ブックメイカー ~ゴミスキルを開花させた少年は、孤児から頂点へと成り上がる~

卯月 みつび

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第一章 スキルと従者と本の世界

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「――様、エンド様? もう起きないと風邪をひいちゃいますよ?」



 遠くに声が聞こえる。

 聞いたこともない声だけど、ひどく優しい感じがする。

 目を開くと、霞む視界の中、一人の美少女がそこにはいた。その非現実的な光景に、思わず見とれてしまった。



 その美少女はなぜだか貴族の屋敷にいそうなメイド服を着ている。しゃがみ込んでいるからか、折りたたまれた細い足が目に飛び込んでくる。スカートの中が見えそうで目を逸らした。

 そのまま上を見ると、膝の上に乗っかっている胸元が飛び込んでくる。思わずごくりと唾を飲み込んだが、すぐに目線をずらす。

 すると今度は大きな瞳と目があった。

 こてんと首をかしげており、その愛らしさとどこか色気を感じる表情にやはり顔をそむけてしまった。



 直視できない。

 まるで夢のような光景を楽しんだ僕だったが、昨日のことを思い出しすぐさま飛び起き顔を上げた。



「こ、孤児院は――!?」



 夢であったらいいのに。

 そんな淡い希望。

 なくなっていたらいい現実と直視しようと体を起こしたのだが――美少女の周りは美しい芝が生えそろった地面が広がっているだけだ。

 燃えた木材も、崩れ落ちた屋根も何もない。



 不思議そうに辺りを見回すと、今いる場所はとても奇妙な場所だった。



 自分と美少女がいる場所。

 おそらく、数歩もいけばいきどまってしまうようなそれくらいの空間しかないように思える。

 景色は何もなく、白い空間がただ広がっているだけ。



「ここは……」



 誰に話すでもないその呟き。

 その言葉を拾い上げた少女がにっこりとした笑みで僕の顔を覗き込んだ。



「エンド様。お体は大丈夫ですか?」



 唐突に飛び込んできた美少女。目の前まで迫っていた彼女に思わず大きくのけ反った。

 容姿だけでなく、そのたたずまいから話しかけるのさえ恐れ多い。

 おそらくは貴族かなにかの使用人だろう。

 そう思った僕は、すぐに頭を下げると謝罪を述べる。



「も、申し訳ありませんでした。すぐにここから去りますの何卒ご容赦を」

「え?」



 困惑はしていそうだが嫌な気分にはさせていなさそうだ。

 今のうちに、とばかりに僕は立ち上がり駆け出した。



「では、失礼しま――「待ってください!!」へぶしっ――!!!」



 立ち去ろうと思ったが、突然美少女が僕の首根っこに飛び掛かってきた。

 いきなりのことだったから、僕は耐えきれず地面へと崩れ落ちる。っていうか、背中に柔らかいものが当たってるんだけど!



「どうしてどこか行こうとするんですか!」



 美少女をどかそうと仰向けになると、そのまま彼女は覆いかぶさってきて顔を近づけてきた。

 メイド服のスカートはたくしあがり、僕のお腹に直接ふとももが触れていた。



「えっと、きっと貴族の方のお目汚しになるのではないかと思いまして。ここから立ち去ろうとしたんです! 本当にすみません!」

「そんなことは必要ないですよ? だって、今ここにはエンド様と私しかいないんですから」

「だから、あなたがここにいたらそれはつまり――って、エンド様?」



 ここにきて、ようやく彼女が自分のことを呼んでいるのだと気づいた。

 生まれてこのかた、様なんてつけられたことのない。まさか、自分が呼ばれているだなんて思いもしなかったのだ。



「はい。私はレイカ。エンド様の従者となるべく生まれてきました。これから、よろしくおねがいしますね?」



 レイカさんっていうのか。

 本当に綺麗な人だなぁ。

 僕はそんなことを思いながら立ち上がり、上品にお辞儀をするレイカさんに今一度見惚れていた。

 だが、唐突な展開に理解は全く追いつかない。

 どういうことだ? 僕は孤児だぞ? からかわれてるのか?



「えっと、従者って何!? どういうこと? わけがわからないよ! っていうかここはどこなんだ! 孤児院は燃えたんじゃなかったの!?」

「ふふ、一つずつ説明していきますからご安心ください」



 レイカさんはそう言うと、よく通る声で話を始める。



「さて、エンド様。エンド様はご自身のスキル『ブックメイカー』がどのような力を持つか知ってますか?」



 自分の汚点ともいえるスキル。

 どうしてそのことを知ってるのだろうと疑問に思ったけれど、それ以上にスキルの名前に嫌悪感を抱く。

 突然ブックメイカーについて聞かれた僕は、顔を顰ることを堪えられなかった。

 だが、どうしてこのタイミングで僕のスキルを?

 関係ないじゃないか。



 抗議の意味を込めて睨みつけるも、レイカさんはにこにことほほ笑んでいる。

 まあ、別に答えたからって死ぬわけじゃない。

 嫌だけど、目の前の美少女の可愛さに免じて口を開いた。



「僕のスキルって言っても……ただ、本が出せるってだけで――」

「では、その本がどういうものか。そこに疑問は抱きませんでしたか?」

 それを聞いてドキリと心臓が跳ねた。

 当然、そう思っていた時もあった。

 普通に考えれば、本を出せるだけのスキルなんて役に立たない。他に何かの力があるはずだって思うのは自然な流れだろう。

 だが、僕にはそれが見つけられなかった。

 見つける努力はしてきたのだが、そんなもの、どこにもなかったのだ。



「だって――、ずっと探してたのに、そんなの、どこにも――」

「レベルが上がったんです」



 聞きなれない言葉。

 レベルってなんだろう。僕は無意識に首をかしげる。 



「レベル?」

「ええ。おそらく、孤児院にいらっしゃったので聞く機会がなかったと思うんですが、スキルにはレベルというものがあります。レベルがあがるとスキルの力も増していくんです」

「レベルが上がると、力が増す……?」



 僕は何の気なしに両手を見つめる。

 力って言われても……なにも変わらないように思えるけど。



「はい。そして、エンド様のスキルのレベルがとうとう上がったんです。ずっと耐え忍んできたエンド様の頑張りがとうとう実ったんですよ」

「えっと、それで、そのスキルのレベルと、君が従者になるっていうことの何がどうつながるのか……」

「そうですね。肝心なところをお伝えしないと」



 そういうと、レイカさんは立ち上がり両手を広げた。

 よくよくみると、ここは本当に奇妙な場所だ。



「ここは、エンド様。あなたの本の中の世界なんです。そして、私はここに生み出された従者。あなたの忠実な僕ですよ、エンド様」



 そう言ってほほ笑むレイカさんの笑顔にはどこか現実感がなくて、僕は言われたことのかけらも理解することができなかった。
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