憧れの世界でもう一度

五味

文字の大きさ
281 / 1,235
8章 王都

会食の続き

しおりを挟む
「さて、先の事については、また今後詰めるとしよう。
 その方らの目的もある。めぐる順番に希望は。」
「創造神様を最後に、その前に戦と武技の神、その神殿に向かおうと。」
「巫女であるなら、そちらが先とも思ったが。」

理由については言わぬが花と、オユキは微笑むだけに留める。
それまでに可能な限り鍛え、磨き、刀を向けに行く。こういった世界でそれを聞きとして語るわけにもいくまい。
もっともアイリスは気が付いているようで、すっかり慣れた視線を感じるが。
まぁ、彼女もいる場でそれについて言及はされたのだし。

「まぁ、理由があるとそれは分かった。語らぬのであれば、構わぬ。あの者たちは、連れ歩くのか。」

それについては公爵のご子息、それも範囲になりかねないため、確かに気になるものであろう。

「一先ず勝手な癖がつかなくなるまでは。そうですね、個人差もあるので難しくはありますが、一先ずあと半年は必要になるかと。」
「その間に、一度月と安息の神、その神殿には向かう事になるでしょうね。」

トモエは嫌がっているが、それまでの間にどうにか馬車を誂えて、それこそ馬車の中でほぼ生活が出来る様にしなければならないだろう。
そして、その時にはアナだけは否応なく連れて行くことになるだろうが。

「ふむ。国内だけか。ならば簡単だな。国外へとなると、我らが手を貸すとなれば相応に手間がかかる。
 無論、それ故道中は保証されるのだが。」
「いえ、お手数をおかけいたします。さて、教えを広める、それだけで御身のご厚情に報いる事が出来ればよいのですが。」
「下心もある故な。分かっておっていっているようだが、さて、書面に起こしたほうがよいか。」
「今の所は。今後変化も多いでしょうから。」

そうして、公爵とオユキが主体となって会話を続けていると、メイからも声が上がる。

「今後は、暫くはあの町を拠点にする予定とそう考えても。」
「はい。一先ずは。流石に今直ぐにとなると、話の切欠を作った身としても、あまりにも不義理でしょうから。」

そのオユキの言葉にメイが露骨に安心するが、オユキとしては続けなければいけない言葉もある。

「ただ、得た物のいくらか、それを定期的に領都へとお持ちさせて頂く事になるでしょう。」
「そう、なのですか。」
「政治向きの話は、そうだな、メイ、後で説明しよう。許せこれは我の怠慢だな。」

そちらはそちらで進めて貰う事として、オユキは公爵向けの話を進める。

「後は、そうですね。今後、私も、今後を思い考えていることもあります。」

世界の謎を解き明かす、そういえば随分とよく聞こえるのだろうが、つまりは郷愁、懐古主義でしかない。

「ほう。」
「失われた、しかし力の残る神、一先ずはそれを探してみようかと。」

そう、まずはそこから。おそらくそれを進めなければ、あの数値は増えない。いや、増やせないように設計されているのだろう。
少々うがった見方ではあるのだが、この世界はあくまで人の無力、それが根底にある。たとえそれが純粋な、前の世界で霊長と呼ばれた種以外の特徴を持った、より利便性の高い種がいるのだとしても。神々に比べれば、あまりにか弱い。
用意された仕組み、それを超える何かは出来ていないのだから。

「ふむ。そういう以上は何か心当たりがあるようであるな。」
「ええ、魔術文字、それがその存在を示していますから。古い友人も痕跡を過去に見た、そう言っていたこともあります。」

さて、それに加えてだ。アナはオユキの得た属性の得意、それを示す神を妹と呼んだ。神像もない神であるというのに。そして、いま身動きがとれぬ、加護を与えられぬはずの水と癒しの神、それが人の求めに応えるべき奇跡、それはどうなっているのか。
誰も新しい奇跡が得られぬというならわかるが、アドリアーナは水を生み出す、その奇跡を得たのだ。
つまり、それを代替する名も知られておらぬかもしれぬ、そんな神が存在するのだろう。
まずは神殿、そこに訪ったときに改めて伝承を求めるもよし、その場で改めて伺うもよし。
それはそれで、どうにも既存の神職の者たちへの影響が出そうなものではあるが、そればかりは堪えてもらうしかない。

「それだけではなさそうであるが、成程。その方以外の異邦の物は。」
「何分、まとまりのない者たちでありますから。」

オユキがあまり輪の中に入らなかったと、そうは言わない。
そもそもゲームのプレイヤーとしてのオユキ、それについていこうと思うものが際物でしかないのだ。

「さて、伝え聞く話であれば、まさにそのような様子ではあったが。そちらについても改めて話を求めても。」
「ええ、どうにも聞き手が複数であったこともあるのでしょう、少々伝達に問題があるようには感じられますので。そうですね、私自身異邦の全てを知っている、そう言えるものではありませんが、概要、一般的に納めよとされていた知識、その辺りの概論でしたらお時間は頂きますが、書き起こしましょう。」
「それは良いな。」

そうして、あれこれと伝え聞いた話ではこういこともあったがと、それに対してオユキ、ときにはトモエが応えてと、そうしているうちに食事は進み、飲み物が運ばれる段となる。
つまりは、此処が本番なのだ。

「さて、今後もおおよそ想定できていることは分かった。であるなら我もあれこれというまい。
 我が家に仕える、その意思はある。そうだな。」
「はい、公爵様。少年の真心を喜んで受ける、そのような御方であるのなら。」

オユキとて今後を大きく左右する決断、それについてはそうするに足るだけの判断基準を求める。
直感も多分に含まれてはいるが、嘘が通用せぬ、そのような場でこの公爵は正しく取るに足らない、そんな少年を誉め、そのまごころに心打たれたとそう言い、純粋な信仰で涙を流す少女、その姿に心打たれたと、そういったのだ。
ならば、この人物は人と人、その付き合いを大事にする人物なのだろう。
で、あれば良い。オユキはそう判断し、少し横目で確認すればトモエも頷いている。

「あの少年だけでなく、我が領、愛すべき民、そうであるならだれでも同じことだ。
 王族からの声、それについては既に取り決めがある故安心せよ。」
「どのように、とは聞かずに置きましょう。」
「国の歴史は長い。色々あるのだ。特に今回は我が領から生まれた功績であるからな、少々無茶は言える。」
「成程。」

それで納得しろと、そういう事らしい。

「後は、そうだな。闘技場の件だが、アイリスは参加するとして、オユキ、その方は。」
「トモエの許可があれば。もっともトモエが出るのであれば、私は辞退しますが。」
「そう、なのですか。」

トモエから意外そうな声が上がるが、そもそもトモエと向かい合うのであれば、少なくとも今磨いている物、それが技になったと、そう言える段でなければ意味がない。

「はい。今は、まだ。」

思いを乗せて、改めて隣に座るトモエと視線を合わせて告げれば、楽しそうに笑う姿が見える。

「では、私が出ましょう。」
「良いのですか。見世物は。」
「演武と同じです。技の有用性、一つの型、それの果て、そういった物を改めて人に示すだけです。」

それにと、トモエが続ける。

「あの子たちも出るでしょう。ならば、師として壁として、私が立つのも筋でしょうから。」

どうにもトモエはあの少年たちも出場させるつもりでいたらしい。
楽しい事、そう言っていたのはこれかとオユキはここで思い当たる。
まだ早いと、そう考えてしまうが、実践の場が豊富であればこそ、そういう事でもあるだろう。

「技を競う、そういった場になるのではなかったのか。」
「さて、競える相手がいるのであれば、そうなるでしょうとも。」

トモエの返しに気負いはない。
王都の騎士団、その長を務めた相手にも会った。武門、それを途中で投げ出したとはいえ、その技の程度も見た。そして加護を持って技を成立させる、その結果として道を見失った相手も見た。確かにアーサーなどは卓越した技量が見て取れはしたが、それでも。
時間があり、それこそ未だ出会った事もない相手が出てくれば話は違うかもしれないが、尋常の能力、それだけであれば。

「私も、歯牙にかける気は無いのね。見せた事のない技があるのだけれど。」
「足蹴、飛び交い、掴み技。その辺りでしょうが、それでどうにかなる、そう思われるのは心外ですね。」

トモエはアイリスの異議を切り捨てる。
そして、それに対して驚いているが、そもそもそこで驚く時点で、こちらを侮りすぎている。
先に既にトモエは語ったのだ、刀一本であらゆる武器に相対する。そのために技の体系も多い。そうであるのに他の流派を研究していないわけがないだろう。

「ハヤト、薩摩隼人からでしょう。ならば薬丸自顕意外となればタイ捨でしょう。只人よりも優れた身体能力、そうであるな彼の流派の理も十全に使える物でしょうが。」

そう、そもそもの前提がそこにはある。

「当流派の開祖、その高弟が超えるためにと編んだ技なのでしょうが、さて、後から追って来るもの、それに只抜かれるだけの祖がいると、そうお思いで。」
「トモエさん。食事の席ですから。」

どうにも、技を十全に競う場、それに対してはオユキの思う以上にトモエも熱を上げているらしい。
文官を自称する相手が少々あてられていることもあって窘める。

「失礼しました。」
「いや、何。我は頼もしさを感じる物であるが。」
「そうね、そうなのね。」

公爵からは許しが出たが、さてアイリスの中でも改めてつく火があったようだ。
これまでは、まずはオユキを、そういった物だが、確かに彼女の知るいくつかは、懸待を崩す、そのための動きとそうなっているのだ。
彼女の修めたもの、その開祖、それに連なるものの願い、そこにはトモエの技の打倒がある。
ただ、彼女の願いは、少なくとも直ぐに叶うことは無い。
最も基礎たる袈裟、それがオユキに届かぬうちに、他の工夫がトモエに届くことは無いのだから。

「成程。何とも頼もしい事ではある。」

公爵がそう纏め、場が少々乱れたこともあって、一先ず今回はこれで終わりとそうなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る

伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。 それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。 兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。 何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅

散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー 2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。 人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。 主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。 《作者からのお知らせ!》 ※2025/11月中旬、  辺境領主の3巻が刊行となります。 今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。 【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん! ※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

処理中です...