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第三章 王都攻防編

王都コンテスト⑤

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 バルトが王都を出発して数日。
 一行は、目的地を目の前に野営をしていた。
 その編成は、副隊長であるバルトを筆頭に、百名ほどからなる騎士団の小隊を二つほど連れてきている。
 中央騎士団は練度が高く、二百人と言えどその戦力は研ぎ澄まされていた。
 その小隊のうち一つを任されているのが、バルトの幼馴染であるダズル・デュランデだ。彼は、性格の悪さはさておき、その剣技の冴えや部隊を指揮する能力には長けている。
 今回は、ダズル本人たっての希望ということで参加していた。

「副隊長。一応、神殿には明日の昼前には着くようです。近くの住民からすると、神殿までは特になにもなくたどり着けるとか」

 テントの中。
 エミリオとカルラはバルトと顔を突き合わせて作戦を練っていた。
 といって、ほとんどが憶測だらけなので要領を得ない。とりあえず目的地である神殿への道のりを確認していたのだ。

 そもそも、禁断の依頼とは何なのか。
 あくまで文献上の情報でしかないが、それは、神の遣いであるエンシェントドラゴンが守っている王の証を持ってくることだ。
 王の証とは、神が認めた王が持つべきものと言われている。
 それを手に入れることは、全世界の各国の悲願であるのだが、それは一度も達成されていない。
 エンシェントドラゴンが課す試練を潜り抜けたものがいないということだ。
 もちろん、試練を受けたもの全員が命を落とすわけではない。生き残って帰ってきたものもいるらしい。ほんの一握りの人間だけだが。

「まずは行ってみてだが。そもそも、エンシェントドラゴンに会えるかもわからん」
「……副隊長でも不安になるのですね」
「そうだな……。だが、必ず成し遂げて見せる」

 バルトは、カルラの言葉をかみしめながら、握りしめた手を見つめた。

「カトリーナもきっと頑張っているのだから」

 そう言って、遠くにいるカトリーナの笑顔を思い浮かべていた。




 そこは、王都からほど近い山の上。神が降り立つ場所と呼ばれているその山の上には神殿が建てられており、エンシェントドラゴンが神殿を守っているといわれている。
 一行は朝早くから野営地を出発した。
 そして、山に踏み入れてから、違和感を感じていた。普段とは違う神聖な雰囲気に満ちているような気がしていたのだ。
 その奇妙な感覚に困惑しながらも、バルト達は歩みを進めていく。そんな折、一人の男が声をかけてきた。

「さすがは黒獅子様だよな。禁断の依頼に挑むなんていう勝手が許されるんだからよ。巻き込まれたこっちはたまったもんじゃねぇよ」

 話しかけてきたのはダズルだった。
 彼は、持ち場を離れてバルトに絡みにやってきたのだ。

「ダズル殿。持ち場を離れてはこまります」
「あぁ? 副官風情がうるせぇんだよ。俺は、英雄扱いされていい気になってる公爵様の顔を拝みにきてやったんだ。感謝くらいしても罰はあたらねぇだろ?」

 とっさに割ってはいったカルラを強引に押しのけると、ダズルは歩いているバルトの顔を覗き込む。
 バルトは、やや眉を顰めると、淡々と返した。

「カルラの言う通りだ。規律が乱れる。持ち場に戻れ、ダズル」
「はっ。さすが、英雄様はいうことが優等生過ぎて嫌になっちまうな……」

 ダズルはそういってひとしきり笑うと、すぐに表情を消してバルトを睨みつけた。

「だが、それもあと少しだ。禁断の依頼は、俺が達成してやるよ。そしたら、あっという間に俺は昇進さ! お前を部下にして、せいぜいこき使ってやるよ!」

 ダズルはそういって踵を返す。
 おとなしく持ち場に戻っていくダズルの背中に向けて、バルトは小さく決意を口にした。

「ダズル。お前が俺を疎ましく思っているのは知っている。だが、俺は、俺の目的のためにこの依頼を絶対に達成させる。期待させて、悪かったな」

 普段、ダズルの絡みに決して反抗的な態度をしめさなかったバルト。
 そのバルトが行った言葉に、ダズルは驚き振り向いた。
 その表情は驚愕、そして徐々に怒りを帯び赤く染まっていった。
 何かを言いたそうなダズルだったが、舌打ちをするとすぐさま視線を逸らし歩き出した。バルトは、その後ろ姿をじっと見つめている。

「副隊長、すみませんでした。止められず――」
「いいんだ。とにかく今は神殿に行くぞ。ダズルの奴に手柄を取られていては、カトリーナにどやされそうだからな」

 そんな冗談に、カルラは目を見開きエミリオは噴き出した。

「ははっ、副隊長も言う様になりましたねぇ。なら、カトリーナ嬢に怒られないように頑張りますか」
「二人とも……カトリーナ様が聞いたらきっとひどいことになりますよ?」

 カルラにそういわれた二人は、カルラがやり込められた時を思い出し思わず青ざめる。
 そして、無駄なことは口にしないほうがいいとばかりに押し黙った。

「……いくか」
「……そうしましょう」

 そんな男二人を見ながら、カルラは肩を竦めてから後を追ったのだった。
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