156 / 228
第七章 俺様、南方へ行く
(閑話)世界はこんなにも美しい
しおりを挟む
「ハックシュンッ!」
自分のくしゃみで目が覚める。
冷たい風が全身を撫でつけ、思わずブルリと身体を震わせた。
「あ?」
目の前にはダムが並々と水を湛え、満月が明るく照らすその水面を風が乱していく。
俺は何故か薄着でベンチに座っていた。
赤茶色の葉がカサカサと足元を転がるように飛んでいく。それを視線で追うと、見覚えのある建物が。
「ここは……水道山の見晴らし台?」
何で俺はこんなところにいるんだ?
確か、異世界でルシアちゃんと馬車に乗っていたはず……。
「クシュン! クシュンッ!」
考えている場合じゃないな。このままじゃ風邪をひく。
さっさと家に帰ろう。そしてババァに風呂を沸かさせて温まろう。
月が明るいから、幸い足元は少し見える。
木の根に何度か躓きながらも何とか山道を降り、国道へと出た。
外灯や、家々の明り。懐かしい人工の明り。眩しすぎるコンビニの看板に何故か涙が出そうになった。
「何だこいつ? こんな薄着で。頭おかしいんじゃないか?」
「変なカッコ。コスプレ? オタクってやつぅ?」
コンビニから出てきた若いカップルに絡まれた。俺より少し年上か、いってても二十代前半くらいだろう。女の方は最近あまり見ないようなギャルメイクにピンク色に染めた髪をツインテールにし、男の方は金髪の髭面だ。両耳に3つ、鼻の横と唇にピアスをつけ、指輪や金属性のチェーンアクセをジャラジャラと身に着けている。
二人ともキャハハハ、と俺を指さして笑っている。その態度にカチンと来た。
「何だと?! 俺は勇者だ! 無礼な口を利くな!」
「勇者だぁ? 本気で頭おかしい奴だったぜ」
「勇者様ぁ~。どこの魔王と戦うんでしゅかぁ? キャハハハ!」
そうだ。俺は勇者だ。誰よりも強い。厳しい訓練に耐え、モンスターを倒し、強くなった。
こんな風に俺を馬鹿にする奴らも、みんな力でねじ伏せて認めさせてきたんだ。
もう誰にも馬鹿にさせない。俺は強いんだ。
「謝れ!」
半年前の俺なら、男の外見にビビって関わろうとすらしないで逃げただろう。
だが、もっと厳つい外見の男達とだって俺はやり合ってきた。そして、力を見せつけ認めさせてきた。俺の方が強いと。俺の方が偉いと。
俺は全力で男に殴りかかる。
俺のステータスは一流冒険者に匹敵する。そんな俺が全力で殴れば、並みの冒険者なら軽症で済むが一般人では良くて粉砕骨折、悪くてミンチだろう。
頭の隅でよせと制止する自分もいたが、結局怒りに任せて拳を振りぬいてしまった。
「……いってぇなぁ」
「何なのこいつ~。やっちゃえ大ちゃん!」
「!?」
俺の全力が利かない?!
拳の当たった頬を男がさすっているが、多少赤くなった程度だ。
「そ、そんなバカな! 俺はレベル37だぞ?! その程度で済むわけ……」
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇよ! 何がレベルだ! ゲームは家でやってろ、クソが!」
お腹に衝撃がきた。と思ったら頭にも激痛。
殴られたのだと気付いた時には地面に倒れていて、そんな俺の身体が浮くほどの蹴りを男は執拗に繰り返す。
何が勇者だとか、いきなり殴ってきたお前が悪いとか男が喚いている気もしたが、もうよく聞こえない。
「あ、気が付いた? お名前は言える?」
気が付いたらどこかの病院の部屋で。鼻や腕にチューブが刺さっていた。
俺が起きたのに気付いた看護士の中年女性が鼻のチューブを外してくれる。抜ける瞬間少し痛かった。夢じゃない。こっちが現実。
なんだ、異世界で勇者になったなんて、やっぱり夢だったんだ。
「梅山昂輝です」
家族に連絡すると言うので連絡先を伝えると、まだ寝ていなさいと言って看護師は去っていった。
起こしかけていた身体をパタ、とベッドに沈めて眼を閉じる。蹴られた箇所がずきずきと痛む。
楽しい夢だった。何もかも俺の思い通りになる世界だった。できることならもう少しあの夢に浸っていたい――。
「昂輝! 昂輝! あんたって子は、本当に心配ばっかりかけて!」
「いったい今までどこで何をやっていたんだ!」
「るっせーな、ババァ、ジジィ。何だって良いだろ」
「親に向かってその口の利き方は何だ!」
夕方、血相を変えて入ってきたババァとジジィに起こされた。どっちも涙や鼻水流しまくって、きったねぇ顔近づけんな。
でも、そう思ってんのに何故か抱きついてわんわん泣いてるババァを振り解く気にはならなかった。
「心配だってするさ! あんたと一緒にいなくなってた子が、もう6人も死体で見つかったんだよ」
「生きて帰ってきたのは、お前で二人目だ。頼むから、親より先に死ぬような親不孝はしないでくれ」
「は?」
死んだ? 誰が? イキテカエッテキタノハオマエデフタリメ?
そのうちに警察もやってきて、俺は半年も行方不明だったと言われた。どこで何をやって、どうやって帰ってきたのかと聞かれた。そんなのは、俺が聞きたい。
「異世界で勇者をやってた」
俺に言えるのはそれだけで。でもそう言うと頭がおかしくなったとか、ゲームのやりすぎだとか言われて。
次の日も、次の日もずっと検査やカウンセリングとかで一向に家に帰してもらえそうにはなかった。
本当のことを話しているのに、誰も信じてなんてくれない。
帰りたい。ゲームがしたい。俺の話を信じてくれる奴とだけ話したい。
「よ、梅山」
「工藤?!」
「俺もいるぞー。ほれ、差し入れ」
「きのこ……」
「木下先生と呼べ―」
検査が終わると、病室に懐かしい顔がいた。
そうだ! 工藤は確かに異世界にいた。工藤なら、俺の話が本当だって医者や警察に証言してくれる。俺をここから出してくれる!
「なぁ、工藤! お前も異世界にいたよな?! 俺と一緒に、勇者やってたよな?! な?!」
「……は? お前、大丈夫か? まだ記憶が混乱しているのか。異世界なんて、あるわけないだろ」
「そ、そんな……もしかして、役立たずとか言ったの怒っているのか? 謝るから! なぁ、俺達友達だろ? 魔法とかスキルとか、人間離れしたステータスとか、何でか使えなくなってるんだよ! 異世界に一緒に行ってたお前ならわかってくれるよな?!」
頼むから、俺と一緒だったって言ってくれ! 俺が嘘なんて言ってないって、俺はおかしくなってないって言ってくれよ! なぁ!
縋り付く俺に、工藤は困ったような笑顔で肩を竦めた。きのこまで、夢でも見ていたんだよなんて言う。
愕然とする俺を残して、2人は混乱させてごめんなと帰ってしまった。
差し入れ、と言って置いて行った袋には、俺の大好きだったゲーム機。
「は、はは……まさか、本当に全部夢だったのか……?」
入っていたソフトは、RPG。赤髪の勇者が、聖女とそのペットの竜と共に世界を支配し混乱をもたらした悪神に立ち向かう物語。
どこからが夢で、どこからが現実だったのか? 何が正しいのか、もう俺にはわからない。
俺が病室から出られる日は当分来ないということだけが、紛れもない現実だった。
♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
「少しやりすぎましたかね? 先生」
「う~ん、まぁ、これに懲りたら大人しくなるんじゃねぇの?」
病室から出て、先生と家路をゆっくりと歩く。
ここが元々ステータスの存在しない世界だからか、体力とか素早さとかは全てこちらに戻ってきたら元に戻っていた。あちらではリンゴを握り潰すのも簡単だったのに、今はびくともしない。風のように走れたりもしない。
でも、何故か魔法は使える。先生曰く、スキルはそのまま技能、特技として魂に刻み込まれているから、練習次第ではまた使えるようになると。まぁ俺の使える魔法なんて、もともとちょっと地面を掘れるくらいのものだったからな。使う場面もそうないだろうし、使う気もない。
「でも先生、梅山のスキルを封じられるくらいなら、俺まだ戻らなくても良かったんじゃ?」
「ん? そういやそうだな。まぁ、お前の両親も泣いて喜んでたし良いんじゃないか?」
そうなのだ。
梅山のスキルはどうやったのか先生の奥さんが封じたとかで、今あいつは本当に今まで通りの普通の人間に戻ったのだ。そんなことができるのなら全員分やってくれよと思ったのは内緒だ。
「まぁ、そうするにも色々制約や負荷があるからな。そのままで大丈夫って奴にはそのまま帰すってさ」
「……信用されたってことですね」
「そうさ。俺の女神の信用を裏切らないようにしてくれよ」
先生は俺の頭をペチペチと叩く。
言われるまでもない。こんな力、人前で使ったら化け物扱いだ。そうでなくても、異世界だ魔法だの言い出したら梅山のように病院から出てこれなくなる。
そう言えば、先生が差し入れと言って渡したあの世界そっくりのゲームはどこで買ったのだろう? メーカーのロゴも見たことがないものだった。
聞いてみたけど、内緒、と言われてしまった。先生は意外と謎が多い。
「さて、当面はこれで良いにしても、だ。これからが大変だぞ」
「マスコミとか、警察の応対ですか?」
「や、そういうのは俺がやるから、そっちは適当に覚えてないって言っていればいい」
「じゃぁ、何が」
「梅山の心のケアをさ。あいつがまた社会に戻れるよう、ちゃんと友達として支えてやってくれよ」
先生は悪戯が成功したような表情で笑って、俺にデコピンをしてくる。
先生のこういう所は好きだ。ふざけているように見えて、ちゃんと俺達生徒のことを考えてくれている。
言われなくても、あっちで役立たず呼ばわりされた腹いせは済んだし、ちゃんと友達に戻りますよ。
「先生、さっきから痛いですよ。体罰です。いじめです。教育委員会に訴えますよ」
「酷い?!」
オーバーリアクションで先生が泣きまねをする。その後一緒に笑って、やっと帰ってきたって感じる。
みんながまだあっちにいるから、元通りの日常とは言えないけれど。
またみんなで先生をからかったりして、馬鹿笑いできる日が来ると良いな。もちろん、梅山も含めて。
「先生、俺、頑張ります」
「? おう、先生も頑張るよ」
輝いていた。にかっと笑う先生の顔が。夕日を反射する家々が、木々が、町並みが。
ああ、世界は何て美しいんだろう。
自分のくしゃみで目が覚める。
冷たい風が全身を撫でつけ、思わずブルリと身体を震わせた。
「あ?」
目の前にはダムが並々と水を湛え、満月が明るく照らすその水面を風が乱していく。
俺は何故か薄着でベンチに座っていた。
赤茶色の葉がカサカサと足元を転がるように飛んでいく。それを視線で追うと、見覚えのある建物が。
「ここは……水道山の見晴らし台?」
何で俺はこんなところにいるんだ?
確か、異世界でルシアちゃんと馬車に乗っていたはず……。
「クシュン! クシュンッ!」
考えている場合じゃないな。このままじゃ風邪をひく。
さっさと家に帰ろう。そしてババァに風呂を沸かさせて温まろう。
月が明るいから、幸い足元は少し見える。
木の根に何度か躓きながらも何とか山道を降り、国道へと出た。
外灯や、家々の明り。懐かしい人工の明り。眩しすぎるコンビニの看板に何故か涙が出そうになった。
「何だこいつ? こんな薄着で。頭おかしいんじゃないか?」
「変なカッコ。コスプレ? オタクってやつぅ?」
コンビニから出てきた若いカップルに絡まれた。俺より少し年上か、いってても二十代前半くらいだろう。女の方は最近あまり見ないようなギャルメイクにピンク色に染めた髪をツインテールにし、男の方は金髪の髭面だ。両耳に3つ、鼻の横と唇にピアスをつけ、指輪や金属性のチェーンアクセをジャラジャラと身に着けている。
二人ともキャハハハ、と俺を指さして笑っている。その態度にカチンと来た。
「何だと?! 俺は勇者だ! 無礼な口を利くな!」
「勇者だぁ? 本気で頭おかしい奴だったぜ」
「勇者様ぁ~。どこの魔王と戦うんでしゅかぁ? キャハハハ!」
そうだ。俺は勇者だ。誰よりも強い。厳しい訓練に耐え、モンスターを倒し、強くなった。
こんな風に俺を馬鹿にする奴らも、みんな力でねじ伏せて認めさせてきたんだ。
もう誰にも馬鹿にさせない。俺は強いんだ。
「謝れ!」
半年前の俺なら、男の外見にビビって関わろうとすらしないで逃げただろう。
だが、もっと厳つい外見の男達とだって俺はやり合ってきた。そして、力を見せつけ認めさせてきた。俺の方が強いと。俺の方が偉いと。
俺は全力で男に殴りかかる。
俺のステータスは一流冒険者に匹敵する。そんな俺が全力で殴れば、並みの冒険者なら軽症で済むが一般人では良くて粉砕骨折、悪くてミンチだろう。
頭の隅でよせと制止する自分もいたが、結局怒りに任せて拳を振りぬいてしまった。
「……いってぇなぁ」
「何なのこいつ~。やっちゃえ大ちゃん!」
「!?」
俺の全力が利かない?!
拳の当たった頬を男がさすっているが、多少赤くなった程度だ。
「そ、そんなバカな! 俺はレベル37だぞ?! その程度で済むわけ……」
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇよ! 何がレベルだ! ゲームは家でやってろ、クソが!」
お腹に衝撃がきた。と思ったら頭にも激痛。
殴られたのだと気付いた時には地面に倒れていて、そんな俺の身体が浮くほどの蹴りを男は執拗に繰り返す。
何が勇者だとか、いきなり殴ってきたお前が悪いとか男が喚いている気もしたが、もうよく聞こえない。
「あ、気が付いた? お名前は言える?」
気が付いたらどこかの病院の部屋で。鼻や腕にチューブが刺さっていた。
俺が起きたのに気付いた看護士の中年女性が鼻のチューブを外してくれる。抜ける瞬間少し痛かった。夢じゃない。こっちが現実。
なんだ、異世界で勇者になったなんて、やっぱり夢だったんだ。
「梅山昂輝です」
家族に連絡すると言うので連絡先を伝えると、まだ寝ていなさいと言って看護師は去っていった。
起こしかけていた身体をパタ、とベッドに沈めて眼を閉じる。蹴られた箇所がずきずきと痛む。
楽しい夢だった。何もかも俺の思い通りになる世界だった。できることならもう少しあの夢に浸っていたい――。
「昂輝! 昂輝! あんたって子は、本当に心配ばっかりかけて!」
「いったい今までどこで何をやっていたんだ!」
「るっせーな、ババァ、ジジィ。何だって良いだろ」
「親に向かってその口の利き方は何だ!」
夕方、血相を変えて入ってきたババァとジジィに起こされた。どっちも涙や鼻水流しまくって、きったねぇ顔近づけんな。
でも、そう思ってんのに何故か抱きついてわんわん泣いてるババァを振り解く気にはならなかった。
「心配だってするさ! あんたと一緒にいなくなってた子が、もう6人も死体で見つかったんだよ」
「生きて帰ってきたのは、お前で二人目だ。頼むから、親より先に死ぬような親不孝はしないでくれ」
「は?」
死んだ? 誰が? イキテカエッテキタノハオマエデフタリメ?
そのうちに警察もやってきて、俺は半年も行方不明だったと言われた。どこで何をやって、どうやって帰ってきたのかと聞かれた。そんなのは、俺が聞きたい。
「異世界で勇者をやってた」
俺に言えるのはそれだけで。でもそう言うと頭がおかしくなったとか、ゲームのやりすぎだとか言われて。
次の日も、次の日もずっと検査やカウンセリングとかで一向に家に帰してもらえそうにはなかった。
本当のことを話しているのに、誰も信じてなんてくれない。
帰りたい。ゲームがしたい。俺の話を信じてくれる奴とだけ話したい。
「よ、梅山」
「工藤?!」
「俺もいるぞー。ほれ、差し入れ」
「きのこ……」
「木下先生と呼べ―」
検査が終わると、病室に懐かしい顔がいた。
そうだ! 工藤は確かに異世界にいた。工藤なら、俺の話が本当だって医者や警察に証言してくれる。俺をここから出してくれる!
「なぁ、工藤! お前も異世界にいたよな?! 俺と一緒に、勇者やってたよな?! な?!」
「……は? お前、大丈夫か? まだ記憶が混乱しているのか。異世界なんて、あるわけないだろ」
「そ、そんな……もしかして、役立たずとか言ったの怒っているのか? 謝るから! なぁ、俺達友達だろ? 魔法とかスキルとか、人間離れしたステータスとか、何でか使えなくなってるんだよ! 異世界に一緒に行ってたお前ならわかってくれるよな?!」
頼むから、俺と一緒だったって言ってくれ! 俺が嘘なんて言ってないって、俺はおかしくなってないって言ってくれよ! なぁ!
縋り付く俺に、工藤は困ったような笑顔で肩を竦めた。きのこまで、夢でも見ていたんだよなんて言う。
愕然とする俺を残して、2人は混乱させてごめんなと帰ってしまった。
差し入れ、と言って置いて行った袋には、俺の大好きだったゲーム機。
「は、はは……まさか、本当に全部夢だったのか……?」
入っていたソフトは、RPG。赤髪の勇者が、聖女とそのペットの竜と共に世界を支配し混乱をもたらした悪神に立ち向かう物語。
どこからが夢で、どこからが現実だったのか? 何が正しいのか、もう俺にはわからない。
俺が病室から出られる日は当分来ないということだけが、紛れもない現実だった。
♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢♦♢
「少しやりすぎましたかね? 先生」
「う~ん、まぁ、これに懲りたら大人しくなるんじゃねぇの?」
病室から出て、先生と家路をゆっくりと歩く。
ここが元々ステータスの存在しない世界だからか、体力とか素早さとかは全てこちらに戻ってきたら元に戻っていた。あちらではリンゴを握り潰すのも簡単だったのに、今はびくともしない。風のように走れたりもしない。
でも、何故か魔法は使える。先生曰く、スキルはそのまま技能、特技として魂に刻み込まれているから、練習次第ではまた使えるようになると。まぁ俺の使える魔法なんて、もともとちょっと地面を掘れるくらいのものだったからな。使う場面もそうないだろうし、使う気もない。
「でも先生、梅山のスキルを封じられるくらいなら、俺まだ戻らなくても良かったんじゃ?」
「ん? そういやそうだな。まぁ、お前の両親も泣いて喜んでたし良いんじゃないか?」
そうなのだ。
梅山のスキルはどうやったのか先生の奥さんが封じたとかで、今あいつは本当に今まで通りの普通の人間に戻ったのだ。そんなことができるのなら全員分やってくれよと思ったのは内緒だ。
「まぁ、そうするにも色々制約や負荷があるからな。そのままで大丈夫って奴にはそのまま帰すってさ」
「……信用されたってことですね」
「そうさ。俺の女神の信用を裏切らないようにしてくれよ」
先生は俺の頭をペチペチと叩く。
言われるまでもない。こんな力、人前で使ったら化け物扱いだ。そうでなくても、異世界だ魔法だの言い出したら梅山のように病院から出てこれなくなる。
そう言えば、先生が差し入れと言って渡したあの世界そっくりのゲームはどこで買ったのだろう? メーカーのロゴも見たことがないものだった。
聞いてみたけど、内緒、と言われてしまった。先生は意外と謎が多い。
「さて、当面はこれで良いにしても、だ。これからが大変だぞ」
「マスコミとか、警察の応対ですか?」
「や、そういうのは俺がやるから、そっちは適当に覚えてないって言っていればいい」
「じゃぁ、何が」
「梅山の心のケアをさ。あいつがまた社会に戻れるよう、ちゃんと友達として支えてやってくれよ」
先生は悪戯が成功したような表情で笑って、俺にデコピンをしてくる。
先生のこういう所は好きだ。ふざけているように見えて、ちゃんと俺達生徒のことを考えてくれている。
言われなくても、あっちで役立たず呼ばわりされた腹いせは済んだし、ちゃんと友達に戻りますよ。
「先生、さっきから痛いですよ。体罰です。いじめです。教育委員会に訴えますよ」
「酷い?!」
オーバーリアクションで先生が泣きまねをする。その後一緒に笑って、やっと帰ってきたって感じる。
みんながまだあっちにいるから、元通りの日常とは言えないけれど。
またみんなで先生をからかったりして、馬鹿笑いできる日が来ると良いな。もちろん、梅山も含めて。
「先生、俺、頑張ります」
「? おう、先生も頑張るよ」
輝いていた。にかっと笑う先生の顔が。夕日を反射する家々が、木々が、町並みが。
ああ、世界は何て美しいんだろう。
0
あなたにおすすめの小説
企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する
namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。
転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。
しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。
凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。
詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。
それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。
「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」
前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。
痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。
そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。
これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
【第2章完結】最強な精霊王に転生しました。のんびりライフを送りたかったのに、問題にばかり巻き込まれるのはなんで?
山咲莉亜
ファンタジー
ある日、高校二年生だった桜井渚は魔法を扱うことができ、世界最強とされる精霊王に転生した。家族で海に遊びに行ったが遊んでいる最中に溺れた幼い弟を助け、代わりに自分が死んでしまったのだ。
だけど正直、俺は精霊王の立場に興味はない。精霊らしく、のんびり気楽に生きてみせるよ。
趣味の寝ることと読書だけをしてマイペースに生きるつもりだったナギサだが、優しく仲間思いな性格が災いして次々とトラブルに巻き込まれていく。果たしてナギサはそれらを乗り越えていくことができるのか。そして彼の行動原理とは……?
ロマンス、コメディ、シリアス───これは物語が進むにつれて露わになるナギサの闇やトラブルを共に乗り越えていく仲間達の物語。
※HOT男性ランキング最高6位でした。ありがとうございました!
1歳児天使の異世界生活!
春爛漫
ファンタジー
夫に先立たれ、女手一つで子供を育て上げた皇 幸子。病気にかかり死んでしまうが、天使が迎えに来てくれて天界へ行くも、最高神の創造神様が一方的にまくしたてて、サチ・スメラギとして異世界アラタカラに創造神の使徒(天使)として送られてしまう。1歳の子供の身体になり、それなりに人に溶け込もうと頑張るお話。
※心は大人のなんちゃって幼児なので、あたたかい目で見守っていてください。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる