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第三章 王都攻防編
王都コンテスト③
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王都コンテスト二日目。
カトリーナは、飾られている絵画に加えて美術品を一か所に並べた。
まるで美術館のような会場は、多くの貴族や商人達を虜にする。芸術品が並ぶ建物の中は、静かな興奮と歓喜で満ち溢れていた。
一方、中央広場では歌と音楽の祭典が開かれていた。
予選を勝ち抜いてきたものたちが、その腕前をこれでもかと披露する。
心地よくも、心が跳ねるような音楽を聴きながら、カトリーナは思わず目をつぶった。
「あ! 奥様だ!」
「だ、じゃないわよ、ララ! 奥様、このようなところで何を?」
企画の立案、人員の配置など前日までは目が回るような忙しさだったカトリーナ。当日はというとトラブルさえなければ駆り出されるようなことはない。
頑張っているリリとララの前で、正直に音楽を楽しんでいたとも言えず、カトリーナは思わず誤魔化した。
「見回りよ。トラブルが起こっていないかちゃんとみていないとね。初めてのことだから、うまくできないことはきっとあるわ」
「さすがは奥様です! 私達もちゃんとお仕事をしてきたんですよ! 明日の鍛冶屋の方々の品評会の準備はもうばっちりですから!」
「何いってるのよ。鍛冶師の方がちゃんと品々を持ってくればの話じゃない。奥様。ララは適当なことを言っております」
「なっ! て、適当じゃないもん! リリはいじわるばっかりいって」
「事実じゃない。まだ品物は何も用意されていないんだから」
リリがからかい、ララは頬を膨らませている。
ほほえましい姉妹のやり取りに、カトリーナは思わず微笑んだ。
「ふふ、こんな時でも仲がいいのね」
「違うんですよ、奥様!」
ララは拗ねるようにカトリーナに視線を向けた。
「いいのよ。それよりも、品物が集まっていないってどういうことなの?」
「それなんですが、なんでもぎりぎりまで武器を磨いたりしたいんだそうです。納得がいく仕事をしたいと、ほぼ全員の方が明日の開催時間までに持ってくると言っていて」
「頑固な職人らしいわね。でも、きっと彼らも誇りがあるのだからちゃんと持ってくるわよ。ありがとうね、リリ、ララ」
「はい! 奥様も見回り頑張ってください!」
「では、奥様。見回りはほどほどに」
ララは無邪気に応援してくれるが、リリはきっとカトリーナが暇なことに気づいているのだろう。
含みがある笑みを浮かべて去っていくリリの後ろ姿をカトリーナは思わずじとっとした目で見てしまう。
「やっぱりばれてたか」
そんな一言は、喧噪に紛れて消える。
カトリーナは、人と取り見回して持ち場である本部に戻ろうと考えた。
「見かけてないけど、セヴェリーノは本部にいるのかな?」
そういいながら、カトリーナはスラムへと歩いていく。
スラムの本部へ行くと、そこではヘルムートが忙しそうに指示を出していた。孤児達や厳つい人たちがひっきりなしに報告に訪れている。
やや話しかけづらい雰囲気を感じつつも、カトリーナは片手を上げて声をかけた。
「ヘルムート様。お疲れ様です」
その声に顔を上げたヘルムートは、カトリーナの姿を見ると途端に顔を顰めた。
「カトリーナ様ですか。どうしました? 邪魔ですからこちらに来ないでいただけるとありがたいのですが」
「いきなりあたりが強いわね」
「それはそうでしょう? あなたが色々とアイデアを出すからこんなに忙しくなったのですよ? 少しは働く人間のことを考えてほしいものです」
「でも、あなたはそれに値すると思ったから乗ってきたんじゃないの?」
カトリーナはやや強気な笑みを浮かべてそう言い切った。するとヘルムートはさらに表情を歪めた。
「こんなに忙しいのです。少しは愚痴ってもいいでしょう?」
「その原因に愚痴ったらただの文句よ」
軽口を交わしながらも、ヘルムートはカトリーナに意識を向けていた。当然仕事をしながらだが。
カトリーナはあたりを見回してセヴェリーノを探すも見当たらない。
「あれ? こっちにセヴェリーノがいるはずなんだけど」
「おや? セヴェリーノは何やら屋敷のほうで用事があるとか。ついさっきそっちに行きましたが」
「屋敷で仕事?」
カトリーナはその言葉に首をかしげる。
「あの子、今日屋敷で仕事なんてなかったはずなんだけど……」
そんな疑問を残しつつ、カトリーナはヘルムートとひとしきり雑談を交わしてその場を去った。
カトリーナが屋敷へ帰ると、セヴェリーノはいつも通りに仕事をしていた。
昼間のことを不思議に思ったカトリーナは、彼に声をかけた。
「あら、セヴェリーノ。昼間も屋敷の仕事をしてくれていたって聞いたけど、何かあった?」
セヴェリーノは、カトリーナの問いかけにびくりと肩を震わせると、取り繕ったような笑みを浮かべていた。その顔は強張っている。
「いえ。ただの雑用ですから」
「そう? 王都コンテスト中は忙しいから、あなたも無理はしないでね」
「ありがとうございます、奥様。では、失礼します」
ややぎこちない雰囲気のセヴェリーノを不思議に思いつつ、カトリーナは去っていく彼の後ろ姿を見つめていた。
「セヴェリーノがアクセサリーなんて珍しい……」
カトリーナは彼の首元にぶら下がっていたペンダントの存在に首を傾げつつ、セヴェリーノを見送った。
カトリーナは、飾られている絵画に加えて美術品を一か所に並べた。
まるで美術館のような会場は、多くの貴族や商人達を虜にする。芸術品が並ぶ建物の中は、静かな興奮と歓喜で満ち溢れていた。
一方、中央広場では歌と音楽の祭典が開かれていた。
予選を勝ち抜いてきたものたちが、その腕前をこれでもかと披露する。
心地よくも、心が跳ねるような音楽を聴きながら、カトリーナは思わず目をつぶった。
「あ! 奥様だ!」
「だ、じゃないわよ、ララ! 奥様、このようなところで何を?」
企画の立案、人員の配置など前日までは目が回るような忙しさだったカトリーナ。当日はというとトラブルさえなければ駆り出されるようなことはない。
頑張っているリリとララの前で、正直に音楽を楽しんでいたとも言えず、カトリーナは思わず誤魔化した。
「見回りよ。トラブルが起こっていないかちゃんとみていないとね。初めてのことだから、うまくできないことはきっとあるわ」
「さすがは奥様です! 私達もちゃんとお仕事をしてきたんですよ! 明日の鍛冶屋の方々の品評会の準備はもうばっちりですから!」
「何いってるのよ。鍛冶師の方がちゃんと品々を持ってくればの話じゃない。奥様。ララは適当なことを言っております」
「なっ! て、適当じゃないもん! リリはいじわるばっかりいって」
「事実じゃない。まだ品物は何も用意されていないんだから」
リリがからかい、ララは頬を膨らませている。
ほほえましい姉妹のやり取りに、カトリーナは思わず微笑んだ。
「ふふ、こんな時でも仲がいいのね」
「違うんですよ、奥様!」
ララは拗ねるようにカトリーナに視線を向けた。
「いいのよ。それよりも、品物が集まっていないってどういうことなの?」
「それなんですが、なんでもぎりぎりまで武器を磨いたりしたいんだそうです。納得がいく仕事をしたいと、ほぼ全員の方が明日の開催時間までに持ってくると言っていて」
「頑固な職人らしいわね。でも、きっと彼らも誇りがあるのだからちゃんと持ってくるわよ。ありがとうね、リリ、ララ」
「はい! 奥様も見回り頑張ってください!」
「では、奥様。見回りはほどほどに」
ララは無邪気に応援してくれるが、リリはきっとカトリーナが暇なことに気づいているのだろう。
含みがある笑みを浮かべて去っていくリリの後ろ姿をカトリーナは思わずじとっとした目で見てしまう。
「やっぱりばれてたか」
そんな一言は、喧噪に紛れて消える。
カトリーナは、人と取り見回して持ち場である本部に戻ろうと考えた。
「見かけてないけど、セヴェリーノは本部にいるのかな?」
そういいながら、カトリーナはスラムへと歩いていく。
スラムの本部へ行くと、そこではヘルムートが忙しそうに指示を出していた。孤児達や厳つい人たちがひっきりなしに報告に訪れている。
やや話しかけづらい雰囲気を感じつつも、カトリーナは片手を上げて声をかけた。
「ヘルムート様。お疲れ様です」
その声に顔を上げたヘルムートは、カトリーナの姿を見ると途端に顔を顰めた。
「カトリーナ様ですか。どうしました? 邪魔ですからこちらに来ないでいただけるとありがたいのですが」
「いきなりあたりが強いわね」
「それはそうでしょう? あなたが色々とアイデアを出すからこんなに忙しくなったのですよ? 少しは働く人間のことを考えてほしいものです」
「でも、あなたはそれに値すると思ったから乗ってきたんじゃないの?」
カトリーナはやや強気な笑みを浮かべてそう言い切った。するとヘルムートはさらに表情を歪めた。
「こんなに忙しいのです。少しは愚痴ってもいいでしょう?」
「その原因に愚痴ったらただの文句よ」
軽口を交わしながらも、ヘルムートはカトリーナに意識を向けていた。当然仕事をしながらだが。
カトリーナはあたりを見回してセヴェリーノを探すも見当たらない。
「あれ? こっちにセヴェリーノがいるはずなんだけど」
「おや? セヴェリーノは何やら屋敷のほうで用事があるとか。ついさっきそっちに行きましたが」
「屋敷で仕事?」
カトリーナはその言葉に首をかしげる。
「あの子、今日屋敷で仕事なんてなかったはずなんだけど……」
そんな疑問を残しつつ、カトリーナはヘルムートとひとしきり雑談を交わしてその場を去った。
カトリーナが屋敷へ帰ると、セヴェリーノはいつも通りに仕事をしていた。
昼間のことを不思議に思ったカトリーナは、彼に声をかけた。
「あら、セヴェリーノ。昼間も屋敷の仕事をしてくれていたって聞いたけど、何かあった?」
セヴェリーノは、カトリーナの問いかけにびくりと肩を震わせると、取り繕ったような笑みを浮かべていた。その顔は強張っている。
「いえ。ただの雑用ですから」
「そう? 王都コンテスト中は忙しいから、あなたも無理はしないでね」
「ありがとうございます、奥様。では、失礼します」
ややぎこちない雰囲気のセヴェリーノを不思議に思いつつ、カトリーナは去っていく彼の後ろ姿を見つめていた。
「セヴェリーノがアクセサリーなんて珍しい……」
カトリーナは彼の首元にぶら下がっていたペンダントの存在に首を傾げつつ、セヴェリーノを見送った。
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