憧れの世界でもう一度

五味

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16章 隣国への道行き

後事を任して

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一体何処までの理解があったのかと、どうした所で邪推にしかならない物をオユキとしてはやはり止められない物ではあるのだが。

「その、最初の約束と。」

領都で縁を得た子供たち。六人の少年少女達。その者達とは、此処で一度とそうなる。これまでの素地があるため、始まりと違うのだと、それを気にする相手と今はこうして時間を取っている。実に暢気なお茶会の席、旅の疲れもあれば、やはり書類仕事の疲れもある。それもあって、この教会に勤める巫女も交えての席に、受け渡しが終わり、一先ずは御役目が終わった者達が来たかと思えば、実に暗い顔をしていた。
そこで何を言い出すのかと思えば、用はそう言う事であるらしい。

「構いませんよ。元より目指す先があり、その間での事ではありましたから。」

オユキとしては、元々の予定がそうであったと、気にするほどではないのだとそのような物だが。

「でも。」

頭一つしか変わらない背丈の相手に、涙ながらにしがみつかれて。

「勿論、落ち着けばまたお願いもします。」

基本的に、生前からもどうした所であまりに果断なトモエでは無く、オユキの役割でもあったことを。

「荷物を運んでもらう。今回の事もその範疇です。」

そもそもの約束、そこにあったものはそうであったはずだと、オユキから。
ただ慰めるだけという訳でも無く、約束通りの仕事がそこにあるのだと。

「私が神々から預かった品です。そして、ここまでも皆さんに運んで頂きました。寧ろ、枠組みを超えた事をお願いしてもいる訳ですから。」

教会で暮らしてきた子供たち。既に位を得た少女達ともまた異なり、そこを出ていくことを決めた相手でもある。だからと言って、里心が無いわけでもない。
此処迄は、それこそ経験不足からくるもので予測が出来ていなかった。改めて、今後の予定をこの教会で説明された結果、それに気が付き、今こうしている相手。この子供たちは、此処で一度分かれる事になる。オユキは当然と考えていた事でもあるのだが。

「ですから、変わりません。私の手元にあるものを皆さんに預けます。どうした所で、私は他をしなければなりませんから。」

荷物を預け、それを良い場所に。勿論、そこに付随する多くの仕事がある。そして、この子供たちはそれができる。他に出来る物も当然いる、しかしそちらはそちらで別の仕事がある。雑事を、語弊はあるが、任せる事が出来る相手には、勿論誰もが頼みたい。

「直ぐの事とは成りませんが、また私たちも戻ります。そして、その時には私たちが任せた物が、きちんとそこにある。それを見る事が出来たならと、そう思うのです。」

何処まで行っても、巫女見習いのオユキだ。アイリスにしても、確かに戦と武技については範疇外の事なのだが、彼女が確かに継いでいる部族としての、祖霊に向けた物については滞りなく行えるのだ。しかし、オユキにはそれが出来ない。だから、出来る相手に任せるのだと、そう話して聞かせる。
そして、そこにどうしても含まれる、一時とはいえども別れの言葉。それを受け取る相手としては、まだやはり幼い。オユキでは色々と不足があるため、他にも見慣れた巫女や、なんだかんだと懐かれているアイリスにも、それぞれに引っ付いている相手がいる。

「でも、ジーク兄ちゃんとか。」
「いえ、彼らも王都までです。」

同じく教会の子供たち。そちらも今後の予定というのは、やはり決まっている。
他国迄には連れて行けない。それを為すには、やはり生活の基盤として考える場が存在している以上、向いてはいない。巫女二人に、トモエがそうであるように、漂泊の輩ではない。確かに暮らす場を持ち、そこで己がなにをするのか。幼いながらにも、それを考えるだけの者達であり、だからこそ見るべきものがある者達であればこそ。

「私たちも、今はまだ戻るべき場所を、あの町と定めています。」

実際のところは、それこそ分からないのが難しくもあるのだが。
オユキもトモエも、一仕事終えれば、少しは慣れを覚えた己の屋敷とされた場所。長旅の後にはまずはそこに戻って、そう考えている。しかし、他国との国交、それに大きく関わっていきなりそこに戻れるのかと尋ねられれば、また難しくもある。今もまだ、オユキはその辺りを方々とやり合っている最中だ。トモエにそのつもりがあり、そもそも過去旅行とはそのような物であったため、かなり強硬な言葉を使って、それこそ馬車の中でも手紙をせっせと書いていたのだ。
トモエにしてみれば、多少は気心が知れていなければと、そう言った心遣いで事前に機会をとの申し出を行った。では、オユキの方ではと言えば、それを受けてトモエに返すべきものを返すのだ。
先代アルゼオ公、その人が同行し、魔国との交渉にもなれのある相手がいるのだから、そちらはそちらでとしてくれと。

「それと、なんと言いますか。今回だけではありませんから。」

神々からも、都合のいい目的だと、そう評されている行動指針がトモエとオユキには存在している。当然の事ではあるが、他国とこの国、勿論今後はそれだけではなくなる新しい奇跡、それが隣国だけで終わるはずもない。
では、それに一度係わり、運べると分かっている相手。よその神殿に送り出しても問題がない教育を受けている者達を、今後他の者達がどう扱うかなど。それは、オユキも含めて。

「次は、その、未だに私たちの中でも決まってはいないのですが。」
「オユキが決めたとして望めば、それで決まりそうなものだけど。」
「神々は、人の意思を優先する。それがあまりに道を外れていなければ。」
「アイリスさんは、国許にまだ戻る気がないだけでしょうに。」

先にシグルドが持ち込んだ結果、巻き起こった諍いがある。そして、今回にしても、そこと同じ流れが生まれている。納得も、理解もあると、それは重々。しかし、度重なってもいいとは思えないオユキと、アイリスの思惑は、しっかりと次に傾いている。ただ、そこでもやはりと、話し合わなければならない事が有るのだ。
そうして先々を考えるものたちが、揃って難しい顔をしはじめればどうにか持ち直してきた相手というのもやはり表情が曇りだす。

「その、申し訳ありません。しかし、やはり先々の事は未だに色々と。」
「でも、また次があるんですよね。」
「はい。それは勿論。」

今回の事は、あくまで一時の別れでしかない。
勿論、先方の国から、また別の思惑で新しい顔ぶれなども増えるかもしれない。今回オユキの代わりを務めたシェリアにしても、こちらではよく見る特徴を備えた相手。変わることもあるだろう。ただ、それでも、トモエとオユキが主体として縁を得た相手だ。大事があり、任せる相手を誰にするかと言われれば、そこで名前が挙がるのはこの子供たちだ。

「それと、皆さんにとっても良い機会ではありますから。」

そして、新しい教会は、どうした所で壁の外に置かれることになる。魔物と戦う術を持たない者達が、そこを訪う事を望むだろう。王都から、この教会から。供出される人員にしても、戦闘に向いているかといわれれば、オユキも直ぐに首を横に振る。
では、そういった存在を守る相手は誰かと言えば、この子供たちが目指す先の相手だ。

「新設の教会の手伝い、それ以外にも魔物とある程度は戦える皆さんに、騎士の方々からも頼みたいことというのはいくらでも出て来るでしょう。そして、そこで皆さんが目指して居ると、そう言った相手から改めて色々と学べることでしょう。」

得難い機会でもあるのだと。

「そこで改めて色々と学び、短い期間ではありますが、再び会うときにそこで得た物を見られるなら。そのような事も考えますから。」

だからこそ、これまで見てきたものが、真摯に、それこそ何度もオユキとトモエが口にしたように。

「皆さんは、こちらで暮らす。その限りにおいて既に十分な物を身に着けているのです。」

それにもかかわらず。

「約束があるからと、それをただ大事にしてくれている、その姿を見たからこそ。こうして異邦からの私たちでも、とても大切だと、それが分かることを任せられるのです。」

新たな奇跡。馬車などとは、空間を広げる物とは比べ物にならないほどの、新たな奇跡。一度失われていた、新しくそれを与える神。現状、その姿も教会には置かれていない、しかし今後は奇跡の形が確かにされる、そんなあまりにもわかりやすい大事。
当然、責任者というのは、他に存在する。それこそこの教会、王都の神殿から。それだけでは不足もあるため、為政者からも人が置かれる。だが、オユキが頼む相手は。

「少し長い旅路です。季節が廻らねば、戻っては来れません。だからこそ、戻ったときに楽しみがあると、そうあることを。」

再開を約束する言葉ではあるが、だからこそ一たびの別れを告げる言葉でもある。
応接室、少なくともそういった目的でこの部屋を利用している、そこにはそれぞれの事を終え、集う顔ぶれも増えてきている。ただ、その誰もが今は子供たちの時間として、席には着くが何を話すでもなく、ただ用意された飲み物に口を付ける。幾人かは、それこそ本気で疲れているため、それ以外をする気も起きないといった風ではあるのだが。

「ええ、ですから、オユキさん。」

初めての重装鎧、それを着込んでの振る舞いに疲れていたトモエにしても、今は子供に引っ付かれている。
巫女とアイリスに引っ付いていた子供は、今は司祭に。
そして、この子供たちはその場にはいなかったが、話は聞いているだろうとトモエから言われれば、オユキからも改めて。

「本来は、始まりの町で行うつもりだったのですが。」

祈願祭が近い。
本来であれば、それを待ってとするつもりであった移動ではあるが、それが出来なくなった。
勿論、公爵は己の領都で、新たな奇跡を前にそれを行えることを喜んでいる。やはり、此処は人が暮らす世界で、当然それぞれに思惑があり、ままならぬことも多い。
だが、その中で出来る機会があるのであれば、トモエにしても、オユキにしても。アベルがそれを揶揄したように。

「私たちからは、皆さんに向けて。私が、まぁ、相応の目にあって得た物が確かであるように。」

その祈願を神にオユキは願う事になる。
では、後事を任せた者達は、それに対してどう応えるのかを楽しみにしているのだと。まさか、合格点がもらえていない事は無いだろうと。泣いたカラスが笑わず、動きを一様に固めるのを見ながら。
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