憧れの世界でもう一度

五味

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6章 始まりの町へ

ゲームとしての限界

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かつて、この世界を創造したクリエイター。
ゲームを作ったものたち、彼らに妥協は基本的に無かった。
最も優先されるべきは世界観。
どれほど不便だと、理不尽だと、ゲーム的ではないと、批判が集まろうとも、他の後発のゲームがそれを実装しようとも、決して世界観にひびが入るような、もう一つの現実として、この素晴らしい世界が傷つくようなものは、全て一笑に付した。
しかし、際限なく増えたプレイヤー、今度はその数が世界に問題を与え始めた時、彼らは選択を迫られた。
すなわちリソースの枯渇。
街を作れる、国を作れる、そう言ったところで、NPCが勝手に増える訳でも無い。運営の労力もあり、乱立することもない。そして、その多くは廃れる。
そうなれば、すでにある所にそういった事に興味の無いプレイヤーは集まり、その周辺の資源、その取り合いが始まる。
オユキ達、ミズキリを始めとした一団も多分に漏れず、しばしばつまらぬ諍いに巻き込まれた。
既存の町から離れた場所、そこに砦を作り、仲間内で楽しくやっていれば、聞きつけた誰かが側に来ては、荒らす。
そして、レッドネームを畏れぬ者たちは、略奪を企てる。そして、その動きは初めから世界に作られた者にも向かいだす。
限られたリソース、それを支配できれば、富になる。そこに現実と変わらぬ理屈があるのだから。運営はその世界に犯罪者、その存在を認めてしまった以上、レッドネーム、それに対してアカウント停止措置、そういった物も取れなかったのだから。
そうして、サービスの開始から10年程。荒れに荒れたゲーム内、その解決として発表された苦渋の決断が、インスタントダンジョン機能となる。
後付けと、そうは思えない理屈は存在したが、プレイヤーが魔石を使用することで、ダンジョンを作る、そんな機能。
恐らく、本来はもっと困難な手法で、何か見つけるべき手順があったのだろうが、それをすべて排して公開された機能。
そんなものが、あったのだ。そこでとれるもの、その種類を大まかに選べる、そんな便利機能が。
勿論、中には、相応の危険が存在するのだが。

「ありがとう。それを望んでくれて、思い出してくれて。」

告げたオユキの言葉に、創造神が嬉しそうに笑う。

「対価として、試練がある、その厳しさですね。」
「ええ、ただ甘やかしてはいけないと、そう決まっていますからね。」
「タイミングが良すぎるのは、まさに神の御業、そういう事なのでしょうね。」

オユキがどうにか笑ってそう告げれば、二柱は、ただそれに笑顔を返す。

「私はあまり利用しませんでしたが、機能に制限がありましたね。」

勿論、対価が必要だからと、運営がそんな便利すぎる、ただ世界からかけ離れた物を許すはずもない。
魔物から際限なく得られる、硬貨。それにしても過去に解放された機能、金銭を対価に町を強化する、そういった領主向けの機能に消えているのだと、予想がこれでつくようになったが、さて、正確な条件は何だったかと、オユキは考える。

「勿論だ。我らは相応の厳しさを持つことを求められている故な。」

そう、戦と武技の神が笑いながら返したところで、部屋にノックの音が響く。
メイが声をかければ、数人の人物が、酒樽と、他にもいくつかの品を運んでくる。
はたから見ても緊張している、そうわかる素振りで、どうにかそれを並べ終えると、ぎこちない動作でまた部屋から出ていく。
それを見送ってしまえば、オユキとしてはやることは決まっている。
酒樽から、別の容器に一度中身をある程度移すと、それをグラスに入れて、戦と武技の神に差し出す。
創造神については、どうだろうと、デカンタを見せると苦笑いが返ってくるあたり、酒の類は好まないらしい。
酒嫌いの神などいるのかと、そんな驚きを覚えるが、メイが持ち込んだものにいくらかの、見た目に華やかな菓子の類があるのでそれを創造神の前には並べる。

「相変わらず、良い酒であるな。」
「公爵様の趣味が良いのでしょう。生憎どちらの物かは。」

そうして、オユキの振る舞いを険しい目で見ていたメイに水を向けると、彼女が淀みなく答える。

「リオハ伯爵領の物です。その樽でしたらテンプラニーリョのバエラレタルで間違いないかと。」
「ほう。使徒の一人が興した地のものか。」

聞き覚えのある単語が並ぶかと思えば、そういう絡繰りかと、オユキは納得する。

「私は、葡萄酒って苦手で。」
「その、申し訳ありません。」
「あの、謝ってほしいわけじゃ、でも果実酒とかあったら、供えてください。」

どうやら度数は問題ではなく、甘いものがという事らしい。
確かに、豪快に食べ進める戦と武技の神、そちらの方が食べているように見えるが、実際には創造神の方が口にした量は多いのだから。

「巫女たちも飲むがよい。」
「は、有難く。」

アイリスが戦と武技の神に捕まったところで、オユキは改めて尋ねる。

「その、巫女というのは。御身への信仰、その度合いは恐らく私等よりも。」
「ふむ。巫女については、それこそこの地の物に聞くがよい。今のところその方らは我が巫女の要件を満たしておる故な。そちらのトモエは、望めばいつでも我が教えを広める役を与えられるが、性別がな。」
「ああ、御子ではなく、巫女という事ですか。」
「うむ。」
「えっと、話を戻しますけど、インスタントダンジョン。それについてですが。
 すべての人には解放されません。領主としての権限を持つ物だけに。
 必要なことは、領主の機能を使用する場所に行けば分かりますからね。」
「畏まりました。」
「後は、私から、これを。」

そう言うと、メイの前に創造神の聖印を象った細工物が現れる。

「オユキさんとトモエさんが、あなたには荷が勝ちすぎるとそう心配していたので。」

それは、言わないでおいてほしかったがと、トモエとオユキが創造神に視線を送るが、気にする素振りも見せない。

「今回の事、その発言に際し、それを掲げるといいでしょう。
 その限りにおいて、あなたは正しく私の言葉を伝えている、それを私が保証しましょう。」
「ありがとうございます。必ずや。」
「あまり、気負いすぎてもだめですよ。頼れるところ頼りましょう。
 私だって、頼ってばかりですもの。」
「は。」
「それと、もう一つ。今回の事もそうですが、これらはあくまで備えです。」

そこで言葉が切られると、突然空気が重さを持つ。
トモエでさえも、思わずそこにない武器に手をかける様な、そんなそぶりをするほどに剣呑な重圧がその場に満ちる。

「私は、私の世界にあの邪な愚物がいることを認めません。
 この世界の切欠となった始まりの人々も、同じです。メイ・グレース・リース。意味は分かりますね。」
「必ずや、お言葉伝えさせていただきます。」
「今はまだ時ではありません、故に備えなさい。」

つまり、悪意の果てに生まれた、こちらで発生した神らしき存在、それをこの世界を創造したものが認めぬと、そう断言した。
その時が来れば、聖戦とそう呼ばれるものが起きるのだろう。

「その折は必ずや勝利を。」
「犠牲を減らす、その努力も努々忘れぬよう。あれはただただ悪意を煮詰めた存在故にひたすらに悪辣です。」
「そう、入れ込むな。この者らはそうではないのだ。威圧してどうする。」

戦と武技の神が、そう声をかければ、ようやく息をするのも困難な重圧から解放される。
そんな中、きっちりと返答を行ったメイは良い教育を受けたのだと、そう評価を上げる。

「あら、ごめんなさいね。そんなつもりは、怖がらせるつもりはなかったの。」
「まったく。それにそろそろ時間だ。必要なことは伝えたのか。」
「ええと、魔石がもっとたくさん必要になるから、頑張ってね。後はインスタントダンジョンについては、最低限は領主の部屋で調べられるし、異邦の人は良く知っているから、聞いてみてね。」
「畏まりました。」
「本当はもっと気軽に来たいけど、それはまだ先になりそう。では、またね。愛しい我が子たち。」
「うむ。研鑽を続けよ。」

そう言い残して神々が消える。
供えた物も一緒に消えるあたり、ちゃっかりしているといえばいいのか、喜んでもらえたとそう評すればいいのか。
ただ、ようやく、と、そんなため息が全員の口から洩れた。
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