87 / 102
第三章 王都攻防編
ピンぼけ夫婦の奮闘⑫
しおりを挟む
ある夜。カトリーナは、自室でぼんやりと月を見上げていた。
すっかり夜は更け、使用人達もおそらく休んでいることだろう。
なぜ彼女がいまだ起きているのか。それは、バルトの身を案じてのことだった。
互いに結ばれたあの夜。
その時二人で誓った約束を果たすために、カトリーナもバルトも頑張っていた。
それからはバルトの帰りも遅く、カトリーナも忙しくあまり二人の時間も取れていない。
寂しい、とおもう反面、自分も負けていられないと思うあたり自分も気が強いなとしみじみ感じていた。
毎日、日が変わるあたりまでは待っているのだが、明日を思うとあまり夜更かしもしていられない。
すれ違いになったり、帰ってきたのに気づいて二、三口を聞いたりする程度。
いい加減、ゆっくり時間を取りたいなと思っていたカトリーナは今日もバルトを待っていた。
「今日もバルト様……遅いのかしら」
そうこぼすカトリーナの耳に、遠くから馬の蹄の音が聞こえた。
ぱっと顔を上げしばらく大通りを眺めていると、ラフォン家の前で馬が止まる。時間を確認すると、今日はまだ日を越えていない。
「今日は比較的早かったのかしら」
そう思って玄関に急ぐ。
すると、息を切らしたバルトが足早に入ってくるところだった。
「カトリーナ」
「バルト様!」
カトリーナは、会えなかった寂しさからか思わず駆け寄って抱き着いた。当然、バルトもそれを受け止めてくれる。
「思ったよりも早かったんですね!」
「ああ、今日はカトリーナにどうしても会いたかったんだ。起きていてくれて嬉しいよ」
「どうしても会いたかった?」
普段は言わない言葉に、嫌な予感が掠めるカトリーナ。
眉を顰める彼女に、バルトは申し訳なさそうに口を開いた。
「禁断の依頼に出発する準備が整ったんだ。明日、王都を発つことが決まった」
うっすらと聞いてはいたが、とうとう出発日が決まってしまった。
聞く限り、とても危険な依頼とのこと。カトリーナは抱きしめている腕にさらに力をこめる。
「少し……話せますか?」
「ああ、そのつもりだ」
そう言って、二人は寝室へと向かっていった。
二人が寝室に行くと、いつの間にかに起きていたダシャがお茶を入れてくれる。
夜中なのでハーブティーだ。
ほんのりと香るハーブにほっとしつつも、先ほどの話題が頭から離れない。
カトリーナは、簡単に身支度を整えたバルトが席に座ると、すぐに質問を投げかける。
「それで……禁断の依頼って、危険なものなのですか?」
「ああ。今まで誰一人として成功したものがいないと聞く」
「ずっとそれに挑むために頑張ってきたんですもんね……でも、不安です」
「……カトリーナ」
バルトはうつむくカトリーナをそっと抱き寄せた。
「君も……今、頑張ってくれているんだろう?」
「ええ。王都でお祭りを開くんです。きっと、バルト様のためになりますよ?」
「そうか、それは楽しみだな」
「ええ。きっと楽しいです」
どこか堅苦しい言葉を交わしながら、二人はぎこちなく互いに体重を傾けていく。
カトリーナはバルトの胸元に顔を埋めながら、懇願するように呟いた。
「必ず帰ってきてくださいね?」
「もちろんだ。必ずこの依頼を成功させて……君が胸をはって生きていけるようにしてみせる」
「え?」
「ん?」
バルトの言葉にぱっと顔を離して首をかしげるカトリーナ。
そんな彼女の反応を不思議に思い、バルトも同じように首を傾げた。
「バルト様! そんなことのために頑張ってたの!?」
「そんなことってなんだ! 公爵家当主として相応しい自分になれば、君がなにか言われたりしなくなるかと――」
「そこは普通に、ラフォン家公爵家としての矜持とか伝統だとか、そういうものを守るために頑張るとかじゃ!?」
「そんなものに興味はない! 俺は、君さえ幸せでいてくれるならそれでいいんだ」
「私……、公爵家当主としてのバルト様の助けになると思ってお祭りとか企画したんだけど……」
「いや、そこは純粋にうれしいのだが……」
そういって茫然として互いに見つめあう。
だが、こらえきれずカトリーナは噴き出し、声を出して笑った。バルトもつられて笑いをこぼす。
「バルト様って本当に公爵家当主っぽくないですよね! 私のためとか、本当に変です!」
「君こそ、私のために頑張るなど……普通は、夫を支えるのが妻の仕事だと言われているのだから、そこまで頑張らなくていいんだぞ?」
「これが、私の支え方ですから」
「それなら、このやり方が俺の公爵家の守り方だ」
カトリーナはバルトの言葉にうれしくなり、思わずそっと唇を彼に押し付ける。
突然の出来事に目をぱちくりさせたバルトだったが、すぐにほほ笑むと、お返しとばかりに同じように唇を重ねた。
「そんなバルト様だから、きっと好きになったんです」
「俺もだな……君が主催する祭りに間に合うようにきっと帰ってくると約束しよう」
「ええ。きっと楽しいですから。……待ってます」
「ああ。待っていてくれ」
二人は互いに抱きしめあったままベッドへと向かう。
一番近い距離で温もりを感じあった二人は、心を満たしたまま朝を迎えた。
カトリーナとバルト。
二人の戦いが、今まさに始まろうとしていた。
すっかり夜は更け、使用人達もおそらく休んでいることだろう。
なぜ彼女がいまだ起きているのか。それは、バルトの身を案じてのことだった。
互いに結ばれたあの夜。
その時二人で誓った約束を果たすために、カトリーナもバルトも頑張っていた。
それからはバルトの帰りも遅く、カトリーナも忙しくあまり二人の時間も取れていない。
寂しい、とおもう反面、自分も負けていられないと思うあたり自分も気が強いなとしみじみ感じていた。
毎日、日が変わるあたりまでは待っているのだが、明日を思うとあまり夜更かしもしていられない。
すれ違いになったり、帰ってきたのに気づいて二、三口を聞いたりする程度。
いい加減、ゆっくり時間を取りたいなと思っていたカトリーナは今日もバルトを待っていた。
「今日もバルト様……遅いのかしら」
そうこぼすカトリーナの耳に、遠くから馬の蹄の音が聞こえた。
ぱっと顔を上げしばらく大通りを眺めていると、ラフォン家の前で馬が止まる。時間を確認すると、今日はまだ日を越えていない。
「今日は比較的早かったのかしら」
そう思って玄関に急ぐ。
すると、息を切らしたバルトが足早に入ってくるところだった。
「カトリーナ」
「バルト様!」
カトリーナは、会えなかった寂しさからか思わず駆け寄って抱き着いた。当然、バルトもそれを受け止めてくれる。
「思ったよりも早かったんですね!」
「ああ、今日はカトリーナにどうしても会いたかったんだ。起きていてくれて嬉しいよ」
「どうしても会いたかった?」
普段は言わない言葉に、嫌な予感が掠めるカトリーナ。
眉を顰める彼女に、バルトは申し訳なさそうに口を開いた。
「禁断の依頼に出発する準備が整ったんだ。明日、王都を発つことが決まった」
うっすらと聞いてはいたが、とうとう出発日が決まってしまった。
聞く限り、とても危険な依頼とのこと。カトリーナは抱きしめている腕にさらに力をこめる。
「少し……話せますか?」
「ああ、そのつもりだ」
そう言って、二人は寝室へと向かっていった。
二人が寝室に行くと、いつの間にかに起きていたダシャがお茶を入れてくれる。
夜中なのでハーブティーだ。
ほんのりと香るハーブにほっとしつつも、先ほどの話題が頭から離れない。
カトリーナは、簡単に身支度を整えたバルトが席に座ると、すぐに質問を投げかける。
「それで……禁断の依頼って、危険なものなのですか?」
「ああ。今まで誰一人として成功したものがいないと聞く」
「ずっとそれに挑むために頑張ってきたんですもんね……でも、不安です」
「……カトリーナ」
バルトはうつむくカトリーナをそっと抱き寄せた。
「君も……今、頑張ってくれているんだろう?」
「ええ。王都でお祭りを開くんです。きっと、バルト様のためになりますよ?」
「そうか、それは楽しみだな」
「ええ。きっと楽しいです」
どこか堅苦しい言葉を交わしながら、二人はぎこちなく互いに体重を傾けていく。
カトリーナはバルトの胸元に顔を埋めながら、懇願するように呟いた。
「必ず帰ってきてくださいね?」
「もちろんだ。必ずこの依頼を成功させて……君が胸をはって生きていけるようにしてみせる」
「え?」
「ん?」
バルトの言葉にぱっと顔を離して首をかしげるカトリーナ。
そんな彼女の反応を不思議に思い、バルトも同じように首を傾げた。
「バルト様! そんなことのために頑張ってたの!?」
「そんなことってなんだ! 公爵家当主として相応しい自分になれば、君がなにか言われたりしなくなるかと――」
「そこは普通に、ラフォン家公爵家としての矜持とか伝統だとか、そういうものを守るために頑張るとかじゃ!?」
「そんなものに興味はない! 俺は、君さえ幸せでいてくれるならそれでいいんだ」
「私……、公爵家当主としてのバルト様の助けになると思ってお祭りとか企画したんだけど……」
「いや、そこは純粋にうれしいのだが……」
そういって茫然として互いに見つめあう。
だが、こらえきれずカトリーナは噴き出し、声を出して笑った。バルトもつられて笑いをこぼす。
「バルト様って本当に公爵家当主っぽくないですよね! 私のためとか、本当に変です!」
「君こそ、私のために頑張るなど……普通は、夫を支えるのが妻の仕事だと言われているのだから、そこまで頑張らなくていいんだぞ?」
「これが、私の支え方ですから」
「それなら、このやり方が俺の公爵家の守り方だ」
カトリーナはバルトの言葉にうれしくなり、思わずそっと唇を彼に押し付ける。
突然の出来事に目をぱちくりさせたバルトだったが、すぐにほほ笑むと、お返しとばかりに同じように唇を重ねた。
「そんなバルト様だから、きっと好きになったんです」
「俺もだな……君が主催する祭りに間に合うようにきっと帰ってくると約束しよう」
「ええ。きっと楽しいですから。……待ってます」
「ああ。待っていてくれ」
二人は互いに抱きしめあったままベッドへと向かう。
一番近い距離で温もりを感じあった二人は、心を満たしたまま朝を迎えた。
カトリーナとバルト。
二人の戦いが、今まさに始まろうとしていた。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
側妃は捨てられましたので
なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」
現王、ランドルフが呟いた言葉。
周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。
ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。
別の女性を正妃として迎え入れた。
裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。
あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。
だが、彼を止める事は誰にも出来ず。
廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。
王妃として教育を受けて、側妃にされ
廃妃となった彼女。
その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。
実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。
それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。
屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。
ただコソコソと身を隠すつもりはない。
私を軽んじて。
捨てた彼らに自身の価値を示すため。
捨てられたのは、どちらか……。
後悔するのはどちらかを示すために。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。