憧れの世界でもう一度

五味

文字の大きさ
212 / 1,235
6章 始まりの町へ

いざこざ

しおりを挟む
その少々剣呑な空気を纏う狩猟者たち。
傍目に見ても手入れのなっていないと分かる、武器を手にした三名ほどの男たち。
年のころは外見だけで言えば、トモエと同じくらい、同じであれば、前の世界の成人よりも少し早い、そう言った年の頃。
身体は、こういった環境が作用しているのであろうが、それなりに鍛えられて入るが、それこそ運動を、体を動かすことを生業とするなら、最低限はこの程度だろう、そう言った程度でしかない。
オユキは少年たちの様子を伺いながら、ついでにとその青年たちも観察していたが、トモエの道場に通う以前、その頃の彼と比べて、加護も含めて身体能力は上、その程度と判断した。
つまりそれ以外に、特筆すべきところはない。魔物が近寄れば全員で集まって叩き、終われば周囲の警戒もせずにただ落ちているものを拾い集める。勿論武器の手入れもしない。
そして、魔物との戦いにしても、剣や鎧、体をただ盾として扱い、攻撃を受けて動きの止まった相手を狙われていないものが叩く。
最後の部分だけ見れば、有用な戦術ではあるが、消耗が大きすぎる。
つまり初心者、領都の西側を脱却する、そんな人間の一例として、こういった物がいるのだと納得する。
他にも草原には狩猟者の影があるが、そちらもあまり差はない。
少しまともな一団もいるが、そちらは役割分担をしながら、魔物を倒しては、結界迄全員で下がり、武器の手入れを行っている。これまでにその一団は何度か見たが、訓練はともかく魔物の狩り方はオユキ達の物を真似ているようである。

「大分、良くなってきましたね。」

周囲を観察しながらも、魔物との戦いを3週させた少年たちに、そう誉め言葉をかける。

「ほんと。」
「ええ、こうして、戦いの後も息が上がる事が無くなてきました。体力がついたこともあるでしょうが、無駄な力を使わなくなってきた、そういう事ですよ。そのあたりは武器にも出てるかと思いますが。」
「うーん。そうなのかな。」
「武器については、預けたらちゃんと手入れしてくれる相手がいるのが大きいんじゃないか。」
「ウーヴェさんに怒鳴られなくなったでしょう。」
「諦めただけだと思ってた。」
「いえいえ、あの方でしたら、改善が無ければ手が出ると思いますよ。」

そう、オユキが苦笑いしながら、トモエの方を見れば、今度は子供たちが一人でグレイウルフを2匹程相手に奮闘している。

「実際、オユキから見て、俺らってどれくらいだ。」

そうシグルドに尋ねられて、オユキは少し考える。
彼らの身近な人間と比べてしまうと、正直指標としてはあまり役に立たない。差がありすぎる。
少々型や技を覚え始めてはいるが、それはまだまだ始めたばかり、やはりその程度でしかない。
長足の、そう言ってもいい成長ではあるが、それはあくまで彼らにとって出会って、それ以上でもない。
そうして、悩んでいるとシグルドが若干落胆したような表情になったため、オユキはひとまずと答える。

「身の回りの人物でというのは難しいですね。その、比べる対象が悪い、そうとしか言えません。」
「まぁ、だよな。」
「ただ、あなた方の成長としてはっきり言えることはいくつもありますよ。」

そうして、オユキは指折り数える。先ほど言った体力、戦い方、そもそも丸兎1匹相手に全力を使ったのが2ヶ月ほど前だったこと。
そうして改めてそれを指摘すれば、彼らにも実感がわいてきたのか、嬉しそうにする。

「ただ、どれくらい、これが誰かと比べてとなると。正直比べられるのはあの子たちだけですよ。
 私もそこまで顔が広いわけではありませんから。」
「あー、あんちゃんとオユキ、異邦人だもんなぁ。」
「そうなんですよね。まぁ、そちらの方と、そういう事でしたら、はっきりとあなた方が上だと、私はそう応えますが。」

にやにやと笑いながら、三人の男が近づいてくる。
少年たちはオユキが視線を逸らした先から、人が近づいてくるのに初めて気が付いたように目を見開いている。
どうやら、彼らが魔物に気が付く能力は、あくまで別の要因によるもののようだなと、改めてオユキは確認したうえで、ほど近くなった相手に声をかける。

「さて、何用でしょうか。」
「なに、子供ばかりだからな、俺らが手伝ってやろうと思ってな。」
「手伝いが必要なのは、そちらでしょう。私たちは求めていませんので、どうぞ他へ。」

オユキの声が硬い事に気が付いたのか、少年たちが揃ってオユキの背後に回る。
それが男たちから逃げるようなそぶりに映ったのか、三人の男はさらに笑みを深くする。

「なんだ、小娘の後ろに隠れる様なガキどものお守りを手伝ってやろうと、そう言ってるんだ。」
「さて、私がこの子たちに教える立場ですから、それ自体は問題のある行動ではありませんよ。
 繰り返しますが、あなた方の手は求めていません。どうぞお引き取りを。」
「は、俺らの手伝いが必要ないってんなら、証明してみろよ。」

さて、こちらでの人同士の諍い、それに対して早々神が介入しない事は、少年たちと初めて会った時の事で証明できているが、この者達をどうしたものかと、オユキは考える。
少年たちのようにどこか切羽詰まった、斟酌しようと思える空気もなく。武器も、少年たちの物は相応に使い込まれ、最低限とはいえ手入れがされている、そう分かる程度の物であったこともあり、トモエにしても一度様子を見ようとそう判断したのだろうが、この相手であれば、そうもいかないだろう。
実際に、子供たちの狩りの面倒を見ているトモエから、一度視線が送られたが、オユキに任せるとばかりに、既に意識が外されている。
そもそも、こんなところで狩りをする相手なら物ともしない護衛二人がいるわけでもある。

「必要性を感じません。ああ、みれば分かる、そういう意味です。あなた方はあちらの子供にも劣っているのですから。」

そういって視線で示せば、ようやく気が付いたのか、子供が一人でグレイハウンド3匹を相手に立ち回っている様子に僅かに気勢がそがれる。

「改めて言います。どうぞお引き取りを。申し出は有難く思いますが、あなた方の手助けは不要です。」

そういって、オユキがこれ以上はと気当たりを強める。
それだけで相手はさらに一歩後ろに下がる。

「人の好意を無下にしやがって。」
「好意と、そう仰りたいのであれば、せめてその分かり易い下心を隠してください。
 話は、それだけですか。狩りの邪魔になりますので。他の場所へ。それとも私たちが移動しましょうか。」
「くそが、餓鬼の癖に、俺らをなめるなよ。」
「では、下に見られない態度を。ああ、魔物が来ますよ。早く逃げられた方が良いのでは。」

そうして話しているうちに、どういう意図かはともかく、公爵によってつけられた護衛が、鹿の魔物を1匹抜けさせる。
それを見て、三人の男が泡を食ったように、慌ててオユキ達から離れていく。

「まったく。少し注意してみていれば、私達が狩猟対象にしていることも分かるでしょうに。準備はいいですか。」

そう、背後にいる少年たちに声をかければ、アナから恐る恐るといった様子で、声が返ってくる。

「その、オユキちゃんがやらなくても。」
「いえ、皆さんで。休憩は十分でしょうから。」
「えっと、その苛立ちを魔物にぶつけてすっきりとか。」
「その、先に狩猟していただけますか。」

その言葉に、オユキは軽いショックを受け、思わず足元がふらつく。
そんな様子に少年たちが、いよいよ近づいた鹿に向かい、危なげなく狩猟を終える。
そして、戻ってきた少年たちに、オユキは話しかける。

「あの、私、魔物相手に八つ当たりをする、そんな手合いに見えていましたか。」
「いや、それはないけど。」

そういって、シグルドが口ごもると、その後をセシリアが引き継ぐ。

「だって、トモエさんもオユキちゃんも、楽しそうに戦うから。気分転換になるかなって。」

その言葉にオユキは思わず額に手を当てて空を仰ぐ。
その言葉が聞こえたのか、トモエも体の動きが固まっている。

「あの、戦闘狂では、無いんですよ。」
「でも、二人とも、この前の休みの日だって、結局訓練してたし。」
「ね。たまには戦う以外も、そう言い出したのにね。」

その言葉に、オユキは何も言い返せず、ただ黙る。トモエも少年達の様子を見れないほどに動揺し、体が完全に固まってしまっている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅

散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー 2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。 人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。 主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

神スキル【絶対育成】で追放令嬢を餌付けしたら国ができた

黒崎隼人
ファンタジー
過労死した植物研究者が転生したのは、貧しい開拓村の少年アランだった。彼に与えられたのは、あらゆる植物を意のままに操る神スキル【絶対育成】だった。 そんな彼の元に、ある日、王都から追放されてきた「悪役令嬢」セラフィーナがやってくる。 「私があなたの知識となり、盾となりましょう。その代わり、この村を豊かにする力を貸してください」 前世の知識とチートスキルを持つ少年と、気高く理知的な元公爵令嬢。 二人が手を取り合った時、飢えた辺境の村は、やがて世界が羨む豊かで平和な楽園へと姿を変えていく。 辺境から始まる、農業革命ファンタジー&国家創成譚が、ここに開幕する。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。 《作者からのお知らせ!》 ※2025/11月中旬、  辺境領主の3巻が刊行となります。 今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。 【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん! ※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...