方をじっと見てきます。
そう言えば……野営の見張り番の二人一組は組み合わせが毎晩違うのに、ベルナルド様とアルベルト様だけは常に一緒です。気づけばアルベルト様がベルナルド様をじっと見ていらっしゃるし……もしかして、お二人は禁断の関係なのでしょうか。いけませんわ、でも、ドキドキしてしまいます。
「それで、どんなお話でしょうか?」
穏やかなベルナルド様の声に我に返りました。荷物を載せている馬車からは他の皆様の大きないびきが聞こえてきます。
夜間だけ私専用としてくださったもう一台の馬車へとベルナルド様に入っていただきました。これから聞くお話はあまり他の方に聞かれたくないので、少しでも声が抑えられるようにです。
「あの、ベルナルド様は何故攻撃魔法をお使いになれるのでしょうか?」
「!」
アルベルト様を遠ざけ馬車へと引き入れたことで他の人に聞かれたくない話だと察してくださったのか、硬い表情をするベルナルド様へと思い切って尋ねてみました。
この世界の魔法と言えば、女神様の授けてくださった守るための力。暗黒破壊神こと男神が司っていた戦うための力は人間には使えないはずなのです。攻撃魔法を使えるのは……。
「……少し長くなるけど、構いませんか?」
ちょっとアルベルトに声をかけてくる、といったん外に出て、戻ってくる時には覚悟を決めたような、ベルナルド様らしくない険しいお顔でした。
私は話の前に、リージェ様やアルベルト様へと同じように接して欲しいとお願いしました。
「単刀直入にお聞きします。ベルナルド様は、黒の使徒――私の敵ですか?」
「違う! いや、黒の使徒であることには変わりないか。でも、信じてもらえないかもしれないけれど、俺はこの力をモンスター以外に向けるつもりはないよ」
その笑顔はどこか諦めたような、今にも泣きそうにも見えて。
きっと私には想像もつかないほどの経験をされてきたのでしょう。
「信じますわ。だって、ベルナルド様、私をどうこうするつもりならとっくにできたはずですもの」
それこそ、ダンジョンの中、王都に入る道中などチャンスはいくらでもありました。ベルナルド様が真に黒の使徒、人類の敵なのであれば王都の結界を修復する前に私を殺すのがベストだったのです。
そうしなかったことこそ、ベルナルド様が信頼できる証。
「無神経に聞いてしまって申し訳ありませんでした。無理に話してくださらなくて大丈夫ですよ」
「……いや、せっかくだしこのまま聞いて欲しい」
モンスター以外に攻撃魔法を使わないという言葉だけで私は十分だったのですが、そう言いかけた私を遮ってベルナルド様がポツリポツリと話し始めました。
ベルナルド様は、アルベルト様と同じ村のご出身で幼馴染なのだそうです。お二人とも故郷に恋人ができ、アルベルト様は王都の騎士養成学校へ、ベルナルド様はマジィアの魔法研究棟へと進まれたそうです。身を立てて戻ってきたら結婚するという誓いを立てて。
ですが、ベルナルド様が戻ると村はモンスターに襲われ跡形もなくなっていたそうで。村人のご遺体をベルナルド様がお一人で泣きながら埋葬したそうです。その中には、ベルナルド様のご家族や恋人も……。
「俺の得意魔法は炎でした。料理をしたり、闇夜を明るく照らしたりするための魔法。ですがその時はとにかくモンスターが憎かった。憎くて憎くて、モンスターがいたら例え仇でなくても燃やしてやろうと。そう思ったら、その通りになったのです」
人々の暮らしの役に立つようにと覚えた魔法が、憎いものを燃やす劫火となった。その炎はとても当時のベルナルド様に制御できるものではなく、廃墟と化していた村まで全て焼いてしまったそうです。
炎が消えたのはベルナルド様のMPが尽きた時。魔法を攻撃に使えると身を以て知ったベルナルド様は、制御方法を学ぶため黒の使徒を探し歩き弟子入りしたそうです。
「いくら制御のためとはいえ、他人を傷つけようとする連中と話すのは虫唾が走ったよ」
ベルナルド様は襲われる町や村に先回りして住人を逃したりして、自身の魔法の練習には森の動物やモンスターを相手にしていたそうです。
そうして、攻撃魔法を制御できるようになると、黒の使徒達が拠点としていた場所を密告、共に捕まったそうです。
「拠点へと攻めてきた騎士たちの中に、アルベルトがいたんだ」
アルベルト様はその場にいるはずのないベルナルド様の姿を見つけ取り乱し、逃そうとしてくれたのだそうです。ですがベルナルド様は抵抗もせず大人しく投降したのだそうです。
「先ほども言ったけど、俺が力を欲したのはモンスターを倒すためでね。人と争うためではないんだ。この力は人に向けるべきではない」
抵抗する使徒たちはその場で斬り捨てられ、投降した者も王都で処刑されたそうです。そしてベルナルド様も……。
「俺がこうして生きていられるのは、アルベルトのおかげなんだよ」
ベルナルド様が情報を流して使徒の襲撃から村人達を逃していたと証言してくれる人を探し出し、恩赦を直訴されたのだと。それは極刑に処されてもおかしくはない行為で。
アルベルト様はベルナルド様を命懸けで救ったのです。そうして、アルベルト様がベルナルド様を監視し、その力が人間に向くようであれば即座に処刑するという条件をお二方とも了承してベルナルド様は自由の身となったそうです。
「だから、俺はアルベルトに報いたい。アルベルトだけは裏切りたくないんだ」
「信じますわ。先ほども言いましたけど、貴方が本当に黒の使徒であれば私が王都に着く前にどうにかしていたでしょうから」
照れたように微笑むベルナルド様は、とても誰かを傷つけようとする人間には見えませんでした。
想像を超えるほどの壮絶なお話にはどんな言葉をかけて良いかわかりません。ですが、今のベルナルド様を信じることならできます。
「ベルナルド様はベルナルド様ですわ。これからも、私達を支えてくださいね」
重い話に暗くなってしまった空気を払おうと馬車に出ると、心配そうなアルベルト様が待っていました。
立ち聞きできるような位置ではありませんが、何かあったらすぐに飛び込んでこられる場所です。その距離は、ベルナルド様を監視しなければならない使命とベルナルド様への信頼に揺れるアルベルト様の気持ちの表れなのでしょう。
「何を話していたんだ?」
「ああ、俺が黒の使徒なんじゃないかって聞かれたから、ちょっとだけ昔話をね」
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照れた様子のお二人に、いたずらごころが湧いてきます。いいえ、これはもっとベルナルド様と打ち解けたいからですわ。
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「「違うから!」」
「まぁ、息ピッタリですわね。さすがですわ……」
ベルナルドてめぇ何話した、とじゃれ合うお二人を見てにんまり。やっぱり仲がよろしいこと、と笑って退散致しました。一緒にいるのに殺し殺されなんて物騒な関係は嫌ですわ。
これでお二人が元通り気兼ねない関係に戻っていただけると良いのですけれど。
「はぁ……」
仲良くじゃれるお二人の姿を思い浮かべ、溜息が出てしまいました。
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