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第二章 波乱の七日間
三日前③
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そのまま馬に乗っていると、ほどなくして小高い丘が見えた。
バルトは、その麓で馬から降りると、カトリーナも手を添えておろしてくれる。
バルトはカトリーナの手を引きながら、ゆっくりと丘に登っていった。その道中は、ドレスを着ているカトリーナには少しばかりつらいようだ。
「もう少しだ」
「うん……あと、ちょっとっ!」
やや急な坂を上る。
息があがるが、カトリーナはなんとかバルトに引っ張られながら登り切った。
そしてバルトは、彼女をまるで店のなかの招待するかのようにそっと手を出し誘った。
すると、そこには逆光に照らされたシルエット。
すぐに目が慣れてきたカトリーナの視界には、彼が見せたかったものが広がっていた。
「わぁ――」
そこには一面の花畑。
バルトが作り出した庭園も素敵だったが、ここはそれ以上だった。
なんの手も入っていないはずなのに、計算つくされたような色使い。
虫たちが花びらの上で駆けまわり、蜜を運んでいくのが見える。
自然の息吹しか感じない目の前の光景に、カトリーナは感嘆のため息をついていた。
「昔、父上と一緒に来てな。こんな花畑を作ろうと話していたんだ。やはり、何度来ても素晴らしい」
「本当に! こんな素敵なところがあるなんて……」
「聞いたところによると、なんでもここには精霊達の導きがあって、そのおかげでここはこうやって花達が集まってると聞いたことがある」
「素敵、です」
視界一面が花に埋め尽くされる経験など、カトリーナは前世でも今世でも全くなかった。
精霊のお導きとまことしやかに話されるのも無理はない。
カトリーナは、普段するように近くの花をそっと撫でた。
「バルト様の庭園も、ここに負けず美しいですから」
「そんなことはない」
「あら? 少なくとも御父様はそういうと思いますよ。まぁ、話に聞いていただけで想像でしかないけれど」
その言葉に、バルトはゆっくり視界を左から右に動かしていく。
そうして、数秒瞑目すると、おもむろに口を開いた。
「たしかに……そうかもしれないな」
そのまま二人は黙り込む。
目の前の素晴らしい景色には、無粋な言葉など必要なかったのだ。
二人は、視界に飛び込んでくる色彩に感動し。
頬を撫でる風の爽やかさにほほ笑み。
花の香に胸を躍らせ。
虫たちの饗宴に笑いあった。
じっとそれらを見つめている最中。
バルトはカトリーナの肩を組む。
驚いたカトリーナはバルトに視線をはっと向けると、そこにはがちがちに緊張して顔を赤らめている少年のような男がいた。
そんなバルトを見て、カトリーナはくすりを笑みをこぼし、ゆっくりと彼の胸に重みをかけていく。
そんなカトリーナの表情も、すっかりバルトと同じ色。
温もりを分け合った二人は、次第に心を解きほぐし、徐々に心を通わせていく。
その距離を示すかのように、二人の視線も絡まりながら近づいていった。
視線の交わりを、心の邂逅を全身で感じるかのように、二人は自然と目を閉じる――そして。
――そっと、唇を合わせたのだった。
◆
二人の帰途は、言葉のないままだった。
気恥ずかしさと嬉しさと。
それらが互いに共存しあいながら屋敷へと向かっていく。
二人の距離は確かに縮み、帰り道は自然とカトリーナは背中に寄り添っている。
おそらくは、すべてを投げうった価値があったのだろう。
二人の間にあったわだかまりや憂いはとうの昔に消え去っていた。互いに気持ちを確認できたのだから。
そんな二人が屋敷に帰ると、何やら屋敷の中は騒然としていた。
「バルト様……何が?」
「わからん。今更、俺が放り投げて出ていったことなんて関係ないのだろうし……」
大広間にポツンと立っていた二人に、偶然二階を走り回っていたダシャが気づいた。
そして、二人の元に駆け寄ると、慌てた様子で問いかける。
「ご主人様、カトリーナ様! お帰りなさいませ! いきなりではございますが――」
――指輪の行方を知りませんか?
そんなことを、二人に問いかけたのだった。
バルトは、その麓で馬から降りると、カトリーナも手を添えておろしてくれる。
バルトはカトリーナの手を引きながら、ゆっくりと丘に登っていった。その道中は、ドレスを着ているカトリーナには少しばかりつらいようだ。
「もう少しだ」
「うん……あと、ちょっとっ!」
やや急な坂を上る。
息があがるが、カトリーナはなんとかバルトに引っ張られながら登り切った。
そしてバルトは、彼女をまるで店のなかの招待するかのようにそっと手を出し誘った。
すると、そこには逆光に照らされたシルエット。
すぐに目が慣れてきたカトリーナの視界には、彼が見せたかったものが広がっていた。
「わぁ――」
そこには一面の花畑。
バルトが作り出した庭園も素敵だったが、ここはそれ以上だった。
なんの手も入っていないはずなのに、計算つくされたような色使い。
虫たちが花びらの上で駆けまわり、蜜を運んでいくのが見える。
自然の息吹しか感じない目の前の光景に、カトリーナは感嘆のため息をついていた。
「昔、父上と一緒に来てな。こんな花畑を作ろうと話していたんだ。やはり、何度来ても素晴らしい」
「本当に! こんな素敵なところがあるなんて……」
「聞いたところによると、なんでもここには精霊達の導きがあって、そのおかげでここはこうやって花達が集まってると聞いたことがある」
「素敵、です」
視界一面が花に埋め尽くされる経験など、カトリーナは前世でも今世でも全くなかった。
精霊のお導きとまことしやかに話されるのも無理はない。
カトリーナは、普段するように近くの花をそっと撫でた。
「バルト様の庭園も、ここに負けず美しいですから」
「そんなことはない」
「あら? 少なくとも御父様はそういうと思いますよ。まぁ、話に聞いていただけで想像でしかないけれど」
その言葉に、バルトはゆっくり視界を左から右に動かしていく。
そうして、数秒瞑目すると、おもむろに口を開いた。
「たしかに……そうかもしれないな」
そのまま二人は黙り込む。
目の前の素晴らしい景色には、無粋な言葉など必要なかったのだ。
二人は、視界に飛び込んでくる色彩に感動し。
頬を撫でる風の爽やかさにほほ笑み。
花の香に胸を躍らせ。
虫たちの饗宴に笑いあった。
じっとそれらを見つめている最中。
バルトはカトリーナの肩を組む。
驚いたカトリーナはバルトに視線をはっと向けると、そこにはがちがちに緊張して顔を赤らめている少年のような男がいた。
そんなバルトを見て、カトリーナはくすりを笑みをこぼし、ゆっくりと彼の胸に重みをかけていく。
そんなカトリーナの表情も、すっかりバルトと同じ色。
温もりを分け合った二人は、次第に心を解きほぐし、徐々に心を通わせていく。
その距離を示すかのように、二人の視線も絡まりながら近づいていった。
視線の交わりを、心の邂逅を全身で感じるかのように、二人は自然と目を閉じる――そして。
――そっと、唇を合わせたのだった。
◆
二人の帰途は、言葉のないままだった。
気恥ずかしさと嬉しさと。
それらが互いに共存しあいながら屋敷へと向かっていく。
二人の距離は確かに縮み、帰り道は自然とカトリーナは背中に寄り添っている。
おそらくは、すべてを投げうった価値があったのだろう。
二人の間にあったわだかまりや憂いはとうの昔に消え去っていた。互いに気持ちを確認できたのだから。
そんな二人が屋敷に帰ると、何やら屋敷の中は騒然としていた。
「バルト様……何が?」
「わからん。今更、俺が放り投げて出ていったことなんて関係ないのだろうし……」
大広間にポツンと立っていた二人に、偶然二階を走り回っていたダシャが気づいた。
そして、二人の元に駆け寄ると、慌てた様子で問いかける。
「ご主人様、カトリーナ様! お帰りなさいませ! いきなりではございますが――」
――指輪の行方を知りませんか?
そんなことを、二人に問いかけたのだった。
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